第9話 辛い思い出
こんにちわ!
更新が遅くなりました。
ごめんなさい。
「俺は…悪者にならなきゃいけないのか?」
放課後、丘ユカリの頭の怪我の件で職員室で事情聴取を受けていた真樹は、そう呟きながら歩いていた。それを隣を歩いている杜夫が否定する。
「そうネガティブになるなよ真樹。本当にやってないならやってないって言い続ければいいじゃん!」
杜夫は真樹のことが心配になり、職員室にユカリ共々呼び出された彼を待っていた。この日は真樹も杜夫も部活動が無かったが、慶は陸上部の練習日なので二人で駅を目指して歩いている。
「その通りだよ杜夫。だけどな、嘘を真実にする方法がある。知っているか?」
「いや、知らないけど。何だいそりゃ?」
険しい表情でそう聞く真樹に杜夫は首をかしげる。真樹はそんな杜夫に対してこう言った。
「簡単だよ。人気を集めて過半数以上の支持をもらう事だ。」
「それってつまり…。」
「ああ、このまま行くと事実がどうであれ、俺は犯人にされちまうってことさ。」
真樹の言い分はこうだ。日本人は協調性、空気を読むことを重んじている。特に大谷津学院は女子生徒の方が圧倒的に多い上に慶以外の女子生徒はほぼ全員真樹を犯人として見ている。中には関心が無い者もいるだろうが、もしどちらの見方をするか聞かれたら間違いなく多数派であるユカリが支持されるだろう。さもなくば、空気を読まない奴として仲間外れにされ、居場所を失うリスクがあるからだ。
「それってまずいんじゃ。」
「ああ、だから何としても俺じゃないっていう決定的な証拠が必要なのさ。さもなくば、あのときみたいになっちまう。」
「あの時?」
真樹は杜夫に過去を語り始めた。
それは真樹が小学校2年生の時である。当時、真樹は肥満体質で勉強も運動もあまり得意ではなく、性格も内気な大人しい少年だった。そんな彼が登校してくると…。
「来たよ、湯川が。」
「きもーい!」
「朝からデブなんて見たくないし!」
真樹を見た女子生徒たちが執拗に罵声を浴びせてきた。この年代の子供とは素直で純粋だが、それらは時に残酷な思考を生んでしまう。気が弱い真樹はそんな暴言に対して言い返すことも出来ず、嫌な気分になりながらも毎日を必死で耐えた。そんな彼を、更なる悲劇が襲う。それは、給食が終わった午後の授業で起こった。
「それでは、算数の授業を始めます。皆、教科書を出して。」
担任教師が教室に入り、号令を掛けて授業を始めようとした時だった。突如一人の女子生徒が大声をあげた。
「な、ない!先生!私のノートがありません!」
「えっ?」
真樹の右斜め上に座る女子生徒が、自分のノートが無いと言い出した。担任教師がその女子生徒の下によりながら聞く。
「忘れた訳じゃないの?」
「そんな筈ありません!間違いなく持ってきました!」
女子生徒はそう主張するものの、それでもノートは見つからない。すると、別の女子生徒が手をあげながら言った。
「先生!私見ました!湯川君が唯ちゃんの机から何か抜き取る所を!」
「私も見ました!湯川君、唯ちゃんの机の周りをうろうろしていました!」
その発言の影響で、皆が一斉に真樹の方を見る。真樹の方は何が起こったかさっぱり分からずに動揺している。
「湯川君、あなたがやったの?」
「ぼ、僕…知りません。」
当然真樹は身に覚えが無いので否定したが、これに対しまたもや集中砲火が始まる。
「嘘つくな!」
「お前貧乏で勉強も出来ないから成績い唯ちゃんのノート盗んで写そうとしたんだろ!」
「サイテー!」
「白状しろ、泥棒!」
ぼろくそに言われる真樹は今にも泣きそうである。担任の方も険しい顔で真樹に言う。
「湯川君。机と鞄の中を見せなさい。」
担任に言われて、真樹は素直にランドセルと机の中身を見せた。すると、担任が机の中から何かを取り出して…。
「あ、あった!先生、それ私のノートです!」
なんと、唯という女子生徒のノートが真樹の机の中から見つかったのだった。担任はさらに険しい顔で真樹に問う。
「湯川君、これはどういうこと?」
「ぼ、僕…本当に分かりません。」
勿論真樹は否定した。しかし、他のクラスメート、唯という女子生徒と仲がいい他の女子たちは許さなかった。
「嘘つき!」
「泥棒よ!犯罪よ!」
「クラスに犯罪者なんていらない!」
「早く謝れ!」
「そして出てけ!二度と来るな!」
容赦ない言葉を愛せられた真樹は我慢できずに泣き出してしまった。大騒ぎになったクラスはもはや授業どころではなくなり、結局中断になった。それからも真樹は必死に否定したが、ノートが真樹の机から出てきたこと、目撃者が複数いたとの理由で一方的に真樹は犯人と決め付けられ、教師も含めたクラス中から叱責を受け、放課後、真樹の父親も呼び出された。同じく呼び出された唯の親に頭を下げていた真樹の父親だったが、気の弱い真樹は自分の無実の罪に頭を下げている父の姿を見て、情けないと分かっていつつも非常に悲しい気持ちになった。結局圧力に負けた真樹は半ば強引に謝罪させられ、この日の騒動はおさまった。しかし後日、真樹は悲劇的な事実を知ってしまう。それは、真樹がトイレから出てきた時に、階段の踊り場で聞こえていた会話だった。
「ハハハ、上手く行った!これで湯川のデブ、もう学校来れないわよ!」
声の主は、ノートを盗まれたと主張した唯だった。されに、その取り巻きたちも笑いながら話している。
「にしても、ノートを盗まれたように見せかけてあいつを犯人にするなんて、考えたわね!」
「ほんとはあたしが自分でいれたんだけどねー!二人が嘘の証言してくれて助かったわよ!」
「唯の頼みなら当然よ!湯川がこの世から消えてくれることは、クラスの女子全員の悲願なんだから!」
「そうよ、あんなデブで陰気な男なんか目障り!」
「まあ、あいつの味方なんて一人もいないんだし!」
「何か起こったら全部あいつのせいにしちゃえばいいんだよ!」
「それサイコー!」
残酷なことを楽しそうに話す女子生徒たちの姿を見て、真樹は恐ろしくて身震いした。犯人扱いされたことに対する不満よりも真樹の頭によぎっているのは、女子生徒達も自分と同い年の子供なのにどうしてここまで残酷なことを平気で出来るのだろうと言う恐怖の疑問だった。そして、自分を助けてくれる人は誰もいないという絶望だった。こうして真樹は学校で女子生徒たちを見るのが怖くなり、すっかり休みがちになってしまった。
「こういう状況だけは阻止しなければならない。」
「ひでぇ話だな!真樹のことが気に入らないからって追い出そうとするなんて!」
「今も似たようなもんだけどな。」
真樹は溜め息交じりにそうぼやいた。だが、まだ心配ごとが一つある。
「問題は、決定的な証拠をどうやって見つけるかだ。」
「そうだよ。向こうがボロを出すとも思えないし。」
「そうだな。だが、可能性はゼロではない。」
真樹はそう言うと、携帯電話を取り出してメッセージをどこかに送った。
「どうすんだよ、真樹?」
「これ賭けだ。尻尾を掴めるとは限らないけど、一番確率が高いのはこれしかない!」
真樹はメッセージの送信を終えると、少し微笑みながらそう言った。その後、駅に着いた二人はそれぞれの方向の電車に乗り、家路に着く。
「頼む。上手く行ってくれ…。」
真樹は顔を強張らせつつ、自身のこの状況を打ち破る最後の願に賭けたのだった。
こんにちわ!
具体的に真樹の過去を書いたの初めてでした。
かなり壮絶な過去を背負い、現在も苦しい状況に立たされている真樹。
彼はどうやってこの状況を乗り切るのか?
次回をお楽しみに!