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祈る神なんて-6-


「却下だ。 ありえない。 それこそ滅びに近い」


「……なんで?」


「何が良いか、なんて現状によるとしか言えないからだ。 例えば今よりも地球が暑くなれば、放熱しにくい身体の大きい人間よりも身体の小さい人間の方が良くなる、反対に寒くなれば放熱しやすい小さな身体の人間よりも大きな、といったようにな。

 劣っていると見なして減らしていた遺伝子がなければ死ぬ状況になれば、人類はどれだけ減ることになる。 生物は多様性が必要だ、多様性というのは負け組を作ることだ」


 ミコトは目を逸らす。


「お前達デザインは究極的な利己主義だ。 快楽殺人鬼の方がまだマシとすら言える」


 ユツキは涙目になっているミコトを見て、口を閉じる。


「……ユツキくんは、デザイン……嫌い?」


「ああ、生まれなければ良かったと、心底思っている。 お前達には責任などないことぐらいは分かっているが」


 ミコトは力なく頷く。 妙に遅く流れる時間の中で、少女は小さく首を傾げながら、おかわりはいるかと尋ねた。


 ユツキは訝しげにミコトを見て、少し迷ってから頷く。


「……美味しい?」


「分からない。 ……悪くはない」


「……ユツキくんは、ご飯どうしてたの?」


「普通にそれを食っていたな。 食事に掛けられる時間がなかったからな。 ……思えば、こんなにも何もしていない時間は初めてのことか」


「……この時のために、色々してたの?」


「最近はな。 五年よりも前からは世界を救うための訓練というような、大雑把なものだった」


 ユツキは味噌汁をすすりながら、以前のことを思い出そうとするが、どれもこれも似たような思い出しかないことに気がつく。


「……辛くなかった?」


「どうだろうか。 最近の訓練にはやりがいを感じていたな。 目的のないものよりかは、つまらないものでもあった方がマシらしい」


「……楽しい?」


「目的を果たすのに近づいた時には達成感を覚える。 それは楽しいというものだろ」


「……どうだろ。 お父さんや、お母さんは?」


「血縁者はいるが、会ったことはないな」


 どうでもいい話だとばかりに、ユツキは適当に話す。


「……そういうこと、話してもいいの?」


「ああ、特に口止めをされているわけでもないから問題はないだろう。 俺の知っている情報に価値のあるものはないしな」


 どうにも噛み合わないとミコトは思う。 あまりに価値観が違うせいだろうか。

 味噌汁を飲んだユツキは満足そうに息を吐き出す。


「……噛むの下手だから、ご飯は普通の、食べる練習した方が、いいよ」


「昼はそうするか」


「……朝と夜も」


「余裕があればだな」


 そう言ったユツキは追い払うような手振りを見せる。 ミコトは突然どうしたのかと考えながらも、自分が嫌われていたことを思い出して納得する。

 ユツキはミコトが自室に戻るまで送ったあと、外に出て行く。


 少女は自分も食事をしようと思い冷蔵庫を開けて食材を見て、何を作るのかを数秒考える。 いくつか浮かんだ案を、既に作った味噌汁に合うものに限定して、その中で早めに使っておきたい食材を使えるものに決める。


 早速といったように調理をしようとして、少しだけ自分の機嫌が良いことに気がつき、首を傾げる。

 嫌なことをたくさん聞かされたあとで、美味しそうに味噌汁を飲んでいたのは嬉しいけれど、それだけだ。

 少し考えながら料理を進めていると、何故自分が喜んでいたかに気がつく。


 わざわざ自室の前まで送ってくれたからだ。 そんなに嫌われてないのかもしれないと思って嬉しく思ったのだが、少し妙にも思えた。


 帰らせようとしたのが、急ではなかっただろうか。 それに、わざわざ自室まで送るというのも、らしくない。

 出来かけた料理の火を止めて、軽く上着を羽織ってから廊下に出て彼の部屋へと向かう。


 何度かノックをしても返事はなく、ドアノブに触れると鍵を掛けていなかったらしく、抵抗もなく開いた。


「……いない」


 寮の門限についてはユツキも聞かされているだろう。 何もなしに出て行くとは思えない。


 自室にも風呂はあるが、大浴場もあるのでそれを利用しているのかもしれないと考えたが、どうにも似合わない。

 まさか、と考えてエレベーターで上階に登る。 最上階まで着いてから階段で屋上に登り、扉を開けるとミコトの長い髪を揺らす風が吹く。


 一階から降りようとしても管理人に止められると思い、屋上から外を見回すことにしたミコトは暗い中、屋上の縁から人の影を探す。


「……いた」


 数人の男の人に囲まれた青年、暗いせいもあり判別は難しいが、ユツキで間違いないだろう。


 異様な雰囲気を感じるが、話し合いをしているのか争うような様子は見えず──不意に、ミコトは男の一人が屋上へと向いたことに気がつき、背筋に緊張が走るのを感じる。


 一瞬、ユツキが同じように向いたことが分かり、不思議と安堵を覚えた。


 もしかしたら彼の仲間かもしれないということは分かっていたけれど、不思議と安心していた。

 ユツキが寮に戻って行くのを見て、ミコトは安心して屋上から自室へと戻った。

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