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祈る人なんて


【祈る人なんて】


 思えば、敵ばかりだったように思う。

 女性は自分を励ましてくれ、施設まで運んでくれ、大鬼を呼んでくれたけど、元々は誘拐犯だった。


 大鬼も最初は殺されると思っていたぐらいで、助けてくれてここまでいい人だとは思いもしなかった。


 命を賭けて、必死で救ってくれたユツキも、ずっと自分のことを悪く言っていて、殺そうとしていた人だった。


 不思議なことに、自分を助けてくれた人は敵ばかりだった。

 ミコトはそんなことを考えながら、トントンと軽快に野菜を切っていく。 後ろからもトントンと、急かすような足音が聞こえる。


「なぁ……まだか?」


「……作り始めたとこ。 んぅ、登校までまだ時間あるんだから」


 一日でほとんど回復出来るとは、魔術とは便利なものだとミコトは思った。 ミコトは魔術により散々な目に合ってきたが、ユツキが早く元気になるなら、憎む気にもなれなかった。


 少女は自分の小さな手を見て、同じだと思う。

 デザインも便利なところもあれば、悪いところもある。


 手に持っていた包丁を見てもそう思う。 何であろうと、同じことだろう。


 良い使い方も、悪い使い方も出来るものだ。 何であろうと、使い手次第、心の持ち方が重要だ。


 少なくとも、自分が手に持っている包丁は嫌いになれない。

 ユツキを喜ばせることが出来るのだから。


 ミコトは買っていた魚も焼いて、分かりやすい和食にしてユツキの前に並べていく。


「おい、味噌汁だけでいいんだが」


「……あのご飯、もう食べられないんだから、ちゃんと食べないと、ね?」


 ユツキは組織と縁が切れている。 当然、ユツキの主食にしていたアルミパウチの完全栄養食品はこれ以上補充することが出来ず、まともな食事を摂ることが必須になっていた。


 不満そうな顔をしているユツキの横にミコトは座り、手を合わせる。


「……いただきます」


 その言葉にユツキの声が混じっていて少し驚くと、ユツキは仏頂面で味噌汁に口を付けていた。


「文化祭……一緒にまわるんだったか」


「……いや、なの?」


「少しな」


 相変わらずだな、とミコトは微笑むと、ユツキは続ける。


「もう少しだけ、ここでゆっくり過ごしたい」


 その言葉にミコトは耳を赤くして、ご飯をパクパクと食べていく。


「……お、おお、大鬼さん達が見にくるそうですからっ! ちゃんと、行かないと。 お礼も、言わないと」


「分かっている。 ……そういえば、俺を好きと言っていたが」


「……今、その話をするの。 ……空気というものがあると思う」


 ミコトが恥ずかしそうにそう言って、ユツキは意味が分からずに頬を掻く。


「……そ、そもそも、ユツキくんが先に私の絵を、描いてた。 だ、だから……告白は、ユツキくんから、してる」


「どういう理屈だ、それは」


 ユツキは焦るミコトを見ながら、少しだけ口角を上げて微笑んだ。


 デザインは、金のため、我が子のため、と利己的な考えによって生み出されたのかもしれない。

 あるいは、普通の人でもそうだろう。 けれど、その利己的な考えを、悪とするのも善とするのも人次第なのではないだろうか。


 利己的に人の幸せを願い、利己的に人のために生きることも可能だろう。


 などと、ユツキはミコトの幸福を静かに祈った。


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