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祈る神なんて-3-

 無視を決め込もうとしていたユツキだが、あまりに予想外の言葉に思わず「は?」と言って少女の顔を見つめ、改めて見てみれば思ったよりも整っている顔立ちに、思わず目を逸らす。


「何を企んでいるのか分からないが」


「……ユツキ、くん、仲良くするの、苦手かな……って」


「馬鹿か、確かに交友するように言われているが、それぐらい簡単なことだ」


「……困ったら、言ってね」


 ユツキが教室の中に入ると既に授業が始まっており、教師に会釈をしてから適当に一番後ろに机を置く。


「真寺は教科書を持っているか?」


「ああ、はい持ってます」


 鞄の中から教科書とノート、それにペンを取り出して前を見ると全時代的な黒板にチョークで文字が書かれていたのが見えた。


 ユツキは内容の意味が分からずに、教科書を開くがやはり意味が分からないために口に手を当てて考える。


 ユツキは、とりあえず勉学を諦めるとして、デザインの連中と仲良くなることを優先すればいいだろうと決める。


 そもそも、そのデザイン自体ミコト以外知らないのだが。

 授業を聞き流しながら昼休みまで時間をかけて作戦を練る。 学校には給食というものがあると聞く、食事を共にすることにより仲良くなるというのは古今東西どのような場所でも通じるだろうと思い考えた。


 だが、昼の時間になった時に気がつく。


「給食がない、だと?」


 どういうことだ。 とユツキが焦っていると、とてとてと小柄な少女が歩いてきて、ユツキの前で首をこてんと傾げる。


「……どうした、の?」


「いや、給食が……」


「……給食、ないよ? あるの、中学校とか、小学校ぐらい」


「なんだと!」


「……みんな、お弁当か、売店か、食堂か」


「なるほどな。 じゃあ食堂に行ってみるか」


「……場所、分かるの?」


 結局、ユツキは関わらないようにと思っていたミコトに連れられて食堂に向かう。


 食券を販売機で購入するというシステムになっておりそれに習ってユツキも並んで、自分の番になったので日替わり定食のボタンを押すが、何の反応もなく首を傾げる。


「……お金、入れ忘れてる」


「金? ……ああ、なるほど、そういうことか」


 ユツキは真新しい財布をポケットから取り出して、一万円札を何枚かそれから抜いてミコトに尋ねる。


「これで足りるのか?」


「……足りるけど、それ一万円札、これには、使えないよ?」


「これしかないな。 ……調査不足だった出直すとしよう」


 ミコトは手早く買うと引き返そうとしているユツキに追いつき、食券を手渡す。


「いや、自分でなんとかするから必要ない」


「……ん、私、お弁当ある」


「二つとも食えばいいだろう」


「……んぅ、難しい」


 食べる量が少ないのは見れば分かり、むしろ日替わり定食自体食べきれるのか分からないほどには小柄だ。 ユツキは仕方なく食券を受けとり、他の生徒が並んでいる場所に並ぶ。


「……もしかして、世間知らず?」


「そんなことはないと思うが」


「……お金の使い方、知らなかった。 相場も」


「まぁ、それは知らなかったが、それぐらいだな」


「……致命的」


 定食を受け取り、近くのテーブルに二人で向かって、横に並んで座る。 ミコトは小さな弁当箱を取り出してそれを開けた。


 小さく手を合わせてから自分の箸を持って弁当に手を付ける。


「……ユツキくん、なんで……そういうことに、なってるの?」


 ミコトは言葉に気をつけながらユツキに尋ねるが、ユツキは箸を上手く持てないらしく首を傾げながら見よう見まねでどうにかしようとする。


「……フォークとスプーン、取ってくるね」


 近くにあったのですぐに取って手渡すが、ユツキそれを受け取り、まじまじと見つめる。


「これは?」


「……ユツキくん、何人?」


「日本人だが。 なんだこれ」


「……食器。 お箸より、食べやすい、と思う」


 ユツキは頷いてミコトのジェスチャーに頷きながらスプーンを使って米を口に含んで首を傾げる。


「……どうしたの?」


 しばらく難儀したような様子を見せた後にユツキは米を飲み込んで息を吐き出す。


「いやな、固形食料は不慣れだ。 どうにかなると思っていたが、練習が必要だな」


「……ユツキくん、ぱねえ」


「ぱねえ? っと、まぁ一応助けられたから答えてやるとするか」


 ユツキは先程よりもマシな動きで米を口に含み、噛まずに飲み込む。


「例えば、その箸だが……洗うのも割り箸よりも面倒だろう、どうして使っている?」


「……可愛いから?」


「ああ、そうか。 ……と、まぁ割り箸は木製で使い捨てだから環境に悪いとされているだろ」


 ミコトは頷き、ハラハラとした様子でユツキの食事風景を見つめる。


「だが、実際のところは割り箸というのは、環境保全に貢献するものと言える。

 そもそも今日び、自然林の木を切って何かを作るということはなく、人工林の木によって木材を得ているんだが、その際に密集して木が生えていると互いに日を奪い合うことになり、土中の養分も奪い合う。 そのため成長させるために木を間引くわけだが、その間伐を行ったことにより出た木で割り箸などが作られているわけだ」


 ミコトはよく分からないと思いながらも頷く。


「……つまり、割り箸を使っても森には影響ないの?」


「そういうことだな。 むしろ間伐をするついでに収入が得られれば、林業の収入になる。 反対にそれがなくなれば林業自体が成り立ちにくくなり、林が放置されることになる。人の手の入らない林は案外脆く、その林自体が禿山になる可能性まである」


「……なるほど?」


 ユツキはミコトに目を向けて、味噌汁に口を付けて目を見開く。


「なんだこれ、凄い。 なんだこれ?」


「……お味噌汁、だよ。 ……それで」


「お味噌汁……お味噌汁か。 覚えた。 何か凄いものだな。 ……と、間伐というのは必要なことだ、ということだ。 簡単に見れば数を減らすという行為だが、な」


 ミコトは得心がいって頷いた。


「……デザインが、割り箸?」


「そういうことだ」


「……迷惑、かけてないと……思う」


 ミコトが小さく首を傾げると、ユツキは舌打ちをして吐き捨てる。


「生きていることが迷惑だ」


 そう言いながら焼き魚を食べようとして上手く出来ずにいると、ミコトが皿を取って箸で身を分けていく。

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