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日々という日 -5-


 目隠しで目は見えず、縛られているために動くことも出来ない。 ユツキは強く放られた感覚で、どこかに到着したことを知る。


「久しぶりだな。 真寺 有月」


 男の声を聞き、ユツキは見えないと分かりつつも顔をあげる。


「……早く、殺せ」


「殺そうとした攻撃で縄が解けることを期待しているのか? 下手なことをしてもリスクがあるだけだからな、治癒するための魔力が尽き、飢えて死ぬまで幽閉させてもらう」


 ユツキが知っている限り、管理院のトップである男が出てきて、やることが幽閉だけ、ユツキがそのことに疑問を覚えていると、男はため息を吐き出した。


「頭がきれるな。 そんな風に設計していなかったんだがな」


「……何をするつもりだ」


「大したことは出来ないな。 ただ、お前を失うのは惜しい、説得でもするかと思ってな」


 ふざけるな。 と吠えかけた口を閉じる。

 説得されたフリをすれば、解放されてもう一度戦える可能性もある。 ユツキはそう思いながら、ゆっくりと口を開ける。


「……話すことなど」


「ああ、「説得」されるつもりになったのか。 何も考えずに吠えてくれればまだ可愛げもあるんだがな」


「……クソが」


 思惑を見透かされた。 これでもう解放されることはないだろうと思いながら、ユツキは目隠しを外そうと頭を地面に擦り付ける。


「無駄なこと、と思わないか?」


「……少しでも、可能性があるなら!」


 ユツキの言葉を聞き、男は無感情な目を向けた。


「そうじゃない。 守ろうとすることがだ。

守ろうとして死ぬ価値があるだろうか。 そいつらがいなくなれば、少しは日本もマシになるんだ」


 国を滅ぼす要因となり得る少子化を加速させる原因。 と、ユツキは聞いていて、そう信じている。

 だが、あの高校へと通い、本当にそうであるかを疑問に思った。


「……俺の友人には、馬鹿な奴がいる」


 ユツキの口から吐き出された言葉を聞き、男は訝しげるように眉を潜めた。 吐き出した息が聞こえるほど静かな中、押さえつけられながらもユツキは立ち上がろうと足掻き、もがく。


「……約束された成功の道は、あるだろう。 それは確かだ」


 必死に立ち上がろうとして、組み伏せられる。


「だから、人は妬み、嫉み、羨み、憎む」


 男はつまらなさそうに告げた。

 関節が外されるもすぐに治癒され、また立ち上がろうとする。


「……馬鹿な友人は、ギターで食っていきたいんだと、語っていた」


 縄を力づくて振り解こうとして、血が縄に染み込んでいく。


「……下手なギターだ。 才能なんてない。

馬鹿な奴だ。 誰からも尊敬され、賞賛される道があって、それを選ばない」


 血反吐を吐き、組み伏せられながら、ユツキは言葉を続ける。


「クラスメートに頭がいい奴がいて、運動部で頑張っていた。 意味のない文化祭にやる気を出してる奴も、適当に遊んで過ごしている奴も……」


 ユツキは立ち上がる。


「……不死を持って生まれて。 あと数ヶ月も生きない俺のために、死のうとしてくれた奴がいた」


 複数人に取り押さえられ、頭を地面に打ち付けて血を流す。


「約束された成功の道をッ! 辿る必要がどこにあるッ!!

生きたいように生きるなら、デザインも何も関係ないッ! 才能があるか、成功するかも分からないただのド素人だろうがッ!!」


 流されていた血液が寄り集まって、眼球の形を成す。 治癒の魔術による異様な光景だが、取り押さえていた男の一人がそれを踏みつぶそうとして、その転がる眼球の硬さに目を見開いた。


「ッ! これはッ!」


「虚の書:第一章【あるべ……ッッグァ!」


 詠唱を寸前のところで喉を裂かれることで止められ、ユツキはその際に飛び散った血液と肉を「治癒」し、細かな骨の欠片のようにして反撃する。


「俺は、確信している。 あいつらは上手くいかない。だが、それでも幸福に生きる。 理想通りにいかない、普通の馬鹿な奴らだ」


 縛られたままユツキは立ち上がり、目隠しで見えないながら、男を睨む。


「……あいつらは、ミコトは殺させない。 全員生きて、そんなつまらない、子は思い通りにいくと思い込んでる馬鹿共の妄想をぶち壊してやる」


 さあ、吠える。 そうユツキが決めた瞬間に、男の小さな声が、飛んでいる羽虫を嫌がるかのように面倒臭そうに響く。


「まぁ、少子化とかどうでもいいんだけどな。 必要なのは労働力だけで、労働力など機械で事足りるからな。 人なんて減ってくれて結構だ」


「……は」


「別に誰も国内に留まる必要もないからな。 ある程度上になれば、別の国に行っても生活は変わらない」


 この男は、何を言っている。 ユツキは理解出来ず、言葉が右から左へと通り過ぎていく。


「遺伝子のプールが足りないってのもどうでもいい。 そんなもん適当に遺伝子情報保管してりゃ済むだけだろ? 人一人の遺伝子情報なんて800MB程度、そこらへんのUSBメモリにでも突っ込めば終わる話だ」


 空が落ちてくるかのような、非現実的な感覚。 得体の知れない、腕が千切れたときよりも強い痛みが頭に響いた。


「……なら、何故だ」


 ユツキの呆然とした問いに、男はつまらなさそうに笑う。

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