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生きる意味≠生きること -9-


 元々、死ぬことが前提でも動けていたユツキだ。 ある種、それは自意識を持った人間として当然なのかもしれない。

 何をしようと、死ぬ。


 何を積み上げていこうが、失われる。


 その状況で何かをする気になるというのも不思議なものだった。


「間違っていたのかもしれないと、思うことがある」


「……デザインを、その、すること?」


「どうだろうな。 安易な考えに逃げているだけかもしれない」


 ユツキは迷っているのだろうか。


「……死にたくないなら」


「違う。 俺は、組織の正しさが分からないだけだ」


「……逃げても、いい」


「俺が逃げても作戦は実行される。

 逃げれば、終わるまでに時間がかかる。 そうすれば、余計な人が守りに来て、余計に人が死ぬ」


「……殺したく、ないの?」


「違う。 やるべきことだから、やらなければならない。 だから、それまでは生きる必要がある」


 ミコトは立ち上がって、ソフトクリームを二つ購入して、駆け足で戻る。


「……ユツキくん、食べて」


「いや、俺は」


 手渡されようとしているソフトクリームは拒否されるが、ミコトはそれを押し付ける。


「……私は、ケーキが一番、美味しいと……思う」


 無理矢理、ソフトクリームを手渡されたユツキはミコトのよく分からない言葉を聞いて呆気に取られる。


「……チョコレートのケーキ。 甘くて、ほんの少し、ほろ苦い。 だから、今度は、それを……楽しみにして」


 ユツキはあっけに取られながら、子供の真似をしてソフトクリームを食べる。

 冷たい感触に顔を歪めたが、フワリと柔らかく、不快な冷たさではなかった。


「なんだよ、それ」


 ユツキは少し笑い、ミコトを見る。


「……美味しい?」


「そういえば、この前、庇ってくれた礼を言っていなかったな。 ありがとう」


「……美味しい?」


「甘くて、不慣れな味だ」


「……えへへ、そっか」


 甘い、とミコトは思う。 バシャバシャとプールではしゃいでいるクラスメイトを見ながら、少しずつソフトクリームを舐める。


 それすら下手なユツキの口の周りをハンカチで拭いて、少し笑う。


「……今は、休もうよ」


「ああ……少しだけ、疲れたからな」


 ユツキはソフトクリームを食べ終えて、再び絵を描く。 大して上手いものではなければ絵柄も気持ち悪いものだけど、ミコトはその絵がなんとなく、好きだった。


 いつもより、ほんの少し、柔らかく見える。 ほんの少しだけだから、勘違いかもしれないが。


「……あっ、あの女の人、今落し物、してたから」


 ミコトは席から立ち上がって女性の元に行くが、落し物は見当たらなかった。 何かを拾うような仕草をしたミコトが女性に手渡すと女性は驚いたような表情をして頭を下げる。


「暇だな」


 ユツキは戻ってきたミコトにそう話すと、ミコトは頷いて、鞄から大型のタブレットを取り出す。


「……リバーシ、する?」


「なんだそれは」


「……ボード、ゲーム。 黒と白をひっくり返す」


「意味が分からないが」


「……やってみる」


 やれば分かるとばかりに、ミコトはタブレットでリバーシが出来るようにして机の上に置く。

 ミコトは簡単にルールを説明しながら、暇つぶしにいいと言ってリバーシを始める。


「なるほど、たくさんひっくり返したら勝てるんだな」


「……ふふふ、そう甘くもない、さ」


 しばらく続け、ユツキは顔を顰めて悩んだ様子を見せる。


「角に置くといいんだな」


 一戦目の終了時にそう言い、回を重ねるごとにミコトの技術を吸収していくが、何度繰り返そうがユツキが勝つことはなかった。


「お前、強すぎないか?」


「……努力の、賜物」


 ユツキがもう一戦、と言ったところで、ユツキの頭に濡れた手が置かれる。


「うっす、お前らは遊ばねえの?」


 カケルはリバーシを覗き込みながら話す。


「……遊んで、る、よ?」


「いや、プールにきてんだし、オセロをしててもあれじゃね? まぁ、そろそろみんな疲れた頃だけど。 ボーリングとか行くか?」


「……この人数だと、お店困る」


「あー、占拠しちゃうな。 まぁばらけて二次会的な。 あっ飯食ってからの方がいいか」


 ミコトはユツキに視線を向ける。 未だに上手く食べることが出来ないユツキが外食をすることに不安を覚えているのだろう。


「飲み物やソフトクリームで腹が膨れているからな。 行くなら後で合流するが」


「すげーマイペースだよな、お前ら」


「……ユツキくん、だけ」


「いや、長井も相当な。 まぁ色々相談してくるな」


 カケルは他のクラスメイトに声をかけにいき、ミコトはユツキの頭から垂れた水に少し笑う。


「……いい人、だね」


「まぁ、俺にとっては都合がいいな」


「……手にかけるのは、辛く、ない?」


「感情でどうにかなるものでもない」


「……うん」


 ミコトは小さく微笑む。 誤魔化したのではなく、ただ「感情では殺したくない」とユツキが思ってくれていることが嬉しかっただけだ。


 水着のままカケルが駆けてきて、二人に言う。


「俺たちはカラオケ行くことになったから!」


 ユツキの常識のなさをどう誤魔化したものかと、二人で目を見合わせた。

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