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生きる意味≠生きること-2-



 苛立ちながら歩き、自室に入って漫画を取り出してから隣の部屋に行き、ノックをして部屋の主を呼ぶ。


「ん? おお、真寺か。 漫画読んだ? どうだった?」


 真寺は隣の部屋に住んでいる、鮎川カケルの屈託のない笑顔を見て、今まで考えていた言い訳じみた感想を忘れて本音を口にする。


「相手の男、神奈川だったか」


「ああ、あの金髪イケメンな」


「本気でぶっ殺したい」


「分かる」


 二人は意気投合した。 ユツキはカケルの部屋に上がり、眠気をインスタントコーヒーで誤魔化しながら、夜通し少女漫画のキャラクターの悪口を語り合った。


 そこには殺害しなければならない使命や、仲良くしなければならない情報収集の対象という打算もなく、嫉妬心と不快感に蝕まれた男達の友情だけがあった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ミコトはユツキが帰ったのを見て、これで日記が書けると頷いて机に向かう。


 いつものように美味しそうに味噌汁を食べていたことを書いて、一緒に漫画を読んだことも書こうとして、その手が止まった。


「……隣の子……羽村ちゃん、だっけ」


 ミコトは左隣のカケルではなく、右隣の後輩の少女のことを思い浮かべる。 まさか男のカケルが男のユツキに貸しているとは思っておらず、ミコトは羽村が少女漫画を貸したと考えた。


 仲がいいのだろうか。 自分は邪険にされているのに、その子は漫画を課すような仲で、感想も考えてあげようと思われているのだ。


 当然、二人でイケメンの悪口を言って盛り上がっているなど想像もせず、ミコトはえんぴつを投げるように机に置いて、ベッドに倒れ込んだ。


「……別に、いいから」


 ユツキが誰と仲良くしようとも関係ないことだ。


 ミコトは不快さを示すようにバタバタと手足を動かして、枕に顔を埋めてため息を吐き出す。


 関係ないことだ。 勝手に仲良くしていればいい。 自分に言い聞かせるようにそう言って、ミコトはベッドから立ち上がる。


「……お風呂に、入ろう」


 気分の悪さを変えるにはそれが一番だと、ミコトは着替えを用意して脱衣所に向かった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 教師は放課後の、誰もが早く部活に行きたい、あるいは帰りたいと思っている時間にクラス全員を引き止めた。


「ゴールデンウィーク入る前に、文化祭でやること決めるぞー、ほら、学級委員のカケル、まとめてくれ。 俺は寝てるから、決まったら起こしてくれ。 ああ、被るかもしれないから第一希望から第三希望まで出しててな」


「了解です。 あー、眠い」


 カケルはイケメンの悪口で睡眠不足の目を擦りながら、自分の椅子を持って前に出て、気だるそうに前で座りながら口を開く。


「二年目だし、おおよそどんなことをやるか、どれぐらいの予算が出るかは分かってると思うから省くな。 説明しても面白くないだろうし。 真寺は長井にでも聞いてくれ」


 カケルはこれでクラスのみんなも早く話が終わって勝ち、俺も楽で勝ち、ユツキもミコトと話せて勝ち、と一石三鳥だと思いながら、ユツキにウィンクをする。


 ユツキは無視をした。


「んじゃ、何かやりたいってのあったら言っていけよー、熱意があるならプレゼンしてもいいぞ」


 カケルの言葉に男子生徒が手を挙げる。


「はいはい、メイド喫茶!」


 お調子者の言葉で教室の中で小さく笑いが起き、カケルは手早く黒板にそれを書く。


「お化け屋敷とか!」


「面倒だし、なんか展示品とか」


「劇とかどう? 僕の半生を劇にしたらみんな喜ぶと思うんだけど」


「マグロの解体ショー」


「焼き鳥焼くとかでいいんじゃね」


「……お味噌汁、バー」


 マグロの解体ショーと味噌汁バーを除いた意見が黒板に書き込まれ、カケルは他に意見がないかを尋ねる。


「もう教室に椅子置いて休憩室とかでいいんじゃね」


 カケルは大きく頷いてからその意見を黒板に書き込んだ。


「多数決で決めてもいいけど、まぁ軽く纏めると、喫茶店、お化け屋敷、劇、食品屋台、休憩室、ってところか。

 どうせ細かい内容は後々変わるだろうから、大まかな方向性を決めてから細かいの詰めていくな」


 そうまとめたあと、カケルは利点やら欠点、予算の都合や必要な人でや日数を簡単に説明していく。


 ユツキはほとんど理解出来ずにいると、いつのまにか隣に立っていたミコトがユツキの頰を摘んだ。


「どうした?」


「……分かってないかも、って」


「まぁ、ほとんど意味が分からないな。 メイド喫茶ってなんだ。 メイドというのは、給仕の女のことだろうが」


「……そのメイドさんが、ウェイトレスしてる喫茶店。 格好が可愛い」


 ミコトがその服を着ているところを想像し、ユツキはその想像を打ち消すように首を横に振る。


「……どう、したの?」


 ミコトはこてんと首を傾げる。


「お化け屋敷は嫌だな。 こいつらにさせるのはちょっとばかり悪趣味だ」


 ユツキはミコトにだけ通じるような悪い冗談を口にして、ミコトは意味が分かったのか少し顔を顰めて、咎めるようにユツキを見る。


 そんなことをしている間に、一人の女子生徒が劇をしたいと言って、周りの女子がそれに同調する。


 ミコトにも「劇がいいよね」という問いが来て、ミコトは仕方なさそうに頷く。


「劇でよかったのか?」


「……多数決で決まるから、あとで嫌われないように」


「面倒だな」


 ミコトは曖昧に笑って、投票した結果を見て劇に決まる。 男子生徒がバラバラに投票したのに反して、ほとんどの女子が劇に投票したことで決定的したのだ。


 そのあとは第二希望と第三希望が決められ、脚本を書きたいという女子生徒が名乗り出たところで話は終わった。


 ユツキは「劇か」とため息を吐き出して、隣にいたミコトに尋ねる。


「こんなものなのか?」


「……そう、かも。 女の子の方が、結束してる、から」


 ユツキは結束というよりかは同調圧力なのではないかと思ったが、他の生徒がいる前で言うことはせずに首を横に振って済ませた。


 おそらく、劇が嫌というわけではないだろうが、ミコトとしてもこうやって一人の意見が強すぎることは、良くないと思っていることぐらいはユツキにも分かった。


「……がんばろ、ね」


「勝手にやってろ」


 ユツキはクラスメイトの女子がミコトの方にやってきたのを見て、荷物をまとめ始める。

 ミコトは手に持っていたカバンを床に下ろしてクラスメイトの方に目を向けた。


「みこっちゃんはどんな役がしたいの?」


「……裏方が、いいかな。 大きい声、出ないから」


「あー、そっか、でも、子供役とかやったらリアルでいいんじゃないかな? セリフを減らしてもらってさ」


 ミコトは曖昧に言葉をにごし、誤魔化そうとする。


 クラスメイトはそれを肯定と取ったのか、あるいはそもそも聞く気がなかったのか頷いて自分の友人の元に戻った。


 そのクラスメイトとは違う、ミコトの友人がぞろぞろと集まって、小さな声で「劇はちょっと恥ずかしいよね」とミコトに言う。


「あ、それはそうとね。 この前テレビで紹介されてた占いの本買ったんだけど、本当によく当たるのっ! ハナちゃんも占ったんだけど、本当に先輩と付き合えたの!

 みこちゃんも占いたいよねっ!」


 ミコトは少し考える仕草を見せて首を横に振る。


「……いいや」


「えー、じゃあ真寺くんはどう? 前世いっとく?」


「前世ってなんだ?」


「……ユツキくんが、生まれる前に、生きていたもの。

 生物の魂が、使い回されてて、死んだら生まれ変わって、って繰り返すという、考え」


 ユツキはミコトの説明に首を傾げる。

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