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村へ


 えっと、これはファンタジー世界でよく登場する獣人ってやつですか?

 すげぇ、めっちゃ尻尾動いてるじゃん。

 あれ、本物だよな。

 あ、耳も動いた。

 ゲームみたいな世界って言われてたからもしかしたらとは思ってたけど……。

 俺はすぐにポケットに手を入れて……。

 そこで、ようやく気づいた。


「……携帯忘れた」


 写真取りたかった━━━ッ!

 もしこの子が獣人じゃなかったとしても、写真取りたかった。

 それくらいかわいい。

 それこそ巷で人気のアイドルが卒倒するくらいに。

 くっそ、まじで携帯忘れたのが悔やまれる。

 なんで俺は……ッ!


「おーい、聞こえてんのか?」


 少女が俺の眼前でひらひらと手を振る。


「お、おお……聞こえてる聞こえてる」

「そっか、良かったな。凍えて固まったのかと思ったぞ」


 少女はふぅ、と胸に手を当て息を吐きながらそう溢した。


「それで、兄ちゃんは一体誰なんだ?ていうか、耳と尻尾はどこにやったんだ?」


 少女は不思議そうに訪ねてくる。

 もしかして、俺が獣人だと勘違いしているのだろうか?


「いや俺は……」


 そこまで言いかけて、俺はふと我に返った。

 本物の獣人に出会って少し気が動転していたが、冷静に考えたら子供同然の女の子がこんなところにいるなんて、いくらなんでもおかしくないか?

 ここは零下何度とかの世界。

 子供とか、普通に死ぬ場所だ。

 だとすると、この子は普通じゃないってことか?

 いや、まぁ獣人だし普通じゃないのは確かなんだけど……。

 気になるのは、獣人の立ち位置だ。

 あの天使は、俺を召喚した理由は魔族を打ち滅ぼすためだと言っていた。

 色々と魔族について説明はされたが、獣人についての説明は一切されなかった。

 まるで、この世界には獣人は存在していないかのように天使は語っていた。


「ん?」


 少女はコテンと首をかしげた。


「なんでもない……」


 とりあえず、状況を見よう。

 この子が一人でここを生きている可能性は、限りなく低い。

 多分、集落みたいなところがあるはずだ。

 その証拠に、少女は服を着ている。

 服を着ていると言うことは、服を作る場所と、人がいると言うことだ。栄養状態だって、見た限り悪くない。

 健康そのものだ。こんな小さな子供がこの凄絶な環境で一人でご飯を作って、服を作って、生き抜いているなんて、さすがにあり得ない。


「ねぇ、君……」

「……私はヒイリだ。 兄ちゃんもそう呼んでくれ。この名前は、父ちゃんと母ちゃんがくれた、大切なものなんだ」


 そう、ニカッと笑いヒイリはそう言った。


「そうか、じゃあヒイリ。少し聞きたいことがあるんだが、この近くに村……みたいな所はあるのか?」

「……あるぞ、兄ちゃんも後で連れてってやる。困ってる仲間がいるなら、助けるのは当たり前だ」


 そう言ってから、ヒイリは氷樹に向かっていく。 


「お、おい。そっちは魔物がいっぱいいて危ないぞ」


 俺はそう忠告するが、ヒイリは不思議そうな顔をする。


「なにを言ってんだよ、私たちはこいつらがいないと生きていけねぇだろ?」

「は……? お前こそ何を言ってるんだ? 魔物だぞ?それ。お前は一体何をするつもりなんだ?」

「何って……兄ちゃん今日までなに食って生きてきたんだよ」


 ちょっと待て━━━。


「お前、それ食うつもりなのか!?」


 魔物だぞ。しかも、そいつは大量の麻痺毒を持ってる。

 食ったら普通に死ぬぞ。

 慌てて、ヒイリを止めようとする。

 しかしヒイリは、聞く耳を持たずに繭のようなものに包まれてぶら下がっているハリケイスの胸の辺りに、ナイフを突き刺す。

 ハリケイスは、呻き声一つ上げず絶命した。

 ヒイリはそれを確認してから、ハリケイスの胸の中から巨大な石のようなものを取り出した。

 それをヒイリは、腰に結びつけた麻袋の中に入れる。


 その作業を、淡々と、作業のようにヒイリはこなしていく。

 俺はいつの間にか、その光景に目を奪われていた。

 こんな小さな子供が何の感慨も忌避感もなく、淡々と命を奪うという事実に、俺は少し怯えた。

 皮膚を引き裂いたら、そりゃ当たり前のように血が出る。

 肉を裂き千切ったら、ものすごい匂いがする。

 しかし、そんな俺にとっての非日常は、ヒイリにとっては日常でもう『慣れ』が来ているのだと思った。

 それが良いことなのか、悪いことなのかは俺にはわからない。


 足元一面が紅に染まった頃、ヒイリは「うん」と満足気に頷いた。そして、麻袋の中から石を取り出した。


「いただきます!」


 へ……?

 そう思った瞬間、ヒイリは石を口に入れた。


「ちょっ、何やってんだ!」


 俺はヒイリに詰めより、直ぐに石を吐かそうとする。


「な、なんだ、兄ちゃん。何をそんなに焦ってんだよ?」

「何を……って、お前今、石飲み込んだだろ! まだ小さいからわかんないかもしれないけど、石なんて食ったら死ぬぞ」

「……? いや、死なねぇよ。私は今までずっと、この『魔核』を食って生きてきたんだ」


 ボリッ!とヒイリが石━━『魔核』を噛み砕く。

 瞬間、ヒイリの身体が紫色に淡く輝いた。

 ブルリ、とヒイリは身体を震わせる。


「あぁ、やっぱ旨いな」


 頬を紅潮させ、恍惚としながらヒイリはそう呟いた。

 本当に、上手いのか……?


「食べてみるか? 今まで兄ちゃんが何を食って生きてきたのかはわかんねぇけど、魔核を食っても死ぬことはないぞ」

「いや、いい……」

「そっか、それならいいんだけど」


 ヒイリが、また魔核を麻袋から取り出して、食う。


「……兄ちゃん、私たちの村に来るか? こんな所に一人じゃ、きついだろ」

「そうだ……な。連れていってくれたら嬉しい」


 今俺がすべきことをまとめよう。

 まず、強くなること。

 その次に、一つでも多くこの世界の情報を集めること

 今は後者の方が優先度が高い。

 この世界の情報を集めるには、この世界の情報を知っている人物と話をするのが一番早い。

 ヒイリはたぶん、そんなにこの世界について詳しくない。

 俺を獣人と勘違いしたり、こんな不用意に他人を自分の村に連れていくことから、それは確かだ。

 俺が望むのはこの世界について豊富な知識を持つ者。

 そしてそれは、きっとヒイリの村にいる。

 これは俺の『直感』だ。

 俺がこの場所を出る為には、獣人達とのイベントは外せないとそう言っている。


「そっか、それじゃあ行こう」


 ヒイリは頷き、洞窟がある方角に向かう。


「もしかして、その村はあの森の中にあるのか?」

「そう。私たち獣人は、森の奥の方に集落を築いてるんだ。でも、あの森には食べるものがほとんどないんだ。だからわざわざここまで、食料調達に来てるってわけ」

「食料……って、魔核の事だよな? でも、こんなところまで一人で来るのはまずいだろ」

「まぁ、こんな魔素の多い空間まで来れるのが私しかいないから仕方ないんだ。……そういえば、兄ちゃんはここにいても苦しくなったりしないのか?」

「いや、全然」

「へぇ……そりゃ珍しいな。兄ちゃんも私と同じで『魔喰』持ちか、こりゃ兄ちゃんにはますます村に来てもらわないとな!」

「え、と。その『魔喰』ってなんなんだ?」

「え! 兄ちゃん……魔喰知らないって、ほんと今までどこで暮らしてたんだよ。南の集落か? それとも西の集落?」

「南の集落だな、たぶん」


 適当にそう答える。

 正直なところ、南とか西とか、方角は全くわからない。

 太陽か月が見えたら、なんとかわかるんだが……。

 ここも、雲に阻まれて太陽も月も見えないし。


「そっか、南の集落か。私もあんまり知らないんだけど、かなりいいところだよな」

「あぁ、いいところだ」


 うんうんと相槌を打つ。

 南の集落とか行ったことないけど、たぶんいいところなんだろう。ほら、あるじゃん?

 全然知らないけど、取り敢えず話合わせとこって感じで適当にうんうん頷くやつ。

 しばらくそうしてたら、自然と会話がなくなるから、実はかなり有用なのではないかと思う。


「それじゃ、そろそろ行こうか」


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