三つ目のステータス
『『悦楽者』の効果が発動しました。今まで蓄積されてきた『悦』を、能力値に変換します。能力値ポイントを割り振ってください』
……えっと、なんだって?悦楽者のスキルが発動?
能力値ポイント? スキルポイントじゃなくて?
俺は混乱しながらも、ステータスを開く。
ステータスは、一向に変わっていない。
能力値ポイントなんてものも、どこにも表記されていない。
「……ん? 」
何か、違和感があった。
俺はその違和感を探すために、もう一度ステータス画面に目を通す。
「あれ……もしかしてこれか?」
ステータスの下の方に、『アビリティバリュー』という項目があった。俺はその部分に指を当てる。
瞬間。
ステータス画面が反転する。
アビリティバリュー
成長値:4
才能値:8
幸運値:3
胆力値:6
先導値:2
残:能力値ポイント2
成長値とかこれら……全部裏ステータスに現れない項目だ。
裏ステータスに記載されているのは……
攻撃:1020
防御:1050
敏捷:1056
魔力:1812
魔攻:860
魔防:990
器用さ:1540
「これだけだ……」
俺は裏ステータスを確認しながら、そう呟く。
だとすると、このアビリティバリューにある項目は悦楽者特有の項目だと思う。
いわば、悦楽者のスキルに付属でついてきたステータス。
うーむ。よくわからない。
ステータスだけでも、「ステータス」と呟いて発現する通常のステータスと、鑑定を使うと見える裏ステータスと、悦楽者についてくるアビリティバリューと、三つもステータスが存在する。
しかも、それぞれの項目には全く別のものが記載されている。
なぜ、ここまで分類する必要があった?
裏ステータスに至っては、鑑定スキルがなければ気づくことすらないかもしれない。
ましてや、悦楽者はユニークスキルだ。
俺以外誰も持っていないステータスなんて、存在していいのか?
考えてもわからないか。
「あぁあぁあもう!!わっかんねぇんだよ!」
情報が少なすぎる。
まず、俺は当たり前のようにスキルを使ってたけど━━例えば認識操作━━あれなんか、相手の精神に干渉するスキルだぜ?
それだけのエネルギーを、一体どこから得てんだよ。
ステータスにしたってそうだ。
どうしたら、ステータスと呟くだけで、実際にステータスが出てくんだよ。実際にさわれるし、数値も勝手に更新されてる。
そんなの、普通に考えてありえないだろ━━ッ!
こんなの全て俺の妄想ってした方が、納得できるぞ。
「あぁ駄目だ……」
この考え方は駄目だ。幾数もの戦場で学んだ。
この考え方は失敗する考え方だ。主観の常識に縛られて、混乱する。それはこの世で最も犯してはいけない『愚』だ。
ましてや、ここは異世界。
地球と同じ常識が通用するとは考えにくい。
順応するんだ。 どの世界だって、順応した方が楽なんだから。
俺は大きく息を吸って、思考を中断する。
「……とりあえず、能力値を振ろう」
俺は視線を下に下げた。
アビリティバリュー
成長値:4
才能値:8
幸運値:3
胆力値:6
先導値:2
残:能力値ポイント2
恐らくだが、このアビリティバリューの中にある項目は本来ならステータス外の能力値なのだろう。
それこそ、才能だとか運とか。
そういうステータスを、悦楽者のスキルは伸ばす事ができる、と。
なかなか無茶苦茶な能力だと思う……。
さて。とりあえず、残っている能力値ポイントは2。
最初に伸ばすべき項目はなんだろうか。
……というより、数値が1上がるとどれくらい変化があるかわからないな。
それを言ったら全部か。
このアビリティバリューに表記されてる能力値は、全部自分で認識することができない。
上限がいくつなのかも、わかりやしない。
それを踏まえて……考えろという訳か。
とりあえず、鑑定だ。
……そういえば、一気に鑑定とかも出来るのだろうか。
やってみよう。
鑑定結果。
成長値━━━レベルが上がる速度を表す数値
才能値━━━スキルの習得速度を表す数値
幸運値━━━運の数値
胆力値━━━心の不動さを表す数値
先導値━━━カリスマ性を表す数値
五つ全部鑑定出来たけど……頭が割れるように痛い。
好んで使いたくはないな。
と、痛みに顔をしかめつつ鑑定結果を確認する。
ほうほう。
とりあえず、才能値は偽造者があるから伸ばさなくてもいいな。
先導値も、あまり必要ない。ここには多分俺以外に人がいないから、この数値を上げても意味がない。
いつかこの森を出るときのために上げとくっていうのも手かもしれないが、正直この先導値があがって、何がプラスに働くのかいまいちわからない。そもそも、カリスマ性ってなんだよ。
てなわけで、成長値か幸運値か胆力値を上げるべきだと俺は思う。
悩んだ結果、俺は胆力値に2つ振り分けることにした。
胆力━━つまり驚かないというのは、かなり強いと思う。
もし、奇襲とかをかけられたとしても、冷静に対処できるってことだし、戦闘中に置いても同じ事。
あげておいて損はないと思ったからだ。
シュン、という効果音と共に光が胆力値の項目の所に吸い込まれていった。
……特に、変わったところはないな。
強いて言えば、少し気持ちが冷たくなったってことくらいだ。
と、そこでようやく俺は本来の目的を思い出す。
そうだ。魔物が昼間なにをしているのかを━━ッ!
俺は急いで頭上を見上げた。
「……まだ、大丈夫か」
俺は安堵のため息をついた。
時間がわからないのは不便だな。
せめて太陽が見えさえすれば、だいたいの時間が分かるのだが……。
それすらも巨大な木葉に阻まれ、確認することができない。
今現在俺が時間を確認する方法は、上から延びてくる光の色を見るしかない。
今の太陽の光色は、白黄色。
まだ昼間の2時くらいだと思う。
この太陽の光色が橙色になると、警戒を強めなければいけない。
そう確認してから、俺は大木を降り始めた。
※※※
枯れ葉をさくさくと踏みながら、俺は魔物を求めて歩き回った。
しかし、いくら歩き回っても気配察知には反応がない。
やはり、気配察知が発動するには、なにかしらの条件があるのかもしれない。
魔物が夜行性だとしたら、夜になった瞬間に魔物は動き始めるわけだ。そのときに、気配察知のスキルは発動した。
だとしたら、魔物が活動している時しか気配察知は発動しないのか?
もし……魔物が夜に活動していて、昼間は寝てるとしたら気配察知が発動しないのも、まぁ理解できる。
でも、これら全ては憶測に過ぎない。
結局は、魔物を見つけなければいけないのだ。
と、その時だ。
「━━━ッ!」
脳裏に浮かんだ光景に、思わず息を飲んだ。
200メートルくらい先から、ずっと。
塗りたくるように、染まる一面の赤。
隙間すらない赤色。
赤い海。
これが全て……。
いつの間にか乾いていた唇を舐めて、俺は吐き出すように溢した。
「……さすが、異世界……」
好奇心が赴くままに、俺は敵性反応で染まったその場所に、足を進めた。