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覚醒

 

「よっしゃ!やっと食べ物見つけた!」


 叫び、俺は枝の先にぶら下がっている果実を枝ごとむしり取った。


「……うおっ」


 ずしりとした重量感が肩にのし掛かる。


「……おっも。でもこの実二メートルくらいあるから、仕方ないっちゃ仕方ないのか……?」


 毒々しい色をした、リンゴみたいな実。

 その馬鹿げた大きさに苦笑しつつも、俺は食物を見つけれた事は素直に嬉しいと感じていた。


 とりあえず、鑑定で食べれるものか見てみる。


 ケブの実━━━甘味で、とろけるような舌触りをしているが、弱目の毒を持つ。腹痛や目眩に襲われるだろう。


「……毒物だったのか」


 俺は思案する。


 腹痛と目眩か……。

 でも、これ以外に食べれそうなもの無かったしな……。

 何か食べなきゃ飢えて死ぬし。

 ……まぁ大丈夫だろう。

 弱めの毒だしたぶん死なない、と思う。

 それに人がいないんだから野糞するのにも抵抗ないし。

 いや、まぁ望んでしたいわけではないけど。

 これを食べまくったら毒耐性つくかもだし……。

 そう結論づけて俺は後4つケブの実を収穫した。

 全部で5つだ。

 これだけあったら、腹もふくれるだろう。


「しかし……かなり登ったな」


 俺は下を見て、ポツリとそう溢した。

 たぶん、一キロくらいは登っただろう。

 下が全然見えないし。

 でも、こんだけ登ってもまだ天辺は見えないんだよな。

 この森どんだけデカイんだよ。

 ある意味、拠点を木の上にするっていうのも良いかもしれない。

 翼がある魔物にはあまり意味ないけど、翼がない魔物だったらたぶんこの高さは登れないだろう。

 それに、枝もかなりの広さだし。

 たぶん横幅だけでも100メートルはあるんじゃないか?

 これなら、もし翼がある魔物に襲われても普通に戦えるだろう。

 降りるのもめんどいし、もうここが拠点でいいか。

 枝の先の方にはいっぱいケブの実あるし。

 しかも、デカイやつ。

 一個2メートルくらいのやつ、それがざっと見渡す限り2,30個はある。

 たぶんここにいれば飢えることはないだろう。

 栄養とかめっちゃ偏りそうな気がするけど。

『健康』のスキルを取るのもいいかもしんないな……。


 そんな事を思いつつ、俺はケブの実にかぶりつく。

 グジュッという音と一緒に、果汁が溢れる。

 ……めっちゃうまい。

 あぁ、でもちょっと舌がピリピリするな。

 これが毒なのかも。

 確か、腹痛と目眩が起きるんだっけな。

 まぁその程度で毒耐性が獲得できるなら、楽なもんだろ。

 2つくらいケブの実を食べたら、腹がいっぱいになった。

 だって一個がめっちゃでかいんだもん。

 俺は隣に置いた後3つのケブの実を見る。

 ……これは、夜飯でいいよな。


 と、その時だった。


「うわぁ……これはすごい」


 視界が、波打つように揺れた。

 吐き気も凄い。

 毒が回ったのだろう。

 次いで、とてつもない腹痛が襲ってきた。

 でも、たぶん中身は出ない。

 本当に腹痛━━腹が痛いだけ。


「うっ………」


 地上に向かって、吐瀉物を吐く。

 喉が焼けるように痛い。

 肺も、燃えてるみたいだ。

 知らず知らずのうちに、過呼吸になっていた。

 さらに、眩暈は酷くなり、足が痙攣しだして、動けない。

 だけど意識ははっきりとしている。

 その事が、とても恐ろしかった。

 俺は、枝の中央に戻り仰向けに寝転がる。

 はっはっ、と浅い呼吸を繰り返しながら、毒が消えるのを待つ。

 視界は白色に明滅を繰り返し、金属バッドを全力で頭に打ち込まれるようなそんな痛みが頭の中で響く。

 肺の奥からは、鉄の味のする吐息が溢れる。

 つらい。とにかく痛い。苦しい。

 でも……なんでこんなに苦しいんだろ。

 鑑定では、そんなに強い毒ではないと書いていた。

 もしかして、2ついっぺんに食べたからだろうか。

 あぁ……なるほど。たぶんそうだろう。

 でも。これ、ヤバイよな。

 まじで死ぬ直前って感じがする。

 もしかして、俺死ぬんじゃねぇの?

 世界が遠ざかっていく感覚が俺を襲う。

 色が、木葉の擦れる音が、臭いが、だんだんとでも確実に失われていく。

 たぶん━━死ぬ直前。



 真っ黒な、光が見えた。

 それは暗黒にも似た黒光。

 灯火のように揺れる暗黒の光。



 その時。


『毒耐性を獲得しました』


 瞬間。

 意識が覚醒する。

 世界に引き戻され、五感が戻る。


『スキル:『絶望の卵(エンド・オブ・エッグ)』を獲得しました』


 血流が体を巡り、止まりかけていた心臓が律動を刻み出す。

 体の硬直が解れて、筋肉が痙攣を繰り返す。


「………ッ!」


 凄まじい激痛が、体の中を暴れ狂う。

 しばらく呻いていると、全身を襲っていた甘い痺れが取れた。

 その瞬間に今までの苦しさが嘘のように消えた。


「……あれ?」


 痛く……ないぞ。

 そういえば、毒耐性を獲得とか言ってたな。

 もしかして、助かったのか。

 俺は安堵のため息をついた。


「助かったー。せっかくこんな楽しい世界に来たのに、2日目で毒物食ってご臨終(ゲームオーバー)とか洒落になんねぇよ」


 そう毒づき、ステータスを確認する。


 ステータス


 LV64 総合戦闘力 9000

 名前:黒柳 悠

 年齢:17


 技能:ユニークスキル:『悦楽者ハイヤー

 EXスキル:『技能書スキルブック

 EXスキル:『偽造者ツクルモノ

 ユニークスキル:『偽装者フェイカー

 ユニークスキル:『観測者オブサベーター

【領域外スキル】『絶望のエンド・オブ・エッグ


 スキル:『鑑定』

 スキル:『隠密』

 スキル:『混乱付与』

 スキル:『睡眠付与』

 スキル:『回復魔法』


 常用スキル

 スキル:『気配察知』

 スキル:『回避』

 スキル:『逃走』

 耐性:『毒耐性』

 残スキルポイント:680


 ※※※※※


と、スキルが増えて総合戦闘力が700くらい増えてる。

耐性だけでこんなに上がるもんなのか……とか思って視線を下げると見覚えのないスキルがあった。

 ……なんだこの領域外スキルってやつ。俺いつこんなの獲得したっけ。

 ていうか、絶望の卵ってなに。

 めっちゃ禍々しいじゃん。

 これ卵が孵化したら世界滅ぶとかじゃないよね。

 とりあえず、鑑定……と。


『絶望の卵』━━━『error』


 そう文字が浮かび、それ以降はうんともすんとも言わなかった。

 どうやら説明はこれで終わりのようだ。

 errorつまり、わからないということだろうか。

 ………。

 使えねぇぇーー!!!

 鑑定してもわからないもんがあんなら、取った意味ないじゃねえか!100ポイントのスキルポイント返せよ!

 ていうか、なんなんだよこのスキル!

 俺こんなスキル取った覚えねぇし要らねぇよ!

 なんか怖いんだよこのスキル!

 持ってるだけで寿命吸いとられるとかないよな……。

 ありそうで怖いんだけど。


 俺は大きくため息をつく。

 とりあえず、毒耐性はついた。

 これがあれば、この先もケブの実は問題なく食べれそうだ。

 でも、2つ一気に食べてえらい目にあったし、毒耐性があったとしても一応食べるのは一個ずつにしよう。


 そう思い、俺は上を見上げる。

 まだまだ遠くに見える木葉の隙間からは、暖かな光が溢れていた。たぶんまだ夜にはならないだろう。

 夜になったら、この平和な時間は終わりを告げる。

 魔物が徘徊する死の世界に一転するだろう。

 しかし、一つ気になることがある。

 魔物たちは夜がくるまでの間、どこにいるのだろう。

 昨日も、何の前触れもなく突然現れたし。

 もしかして、どこかに身を隠しているのだろうか。

 いや、まずこの気配察知のスキルは何を期に発動するのだろう。

 もし活動している状態の魔物にしか気配察知が反応しないのだとしたら、今までの推論は全く違うものになる。

 とにかく……確かめるしかないだろう。

 この気配察知スキルは、俺が唯一もつ敵感知スキルなのだから、下手な勘違いをしていたとしたら、かなりヤバイ。


 やっぱり、今俺が生き残るためにすべきことは、スキルを完全に扱うことと、その効果を完全に把握することなのだと思う。

 以前鑑定でスキルを見ても、そんなに詳しく効果は書いていなかった。自分で確かめる方がたぶん間違いはない。

 それに、スキルを使う練習にもなるしな。

 とりあえず、夜までは魔物が昼の間どこにいるのかを探しながら、スキルの確認をしよう。

 そして、夜が来たら魔物を倒してレベルを上げて、スキルポイントを貯める。

 そんで、その貯めたポイントで、EXスキル、もしくはユニークスキルを得る。

 それが、しばらくの方針だ。

 今はとりあえず、強くなること以外なにも考えてない。



 だって、LV上げって楽しいじゃん。



 俺の人生のモットーは楽しむこと。


 楽しまなきゃ、生まれてきた意味がない。


 生きている意味がない。


 楽しむことこそが、生きるってことなんだと俺は思うからだ。


『『悦楽者ハイヤー』の効果が発動しました。今まで蓄積されてきた『悦』を、能力値に変換します。能力値ポイントを割り振ってください』


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