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魔物掃討

 

 俺は急いで跳ね起きた。

 気配察知のスキルが、尋常ではない数の敵の反応を察知したからだ。頭の中でレーダーのようになっている気配察知のスキルが、次々と敵を示す赤点が浮かぶ。その数はおよそ……300と言ったところだろうか。


「嘘だろおい……ッ!」


 ピコリピコリと、赤点が次々と浮かび上がる。

 赤点は、なぜか知らんが一斉にこちらに向かってくる。

 まるで俺がここにいるのかわかっているかのように。

 あぁ……やばい。

 死ぬかもな。

 いや、━━━でもそれ以上に楽しい。

 俺は……

 あぁ。

 そうだ。

 やっぱり。


「俺はこういうのを求めてたんだよッ!」


 喉元から競り上がってくる喜びの感情を爆発させる。

 今、すっげぇ楽しい。

 胸が高鳴る! 背筋がゾクゾクする。


「たった一回の操作ミスで、全てが終わるッ! 血沸き肉踊る乾坤一擲の勝負ッ━━!」


 肌が粟立って、視界が揺れる。

 この衝動のままに、全部全部壊してやりたいっ!


「敗けてもペナルティ無しとか、どんなクソゲーだよッ!敗けたときの代償が、デカイほど、ゲームは楽しいんだろうがッ!」


 明滅する赤点が、直ぐ近くまで迫ってくる。


「あぁ……やばい。生きてるって━━感じる」


 黒い色をした狼が、木々の間から踊り出てきた。


 ※※※※


「あははははは━━━ッ!」


 走る。走る。

 息が切れ、喉の奥から血の味がする。

 足は縺れ、今にも転びそうだ。

 後ろからは、何百匹という魔物が俺を追いかけている。

 何匹いるのか、全くわからない。


「やっべぇ! これはやばいわ! いきなり詰んだんじゃねぇの!?」


 俺は今の状況に、いささか冷静にそう判断を下した。

 背後から迫る敵の数はおよそ500。

 そう、逃げている間にも敵は増えてきているのだ。

 加えて、俺はそう体力の多いほうではない。

 今はスキル:『逃走』のお陰でなんとか逃げきれているが、それも体力のある限りだろう。


「てなわけで━━━」


 俺は振り返り、反撃に出ることにした。


「うっわぁー、なんだこの光景、気持ちわるッ」


 まかまがしい刻印を刻んだ狼に、巨大な百足、手が異常に長い猿に体が半分腐り落ちている鳥など、気味の悪い化物が涎を飛ばし、首を振り乱しながら一心不乱に俺を追いかけている光景が、そこにはあった。


「よし」


 まぁこんだけ数が集まれば十分だろ。

 俺はまず先頭を走っている相手に、『混乱付与』のスキルを掛けた。通常なら、決してかかるはずのないようなLVの開きが俺と狼にはある。ちなみに狼の総合戦闘力は4500だ。

 混乱付与のスキルは、LV依存で相手に混乱の状態異常を付与するスキルだ。俺のLVは1。狼のLVは68、まぁまずかからないだろう。

 だが━━━、俺には『悦楽者ハイヤー』というユニークスキルがある。その中に、弱体化のスキルをかけやすくなる。という効果がある。

 なんかユニークスキルとしてはショボい気もするが、まぁ別にいい。ともかく、どれくらいの補正があるのかはわからないが、狼が混乱にかかりやすくなるのならそれでいい。


「グワァァァ!!」


 狼に黄金色の光粒が飛んでいく。

 それが、狼の顔面に当たる。

 キャンッ!と犬のような鳴き声を上げて、狼は追いかけてくるスピードを弱めた。

 入れ替わるように、大百足の魔物が俺に襲いかかってきた。


「っしょ━━ッ!」


 スキル偽装者(フェイカー)の認識操作を大百足にかける。

 大百足はピタリと足を止めて、魔物の群れを振り返った。

 そして━━ッ!


「ギヂギチギチギチギチッ!」


 金切り声を上げて魔物の群れの中に突っ込んでいった。

 俺は認識操作で、『混乱状態の狼が襲うべき餌』と認識を操作したのだ。

 その結果、大百足はあの魔物の群れの中で暴れ狂った。


『レベルが上がりました!』


 無機質な声が頭に響いた。


 なるほど。

 実験の結果としては上々だな。同士討ちであっても、何らかの要因があれば俺に経験値が入る、というわけだ。

 

 なら次は━━━

 俺は魔物の群れの中に突っ込んでいく。

 魔物たちは大百足の攻撃にいっぱいいっぱいで、もう連携は取れていない。その中で、すこしはぐれた所にいる手長猿の魔物に俺は目をつけた。

 手長猿は、俺がこちらに向かっているのに気づいて口角をつり上げた。喜んでいるのだろうか。


 ……へぇ。魔物にも、感情ってやつがあるんだな。

 いいこと知った。

 手長猿が、俺に向かって鞭のようにその手を横凪ぎに払った。

 全く見えない。

 ので━━スキル:『回避』っと。

 瞬間、グルンッ!と体が空中で螺旋状に回転し、手長猿の攻撃を容易く回避した。


 実験結果その2、回避系統のスキルは自分が敵の攻撃を視認していなくても、自動でその効果を発動するのか。

 それは上々。


『レベルが上がりました!』


 っと。大百足がまた敵を倒してくれたか。

 ラッキー。

 そんじゃ次は━━


「キャァァッ!」


 手長猿は慌てて辺りを見渡し、俺を探している。

 俺はお前の目の前にいるのに。

 なるほど、『隠密』のスキルはここらの距離ですらもうわからなくなるのか。では一歩近づいてみたらどうだ?


「キャァァッ!!」


 これは気づくか。

 手長猿が牙を剥き出しにして、こちらを威嚇してくる。

 ではさらに一工夫。

 俺は『隠密』をかけながら距離を取り、『偽装者フェイカー』の認識操作を手長猿にかけた。

 認識を操作した内容は『俺はここにいない』だ。

 その後、俺はさっき隠密をかけていても気づかれた場所まで足を運んだ。

 手長猿は、こちらに気づく様子はない。

 次に俺は『隠密』の効果を切る。


 手長猿は、大きく目を見開いて胸元まで接近していた俺を硬直しながら見つめる。

 気づく……のか。

 俺は直ぐに『隠密』をかけ直し、迫ってくる手長猿の腕を『回避』で避けながら距離を取る。

 その時。


「ウォォーン!!」


 雄叫びをあげながら、一匹の黒狼が俺に飛びかかってきた。

 反射的に回避のスキルを発動して、それを避ける。

 すれ違い様に認識操作をかける。

 内容は手長猿と同じで『俺はここにいない』だ。

 だが━━、狼は剣呑な光を目に宿して、俺に向かって爪を振りかざす。……まずい。……こいつには効いていないのかっ!

 俺はもう一度『回避』のスキルを発動させるがタイミングがずれた。一応回避のスキルは発動するが━━


「………ッ!」


 完全に避けることは出来なかった。

 左手の甲が燃えるように熱い。

 見てみると、甲が抉れていて白い骨らしきものが見えた。

 血は、溢れるように出ていた。

 くっそ、いてぇ。いや、でも考えようによっては悪くないのか?

 俺は手の甲に『回復魔法』をかける。

 一度の回復魔法では、傷はふさがらなかったが三度ほどかけると、傷は治った。

 回復魔法は……確か魔力依存で効果上がるんだっけか?

 後で鑑定スキルでステータスをもうすこし詳しく見ておこう。

 たぶん、そうしたら戦闘総合力を構成している『本物のステータス』が見れるだろう。


 ともかく━━、これはいいことを知った。

 つまり、『隠密』に『認識操作』の二重掛けをしても狼の魔物には位置を特定される、ということだろう。

 恐らくは匂いだろう。

 狼の嗅覚はおよそ人間の100万倍と言われているからな。

 だとしたら、『消臭』みたいなスキルも必要かもしれない。

 しかし……こいつは厄介だな。


 こいつは、認識操作で撹乱させるのは難しいな。

 さっきの大百足みたいに『敵を書き換える』みたいな認識操作がこいつには通用しない。

 だからこいつにしかけるのなら、必然的に混乱付与か睡眠付与になる。


「いやぁ……楽しいなぁ」


 攻略してる、って感じがする。

 難攻不落の敵を色々な策を考えて倒す、これに勝る快楽はないと思う。あぁ超面白い。

 異世界最高!

 あぁ……でも少し残念だけど今日はもうここで終わりだ。

 もう直ぐ日が昇る。


「てなわけで、もう幕引きだ━━」


 技能書(スキルブック)を発動させ、スキルポイントを確認する残りスキルポイントは300。

 一体どれくらいLVあがったんだろうか。

 まぁそれは後で見ればいいか。

 とにかく……。

 俺は昨日、スキルブックを暇潰しで見ていたとき「取れば良かった」と後悔したスキルが一つあった。

 それが━━、スキル『拡散』通常のスキルであるのに250もスキルポイントを使う高級スキルだ。

 だが、効果はそれに見合ったもの━━スキルの効果を拡散させる。と言ったものだ。

 ここまで言えばもうわかるだろうか。


 俺はスキル『拡散』を取得すると同時にそれを発動させる。

 そして、ユニークスキル:『偽装者フェイカー』の認識操作を発動させる。拡散で認識操作が、全ての魔物に行き届く。

 書き換えた認識は━━『自分を中心に100メートル以内にいる敵は全員敵』。

 そして━━、殺しあいが始まった。

 頭の中では立て続けにLVアップを告げる声が聞こえる。


「うわグロッ!」


 俺はそのあまりの惨状に引きつつ、『隠密』をかけて俺はその場を後にした。


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