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巡りゆくキセツ

作者: もっけ

初めてまともに小説というものを書いてみました。とても短く稚拙な文ではありますが、これを読んでいただけたあなたの心に何かしら残るものがあれば幸いです

 「すみません。七草がゆを一つください」

 青年は夏の暑さが少しづつ感じられるようになってきた日差しが差し込むファミレスで、好物である七草がゆを注文した。

 「ナツさんはもう決まってます? 」

 青年が向かい側の席に座っている少女に声をかけると、ナツと呼ばれたその子は少しの間うーんと悩ましげな声を上げた後、店員と青年の視線に気づくと、慌てて注文した。

 「えっとね、夏の包み焼きハンバーグ、ライス付きで! あ、後ドリンクバー! 」

それぞれの注文を終え、ナツがドリンクバーを取り終えると、青年が口を開く。

 「最近、すっかり暑くなってきましたねえ」

 「そうだねー。日も長くなってきたし、そろそろ春も終わりだねえ」

 「ボクとしてはもう少し長くてもいいんじゃないかと思うのですが」

 「ダメー! アタシの出番が少なくなっちゃう!もしハル君が長居するんだったら、アキ君の出番をアタシが取っちゃうんだから!」

 「それは困りますね。アキ君に迷惑はかけられません。辞めておくとします」

 「うんうん。それがいいよ。もしくはフユちゃんに聞いてみたらいいんだよ! 早めに出てきてもいいですか?って」

 「それも難しいですね……、フユさんはナツさんと違って、一人で長くいたがるものですから」

 「そっかー……アタシにはわからないなあ。一人は寂しいもん」

 「ナツさん、私やアキ君と結構長く一緒にいたがりますもんね」

 「だって二人とも嫌がらないし、遊んでくれるし……まあ、みんなには嫌がられるから、あんまり長くはいないようにしてるけどさ」

 ナツが少し不満げな声を上げていると、店員が注文した料理を運んできた。

 二人はそれを口に運びながら、会話を続けようとしたとき、別の席から、会話の一部が漏れ聞こえた。

 「本当に夏って嫌になっちゃうわよねえ」

 「そうよねえ、日差しはきついし暑いしでもう困っちゃう。冬が待ち遠しいわ」

 それを聞いたナツは頬を膨らませる

 「何もそこまで言わなくともいいじゃん……暑いのだって好きな人はいるし、冬になっても冬は冬で寒いから嫌とか言うくせに」

 「まあ、確かにナツさんもフユさんも嫌いっていう人は少なからずいますからね」

 「ひどいなー……アタシは仕事してるだけなのに」

 ナツが頬をますます膨らませ拗ねると、ハルは慌てて話題を変える。

 「そろそろ本題に入りましょうか」

 その言葉を聞いたナツは、先ほどとは打って変わってはじけるような笑顔をみせる。

 「そうだったそうだった!今日はそのために集まったんだったね!」

 ハルはそれに対してうなずくと、持っていたカバンから一枚の書類を取り出した。

 「それじゃあ始めましょうか」

 「はーい! 」

 ナツは元気に返事を返した。

 「といっても、毎年やってることなので目新しいこともなにもないですが。一応目を通しておきます?」

 ハルが差し出した書類には、びっしりと文字が書き連ねてあった。

 「んーん。いい!大体覚えてるし」

 「そうですよね。じゃあいつも通り、印鑑をお願いします」

 「わかった! 」

 ナツはお気に入りのポーチから印鑑を取り出すと、手慣れた様子で朱肉につけ印鑑を押した。

 「はい、これで引継ぎは完了です。」

 「はーい。お疲れ様、ハル君」

 「ありがとうございます。ナツさんも頑張ってくださいね」

 「うん。今年も精一杯頑張るよー! 」

 それを聞いたハルは笑みを浮かべると席を立つ。七草がゆの皿ははいつのまにか空だった。

 「では、ボクはこれで失礼します」

 「ええー!もうちょっと一緒にいようよー!」

 「すみません。ナツさんといるのは楽しいのですがあまり長居するわけにもいきません」

 「そっか……そうだよね。ごめんね、引き留めちゃって」

 「いえ、そのお気持ちだけ十分嬉しいです。一人で過ごす時間もよかったですがナツさんと一緒にいた時間はもっと楽しいものでした。それにまた来年も会えますから」

 「そっか、また来年も会えるもんね。うん!そうだね!アタシも楽しみにして待ってる! 」

 「ええ、僕も楽しみです。じゃあ、もう行きますね」

 「うん。じゃあねハル君!フユちゃんによろしくね! 」

 「はい。ナツさんもお元気で。そちらもアキ君によろしくとお伝えください」

 ハルは別れの挨拶を済ませると、二人分の会計を済ませ、店を出て行った

ナツはハルが見えなくなるまで、手を振っていた。

 「あーあ、一人になっちゃったなあ。……はあ」

 ハルは胸に生まれた寂しさを吐き出すかのようにため息をつく、しかし頬をピシャリと叩いて気合を入れなおすと

 「ううん、一人でも頑張んないとね。頑張って頑張って頑張りまくって、みんなが楽しかったって思えるような夏にしてやる! 」

 そう呟くと残っていたハンバーグとライスを一気にかきこみ、コーラで流し込んだ。

 「よーし、がんばるぞー! 」

 ファミレスに差し込む暑い日差しが、さっきよりも熱くなったような気がした

 

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