答えを……
「さ、那月くん。結婚しましょ、答えはYES・はい・もちろん、さぁどれかを選んで!」
「それだとどれを選んでも結果は変わらないぞ。なぜ俺に、その……プ、プロポーズ、みたいなことを言うんだ? 初対面の人を家に呼んで、夕食を作ってもらって、それだけで求婚する人はなかなかいないぞ」
七重さんは俯き、ポツリと言葉を絞り出した。
「初対面……なんかじゃない、のに……やっぱり、忘れてるのかな……」
「え?」
初対面じゃないだと? だけど、俺にはこの子と会った覚えがない。
「その顔、やっぱり忘れてるんだね……5年も前のことだし、しょうがないかな……」
「5年!? さすがにそれは覚えてないぞ!?」
そんな昔のこと覚えてるわけないだろ?
5年前に何があったんだよ!?
「5年前、駅前で金髪の女の子に会わなかった?」
「駅前……金髪……っ!? ま、まさか……つ、つーちゃんなのか!?」
記憶は多少曖昧だが、確かにある。
5年前、駅前で金髪の女の子が困っていたから話しかけたんだよな。
「そう、そのつーちゃんだよ。財布をどこかに落として困っていた、つーちゃん」
「思い出したよ、つーちゃん……一緒に財布を探したよね」
「うん、うん!」
「でも、よく覚えていたね? ただ一緒に財布を探しただけなのに」
俺もついさっきまで思い出せずにいたのに、つーちゃんはずっと覚えていたのだ。
ただ財布を一緒に探した、それだけなのに。
彼女は目の端に涙を浮かべながら、口を開いた。
「確かに、ただ一緒に財布を探した、それだけだったよね。でもっ! それだけでも、嬉しかった! 私にはそれだけで充分だった。貴方を好きになるには、それだけで…充分だったの」
心が締めつけられるとは、この事なのだろう。
呼吸をするのも苦しく、息が足りない。
酸素を求めるが、身体は言うことを聞かない。
苦しいけれど、なにかを言わなくては……
「だ、だけど……俺は……」
「私は、那月くんが好きなの。那月くんが、必要なの。那月 涼くん、私と……付き合ってもらえますか?」
お、俺は……どうすればいいんだ……
確かに嬉しい、喜んで付き合いたい。
だけど、なにか引っかかるんだ。本当にいいのか、とね。
俺には、好きな人はいなかったのか?
支えてくれている人はいなかったのか?
よく、考えろ。
ここで、答えを出さなくちゃならないんだ!
次回、最終回です。
長めに書けるかどうか心配ですが、頑張ります!




