97:お風呂で談合?
結局はそのままにお泊りする事になり、それならばとかなり大きなお風呂へとご案内された。
其方もメイドが控えており何かと世話焼きされながらも強制転移からの初風呂。足を延ばしゆったりと寛ぐのは何ヵ月ぶりか。
特訓の強要期間が良く分からないが、きっと一年ほど期間が開いてるであろうことは確実だ。
クインは一応雌猫って事で嫁たちに連れられて行っている。入るかは分からんが、猫って風呂を恐ろしいほど嫌うからな。
此方は男専用の風呂と聞いてたので安心しきっていたのだが二人乱入して来たのだった。あろう事か女帝とその妹が。
「お邪魔しますよテリスト」
「げっ。何入って来てるんですかにゃ、確か男性用と聞きましたがにゃ」
「あら、私の要望で直ぐにでも変わります。親睦を深めに参りました」
話してる最中だというのにサーシャが俺を抱き寄せ、姉のサルーンの正面になる様に位置を変えるのだった。色々な所が触れてますがな。流石に耳や尻尾は触ってこないが、これでは逃げられない。
「いやいや、服着た状態で出来るでしょうにゃ。何考えてるんですかにゃ?」
「もう良いですよ、変な口調であれば断られると思われたのでしょう?」
バレバレですか。そもそも最初は普通に話してたのだし、当たり前ではあるが。
「はぁ。仕方ありませんね、その通りです。嫁たちがいては不味い事でもありましたか?」
「テリストはヤヨイが勇者である事に気が付いているのですか?」
あーその事か、帝国の影がちらほらと見え隠れするから注意にやって来たと。
「ええ、知ってます。嫁たちも知ってます。帝国の手の者かもしれないとお考えで?」
「そうです。ですが、杞憂だったようですね。しかし、本当に宜しかったのですか? 魔導書と使えば相当に強化可能な素材ですよ」
実は。魔導書も素材二種も、あの場で無償提供したのだ。
魔導書に至っては全く読めないので宝の持ち腐れ、それならば本来の所有者へ返せば良いとの判断だ。
そしてエンシェントドラゴンの素材。守護龍であったとの事からその存在の大きさが知れようというもの。確かに使用すれば強化は可能だ。
だが、それは防御面のみを考えての事だ。皇国としての目線から考えれば価値は歴然として違い過ぎる。
素材の価値以上に、それは価格を付けられないほどの価値だ。ならば使い方としては有効だろう。
俺たちへの信頼を、という意味では最高の選択だと胸を張っていえる。
「魔導書は読めませんし持っていても死蔵決定ですから、元の持ち主へお返ししただけ。素材に至っては確かに俺たちには願っても無い品でしょう。
ですが、俺たちの目線では計れないほどの価値が皇国にはある。だからこそ提供して元の位置に戻ってもらいました。俺は最高の判断をしたと胸を張って言えますよ」
「本当に良い子ですねテリスト」
今度は正面から抱き着いて来るサールン。前後で挟み込まれるのだった。
「それだけではないのです。魔導書ですが現代語に書き直され二冊ずつ複写する事に決定しました。
内四冊をテリストへお渡しします。実際のお手渡しには二ヵ月ほどお時間を頂くでしょう。出来ますれば未来永劫お手元に置いて頂けたらと」
「それなら読める様になりますね、ありがとうございます。手元に置くのは当然です。死んだ後は分かりませんけどね」
「それに関しては少々心当たりがありますから、と今現在は報告しますね。
時空魔術に関しては、申し訳ありませんが帝国の影が消えないヤヨイは省かせていただきます。
テリストも例え適性があったとしても決して詠唱せずに使用すると誓って頂けませんか?」
警戒心はぬぐえずか、それも当然だろうな。良く分からん俺の側にいるってだけで警戒を解く理由とはなりえない。俺でも警戒を外す選択を取る事は否定している。
「当然でしょうね。今でこそ行動を共にしてますが、手元に置き逆に観察する事も含まれてます。
俺も警戒してますから。それなら最初から俺だけが対象とした方が説明し易いのでは?」
「警戒心の強いテリストならそう言ってくれると思っていました。
そうですね、テリストに適性が無ければお嫁さんに伝授を試みる、これで宜しいでしょうか」
「はい、ありがとうございます。えーと、俺を旦那にするって冗談ですよね?」
「あら、冗談に見えるの? 見えるのだとしたら心外ね、もう一度刻もうかしら」
皆がいる中であの行動だもんな、知らしめるのも本気か、俺ってどうなるのよ、この立場の複雑さ。
そして名前もだよな。
立場的に確実な線として俺は入り婿決定だな。ファーラルの性はどうなる事やら、後程話して詰めないとな。
「いえ、結構です」
「残念ですね。ですが問題もあります。早く成長しなさいテリスト、今のままでは子が作れないのよ」
「ブフッ……あ、あのね。もうちょっと言い方を変えれないの?」
や、やけに直球だな。
「言いつくろったところで同じでしょ?」
「そりゃそうだけど、と言うより、今更ですけども、こんな口調で話して大丈夫なんですか?」
「ありがとねテリスト、配慮できる貴方はすてきよ、公式の場で無ければ大丈夫よ。それと大勢の貴族がいる場では立ててくれると嬉しいわね」
「了解です」
「それで、あの猫ちゃん、クインだったわね。今から召喚魔術を勉強するのなら召喚した個体じゃないわよね。どういった経緯なの?」
「カーラが少し説明しましたよね、スタンピートで二度に渡り活躍したと。その一回目に遭遇したボスです。引き起こした原因でもありますね」
「? それがどうして貴方の側にいるの?」
そう思うよな。敵対して殺し合うわけだから、普通なら一緒にいるはずがない。
「いやはや、当時はクインの方が強くて相打ちに持ち込むのが手一杯でした。
こちらは左腕を無くす重症、クインもHPの大半を失い死ぬ寸前の重症。
俺はその事からその場で気絶したんです。ですがクインも同じく俺の傘下に入る事を決意した。
俺が目覚めるまで護衛してくれていたんです。
左腕の仇でもありますが、二重の意味で命の恩人でもあるんです。それからは俺にとっていなくてなならない存在です」
「そういう訳だったのね、興味深いわ、そういう例は聞いた事が無いですね。それで、それほどの存在がいるのになぜ召喚を?」
「今更ですが、クインの本来の姿はもっと大きいですよ、飛ぶ事が可能ですから背中に乗れます。ですが三人ほどが限度でしょうね、俺は飛べますがそれでは皆を連れて飛べない。そこで注目したのが召喚って訳ですね」
「またとんでもない事を考えるのね、それほど大きな存在を召喚した実例はありませんよ。それでも試すのよね?」
「それこそ今更と思いませんか?」
「そうね、そろそろ上がりましょうか、食事の準備が整ってるはずよ」
本当に聞きたかったのは別にある。それはその成長速度。
これを聞いては関係に亀裂が入るかなと感じていたサルーンは、結局聞けずじまいで食事へと誘うのであった。




