9:家族せいぞろい
そして翌日。相変わらず俺は会計担当、計算は母さん、商品説明は妹のリーズだ。
朝の忙しい時間帯を切り抜けても俺は狩には出かけずに、母さんに断りを入れて武器屋で鞘を受け取り直ぐに帰宅した。
お客さんが来たら接客を、空いた時間で無詠唱の生活魔法で微風を吹かせてはMPを消費だ。回復したらまた消費を繰り返し、お昼に近くなった頃店舗の前に荷馬車が止まった。
御者をしていた男性がお店へと入って来た。
「今帰ったぞ母さん、子供たちは元気か?」
「お帰り貴方。元気、と言えば元気ね」
貴方って事はこのおっさんが俺の父親なのか。俺の背の高さが不明だから比べられず不明、耳の毛色からシャムネコか?
俺と母さんとリーズの髪の色は三毛猫ぽく薄い茶色だから俺は母親似だな。
顔は悪くない。ちょっと目が切れ長なので怖そうだけど、口調から上から目線で話す人では無い様だ。
俺の状態がこれだもんなぁ、体は元気だが、頭が逝かれたと。
「何だか微妙な物言いだな。何かあったのか?」
「それは夜に話すわ、会計の事で一つ相談があるのよ」
これ、挨拶できないパターンかね、割って入り挨拶するのがベストだな。
「お帰りなさいませお父様。無事の御帰還、心より祝福いたします」
「……ああ、ただいま。テリスト、お前、頭打ったか?」
どうやら言葉遣いが違うらしい、別バージョンで試してみるか。
「お帰り親父、無事帰りついて嬉しいぞ」
「……」
あれ、外したかな? んじゃこれはどうだ。
「お帰りお父さん、今回も無事に帰ってくれて嬉しいよ」
「……」
間をとったつもりだがこれでも無いのか、うーん、悩むな。
「お父上、お帰りなさいませ。御帰還なさるのを首を長くしてお待ちしておりました」
「……」
これも外したか? ちょっとネタを思いつかないのですけども。
「お兄ちゃん試行錯誤してると思うけど、それじゃ不審がられるよ」
ちょっと困ったような顔で告げて来るリーズ、その通りのようだ。
「そうだねリーズ、どれもこれも外したらしいよ。もうどの口調で話して良いのかさっぱりだし、今回は諦める」
「え、えーとね、夜に話そうと思ってたんだけど、今から話すほか無さそうね。臨時休業よ、お店閉めて!」
「あ、ああ、分った。荷馬車を預けて来る」
いそいそと出て行き、交易で買い付けた品を店舗に運び入れ、馬の管理を頼んでいる所に預けとせわしなく済ませて食卓に全員集まった。
上の兄二人も当然いる。二人ともどうやら父親似らしい。
服装は帰って来たばかりで皮鎧姿だ。俺の注文したハードレザーより色が薄いから通常品かソフト系かもしれない、動きやすさを重視したのだろう。
そして今は身に纏っていないが二人共盾に片手剣スタイルのようだ。鑑定はしていない。
俺の事を話す前に会計関連を話す様だ。俺が今朝から書いている羊皮紙を全て父のヴァレンに渡した。
「ほう、今までと書き方は違うが実に見やすいな、最終的に一日の売り上げがわかると言う寸法か」
「それ。私がテリスト君にお店の留守を頼んだら、その会計をしていたの」
「テリストの発想か、見事なものだ。これなら月閉めが簡単に終わりそうだ」
それだけじゃないのよと切り出し、俺が提案した二つの会計方法を説明、欠点と利点を説明した。
「それなら両方同時進行すれば良いんじゃないのか、会計を二重に書いて行けば最終的に少し計算すれば終わるだろ」
なるほど、その時は倍の時間が必要だけど、後が楽だな、抜き出す手間が省けるし。
「僕たちが交易に出ている間も随分と頑張ったようだねテリスト」
「交易に護衛として伴って行った兄さんほどじゃないよ」
「テリスト、口調変わったか? 以前はそんな話し方してなかったよな」
元の口調が分からないから答えようが無いのよね、スルーするに限る。
別々の兄が話してるのだが、どっちが長兄かは不明だ……背が高い方だとは思うが。
「それが、貴方たちが交易に出かけて二日後にテリスト君は高熱を出したの。それが三日前に完治したのだけど、記憶喪失なのよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ母さん。それでテリストは話しかけ方が分からずに、何通りも口調を使い分けてたのか?」
慌てて母親に詰め寄って聞いているがその通りだよ。記憶喪失部分は俺の設定だけども。
「その様ね。それで、国の名前も奇麗さっぱり忘れているの。その代りなのか、色々な知識とスキルを取得しているの、これを見て、鑑定結果よ」
どれどれと言いながら見るも固まっている。
そうして隣の背の高い方へ渡し、背の低い方へ渡しと三人共に確認した。
「レベルが下がってるね。最近鑑定した際には確かレベル六だったはずで、それが一に戻った挙句に記憶喪失と引き換えに謎の知識とスキル取得か。
僕も魔物ハンターに登録して何人か見知ってるけど、これほどスキルを所持してる人って聞いた事が無いよ」
レベル6? 魔物でも倒してたのか? それにしては母さんは俺が魔物倒しに行った事がある様な感じじゃなかったけども……。
「同感だな。俺の方が少し長いが、多くても五つだった。これは異常だ」
「普通はそうなんだね。それで、リンズハルト兄さんはどっち?」
「そうか、記憶喪失じゃ覚えてないか。俺がリンズハルト、隣がヴァロッサだ」
ふむふむ、あっていたか。
「そうだね、僕がヴァロッサだよ。
テリストは付与魔法を覚えたのか。僕たちの武器に付与してもらったらかなり強くなりそうだね、魔法剣か、憧れるよね」
ふむ。憧れるのは結構ですけども、あの拷問器具を持ったまま戦える根性があるのかね。俺なら投げ捨てるけど。
好き好んで魔物と戦う際に自滅する行為をしたくないよな。俺みたいにすでに耐性持ちか回復魔術持ちじゃないとはっきり言って自殺行為だし。
「ヴァロッサ兄さん、それは余りお勧めしないな。永久付与は試したことが無いけど、短時間の付与を試した限り、あれは拷問だね」
怪訝そうな顔をして訪ねて来る。
「どう言う事だい?」
「仮に、火を付与したら剣の刃の部分が高熱になるよね。どうなると思う?」
ポンと手を叩き納得したようだ。
「なるほどね、火傷を負うのか。それは使えないね」
使う方法ならあるよ。根性が必要だけど。
「いや、そうでもないよ、火の耐性スキルを取るんだよ。そしたらある程度の覚悟があれば使える」
「はははっ、覚えるのが耐久の特訓になりそうだね。諦めるよ」
乾いた笑い声を出しているが、それが良いだろうね。
「何も武器だけにスポットを当てなくても良いんじゃないか。魔術と技能は無理でも収納をバックに付与したら、いずれ買おうと言っていたマジックバッグが作れるんじゃないか?」
「それは良いね、うちの取り扱ってるバッグに空きスロットのあるバッグあったかな?」
空きスロット? まあいいか、持ってきた際に確認すれば良いな。
「待て。テリストは永久付与と言っていたな、今でも可能か?」
「どうだろ、MPが足りるか不安だったから今増やしてる最中で、まだ一時間程度の短時間しか試してないよ」
「今はいくつだ?」
「確か二百程度だったかな」
「ちょっと待って父さん、僕に話させて。
一昨日鑑定した時がMP7だったんだろ、それがどうして二百にまで増えてるのさ」
普通は其処まで簡単には増えないから疑問だよね……。
「言ってなかったわね。テリスト君は来年から五年間の学校に通うつもりで今鍛えてるの。
理由は記憶を無くしているからその補完の為ね」
「武器と防具は母さんがお金を出せば買えるだろうけど、レベル一、しかも一人では自殺行為だよ。
ああ、それでMP二百まで増えるほど強くなってるのか」
「レベルは聞いてないわね、お金は渡したけど、テリスト君が自分で稼いで返してくれたわ。
ドロップアイテムを私が買い取ってあげたんだけどね。
テリスト君は買い取ってもらえて嬉しい。私は交易品を確保できて嬉しい。互いに全く損のない話なのよ」
「俺とヴァロも全く同じ事をしてるから驚きは無いが、何を狩ってるんだ?」
「西門から出て北西の森だよ。ウルフ、ミルワーム、ゴブリン、ウイングキャットの四種類かな」
「馬鹿野郎! 命を捨てるつもりか、ウイングキャットだけは止めておけ、同じレベル程度の敵が良いなら俺が連れて行ってやる」
おや、やっぱり敬遠対象だったんだなあの猫。でも、今の俺なら倒し放題なんだよね。
「それがそうでもないのよ、もう魔石小を十四個も買い取ってるの、それだけ倒してるのよ。それも無傷で」
「絶句だな……」
「兄さんが心配するまでも無く優秀な様だね。
それでどうしようか、マジックバッグだよね。ちょっと空スロットのついてるのを探してみるよ」
「俺も試したいかな。可能なら学校の費用も簡単に捻出できるだろうし、そもそも特待生で入るつもりだから無理だったら再来年に受験しなおすつもりだけどね」
「その成長速度なら行けるだろうね、それじゃ探して来る」
一人で店舗へ行った。そして短時間で戻って来る。
「ヴァロッサ兄さんも鑑定使えたんだね」
「そりゃ使えるよ。長年雑貨店の店員してたんだからね。ほら、これにお願いできるかな」
バッグを受け取ったので鑑定してみた。
バッグ
素材:オーク皮
価値:銀貨1枚銅貨5枚
【】
なるほど、空きスロットってこういう事か、俺の買った武器には無かったな。強引に付ければ良いけども。
「それじゃ早速試すよ【エターナルエンチャント/収納Lv3】っと」
何故か付与対象と付与するスキルを選定すると勝手に詠唱が分かるんだよな。どうなっているのやら。
鑑定
マジックバッグ
素材:オーク皮
収納量:118㎥
価値:白金貨5、金貨90枚
【収納Lv3】
おー、貴族御用達の六年間の学費なんて余裕で支払えるな、行けないけど。
それにしてもMPをガッツリもっていかれたなぁ、収納レベルを下げて運用しないときつそうだ。そこは魔物狩りとの兼ね合いで調整するか。
鑑定したのでヴァロッサ兄さんに渡した。
「あー、これはしんどいね、MP百五十も持っていかれた。ちょっとだるい」
「はははっ、眩暈で倒れそう、なんだよこの金額、五十九万リルもするよ。これは簡単に売れないだろうね。
レベルを下げて付与できないかな?」
「待って兄さん。流石に今日は検証するの無理だよ、MPが足りないから」




