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89:エルフ?

 三階からの階段を下りながら喉が渇いたわね、って事で二階の食堂に寄る事になった。

 もう少しでお昼だからか、半数程度の席が埋まり、中には酒盛りしてる人の姿もちらほらと目に映る。

 私たちもついでに食べましょうとの変更から、お勧めメニューと果物を絞ったフルーツジュースにちょっとしたケーキを注文して食べていたのだった。


「おい。お前の金で酒を五人分買って来い、いつものをな」

「は、はい。買ってきます」


 うーむ、他人の金で飲み食いしてるのか? と目を向ければエルフじゃないのか? と似つかわしくない体型だが特徴の通りでエルフには違い無さそう。

 元々が細すぎるエルフたちだが、俺たちと同じ程度に肉付きがあり、言ってみれば俺の好みのタイプだった。

 更に食が進んだ頃。


「おい。無くなったぞ、気を利かせて買いに行け!」

「す、すいません。直ぐに用意、用意致します」


 流石の俺もブチ切れた! ヒョロヒョロ野郎が魅力的な女性になんてことしてやがる! 他の奴らは知った上でノータッチ、此処は俺の出番だ! 屑は屑らしく牢屋に放り込むに限るが、この場合は再起不能にするのが手っ取り早いか? それよりも嫁さんにこれからの行動を認めさせないとな。

 目立たない行動を心がけると約束してる手前、独断は宜しくない。

「アリサ。もちろん俺の行動を止めないよな?」

「はいはい、行って来て助けてあげなさい。ついでに嫁にもしなさいよ」

 あきれ顔で投げやりな言葉を掛けられたが同意は得られた。ここはひとつ。相手を再起不能にして助け出さねば!

「それ良いな、ゲットして来るわ」


 女性がお酒の対価を支払おうとする際に、俺が横合いから金貨一枚を店員に寄越して酒を奪い取る。

 そいつらの席に持って行き横着に置いてやった。少々飛び散る様にだ。

「おい屑ども、女性に金出させて旨いのかよ。あまり横着してるとぶん殴るぞ」

「あ、あの。私は平気ですから、その」

 屑が。これほど怯えるまで追い込んだのか、俺もこいつらを追い込みたいな。

「おい。今何と言った? 横着? 殴る? そうかそうか、殴って見ろよ。ほら、どうしたよ」

 そのまま殴るとこっちが犯罪者ですってか、ならもう一計投じようか。


「ふむ。それじゃ金貨一枚と取引で一発殴らせろ、それが対価であって治療費だ」

 一枚取り出してテーブルに置く。

「良いだろう。来い!」

 うへへ! 顎狙ってやるよ。他の人を巻き込まない様に注意して殴り飛ばさないとな。

「取引成立だな。せーの(ばきーっ! どんガンガン、ガンガン)」

 俺にぶん殴られて椅子事吹き飛び、隣のテーブルをなぎ倒して転がって行った。

「おーし次だ」

 テーブルに金貨一枚乗せる。

「おし、殴りがいのありそうな奴が残り四人だな。次は誰が取引に応じるよ?」

「貴様ー、何てことしやがる!」

「だから取引だろ、治療費込みで一発殴る。その代価が金貨一枚だ。正式な取引だが、何か文句あるか?

 あるなら騎士でもギルドマスターでも呼んでくれ、お前らが納得するまで付き合ってやるよ」

「クソがあああ!」


 殴って来たのでわざと受ける。後ろに重心を移してさも威力がありますを演出だ。ゴロゴロ転がり隣のテーブルにドンと当たって止まる。

 避けれたが相手を牢屋にぶち込むのなら良い手だ。なんせ先に手を出したら反撃してよし、罪人として突きだすもよし、二通りに選択肢が出来る。普段はこのまま反撃して殺すところだが、永住するつもりで来てるからな。騎士に突き出して、日の目を二度と見れない位置にまで放り込む必要がある。

 ならば、手加減せず何度も殴られました。それも非があるのは全面的にあちらです、にしておかないとな。


「あー痛い痛い、これは痛すぎて治療費が嵩みそうだな(おーいアリサ。職員を呼んできてくれ)」

(はいはい。新たな対処法ねそれ、待ってなさい)


 下に行くか上に行くか見ていたら上に行く様だ。

 俺の方には更に追い打ちをかけて四人がかりで殴りつけてくる。さも威力がありました、を演出しなきゃならんからヨロヨロとよろめきながら立ち上がる。更に殴られ転がりまくるという演出を繰り返していると先ほどの女性を連れて来たアリサだった。


「双方止めなさい! 何事なの! 規約で捌くわよ!」

 その言葉にビビったのかぴったり止まる四人だ。そして良い訳を始めたのだった。

「こ、これはですね。こいつが俺の仲間を殴り飛ばしてあのざまになったので報復していたのですよ」

 と指を刺した。

「‥‥‥本当でしょうか? テリスト様」

「いつつつー あー何でこんなに殴られなきゃならんのかねぇ。

 そこののびてる男性と取引したんですよ、金貨一枚を支払うので殴らせてくれと。相手も快く受けてくれたんですよ。この取引はもちろん治療費が発生しますから当然の支払いですよ。

 証拠はあれです。彼方の方々が飲み食いされていたテーブルに、きちんと料金が支払われているでしょう。それに証言者がここに大量にいらっしゃいますよね。ま、嘘をついたら俺と敵対って事で、暴れますが」

 以前、客が一堂に嘘に乗った事が有ったからな、一応脅しも入れてみた。

「そいつの言ってる事は本当だぞ、取引に応じて殴られた。それを止めずにいたのはその四人だ。

 止めもせんかった奴らが難癖つけて四人がかりで殴り放題に殴ってた。それが真相だ」


「貴様! 裏切るのか!」

 うーむ。裏切りとか良く分からん。罪人庇うような馬鹿な人じゃなかった善良な方だろ。

「お前らゲスと一緒にするな。

 更に付け加えようか。そいつら五人はそこのエルフのお嬢さんに食い物と酒を買ってくるように要求、それもお嬢さんのお金でな。そのテリストと言ったか、それを助ける為にわざとこの演出を考えて実行した。たぶん合ってると思うぞ」

 なんだモロバレか、簡単に分かるいきさつだがね。

「本当ですかテリスト様」

「合ってますね、助けるのに都合が良かったのですこーし挑発したら乗っかって来ましてね。決闘まで持って行くのも面倒ですからこの結果。ですね」

「衛兵を連れて来ます。彼らが逃げないように監視をお願いできますか?」

「お願いします。逃げたら殺しときますんで、手間を省かせてあげますよ。裁く手間をね」

 小太刀を抜いてぺちぺちと手の平に当てる。


「正当防衛ですのでお止めしませんが、なるべくでしたら生かして下さい」

「了解です。さて、どうせなら逃げてくれよ。ひと思いに殺してやる!」

「はいはい、落ち着きなさいテリ、そんなんじゃ嫌われるわよ」

 ぐっ、それを言われると辛いものが‥‥‥、挽回可能かね‥‥‥。お嫁さんにしなきゃならんのに、ここで嫌われたら、体はった意味が激減しちゃうよ。

「あ‥‥‥それは不味いね、お願いですから逃げないでください。殺したくないので」

 青い顔して震えて止まってるから多分逃げないだろうな。

「遅いわよ‥‥‥食事はまだなんでしょ、一緒に食べましょうか。ほら、いらっしゃい」

 誘うアリサに素直について行き食事を始めるのだった。

 食事は済んでるがケーキと果実のジュースが残っている。せっかくひえっひえのジュースが温くなったのだ。


 無事に引き渡しが終り、その調書から被害者への賠償ということで、五名は下着姿になるまで剥かれ、全て二人で分けてくれと置いて行かれた。

 防具は不要なので処分してと受付の女性に丸投げだ。現金や雑貨類などすべてを被害者のエルフさんに渡して、安っぽい武器は俺が受け取った。持てないんだよ五本も、だから俺の元へ来たのだ。

 帰りは雑貨店の梯子をした。魔術学校へ行くので鍛えなければならない、その為にMP回復のポーションを大量に買い込めって事です。

 各自にお金を渡して他人のふり、買える限界まで買えって事ですわ。そんな訳でしてエルフのお姉さんに案内してもらいまして買い物三昧としゃれ込んだわけです。

 ついでにお金入れの巾着も百枚程度購入しました。

 宿屋だが、流石に大部屋と言えども七人で寝るのはきつい。そこで三人部屋を追加で借りて二泊分を先払いだ。大部屋に全員集合でやっと各自の挨拶となった。


「俺は元伯爵のテリスト・ファーラル。でこっちの子のが相棒のクインちゃん。兎人族の女性が嫁さんのアレサリア・ファーラルで十歳後半。次は狐人族の元お姫様のカーラ・何になるんだ? 結婚したら変わるよね、それとも変わらない?」

 グダグダだが愛嬌のある挨拶にしたのだが、どうもお気に召さないようだ。

「あんた。もう少しマシな紹介をしなさいよ」

 こめかみピクピクまではなってないが。額に手を当てて呆れている。

「カーラ・ファーラルですよテリクン。十三歳です。よろしくお願いしますね」

 軽く会釈しながら挨拶するカーラだった。

「で。次は種族不明で年齢も不明のココリアーナ・ファーラル。通称ココアね」

 頭の耳から裸も見たが判別できなかったんだよな。

「知らなかったのですか? 鼬人族ですわよ。十六歳ですわ、よろしくお願いしますわね」

 あーフェレットか。それであの耳、あの短いしっぽ、納得だわ。

「次はスーシー・ファーラル。たぶん人族だな、年齢不明だ」

「はい、スーシーと申します。人族の十八歳です。よろしくお願いします」

 獣人族の国では珍しい種族だな。どうして王家のメイドさんしてたのかは不明だ。

「次はヤヨイだ、この中では唯一の嫁じゃない女性だな。人族で年齢これまた不明だ」

「ヤヨイです。今年で十七になりました。よろしくお願いします」

「わ、私はサーシャと言います。128歳です。よろしくです」

 二十前半だよな如何見ても、それにしても肌白いわ。


「サーシャもハンターなんだよな。戦闘方法はどんなだ? 今度の八月に学校の試験を受けるから一緒に受講させるが。魔術は得意か?」

 助けた後にアリサが引っ張って食事に誘い。そこからズルズルと一緒に行動してるが、引き込めたと思って良いだろうな。ナイスだアリサ。助けたのと同時に勧誘もせず引き込むとはすばらしい腕前だ。

「は、はい。武器での戦闘は得意でないです。魔術でサポートしてましたです」

 話すたびに自己主張してるたわわな胸が少し揺れる。思わず目線が‥‥‥。

「俺は今だと刀での近接戦闘と八属性の闇以外なら何でも大丈夫だな、ヤヨイも同じもんか。そんな感じだがサーシャは何だ?」

 本来ならご法度の行為だが。こっちから話して信用してますよとアピールすれば少しは脈が出るかなと思っての駆け引きだ。

「水と光です」

「なるほど。本当にサポートに強い構成だな。かなり高位だがタイダルウェイブは使えるか?」

「使えはしますです。戦闘では使った事が有りませんです。海で試しに使用した程度です」


「それってレベルいくつなのよ?」

 使えない魔術までは教えてないからな。アリサの疑問も尤もだろう。

「八だな。津波を引き起こすから使った日には皇都だろうと相当な被害が出る。詠唱はこうだ【水よ還元し、大海よ押し流せ、タイダルウェイブ】だな」

「物騒ですわね」

「あの馬鹿連中に使ってたら面白かったのにな、きっと建物に穴開けれたぞ」

 なんせ津波発動の魔術だし。一つの町程度なら機能停止までは追い込めるな。

「面白くないです。きっと大変な事になるです」

「ま、今更だな。それで、杖か何か使う方が行使しやすいとかあるか? 必要なら調達するぞ」

「必要無いです」

 専属の人とか少なからず持ってるんだよな、威力が上がるとかあるのかね? 俺は手が足りずに持てないから今更だが。


「ふむふむ。今後の予定だが、俺たちの防具が揃ったらターラルのダンジョン行きだ。

 で、学校へ行くから七月三週の後半にはこっちに戻って来る。召喚を全員覚えてもらう予定だが、大丈夫か?」

「それなら既に使えるです」

 お? なら教授してほしいな、行く手間が省けるわ。

「え‥‥‥それじゃ教える事は?」

「特殊な素材が必要なのです。ですから手間を省く為にも行くなら行った方が良いです」

「なるほど。その手間って金額的な手間? 物が無いから時間が掛かるって手間?」

「両方です。学校へ行くのとあまり変わらない金額が必要です」

 ふむ。ならば行く方が手間省けて良いな。


「なあ、サーシャも一応は行けるのかね?」

「覚えても不要な子だった場合にまた行く人がいるです、素材集めるより学校へ行く方が早いのです。国も黙認してるのです」

 ほー、何度でも行けるのか。それは欲しい人が殺到しそうだな。なるべく実力を示さないと無駄骨になりかねないのか。

「それでですわね。数日から最長一年とか、あまりにもかけ離れていると思いましたのよ」

「同感だな。それじゃこの件は終わりだ、寛いでいいぞ、俺はちょっとお金を整理するわ、ごちゃごちゃで使い難いからな」


 巾着を取り出して銅貨、銀貨‥‥‥とそれぞれ巾着を七袋準備した。それにお金を分けて入れ、それぞれに配布したのだった。




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