86:皇都
嫌でも目に付く建物であった為に、迷うことも無くセントラルに到着した俺たちは、金貨六十枚を支払い早々に転移を体験したのだった。
自分の体が自分の体ではないと言うか、エレベーターに慣れていない人が下の階へ行く時の感覚に似ている気がする。
到着早々にセントラルを守る衛兵に魔物ハンターギルドの位置と、その付近で一番設備とサービスの良い宿屋の場所を聞き移動している最中だ。
俺たちの真っ先に降り立った場所は皇族の住むお城版である皇宮が都市の中央にあるが、そこから方角としては南東の一角か。ゲートも複数設置してあり、其方方面の町用、と言う事であった。
その為、同じ建物と同種の施設が皇宮から等間隔で後三つ存在している。
肝心の皇宮だが、窓の数から五階建ての箱型ホテルに先端がとがった塔らしきものが角々に四つくっつけた感じだ。色合いはかなり白く、至る所に垂れ幕が降ろされている。
全体的な雰囲気は獣王国王都と比べてもかなり奇麗な街並みだ。そして、階数も一段は平均して高そうである。道沿いには木が植えてあり緑が目に移らない視線がないのだった。
「場違い感がすごいな、別の世界に来たみたいだ」
「人もそうだけど着ている服もね、当然町並みもだけど」
「防具だから今は良いよ、だけど普段着が不味い。こっちの流行に合わせて服を買っておかないと不味そうだな、俺たちだけ浮くぞ」
「それは明日にしましょうよ、今日は疲れてるから早く休みたい。宿を確保するわよ」
クインなんて俺に抱っこされたまま寝ちゃってるし、スースー息してるのが分かるだけで身じろぎもしない。何事も無く宿に着き、入ると、嫌味を言う輩がいるのだった。
「おいおい、この高級な宿屋に獣人が泊まるのは初めてじゃないか」
「うーん、俺も初めて見るな。だが、あの装備からすると俺たちよりは稼げている。なら、俺たちよりは場違いじゃないな」
「確かに金銭的ならな、種族としてならあまりいい気分ではないな」
無視するか、とりあえずは。
「大将、六人と使い魔一匹ですが部屋ありますかね」
「その大きさなら使い魔の料金はいらんが食事を付けるなら別途頂く。大部屋一部屋に六人、一人五百リル、夕食、朝食付き、昼は別途、風呂に入るなら別途。どうする?」
おー、流石高級店! 風呂なんてこっち来て初だな、是非入りたい。ローマ式だと良いな、シャワーではないと良いのだが。
「お昼今から食べたいです、お部屋もそれでお願いします。それとお風呂も全員分お願いします。タオルってありますかね?」
「タオルは必要なら買ってくれ、入る際は言ってくれ、地下にあるから案内する。一人料金が銀貨七枚、総額四千二百リルです」
「おいおい獣人と俺たちが一緒に風呂だと! 冗談は止めろ!」
料金を渡しながら聞いてみた。
「営業妨害してますが野放しですか? それとも所属してる魔物ハンターギルドに引き締めを依頼しますか?」
「貴様! 獣人の分際で俺たちの引き締めだと! 俺たちはエルフだ。この地では俺たち上位者が法律なんだよ!」
そんなくだらん法律が有るのかね?
「で、どうなんですか?」
「ここでハンターを敵に回せば店が潰れる。そう言う事だ」
なるほど、ボイコットされるのか、それほどたいそうな玉かね。
なら、潰れない様に完全貸し切りならどうだ。
「なるほどな。大将、俺に向こう五十年間、貸し切りにして貸すつもりないか?」
「何馬鹿な事言ってるのよ。テリ、止めなさい!」
「やっぱダメか?」
「駄目に決まってるでしょ。風呂は諦めなさい、普通に泊まるわよ」
「チィ、仕方ない。おい、其処のエルフの爺さん、あんたの顔を立てて風呂は止めとくわ」
なんせ長寿ってのが相場だからな、俺の頭の中では。若作りしてるがこいつら何百歳だろうな。
「お、俺を相手に爺さんだと‥‥‥舐めた口をきくな!」
「それじゃ大将、直ぐ食事をお願いするよ」
「無視するな!」
「直ぐに準備を致します」
座って待ち、準備された山の幸海の幸のオンパレード、ゲートで物の出入りが簡単で時間経過が無いから新鮮だ。高級店の名に相応しく、美味しく堪能させていただきました。
当然の様に罵声浴びせかけてますが、手は出してこない。犯罪へ直結するからだろう。
部屋へ案内されると流石に諦めたのか、去って行った。
「ヒヤヒヤさせないでよテリ。風呂一つで下手すると決闘までもつれ込むわよ」
「だけどな。その風呂が、エルフのあの態度のせいで永久に入れないぞ。自宅を購入しない限りな。皇宮でも買うか?」
「テリクンなら買う為の資産は持ち合わせていますね。ですが、決して買えませんよ」
ま、冗談ですから。
「そりゃそうだ。
明日は服屋で皆の服を一通りそろえてから魔物ハンターギルドに行こうか、その方が混まない。
そして紹介される防具屋だね。一式全部揃ったらターラルへ移動で良いな。それに移動前に試験会場とか受付の場所とか聞いておかないと不味いか」
「それ以外の選択肢がないとも言えるわね」
試験受付の場所を聞いておかないと、当日に探すとかありえない。聞けば教えてくれるとは思うのだがね。
「決めること決めたらすること無いな、怠さは有るが眠く無いしどうしたものか」
「それなら魔導書が有ったじゃない、確認したら?」
「それがあったな」
取り出して開いてみるが読めない。今の言葉で書かれてないのか?
自動通訳だか何だか知らんが、一度死んだ事で無くなったのかとヤヨイに見せたがこっちも読めないらしい。お手上げだ。
「読めんな、どうも独特の言葉で書かれているようだが、調べようがない。何か知らないか?」
「そうですわね。独自の語源でしたら、エルフにドワーフ、ホビットなどが独自の言葉を別に扱うらしいですわよ、確認されますか? 幸いエルフは直ぐ側にいますわよ」
うーん、あんなのばっかりだったら奪おうと躍起になって来そうだしなぁ。
「あの馬鹿っぽいのしかおらんなら聞くだけ無駄だろうな。俺の無くした本だとか言い出して、奪おうとしてくる未来が浮かび上がる」
「それなら学校で聞きなさいよ、行くんでしょ?」
確かに行くけどね。それに学校の教師なら身分もはっきりしているだろうし。さっき会った馬鹿とは比べずとも信用の面では上だろう。
「それしか手が無いよな、国の運営してる機関ならあれほどの馬鹿はいないだろうからな。
全員で受講するぞ、幸い魔術使える人材ばかりだからな。ところで、今って七月一週一日で合ってるか?」
「間違ってるわよ。どんな計算してるの、六月三週の九日目よ」
いかん、こっちはカレンダーが無いからマジで忘れる。
そこで買い出しに雑貨店へと行き、羊皮紙十二枚と筆に墨壺など一式を購入した。
宿に帰ってカレンダーを作るのであった。写真も無く、単に線を引いて日にちを書いただけだが。
朝起きたらチェックする。これが毎日の日課になった瞬間だった。




