82:再生
宿のテーブルをふきふきしていた女将さんに皇国まで船に乗りたい旨を伝えると、その手の組合が創設されているとの事で、そこまでの道順を教えてもらうのだった。
港に近づくほど新鮮な魚を扱っているお店が増え、それを買い求めるお客でにぎわっていた。
そんな中、一店舗だけ客が寄り付かずに閑古鳥が鳴いてる店を発見した。見てみると、氷も敷かずに魚を並べている為に腐りかけて虫が寄っているのだった。
「おいおい、あれは駄目だな、半分腐ってんじゃねえの。氷ぐらいは敷けよ馬鹿が」
「テリ。聞こえるわよ、声を落としなさい」
「聞こえたぞガキが、何処が腐ってるって言うんだ!」
「扱い方が悪すぎ。常温で魚を並べてる時点で失格。氷を下に敷くのは常識。以上だ」
「知った風な口をきくな!」
無視して通り過ぎたのであった。無視した事で追いかけて来る馬鹿がいる。そりゃ、店舗を無人にしたところで盗まれんわ、傷み過ぎて食う気にならん。
無事に? 馬鹿を引き連れたたまま、教えられた石材で建てられた三階建ての建物に入ると、そいつも入って来た。受付らしいところに座る女性に応対してもらうのだった。
「申し訳ありません、皇国アヴァサレスへ向かう便は何時発着でしょうか。六名と使い魔一匹予約したいのですが」
「貴様! 坊主。俺のとこの魚が腐ってるってどう言う事だ!」
「それでしたら二日後早朝に出航となっております。ランクが御座いますので説明いたしましょう」
「無視するな坊主!」
説明は不要だな。最高の部屋を所望しよう。
「最高ランクの部屋だと六人泊まれますか?」
「三名であればお泊り可能です。二部屋お取りしますか? この場合、部屋の予約となりますので使い魔の食事はお付けできません。別途お支払い頂く事になりますが」
「グヌヌヌッ! 貴様ー!」
「お客様のご迷惑です。お引き取りを」
「いやいや、そっちの食事の準備は不要です。二部屋予約をお願いします」
「お前には関係ない! どけ!」
「おい。強制排除するぞ」
「はっ!」
間抜けが連れて行かれるのだった。俺も成長したな、スルーすれば心得のある人がしょっ引いてくれるのか。
「一名様一万リルとなりまして合計六万リルとなります。使い魔の料金は不要ですが、船上で悪さをした場合にはご主人が罰を受けますのでご注意ください」
金貨六十枚程度なら、あの馬鹿マスターの資産には腐るほど入ってたので、きちんとぴったり支払った。
「名前はテリヤキです。この名前で予約をお願いします」
「テリヤキ様ですね、予約票をお持ちしますので少しお待ちください」
追われる身なら偽名を使うのは基本だろって事で、食い物の名前の一部を拝借した。
二枚の予約票を受け取った俺たちは町に入ってすぐの武器屋さんへ赴き剣帯を購入、腕の治すならさっさと治せって事で俺とアリサのみ町の外へ、カーラたちにはクインをつけて別れるのだった。
町からも街道からも結構離れ、アリサに手伝ってもらい上半身裸になるのだった。
「おし。第一準備完了っと、アリサ、この刀で斬ってくれ」
と切れ残っている部分を指さした。
「‥‥‥斬らないと治療できないの?」
「魔導書にはそう書かれてた。さすがにさ、自分で切るのは躊躇うからな。ズバッと頼むわ」
「引き斬りよね、どうやるの」
「刃より先に握り手が通過すれば大丈夫だ。ぶつ切りの様に押し切りに成らなければ良い」
それじゃ行くわよ、と、思いっきりの良いことで躊躇もなく切ってくれたのだが、こりゃ痛い。
「うぎゃぁあ! いつつつ、これ最悪だな。頼むもんじゃないな」
「そんなこといいからさっさとしなさい。死ぬわよ」
心臓の収縮に合わせでポンプアップしたかのように血が噴き出しているのだ。
「そりゃそうだ【光よ還元し、全てを包み込み癒せ、グレーターヒール】」
スキルレベル9で覚えることが可能な最高峰の治療魔術。欠損量に応じてMPを持っていかれる裁量型魔術なのだった。
光る腕の幻影が出たと思えば徐々に実体化し、体と同色になれば自由自在に動かせるようになり完治したのだった。
「ありがとうアリサ。これで元の通りだ。皆にも迷惑かけたな」
「いいのよ、早くいらっしゃい」
両手を広げているあたり飛びついてこいって事だろう、要望に応えて飛びついてキスして抱っこちゃん人形のような姿勢になるのだった。
「クインとの出会いからだからな。ざっと七か月と少し前からか、ようやっと五体満足に戻れた」
「今回の件がなければ卒業まで不便な生活だったわね。飛び級制度があるあたり、一気に六学年で二年間の在学だったかもしれないわ」
六年の在学生を全て打倒し、トップになればそれもありえたかもね。
「違いない。結局はさ、あの学校は座学って皆無だったな。午前中は訓練、午後は選択だけど職人目指すかハンター目指すかの二選択だ。はっきり言って勉強は無くて専門職養成学校だった。
あれだ、一年で詰め込む方の学校で事足りたと思った」
座学が気持ちだけあったが、単なる予備知識を覚えさせられただけだもんな、あれじゃ学校って呼ばない気がする。
「商人養成の学科を選んでいればもう少し違っていたでしょうね、商売のノウハウを学んだり、税金の提出方法まで学ぶはずよ」
「それこそ不要だな。純利益に対する税金の割合だけ教えてもらえば、勉強不要でいつでも商売可能だ」
「送還が可能ならテリの生きていた世界にも行ってみたかったわね、こちらの商業とはだいぶ違うんでしょ」
違うには違うが全体的に違うんだよな。
「はっきり言って良いもんじゃないぞ。勉強できなきゃ落ちこぼれ、就職に失敗すれば結婚すら不可能。
他人の給料からピンハネする奴が大量にいて、そこに世話にならなきゃまともな職にもつけず、かと言って利用すれば差し引かれた給料で底辺生活。
抜け出す道は無くて貧乏街道まっしぐらってな。
その点こっちは魔物さえ倒せればお金は稼げるから、そりゃ気楽で悩む事もない。
良い点悪い点はあるが、比べてみれば最悪な環境だったと断言できる」
ま、俺の感覚ではだけどね。
「命が掛かってるのにそんな感想になるのね、ますます行ってみたいわね」
「今の俺たちがあっちに行ったら注目の的で金は稼げるだろうな、ただし、四六時中追い掛け回されて自由な時間は取れないぞ、それこそ永久に追いかけられる。
住んでる家の前まで待ち伏せはあたりまえだからな」
なんせ獣人族なんて居ませんから注目の的ですわ、これを利用して金を稼げばいい。
テレビに週刊誌にパパラッチとストーカーまがいの連中がいっぱい居るからな。対象者の人権はないも同然、おいしいエサがあれば群がる蟻ってもんだ。
そのおかげで知りえる情報もあることから、すべてが悪いわけではないが。
「何よそれ、ヤヨイの非じゃないわよね、それが常習化してるの?」
「いやいや。注目されてる人限定だよ、大半の人には関係ないから。
なぜ俺たちが注目されるのかって、獣人族と言われている種族が居ないからだよ、人として言葉を話せるのは人族しかいないんだ。さて、着替えて合流しよう、安心させたいからな」
「それもそうね、着込んだら行くわよ」
俺の新しい腕、左手で手を握り歩いて町に戻るのだった。




