73:殿下
俺たちはあれから空を飛び宿の傍まで戻って来ていた。そしてランタンを取り出して火を灯し予定を伝える。
「クイン。嫁さんたちを叩き起こして準備させた後に、殿下が住んでるあの屋敷まで来いと伝えてくれるか? 時間はそうだな、三十分後、程度で頼めるか?」
『うにゃ~ん』
コクコクと縦に頭を振っており、大丈夫だと教えてくれた。
「それじゃ行ってくれ。
そしてそこの。今から屋敷まで行き報告してもらうが、門前払いを受けるだろうからこういってやれ。
殿下のお命に関わる事です。叩き起こしてでもお会い頂くようにお伝えくださいと。大丈夫か?」
「は、はい。そこまで断言すればお会いして下さるでしょうから」
「報告内容はこうだ、私は伝令役を任され無事でしたが、返り討ちに合い全員殺されました。あのように強いとは聞いておりません。私は、助かるのでしょうか。と」
「ほ、本当にその様な報告で良いのですか。そ、その、大半の者は生きており証言するのも可能ですが」
「油断してもらわないと困るからな、そのまま報告しろ。このランタンを持って行け。明かりが無きゃ歩けないだろ」
「は、はい」
「俺は気配を消すが、ずっとそばに張り付いている。変な事をしない事だな」
「は、はい」
領主館までは遠く無く、五分も歩けば到着したのだった。
「そこの者止まれ! このような時間に来るとは、常識が無いのか!」
「も、申し訳ございません。是非カーライル殿下にお目通りし、早急にお伝えしなけれあならない事態が発生しました」
「明日の朝に出直してこい。今何時だと思っている。深夜だぞ。さっさと帰れ!」
「帰れません。カーライル殿下のお命すら危険に晒されている恐れがあります。伝えなければ大変な事態になります。是非お目通りをお願いします」
「……嘘だった場合には貴様の命が危ぶまれるが、それでも良いのだな?」
「嘘は申しません。本当に緊急事態なのです」
そうそう、緊急事態なのよ、さっさと通しなって。
「……よかろう。しばし待て」
おし、第一関門は突破だな。
二十分程度入り口で待つと衛兵が戻って来た。お会いになるが、相当に激怒なされている。口調には気を付けるのだなと警告され部屋に案内されるのだった。
俺も当然入り込み、暗殺者とカーライルの傍に立って報告を聞くのだった。
「や、夜分遅くに申し訳御座いません。何分早急にご報告する必要が御座いまして」
「それは良い。俺の命が危ういといったな、理由を申せ」
「テ、テリストが単独で行動を開始した為、三十一名で不意を突き、攻撃致しましたが、反撃に合い全員が死亡致しました。
私は伝令役を任され、離れた場所で成り行きを見守っており無事でした。わ、わ、私たちはい、命は助かるのでしょうか?」
上等だな。それだけ言えれば普及点だ。
「三十一人で失敗だと! クソ! 宿では十人返り討ちにした実績から三倍用意したが、それでもこの有様か。SランクのPT員を七名付けていたがどうしたのだ。含まれていないのか?」
「含まれています。うち一名の発動したファイアボールを武器で切り捨て、何事も無く反撃していました。我々の仲間と同様に相手にもならず一方的な虐殺です」
おーおー、顔色が悪いですぜ殿下。ヒヤヒヤものだろうけど、既にここにいますんで悪しからず。
「不味い、非常に不味い。奴は尾行者を特定して逆に尾行するような奴だ。貴様。尾行されていないだろうな?」
正解だが今回は違う、その話し相手が俺の協力者ですので尾行じゃない、同行だよ。
「裏道を通り、かなりの遠回りをして赴きましたので、き、気が付いてはおらぬかと思いますが」
「ほう。ならば此方まで手は伸びては来ぬか。確か、実行者は全員死んだのだったな?」
「はい、死んでおります」
「なら、この事を知り生きているのはお前だけか。死ね」
いうが早いか、腰に下げている片手剣を引き抜きながら逆袈裟斬りをしようとするが甘い。
鞘から抜けきる前に手を叩いて鞘ごと地面へと落ちたのだった。
気配遮断を解除して相対した。
「やあ、どうもどうも。殺される予定のテリスト・ファーラルと申します」
「テ、テリスト! なぜ貴様がここに!」
「そりゃいますよ、それで殿下、死ぬ覚悟をして下さいね。俺の場合、例え陛下の御子息だろうと命を狙って来た馬鹿は平等に殺す主義でして、何かいい残す事ってありますか?」
「た、頼む、命だけは助けてくれ、金品ならいくらでも用意する。いい値で用意する。だから助けてくれ」
顔は引きつり後ろに後ずさりしながらだが、やっと答えたいった風だ。
しかし命だけか、両手両足切り飛ばしても良いから命は助けてくれ。命だけ助かればどの様な状態になっても構わないって事かね。これ、俺がひねくれてるのかな?
「ま、そこら辺りの交渉は嫁さん含めて話し合いましょうか。ねえ、カーライル殿下」
「ま、まさか、呼んだのか。この場に」
「当たり前でしょ、証人もいる。実行犯もいる。指揮っていた奴もいる。ついでに、証拠の書面も、殿下が報酬として与えていたお金も回収して手元にある。最高じゃないですか、全部必要なのが揃ってるんですよ。
ついでにいうと、全員殺したってあれ、三人しか死んでませんから、足は切ったので逃げれずにその場に転がってますよ。どうあがこうが証人が三十名近くいるので逃げきれませんよ殿下」
「チィ、貴様!」
殴って来るが体が鈍ってるんじゃねえの、軽く武器の柄を当ててやったら拳が潰れちゃいました。
手を抑えてしゃがみ込み唸っているのを見届けていると、クインを抱っこした嫁たちが激怒の表情でやって来ました。
そりゃ、怒るわなぁ。人が良い気持ちになって寝ている時に、クインに叩き起こせっていったのだし、叩かれて起きたのなら結構痛かったでしょうに。
だけど緊急事態なのですよ。この激怒した嫁たちの登場で、例の暗殺者の一員だが、壁際に退避しました。
「テリ。いい訳があるなら聞くわよ。叩き起こせっていったそうね、いってみなさい」
流石アリサ、普段の毒舌がパワーアップして怒気まで含んでますな。
「例の事件が解決した。証拠も何もかも揃ったから叩き起こしてでも連れて来いと頼んだ。以上だ」
「お兄様が負傷しているようですが、何があったのですか?」
「アリサ。とりあえずこれを見てくれ」
例の契約書を取り出して渡したのだ。
クインを代わりに抱いていると全員回し読みしたのだが、今度は激怒から少し冷や汗を掻いた様に若干顔色が青白くなった嫁たちだった。
「例の連続殺人も、俺を調査に駆り出して殺す為の布石だったって訳だ。襲って来た三十二名だったか、内三人は死亡だ。一名は俺のいう事を聞いてくれて事件解決を手伝ってくれた功労者。
残りの大多数は腕なり足なり切り飛ばされて今も転がってる。さてどうするね、一般人もすでに何人死んでるかわからんけど、例の伯爵と同じ事をしていたって訳で、どう処理する?」
「如何するも何も陛下のご判断にゆだねるしかないでしょう」
「だけどさ、牢屋に放り込んだ所で、誰かが手引きして逃がすんじゃねえの?」
「だからといってこの場で処断は出来ないでしょ、近衛騎士が来るまで拘束しておくしかないわよ」
「仕方ないか」
騎士に牢屋の場所を聞き出して放り込み、鍵を鍛冶スキルで壊して出れなくしたのだった。
高々鋼鉄製の牢屋程度、刃物で切れば開けれるでしょ。後は騎士に任せて宿に帰り就寝するのだった。
例の暗殺者はどうしたのかって? 屋敷を出た後放逐しました。面倒なので。




