67:増えた○○○
カーラがスタンピートの報酬として統治を任されたプレストリアの地は、北へ町二つ目から東へもう一つ分行った場所にあった。片道六日間。それほど遠くはなかったな。
周囲を見渡せば他の方角は結構な距離があるとはいえ山ばかり。つまり、どん詰まりで更に奥へ行けないという事だ。
資源確保という意味では最高な場所といえる。薬草類も期待できるって事で、当然ながら魔物もいるだろう。裾野まで馬車で一日は掛からないと思うが、泊りでなければ行けそうにはない。もう少し近かったらねぇ。
そして到着した門を守る衛兵に身分証代わりの指輪印章を見せると直ぐに屋敷まで案内された。場所は町のほぼ中央にあった。町の管理について来るセット商品みたいなもんだな。
自宅の様で自宅では無い、行政府のおかれる役場みたいなもんだ。下の階は仕事用、上の階はプライベート用、そんな感じだ。
周囲一帯森ばかり、そうなんです。全部というほど木造建築物ばかりで、高い建物でも三階建て。かくいう我が家になる予定の屋敷も三階建。これは仕事用と割り切ってプライベートの家を買うべきか?
そして二階にある部屋に案内されると見知った顔が出迎えてくれたのだった。
「やあテリスト、この時期に来るとは思っていたよ。それでも随分と早かったね、連休初日で直ぐに来たのかい?」
「御無沙汰しておりますカーライル殿下、初日は王城へとまいりまして、出発は二日目です。準備がありましたので」
俺のいった提案を飲んで実地で勉強に来たのか、行動力あるねぇ。これなら獣王国も安泰かね。
「王都を出る前に挨拶とは、殊勝な心掛けだね」
その為に行ったんじゃないのですけどね、勘違いさせたままにしておくか、特に利点も欠点も無いからね。
「カーライルお兄様お久しぶりです、お元気そうで何よりです」
「カーラも元気そうで何よりだ。新婚生活はどうだい? 楽しくやってるかい?」
「まあお兄様ったら、新婚ではありませんが充実した毎日を送らせて頂いています」
「立ち話もなんだ、とりあえず座って、スーシー君たちもだ、長旅で疲れただろう」
おや、スーシーと顔見知りなのか、となると、元々お城でメイド業務してたんだろうな、何をさせても手際が良いし、メイド長を一時していたがリーダーシップあるし。
学校へ行く事になってあっさりと放り投げたが、屋敷にいる際にはやっぱりそれらしい立場に収まっている。立場を投げたといっても早々に役割までは投げれない様子だ。
「お気遣いありがとうございます、カーライル殿下。馬車での旅ですので疲れてはおりません」
「休める時には休んでおけ、いざって時につかれてましたじゃ話にならないからな、そういう訳で、失礼します」
「そういう事だ、テリストを見習え」
こうして全員が座る中、スーシーだけが座らない。
何故かって? でっかいスイカを俺の頭に乗っけて休んでますが。
これ、何度もされているのだが、けっこう首に負担が掛かるんだよね、何気に重いんですよ。
「スーシーはその癖治らないんだね、城にいた時も何度か俺の頭に乗せてたよね」
あ、ありえん。城でそんなことしてたら咎められられて首だろうに……陛下って、結構懐深いんだな。
「この体勢が一番楽なんですよ殿下」
こんな事いってるが、今回は椅子のサイズが合って無く低い為に、体重もかけられて余計に重いんですけど。
「俺の首が休まらないから今回は止めてくれ、代わりに俺の膝を貸すからといったら止めてくれるか?」
「よろしいのですか、ご主人様」
こんな事いってるが、正面に回り込み、スカートをたくし上げて抱き着くように座られたのだった。
スカートでは足を広げて座るのは不可能だからな、普通に座ってくれればよかったのに。
「スーシーさんは大胆ですね」
「テリの事だから喜んでるんじゃない? いっそお嫁さんにしたらどうなのよ」
あのね、こんな姿勢で座るとか予想外なんですけど……普通に座れよ普通に。
「テリストが望むならそれも良いんじゃないか、よく気が回る上に何でもそつなくこなす、器量よしでもある。ただ、胸がな、あまりに大きいからと誰にも相手にされてないんだ」
「え? そうなの? 普通、男なら飛びつくでしょうに」
「そうでもありませんわよ、私もそれほどではありませんが奇異的な目で見られる事もしばしばありますもの。
その点テリストは大きい子が好きな様ですから、スーシーも区別なく扱ってくれるでしょうし、スーシーの嫁ぎ先としては最高ですわね」
な、なるほど。胸が大きいだけで、見た目として弾かれるのか、こっちは変わってるんだな。やっぱりほどほど程度が人気なのかね。
「ご主人様さえ宜しければ、私もぜひに、との答えしか持ち合わせていません」
本人すら肯定するってどうなのよ、わざとしてた節はあるけど、実際問題として、本当にお世話になりっぱなしなのはいうべき事でもないが。
「いやいや、ちょっと待ってって。俺の性癖は兎も角、ばれたんでどうでも良いけどさ。そんなにほいほいと嫁さん増やしてどうするのよ」
「本当にテリは常識が無いわね、良いから聞きなさい。
魔物との戦闘は生活するうえで切っても切れないの、ドロップ品の恩恵で成り立っている部分もあるし、脅威を排除する行為でもあるの。
だから魔物を倒す魔物ハンターは普段も武器を所持して街中でも武装する事も皆受け入れている。
ここまでいえばテリだからわかるわよね?」
そりゃ、魔物との戦闘を全くしないとの舵は切れないよな、そんな事をすればスタンピート発生時に全滅は必至だし、普段から鍛えていなければ同様だし、その為に男は死にやすい環境にあるか。
「理解した。
少なからず女性の魔物ハンターもいるけど圧倒的に男性が多い。
性別が偏っている為に男性の方が死にやすく、実際に男の方が圧倒的に死んでると。
特に初見、この場合は年の若い初心者が被害に合いやすく、そして慣れた頃が死にやすい。
簡単に言うと成人前後が一番筆頭かもね。
そうなると性別での人口バランスが崩れて人口の減少に歯止めが掛からなくなる。
この打開策は一夫多妻制にして、男性一人に女性を複数娶らせ子供をたくさん産める環境にしたうえで、人口減少に歯止めをかけるしか手が無い。
なら、そんな対象はどの様な人物が良いのか、良識持ちなのは当然として、金銭的に逼迫しない事か」
こんな事を話してますが、スーシーに抱き着かれていて他の人が全く見えません。
頭の上に乗っかって無い分楽ではあるのだが、今は夏なのではっきりいって熱い。
その感触は圧巻なんだけどね。
「テリクンは相変わらずですね。お金を貯め込む事ではありませんが、その子孫繁栄版とでも申しましょうか、富める者の義務でもあるのですよ。
ですから、男性を独り占めとの視点を持ち合わせていない人が大半です。
十人とか二十人とか増えすぎるのは困りますが、一桁ならば教養の範囲内でしょうか」
「こっちの常識には驚かされっぱなしだな、暗殺者集団といい、その資産の受け渡しといい、良く分からんことが多い」
「テリスト君はこの申し出を受けるのですわよね?」
「嫁ぎ先が無いってのも考えものだからね、俺が受けるよ。
実生活ではお世話になりっぱなしで、有能なのも知ってるし、愛情方面が有るか無いかと問われたら微妙だけど、そこは行動を共にしてればいずれはね。
といっても現段階では婚約者扱いだね」
ありがとうございます旦那様と言ったと思ったら思いっきりキスされるわ、耳は弄られるわ、こっちの人ってそんなに猫耳を触りたいものなのかね? 確かに俺からすればカーラの尻尾をモフモフしたい所ではあるのだが。
流石にこのままでは話が出来ないので普通に膝へ座ってもらう、前は見えないが今更だろう。
お返しとばかりに胸を揉む、なんてことはしない。流石に殿下の前でそれははしたないだろうからと、代わりに太腿をなでなでする。
立ち仕事が多いせいか、柔らかさの中にも引き締まっている感じがする、片腕なのが勿体ない。
左腕の治療だが、学業の真っ最中では治療しないでおこうと考えている。
国王陛下ですら治療可能な者を紹介出来ない事からも、相当にレアな存在か、若しくはそこまでスキルレベルを上げている存在がいないのだろう。
そんな中で在学中に腕を直したらと想像すると厄介ごとに巻き込まれかねない、端的にいえば治療希望者が押し寄せて来る可能性がある。
学校という場においては多数の目があり、その情報が拡散される事は確実だからだ。
何分トラブルメーカー的な体質からも想像する通りに、避けれる部分は避けるべきだろう。
特に問題が無ければ、だが。
「この話は纏まったな。少し問題が起こってる、頭を貸してくれテリスト」
頭で解決できる内容ならいいのだが。
「内容によりますが何でしょうか?」
「問題があるがすでに手を打ったことも含めて相談に乗ってくれるかい。
元領主の伯爵がやらかしていた件が完全に収拾してないようだ。どうも他にも暗殺者を呼び寄せていたようで、今も少なからず被害が出ている」
ありゃ、こっちにも雇った奴が張り付いてるのか、それはそれで面倒だな。
って事は死んでる人が今もなおいるって事か。
「被害の傾向に関連性はありませんか?」
「夜間に出歩く者たちが大半だね、そして決まって目撃者が皆無ときてる。そしていずれも被害者は魔物ハンターだ。持ち物は全て取られているが、ハンター章は残されている」
うーん、聞く限り関連は無さそうだけどな。
あの伯爵は特定の者を狙って暗殺していたが、今回一応は絞っているが魔物ハンターと大雑把すぎる。
目の上のたんこぶ、いや、自身にとって不利益か利益の出る相手を選んでいたと仮定するなら単独行動している魔物ハンターを狙えとかの依頼は出さないはず。
少々の利益を得るためとはいえ、被害者が増えればそれだけ自身の安全も脅かされるリスクが高くなる。
その為最大限に利益が出る相手へと的を絞るはずだ。
そもそも今は伯爵は捕らえられている、あれから半年以上経過しているのに律義に遂行するか? 俺ならしない、暗殺者本人もリスクが増えるからだ。
この件は別件と考える方が順当だ、何処から関連があると考えたのか、わからないな。
「資金狙い? いや、それほどの腕なら魔物を倒す方がお金になりますよね、現場に傾向は有りますか?」
「バラバラだね、大通りでも起これば裏通りでも起こっている」
囮調査が最適かね、この場合俺が適任だろうな。
アリサやカーラでも特定までは可能だろう、だけど安全面を考えると俺が一番良い。
いや、気配遮断と魔力操作レベルが此方の探知より上の場合がある事を考えるとやっぱり俺以外の選択肢が無い。
完全に安全対策が取れない現状下で送り出すのは俺には無理だ。
そしてどうやって対象を選別しているのかも未知数だ。
確かに魔物ハンターになればハンター章を首に下げる事を義務化されているが、俺は不要な場合外している。
具体的には学業に勤しんでいる時はだ。もちろん貴族なので顔が身分証でもある訳だが。
こんな感じに一般の人も非番の際は外しているとも限らない、その中でそれも夜間、選別作業などできるものか、いや、不可能だろう。
ならば最も高い可能性はギルドから出る際に尾行する事だろう、これで食いついてくれれば良いが。
「ふむ、俺が囮になりますか。魔物ハンターギルドに定期的に出入りしながら少しずつ素材も売って、それも遅い時間限定が良いかな……」
「犯人はギルドを監視している、もしくは魔物ハンターギルド職員も絡んでいるか?」
「ま、そこら辺りは捕まえてのお楽しみですかね。それはそうと、今の対応はどうなってますか?」
「夜間の見回りを強化してるよ。それと、腕利きの魔物ハンターに捕らえる、惜しくは排除する依頼を出して遂行中だよ」
少々変更してもらうかな、見回りを増やした所で、被害者は減らないからね、そもそも不審者との線引きをどうしてるのか、それすらわからないからな、ピンポイントで護衛する方が良い。
「ふむ。少し調整してもらえませんか、増やした人員を魔物ハンターギルドと遅くまで飲み食いできる酒場に割り振って下さい。
そして一人で帰る者につけて下さい、ピンポイントで狙える人を減らしましょう」
「見回りで発見できないのなら、被害者その者を減らすんだね、トップの者に割り振る様にと伝えよう」
「早急に手を打たないといけない事はこれだけですか?」
「そうだね、例の伯爵がやらかしていたとはいえ、これまで狙われていたような規模の事件は発生してないよ。滞在中はどうするんだい、泊って行きなよ」
解決するまでは出入りする所を極力見られたくないんだよな、此方の面が割れて相手に警戒されたくはない、食いついてほしいからな。
「……それですが、解決するまで普通の宿に泊まろうと思います。
相手が分かりませんので、出入りしている所を見られたくはありませんから」
「囮になるならその方がベストだね、わかった、だけどそれなりの宿を紹介しようか、うちのメイドに案内させよう。何かあればすぐに応対するから知らせる様に頼むよ」




