58:出発
魔物狩りでは使う魔術を限定させた。初級のみで手数を増やせと、これでココアが獲得したのは詠唱を端折る<詠唱短縮> だ、実はこのスキル、無詠唱を取得すると下位相互な為に消えちゃうのだ。
無詠唱を取得すれば詠唱しようと端折ろうと自由自在になるのでそこまで覚えてほしいものだ。
準備期間中に搬入される大量の物資、特に食糧だが、これらを含めて全部一人一人に割り振り専用のマジックバッグへと詰め込み渡してある。
馬関連は御者に全て渡してある。水だけならMPがあればいくらでも補充は利くのだが、不測の事態を考えれば全員持つのが望ましい。
そして出発当日。馬車で王城前に集合し出発するのだが、当然の様に一緒に乗るのはアリサとカーラを除けばココアだけ、後はそれぞれ確保してある馬車で行くのだった。
そしてその場に置かれた大量の物資。きちんと俺たちの分も用意されており、ありがたく全部頂いて行くのだった。
当然ながら約半数は日持ちのする保存食。乾燥物から燻煙した肉、塩漬け肉や魚などで、スープの素材としては優秀か。
当然例の焼き締めた歯が折れそうなパンも混ざってる。
旅は順調。晴れた日であれば馬車の屋根の上に陣取りクインを抱っこして景色を楽しみ、現れた魔物は魔術で処理してアイテムは放置する。
宿で宿泊の時はどうでも良いのだが、野営の時も当然ある。俺たちは大型のテントを一つ張り全員で寝るのだった、一度組みあげれば後は簡単、引っ張ってるロープを解けば丸ごと収納するだけ、他の班はそうもいかず時間が掛かっているようだ。
そんなこんなで町を七つ越え、十三日目にして魔人族の国、ジアラハルトの首都に到着したのだ。当然先ぶれの者が到着している。
到着早々に俺たちは挨拶を交わして分散する。謁見組が俺達四名にクインと騎士と文官を一名ずつ、情報収集部隊が三班、そして例の使者たちといった具合だ。滞在期間はそれぞに任せてある、十分だと判断すれば滞在すること無くUターンしても構わないと。
そうして王城へと案内され男女別の部屋を割り当てられたが、当然の如く俺はアリサたち女性の部屋で寛ぐはずだったのだが……。
ちょっと外で待機してるメイドさんに確認するのだった。
「メイドさん、両隣の部屋って誰かいるの? いるならあいさつ程度はしておきたいんだけど」
普通は絶対必要のない行動ですけどね、単に確認の為ですわ。
「いえ、皆様がご滞在中は無人にする様にと通たちがあり、誰も出入りしない様に見張りも立っています」
ちらっと見ると確かに立っている。城の中だし近衛騎士かな、たぶん。
「なるほど、無人ですか……なら、此方の事を探って諜報員を配置してたりは、当然ありませよね?」
「はい、ございません」
にゃるほどね、なら行動しても良いな。
「どうかしたのテリ?」
「単なる確認だよ。国元では諜報活動受けてたからね、警戒位はするよ。
やっと馬車の旅も終わった事だし、謁見の日取りが決まるまでのんびりしようかな。
その前に、出掛けても良いの? 直通で城に来たから何も見てないんだよね」
「謁見までは控えられるようにと伝えてあるといっておりましたが、聞いておりませんでしたら此方の不手際です、申し訳ございません」
やっぱり出れないか、秘密裏に俺たちを入れたようなもんだからな。一度出て対策を考えるかと思ったが逃がさず缶詰か。なら、対応するしかないな。
「なるほど、わかりました。とりあえず、お茶下さいな」
準備されてる間位に壁をコンコン叩いて回る、厚い場所と薄い場所があるねぇ、やっぱりそれの為でしょ、ちょっくらぶっすり行くか。
フランベルジュを取り出して鞘から抜き放ち、メイドが此方を見てない間に俺の肩の高さで壁に半分ほどを突き入れた。
(ギャァーー!)
壁をテコ代わりに使い、持ち手を下げながら引っこ抜いた。
体に突き刺さったとは思うが、ついでに傷口を広げてやれってな。
馬鹿な事をするものだね。
勇者を捕まえた本人が来てるのよ。勇者より実力が劣る奴を配置すればバレバレでしょうに。
この辺り、報告しなかったのかね?
彼方は謝罪と同じくして招き入れたが、今回はどう決着付けるつもりだか、それとも、予想していた通りにこのまま開戦へとつながるのか。
「あ、あの、お客様、何をなさってるのですか?」
「なぁーに見てなって、誰もいないとか言ってる割に、俺たちの事をつぶさに観察してる馬鹿がいるんでね」
同じ側の奴らは壁から離れた様だが、もう反対側は動く気配がない。ばれていないとでも思ってるのかね、丁度良いとばかりに突き刺してやった。
またの同じく悲鳴が上がり壁から他の奴は離れるのだった。
「さて、メイドさん、これ、どう言う事よ? 俺たちを観察してた証拠を提示した訳だけどさ、もしかして、獣王国に宣戦布告したか?」
「も、申し訳ありません、か、確認してまいります!」
飛び出したかと思えば五分もせずに使者として来た男性がノックも無しに入って来た。
「何かの手違いがあったようです、申し訳御座いません」
手違いが宣戦布告かね、ちょっと俺たちを舐めきってるな。
「手違いが宣戦布告でしょうか? 今ならもれなく俺達が暴れまわりますけど、この城、吹き飛ばしても良いんですよね?【火よ火よ還元し、圧し圧し圧し圧し爆散爆散焼き尽くせ焼き尽くせエクス「申し訳ございません!」】」
とうとう最上位の挨拶まで始めちゃったよこの人。
なんだ、はったりすら見抜けないのか、こんな閉鎖空間で使う訳ないでしょ。
「つまらん。何なんだろうね、もしかして見つからなければ何しても良いと思ってた? ヤヨイのしてた事も同じく今回と同じよね、本当に協力を要請してんの? 俺には宣戦布告してますと見えますけど」
「そ、その通りでございます。ですが、ヤヨイ殿の事は陛下も存じ上げなかった事でございます」
捕まった事を国王が知らない、もしくはヤヨイが諜報活動してる事をしらない、何方だろうね。
ま、どっちにしろ下手な事したのは変わらずだ。
「ほう、それをいっちゃうんだ、完全に嘘だと分る事を。
下手すると敵対関係になる行為を国王が指示しなきゃ他には指示する人はいないはずよね。
ヤヨイの事はばれてないだろ、なら今回も諜報活動に勤しんどけ、そういう事でしょ、大概にしとけよクソ野郎!」
「その通り、その通りで御座います」
なんだ、やっぱり国王の指示かよ、さてさて、嘘の上塗りで更に窮地に立ったようだが、如何始末つけるつもりかな。
「じゃ、この始末、如何支払う気よ? 確かに俺たちの立場は敵陣ど真ん中だろうけど、城程度は破壊して逃げてやるよ。
俺たちの実力はヤヨイから情報として受けてるんだろ? 城一つ程度余裕で落とせるぞ」
「……」
「国王に伝えて来い! 支払うもん支払って戦争回避か! それとも獣王国を今すぐ敵に回すか! 聞いて来い!」
「も、申し訳ございません、い、い、今すぐに行ってまいります」
出て行った直後に指示を飛ばす。
「さて。今すぐ俺たちも行動するぞ、男四人と合流して一度城の前に陣取る」
「やらかすとは思っていましたが、本当にやらかしましたね。救いようがありません」
「テリを甘く見過ぎなのよ、本当に下手打ったわね」
「またこの様な展開になるのですわね、まぁ、なる様にしかなりませんわ。さっさと合流しますわよ」
わざわざ男がいると分かっているのに合流して着替える事もあるまい。確かにハンターであればどこでも着替えなきゃならない時もあるが、好き好んで見せる事はない。俺は別だけどね。大半が嫁さんだし。
男四名が寛いでいる所に乱入して、監視されていたことを報告、直ぐに戦闘準備を完了させて移動するのだった。
フル武装なので会う人会う人全員から警戒されたが完全に無視して横を通り抜けて城を出た。入口より百m程度の位置で武器を抜き放ち先方の使者が来るのを待つのだった。




