56:使者
翌朝。学生寮を出ると騎士たちのお迎え付きだ。何故かココアまで同席して馬車に乗車している。ついでに小さくなったクインを抱いているのだった。
突然乗り込んで来たかと思えば、俺が抱いているクインを奪い取り抱いてるって訳だ。
「なぜにココアが?」
「スタンピートの事はお聞きしましたわよ、私もお連れしてほしかったですわね」
「で、なぜにココアが?」
「早いか遅いかの違いですわ、ですので同席いたしますのよ」
なるほど、親が情報を流したと、ちょっと宜しくないですな。国家間の問題をほいほいと家族に垂れ流すと。
「なるほど。理由は分かりましたが、何もかも筒抜けなのはあまり宜しくありませんね。あの方は口が軽いと。メモメモ」
「……今のは聞かなかったことにしてくださいませ」
遅すぎまっせ、すでにメモリました。
「いわないけど俺は注意する事にするよ。という事でアレサ、失礼します」
といいつつアレサに抱っこされる。
「あのねぇ、服がしわになるでしょうが……はぁ、まぁ良いわ」
抱っこされて向かうのだった。
今回は他の貴族も交えた正式な場と言う事もあり、俺たちも別室で待機となる。騎士に先導されて入室と言う手順で進むのだった。
入室すれば謁見の際に見た顔ぶれがちらほらと見受けられる。そして例の反対した四十名の内二名程いるようだ。
「皆、集まってくれて何よりだ。今回謁見では無いが昨日のテリストの活躍に対して恩賞を与える。
ローズ代読を」
「陛下に代わり代読致します。
一つ:伯爵位を授ける。
一つ:魔物のドロップ代金を全て与える。
補足しますと、テリスト様率いる三名とクインによる攻撃で九割以上を殲滅しております。
前回は支度金を提示しておりましたが、今回は管理地を委譲致しませんので省いております。
そこで、僅かではありますが、回収したドロップ品の代金を全て与えます。
恩賞の代金を大幅に削りましたが、貴族として当然の務めでありますのでご了承をお願いします」
極力反発が起きない様に削った訳か、どうでも良いけど。
「さて、異論はあるかね? ……ない様だな。
今日集まってもらったのはこの件を伝える為ではない。早朝、魔人族の国、ジアラハルトより使者が遣わされ、書状も携えていた。
端的な内容はこうだ。帝国からの脅威に対する協力要請、それと勇者ヤヨイの解放要請だ。
勇者ヤヨイに関しては諜報活動していた為テリストの手により確保、それも昨夜にだ。
この事から学校、もしくは王城かその周囲にも別の諜報活動をしている人物が現在進行形でいる事は確実だ。さて、どう対処するのが望ましいと考える?」
対処が早いな。夜の出来事で寮生活の為に戻ってきた際、窓からの侵入した、だから学校関係者から漏れたとは考えにくい、朝食済ませて直行したからな。
そんな短時間で書状をしたため、謁見の要請などとても無理だ。
そこから考えられられるのは一つだけ、衛兵か騎士か、その辺りに潜り込んでいる可能性が非常に高いって事だ。
陛下はその事を知らないからな、学校も含めて疑うのは当然か。
「では、一言失礼しますぞ。その人物、相当に信用されているようですな、署名捺印しただけの無地の羊皮紙なりを与えられていた事は確実ですぞ。
現場判断して構わないと全権を与えられてますな」
「当然の考えだな。
下手な対応は彼方との確執を生みかねん、当然抗議は必要だが、それ以上にどこまで対応するかを決めねばならん。
とりあえず考えている対処は、あちらの現状の情報を貰うのは当然としてヤヨイを解放と協力要請に関しては様子見が妥当かと考えるが、どうであろう?」
「此方の情報が筒抜けの上、信用できない情報と引き換えに勇者の解放では釣り合うのか怪しいところではありますな」
「ごもっともですな、此方からも抗議の使者を出さねばならんでしょう、その際に真偽をはっきりさせるしか手はありますまい。
援軍要請に応じるのは時期尚早ですな」
「テリストはどう考える」
「今の案で妥当ではないでしょうか、それは兎も角ヤヨイの解放はどうかと思いますが、勇者といえども元勇者であって今は犯罪者です。
確執と言いますが、緊張感を高めたのはあちらの行為が原因です、協力しなくて良いのでは。
もう一つ懸念されるのは、あちらの国でもスタンピートが多発しているのか。ですね」
「テリストにしては慎重だな、後者は当然確認は必須事項だが。なぜ協力しないと判断した?」
「タイミングが良すぎます。此方が帝国を潰したいと考えてると筒抜けになっていると考えられる時点で、今回の交渉が不利なのは当たり前ですが。
それを利用する様な行動をされては、嫌でも警戒してくれといってるようなものです。
協力すれば此方の戦力が低下します。その間国内は平気でしょうか? 陽動を警戒するには十分かと」
「説得力があるな。すでに複数の諜報員がいる事が確実な今、下手な行動は取れん。
あちらの情報を受け取る事を条件にヤヨイを解放。
使者を使わし、あちらの国内事情を知った上で援軍要請を受けるか否か改めて審議、これでどうだ?」
なるほどね、なるべくは角を立てないようにと彼方の顔を立てた上で確実に情報を貰う方庫へ舵を切るのか、国家間の事はいからないから反対も賛成も不可能かな。
それならそれで少しでも穴を埋めるか。
「緊張感を高めずあちらの手の内を晒させる良い手ですな」
「ならば、これに従い交渉する事としよう」
「遂行するにあたりお願いがございます。その使者とヤヨイを接触させずに個別で事情を探って下さい。もちろん解放すると伝えた上でです。
すでに情報のすり合わせが出来ていれば無駄な手ですが。
情報に差異があれば何かしら隠している事が明白になります、今後の参考になるかと」
「その案を貰おうか。ギルバードはヤヨイから情報を受けろ、ローズは使者を此方へ案内せよ」
そして連れて来られたのは二十台前半と思われる若い男性だ。肌が若干浅黒く、耳が少し尖ってる、これってダークエルフじゃねえの? そうだとすれば魔術が得意な種族ってのにも納得なのだが。
「余が獣王国国王アーノルド・グラグロス・ガロンラルド十六世である。良くいらした使者殿」
「この度はお目通り叶いまして恐悦至極に存じます。キャッシュバルと申します、以後良しなに。
今回、貴国内にて諜報活動をしましたことをこの場似て謝罪申し上げます」
「謝罪するつもりであれば初めから諜報活動すべきではなかったな。貴国は我が国と敵対関係になりたかったと判断するがどうだ」
「その点に関しては貴国へ疑念を抱かせる行為でした。しかしながら敵対する考えは微塵もございません。謝罪申し上げます」
「その真意は測れん、後程にしておこう。
ヤヨイ殿を解放するにあたり此方からの条件を呑むのならば解放しよう。
代価として、貴国の現状に関する情報を頂きたい」
それじゃだめだな、もっと強気で強引に行かなきゃ舐められる。
「お待ち下さい陛下。
ヤヨイは国内にて諜報活動に勤しみ、こちらの知られたくない情報を持っている可能性が高い。
よってわが国では永久に牢にぶちこんで監視、もしくは流出を防ぐために処刑する事も視野に入っている。解放の対価として、貴国はどの様な対価を提示し実行するのかね。答えろ」
「……現状此方の有する情報をお渡ししましょう。同時に我が国の内情の情報をお渡ししします。それだけでは信用されますまい、視察団を派遣なされるがよい、その目を持ち判断なされよ」
堂々と探っていいよとの事なら便乗しても良さそうかな。
いってる本人がこの場にいる以上、あちらで情報のすり合わせは無理だろうしな。
「それで良かろう。次に援軍要請だが、現時点で答える事は出来ん、視察団が持ち帰りし情報を元に検討する」
「御尤もな判断です、検討して頂けるだけでも有難く存じます」
「さて、次に移ろうか、貴国内での魔物の被害はどうかな?」
「……獣王国と同じく、いえ、それ以上にスタンピート化した魔物に襲われております」
「これも視察団が情報を持ち帰らねば真実のほどはわからぬか。
一応忠告しておこう、我が国の一部の者は貴国が何らかの手段で魔物をランクアップさせこちらの戦力を推し量っているのではないかと考える者もいるが。
貴国内に発生せしスタンピートは自演の可能性もあると考えられるが、どうかな?」
「御冗談を、好き好み自国の市民を巻き添えにする事などあり得ません」
「それはどうであろうな、ヤヨイ殿の国内への干渉とあまりにも次期が一致しすぎている。この点、払拭する事は可能かね?」
「どの様な手段でも貴国を納得させる事は不可能でしょう。わが国も含め、敵対関係の帝国はいうに及ばず。周囲一帯の国々でも発生しておりますので」
「そうであろうな、しかし、見誤ったものだな。
わが国も帝国の振舞には少なからず思う事はある。普通に接触しておればこの様に懐疑的な目で見ずに済んだものを」
「返す言葉もございません」
「さて、議論はこの位で情報を頂けますかな」
「はい、用意しておりますので此方をお納め致します」
羊皮紙の束で渡されたそれに書かれていたのは獣王国の内情と魔人族の国、ジアラハルトの内情に関してだった。ザックリ書くと。
獣王国側は首都のみに絞られる。
騎士の人数から衛兵の人数、魔物ハンターの大よその総数からその質まで。
そして現在の主力に関して、戦闘面を細かに調べられていた。
魔人族の国側は上記に加え、帝国との戦闘の頻度から負傷兵の数から死者数、そして全体的な人口減少の情報に至るまでであった。
「ここまで調べられているのか……異世界より拉致された勇者に関する事は書かれていないのだな」
「そこは何分デリケートな部分ですので、あまり大っぴらには出来ないのです」
「ふむ、去年帝国が勇者召喚を行った事は把握してるかね?」
「無論です、其方の情報は生命線ですので」
「ではその四名がどうなったのか把握しておるか?」
「陛下もお人が悪い、そこまで情報をお持ちだったのですね。ヤヨイ殿が勇者だと看破されたのも納得が出来ました。
先ほどの問いですが、全員死亡した模様です。どうもスタンピートの発生時に丁度居合わせたらしく、残っていたのは馬車の成れの果てのみだったと報告を受けています」
最悪の事態を考えてはいたが……やっぱりあのガルーダの移動速度からは逃げれなかったか……。
俺は今後どうするか……いや、帝国とどう向き合うのか……。
「テリスト。顔色が悪いな……別室で休んでおれ」
「いえ、大丈夫です。最悪全員死んでるかもしれないとは思ってましたので」
「テリスト殿は何か特別な事情でもおありでしたか?」
「勇者に会いたいといってたのですよ、召喚の情報が入ったかと思えば時を置かずに強力な魔物に襲われたと情報を受けましてな、気が気では無かったようです」
「……」
「ヤヨイ殿に会えた事で少しは達成できましたかな?」
これだから馬鹿は! 適当な事いうなよ。
「使者に対して失礼だとは思うが、喧嘩売ってるか? 目線を変えれば犯罪の片棒を担いでた奴を勇者として扱えとでも? 戯言はたいがいにせえよ」
「テリ止めなさい、国家間の公益を損なうわよ」
「公益ねぇ、緊張状態を作り出したこいつらほどじゃないな。他に諜報員を何人潜り込ませている事やら、どうよ使者殿」
「これは手厳しい。ですが、いわれて当然でもありますな、本当に申し訳ない」
「ふん。今回はヤヨイを捕らえた事で明るみに出たな、それで嫌がおうにも謝罪する羽目になって今こうしていらしてる訳だが。
これ、捕まえてなかったらどうするつもりだったのかね、非常に興味があるな」
「テリスト。激怒する理由がある事はわかるがそこまでだ、今は頭を冷やすために別室で待機しておけ、後の事は我々に任せろ」
「陛下申し訳ありません。クイン、先に戻らせてもらうぞ」
クインを抱き寄せ外へ出ると、待機していたメイドに案内されて退出するのだった。




