50:回避
王城へと一緒に向かったココアだったが、発言をしない事を条件として提示され、それに了承した事で同席する事を許されたのだった。
単に父親から話されれば知る事であり、早いか遅いかの違いでしかないからだ。
そして俺からというより、アリサが書いてもらった署名も提出されたのだった。
そして当の本人、いい変えればランザーク侯爵本人も同席しているとの事だった。決闘に参加せずに無事だったのだろう。
案内された部屋に入れば、見知らぬ者はこの中ではただ一人、その人が侯爵本人なのだろう。この人の出方次第では廃位までと考えてはいるが、どうなるかな。
「これでメンバーも揃った、今回の対策会議を開始する。ローズ、経緯の説明を」
「はい陛下。
発端となりましたのは入学式が終り、教室にて自己紹介が行われている最中です。
教師の制止も聞かず、恫喝した上で時間を作らせております。
ココリアーナ様への求婚が破談したと、ファーラル男爵を非難し決闘を要求しております。
これに対する決闘への参加条件としてファーラル男爵より条件を突き付けられ、ターサハラ様がこれをご承諾されております。
全ての条件を羊皮紙へ書かれ、同一内容を二通作成し、それぞれ署名捺印の元、偽造防止に割り印を押されております。
そして先ほど提出いただいたように、その場に同席されていた方は多数おり、真実である事への疑いの余地はありません、此処までが学校でのやり取りとなります。
次に、決闘はすでに終わっておりますので省きます。
賭けた内容は相手の持つ全てを取り上げる事が可能です。執行を拒否された場合ですが、強制執行を何時でも行えるようになっております。この際、妨害された場合は殺したとしても罪に問われません。
この取り決めにより、ランザーク侯爵本人が拒否した場合、強制執行へと移行いたします。
今回お集まり頂きましたのは執行内容に関しての確認等となります。
以上となります」
「追加情報だが、ギルバードより報告があった。
決闘の最中、ファーラル男爵より謝罪すれば色々と便宜を図ると伝えた様だがターサハラは一蹴した。
確かに侯爵本人では無いが次期侯爵の地位に就く者の発言としてはかなり重い。
この事からファーラル男爵が爵位を望んだ場合、遂行する事を宣言する。
ランザーク殿、釈明があれば申せ」
「まずは謝罪を、テリスト殿、馬鹿息子がご迷惑を掛けし、本当に申し訳ない。
そして、温情を頂けないだろうか」
確かに本人じゃないから温情と言う面では確かに考える余地はあるけどな、肝心な部分が抜けてまっせ、それでよく侯爵が務まりますね。
「謝罪は受けますよ、勿論です。ですが、貴方は本当に侯爵の地位に就いてるのですか? とてもではありませんが信じられません」
「無論侯爵の地位を代々引き継ぎ陛下の元で務めておる。
だからこそこの場にいる、何か貴殿に不愉快な思いをさせてしまったかね?」
考える余地を与えたのに気が付いてないのかよ、こいつもダメな部類の奴だな。
駄目だからこその指摘だったのだがな、普通は気が付くだろうに。
「あ、あんたな。今俺が指摘しただろ、それで考えが至らないって本当に貴族か? それすらわからんなら今の内に自ら返上しろ!」
「テリスト止めよ。何が不満だったのか、不足していたのか説明しろ」
陛下もこの程度かよ。カーラがいる手前指摘はしないが、正直イラっとくるな。
「はぁ。本当に大丈夫なのかよ……よく聞け、温情をくれと言う前にだ、何故馬鹿やらかした奴の処罰を説明しない? 真っ先に話すべきだよな、無罪放免にするから温情をくれとでも言うつもりか?
そしてあの取り巻き四人もだ。止めなきゃならん状況なのに止めもせずその場にいるだけ、どれだけ侯爵家にとって恥をさらしてるのかすら理解していない。
そもそも本人が馬鹿やらかしてる時点で救いようがないけどな。
威信だのなんだの言い散らかしてたが、本人が一番愚行を犯してる事にすら気が付いてない。ま、そっちは今更か。以上だ」
「確かに貴殿の申す通りだ、謝罪のしようもない、奴は家督も取り上げた上で絶縁する」
おいおい、頭いかれてるぞこいつ。
爵位が廃位寸前だってのに家督も何も無いだろうに、渡す家督が無くなるかどうかの瀬戸際だって事を理解してないのかよ。
「だがどうなのかね、その家督さえ考える必要が無い事態だよな、それって罰になるのか? 爵位もなくなり資産もなくなり何を相続させる気だよ」
「ではテリスト殿はどの様な内容であれば納得するかね?」
切り返しとしては相手に判断をゆだねる事から有効な手だが、この場では似つかわしくないな。自ら考えられませんと宣伝するようなものだ。それも侯爵との肩書を背負っている者が、あきれ果てるわ。
「突き付ける前にあんたに一言添えようか。侯爵の爵位持ち本人が自ら考えずに相手に判断を迫るって情けなく無いか? それとも、その程度事すら考えられんのか? どうよ」
「テリスト殿のいう事も尤もだ。奴隷として売却し、その代金をお支払いしよう」
ふむ。隷属の首輪があることから、その手の者がいるとは思っていたが、実際聞くと野蛮だな。だが、丁度良い提案ではあるな。
「ではその様に」
「ただ。あの四名をどうするか、他家の事ゆえどうにもできん」
そりゃそうだ、その権利を有するのは陛下だけだが。この状況では手は下せないだろ。
「なら放置でいい。どうせ逆らえない状態で口出ししようものなら寄子から外すとか、奴なら脅しそうだしな」
「左様か」
「テリスト。温情の部分はどうする? 今のままでも爵位を取り上げる事も可能だぞ」
「潰すのはこの際簡単ではありますけど、今剥奪したら空白地帯ができますよね、陛下としてはどうなのでしょうか?」
「率直に言って手間ではあるな。統治する余力と言う意味では足りてはいるが其方ばかりに目を掛ける訳にはいかんといった所だ」
なら潰さな方向で良いか、その代り資産の大半を削らせてもらおうかな、その程度で済ませてやるから感謝しろよおっさん。
「それじゃこうしましょう。資産を全て貰って、家が数件増えても持て余します。俺はハンター家業は続けるつもりですし、武器や防具を買うのは比須事項、だから要求はオリハルコンを五十kgもらいましょうか。それで今回の件は終わらせます」
オリハルコンの武器一つ、価格が白金板数枚から十枚台、五十kgも要求されたら白金板百枚は軽く超える。そこまで散財させれば結構なダメージだろう。そもそも屋敷を売り払わないと用立てられない量だ。潰すと陛下が相当に困りそうだし、この辺りで丁度良いだろう。
「確かに大半の資産を売却しなければ買えはしないが、それなら全資産をもらい受けた方が多く買えるぞ」
「その手間を省けると考えたら安いものですよ。
それに。この辺りで一番強い魔物ってリザゲートでしたか、一日狩れば今なら二百匹は軽く倒せますし、資金には困ってませんから」
「二百匹……」
「あ、あんたね。また余計な情報をペラペラと……」
ワザとですけども何か? 此方の戦力をある程度流す事で抑止力とする。これ、喧嘩売られない為の布石なのですわ。
排除する手間を省けるなら安いもんだって。
喧嘩売られたら売られたで資産の没収まで持って行くから利益には繋がるんだけどね。
「だけどさ、もうちょっと強いのいないのかよ、レベル七十とか八十程度の魔物がいないから本当に飽きちゃたよ。今じゃ単なる作業だよ」
「ま、魔物の強弱は置いといてだな、今いった事に異論ある者はいるか?」
満場一致で反対されず正式に決まりました。
これを書面化して会議は終わるのだった。
そして王城を後にする訳だが馬車で送ってもらわずに歩いて学校へ向かう事にした。
大半の学生はコロシアムに向かったのだからまともに機能してないだろうからだ。
「あっけない幕切れだけど、何とか潰さずには済んだか、陛下の心労が少しは減ったかな?」
「そもそもあの程度で宜しかったのですか? 全ての資産を受け取れば倍近くは買えましたのに」
「売却して購入資金に変えるのって本当にひと手間だよ。当然執事やメイドに丸投げだろ、それはそれで激務になるからな、それは避けたかった」
「テリにしては結構考えて要求したのね」
「はぁ、本当にアリサって毒舌だよな、何時から?」
「そういうあんたは、何時からトラブルメーカーなのよ?」
痛い所を突いて来るね。暗殺者集団を壊滅させた辺りから? いや、王家に目を付けられた時点か? けっこう繋がってるからわからんな。
「質問に質問で返すのは感心しませんな、とか言っても良さそうだけどお互いか、不毛な言い合いになりそうだしやめとこ。それよりさ、いい加減換金しに行かないか?」
「それはテリクンが面倒くさいと言って貯め込んでいたんですよ、貯め込んだのを全部提出したらそれこそ問題になりそうですよ」
といってもね。狩に行くたび百体以上倒すから、毎回毎回納品するたびに変な目で見られるんだよな。確実に。それを避けたかったんだが……どうにもならんな。
「そんな事いってると永久に貯め込みそうだな……」
「魔物の素材の事だと承知してますが、どれほど回収されてますの?」
「確か、蛙の肉なら五百以上、ワニ? の皮ならたぶん二千近く、魔石小だと三千近く? だったかな」
数えてないからわからないんだよね、たぶんその位だとは思うけど。
クインに頼んで周囲一帯の魔物をがっつり釣って倒して移動を繰り返したから、途方も無い数を倒してるんだよな。
「どれだけの期間貯め込んでますのよ、そもそも肉は腐りますわよ」
「そこは大丈夫。時間経過しないから腐らないんで、貯め込んだのは約二ヵ月分かな?」
「そういえば、テリからもらったマジックバッグに入れていると食べ物って傷まないわね」
「便利だよね、食料貯め込めば年単位でも放浪の旅ができまっせ!」
「そんな事絶対しないから大丈夫よ」
「驚愕ですわね、私も与えられて持ってはいますが、その様な機能は付いてませんわよ」
「そもそもテリクン、五千以上もの数を持ち込むのは魔物ハンターギルドの現金が減りすぎて対応しきれないと思いますよ」
いわれればたしかに、在庫を捌くのも苦労しそうだよね、苦労するのは魔物ハンターギルドの職員だけど。
「ふむ、それならやっぱり陛下へ卸す? それしかないか。
それは良いけどさ。倒しても倒しても減る処か、毎日元の個体数程度には復活してるよね、どうなってるんだか」
「確かその手の研究をされていた方がいらっしゃったと思いましたが、結論は出なかったと記憶してますわ」
一晩で数が元に戻るのも脅威ではあるよな。どんな生態系なのやら。
「それじゃダンジョンの魔物も際限なく出てきそうだね」
こうしてのんびりと学校へ戻り、教室へ入ったのだが、誰もいなかったので自由時間となった。




