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42:廃位

 翌日も引っ越し作業だった。元の男爵家で使用していた家具の方が趣味に合う為にとっかえひっかえと模様替えを行い、壁を剥いだので大工へ修繕の発注、地下室に不要な品を種類別に何時でも引っ張り出せるように並べたりと忙しかったのだ。

 それもこれも俺の腕が右手一本の為に皆をこき使う羽目にもなり、穴埋めの慰労とばかりに外食したりとそれなりに充実した日ではあった。


 更に翌日の謁見と言われていた日。今回もご丁寧に騎士のお出迎えから、王城の貴賓室で一時待機、そこから謁見会場まで先導されたりと、特には問題無かったのだが、今回も荒れました。盛大に。


『今回、ファーラル卿を呼んだのは先日スタンピートにおける脅威を排除し、大衆を脅威から守り通したその功績を称え褒美を与える為だ。ローズ読み上げよ』

「陛下に変わり代読致します。

 一つ、子爵位を授ける。

 一つ、先日廃位した伯爵の管理地、プレストリアを委譲する。

 一つ、支度金として白金板十枚を与える。

 以上、三つになります」


「陛下、スタンピートは確認しておりますがそれほどの脅威だったのでしょうか、騎士たちに確認した所、最も強い魔物でもウイングキャットだったとか、その程度の働きでは爵位処か全ての恩賞は不要ではありませんか」


『それは情報が足りぬな。テリストが追い返した魔物はウイングクイーンキャットだ。ウイングキャットに後れを取り腕を失ったのではない』

「その証拠は何も提示されていないとも聞いております。本当に存在していたのですか、疑わしく思います」

『では。卿はたかだかウイングキャットごときに後れをとり腕を無くしたと言いたいのだな?』

「左様です。いかに強くとも数で押されれば体力も消耗し隙が生まれるものです。その程度の功績では恩賞を与えるにふさわしく無いかと思われます」

『ふん。直接的な証拠ではないが、ボスが置き去りにした子をテリストが保護しておる。知っての通りウイングキャットには翼は無い。だが。その子には翼がありボスの子であったと認識しておる。全く問題はない』

「どこから連れて来たかもわからぬ魔物の子を提示されても証拠品にはならないのではありませんかな?」

『当日狩場まで馬車で向かっておる。カーラも同席し連れおらぬのは確認済みよ』

「そうれはどうでしょうか。前準備して連れ帰るだけの状態で保護しておったのかもしれませんな」


 なんだか聞いててムカムカして来たなこいつ、何処まで証明したら納得するのか。


「陛下、発言の許可と少々ご無礼を働く御許可を頂きとうございます」

『ふむ、少々の事ならば許そう』

「ありがとうございます陛下」


 そして立ち上がる。


「さてさて、俺がレベル十四程度の魔物に後れを取り負傷するとお思いか?」

「当然であろう、人は数に押されれば体力を消耗し不覚をとるもの、不思議でも何でもない」

「ふむふむ。俺が一人で対峙したとしてウイングキャット何体程度なら腕一本失うとお考えか?」

「そうよな、百体程度もおれば不覚を取るであろうな」

 百ねえ……。

「それではこの場にいらっしゃる皆様の中に、同じ考えの方はいらっしゃいますか? 挙手をお願いします」


 面白いほど手が上がる、半数程度の者たちだろうか、ざっと四十人ほど。


「ほうほう、結構いらっしゃいますね。では追加で質問です。貴方お一人ならウイングキャットを何体同時に相手に出来ますか?」

「二体までならば確実に勝てると判断するが。三体では厳しいと判断する」

「それじゃ手を挙げた方全員足せばウイングキャット百体程度の実力にはなるでしょ。全員対俺一人の決闘をしましょうか」


「何を馬鹿な事を、貴族は直接戦闘はせん、戯言もほどほどにされよ」

「戯言ねぇ、百体程度の戦力を其方に付けるんですよ。俺はそれで負傷して腕一本無くす戦力です。貴方が身をもって証明すれば陛下も納得し恩賞を取り下げるでしょう。逆に俺が無傷で勝てば俺の証言が正しいと証明できますからね、一石二鳥でしょ」

「手を上げられた全員が魔物二体以上と渡り合えるとは限らん、その様な事は辞退する」

 なら、そっちの人数を増やして戦力を増やしてやれば受けるんだろうな?

「ふーん。ならそっちの人数を増やしましょうか。血縁者なら上限無しで連れて来て良いですよ。数百名対俺一人なら良いでしょ。勿論断りませんよね? ウイングキャット二百体程度にはなるでしょ? ほら受けなよ」

「…………」


「なに? 上限無しで連れて来て良いと言ってるのにそれでもしり込みするの? たかだか九歳のガキ相手に。貴方の言った百体で腕を無くす。それを証明すら出来ないの?」

「…………」

「あのね。当時は両腕だったのよ。それで今は腕を無くして右腕一本。確実に当時より弱くなってるのよ。それでウイングキャット百体以上の戦力をそちらに差し上げますから決闘しましょうと言ってます。理解してますか? 何か答えなよ」

「…………」


「何なんだろうね何も答えないって。それとも高々ウイングキャットの戦力にすら届かない弱っちい連中しかいないのかね?

 俺の弱さを自身の身を使っての証明すらする気無いの?

 それとも言ってる意味が分からないのかな? その程度で負傷するほど弱いってのなら、貴方様のお力で証明してくださいって言ってるのよ」

「…………」


「何を黙り込んでるのよ、高々Lv十四の猫相手に腕一本犠牲にしなきゃ追い払えないほどの雑魚だよ、なんで躊躇うのさ、圧倒的な好条件なのに、それとも何よ。

 本当はそれほどの脅威がいたとして、追い払ったのなら数百人でも足りないと思ってる訳? どうよ」

「…………」


 不利になると黙るとか本気で頭にきたぞこいつ、どうやって料理するかね。


「何黙ってる! お前が俺を雑魚だと思ってるんだろ、さっさと決闘を受けろ!

 雑魚だと思ってるなら逃げずに受けろ! きっちりお前を半殺しにしてやるよ、表に出ろボケ!」

「テリ、それ位で止めておきなさい、全員引いちゃってるわよ」

「黙れアリサ。

 あまつさえ此方の提示した証拠が全くのデタラメだと抜かしたカス野郎相手に遠慮なんかいるかよ。

 別に恩賞を欲しいとは思わんけどな、正当な評価すらしきれんようなカス連中にはムカムカするんだよ。

 そうそう、出て行く前に言っとくがな、ムカつくならかかって来い。遠慮なく潰してやるよ。

 陛下、申し訳ありませんが恩賞のすべてを拒否させてい頂きます、失礼します」


『待てテリスト、少々の範疇を越えてるぞ!』

 その言葉で隣のアリサには捕まるわ、カーラ様には捕まるわ、当然の様に隊長にも捕まるわで身動きが……逃げ出せなかったのだった。そのまま報酬ごと、爵位を捨てようと思ったのに……。

「それはすみません、根が正直なもので」


『さて、とりあえずは言いたい事は言った様だが。

 反対した貴様たちはこの始末をどうつける。本人も恩賞は必要無いと言い切っておるしな。

 そもそもスタンピートの脅威に対して何も役にも立たなかった貴様らだが、俺の判断に真っ向から対立した訳だ。

 そして、その中尽力した上で腕一本失った者に対しての評価は恩賞は不要、何も与えるなと言った訳だ。さて、どうすれば纏まると思うか? 答えろ』


「た、大変申し訳ありません陛下」

『卿、そなたの尺度で推し量った評価であろう、この場をお前に任せようじゃないか、結論を出せ』

「さ、最初に陛下が御示しになった恩賞が、よ、宜しいかと」


 こ、こいつ、俺に対して完全に喧嘩を売ってるな、潰すか。


『最初と全く正反対の事を言っておるな、その様な判断を下すのならば最初から揉めずに済んでおる。

 貴様の最初の判断は恩賞無しであろう、恩賞など不要です。腕を無くしたのはそもそもその者が弱すぎたのですと言ってみろ』

「ご、ご冗談を陛下。テリスト殿の実力は、は、把握しております」

『良く分からん説明だな、Lv十四程度の魔物に後れを取る雑魚だと貴様が言っていたのだぞ、その評価は間違いであろう、訂正せよ』

「…………」


「何黙りこんでる、俺に恩賞は不要だと言ったのなら最後まで突き通せよボケ。

 陛下からの証言全てを蹴ってまで恩賞は不要と言ったんだ、それなりの覚悟があるんだろ。

 そもそもだ、お前の様にコロコロコロコロ意見を変える奴なんて信用されねえよ、分かるか、お前は貴族失格、返上したらどうよ」

「も、も申し訳ありません。恩賞は当初の通りがよ、宜しいかと」

「はいはい、今更要りません。どうせもらえるのならお前の命が良いですわ、公開処刑しましょうよ。俺が決闘で潰してやりますって」


『受領者本人がお前の命を御所望だぞ、俺は一向に構わんな。

 貴族は働いた者を正当に評価し立てねばならん、その資質が欠片も無い人材など貴族にあらず、俺はそう思っているが、卿はどうだ? そんな奴排除した方が後の為だと思わんか?』

「…………」

『こいつだけの問題では無かったな。後四十名ほどいた訳だが、どうするかね、全員爵位を剥奪した上で放逐するか? こいつらの領地全てをテリストに預ける方が良くなりそうだからな』

 え……、それはいかんでしょ。そんな統治能力ある訳が無い!


「陛下宜しいですかな」

『ファーメル卿か、どうしたのだ、申してみよ』

「流石に四十名もの貴族を排するのは見過ごせません。それでは統治に穴が開きます。なにとぞご再考を」

『確かに一理はある。それではどうすれば纏まる? 何も考え無しで申した訳ではあるまい?』

「排他するのはその一名で宜しいのでは、他の者は正面切って反対はしておりません。

 そして一言申し上げるならばプレストリアほどの町を任せるのに子爵では釣り合っておりません、伯爵位を授けるべきです」

 上げるなよ! 正面切って反対してやる。


「横合いからすみませんが、恩賞は不要ですよ。其方の方がおっしゃっていたではありませんか、それに賛同する方が四十名もいらっしゃるのです、そこで逆に上げるのはファーメル侯爵閣下の御判断とは思えません」

『はぁ。まず一つ片づけようか、そいつの爵位を剥奪せよ、同じく一月の猶予を与える、その期間に貴族の区画から撤退させよ、土地建物代金はきちんと支払っておけ、家族にはその旨説明しろ。

 ギルバード、頼めるか』

「要点をまとめた書状を頂きたく思います、宜しいでしょうか」

『それは必要だな、後程準備しよう、そいつをつまみ出せ』

 出入り口に陣取り、護衛として待機していた近衛騎士の手により連れ出されたのだった。


『此方が問題だな。

 此方の提示、不要、上げろ、要りませんと四種も出そろった訳だがこれでは纏まるのも纏まらん、各意見を持つ代表者を集め再度再考する事とする。

 ローズ、反対した者を明記して保管せよ。内、二名連れて来い。

 以上、閉幕とする』

 






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