39:恩賞
ドロップ品沿いに北門へ向かうと、もっとも足の遅いミルワームに追いついたのだった。バックアタックである。
サッカーボールの様に蹴り飛ばすと空中でアイテム変わる芋虫、シュールである。
此方の方には注意も向けておらず蹴り放題、そして密着してる相手は巻き込まれて数匹同時に倒される始末だ。
そして北門側からも此方へ殲滅しながら騎士が向かって来ていた、ウイングキャットは兎も角、ゴブリンやミルワームなら守りに回らずとも処理が出来ると判断して攻勢に回ったようだ。
そして騎士たちに守られるように後方から二人が付き従っていたのだった、そして完全に殲滅した後に合流する事になる。
「ど、どうしたのよその腕は!」
「そ、そうですよ、テリクン、いったいどうしたのですか!」
「すまん、腕一本犠牲にしないと追い返せなかった。それ以前に、マジに死にそうだったわ」
「馬鹿、馬鹿、本当に馬鹿なんだからー!」
もうね、俺より平静を保てず泣きわめいて俺を抱きしめたのだった。
水属性かもしくは光属性の魔術を鍛えれば再生可能だからそれほど悲壮感は無いんだけど、やっぱり心配かけ過ぎたな、それも強引に残った挙句、腕が一本無くなってる訳だしね。
逆の立場ならと考えれば当然か、簡単に納得できる事ではないからな。
「そうだな、馬鹿を極めてるかもしれないな、本当に心配かけてごめん」
「ごめんでは済みませんよテリクン! どれだけ心配かければ済むのですか!」
涙流しながらも俺を睨みつけているが、心配してこそ怒っているのはわかりきっている。反論できる立場じゃない。
「怒られて当然だよね、無理に居残った結果がこれじゃ反論のしようがないや。それより、相手の親玉を追い返したんだ、その事を報告しなきゃ」
「そ、そうね。それは必要ね。テリ、歩いて大丈夫なの?」
「何だかバランスが悪いけど歩くのに問題は無いよ」
「それもだけど、その抱いてる子猫は何よ、攫って来たの?」
「親玉だった魔物の子供、自分が死にそうになったからって捨てて行った。
不憫だからね、俺に懐いちゃったから育てるよ。ほらクイン、この二人は同居してるお嫁さん候補な、仲良くしてくれ」
『にゃおーん』
渡すと顔をスリスリして懐いてくれた。ま、言葉を理解してるんで当たり前なのだが。
「この子も被害者といえるのね。それにしても人懐っこいのねこの子、それにクイン? もう名前を付けたの?」
「そう、親から名前を貰った。ウイングクイーンキャット、それが親の名前、一部貰ったんだ」
「ウイングキャットの女王様がボスだったのね」
「名前からするとそうだろうね、レベルも七十台と飛びぬけてたよ」
「……それより、このまま報告に王城へ行くの? 後日にしなくて平気なの?」
「若干血が足りてない。ま、今も歩いてる通りに激しい運動をしなければ大丈夫、それより隊長のおっちゃんは何処よ?」
「近衛騎士隊長は此方にカーラ様がいらっしゃるのなら此方はお任せするとの事で、自ら西門へ行っております」
此方の会話には加わらず。見守っていた騎士の方が答えてくれた。
「それじゃどうするの? このまま西門へ行って、魔物が残っているようなら挟撃かな?」
「其方は我々で向かいましょう。カーラ様方は王城へご報告をお願いできますか?」
「はい、それで宜しいでしょう。まだ魔物が残ってるやもしれません、気を付けて任務にあたるのですよ」
「心配には及びません、この程度の魔物ならば遅れは取りましません。それでは我々は西門へ向かわせて頂きます。では」
護衛の五名の騎士を除き四百人か五百人規模の騎士たちは外壁沿いに南下して行ったのだった。
そして此方は壁沿いに北門へ向かう。
「門は門で守ってるのよね?」
「先ほどの半数程度ですが守っております。テリスト殿の馬車も其方で待機中であります」
「そかそか、ありがと。カーラ様、手を貸して」
手を繋いで馬車まで歩き、騎士たちとは別れて王城へと向かうのだった。
そして陛下への面通しだが、今回はカーラの立場を利用させてもらう、一応緊急だからだ。
そして通された部屋では腕を組んで唸っている陛下が待っているのだった。
「テリスト!……どうしたのだその腕は!」
顔色悪いな、俺を見た途端血の気が引いてるし……。
わらなくは無いが……九歳で片腕だとしたら今後の生活が、と考えるのは当たり前か。
「魔物の親玉を追い返すのに腕一本、犠牲になりました」
「生きててくれて何よりなのだが……九歳でそれでは……」
「魔術を鍛えれば何とか元に戻せます。それまではかなり不便な生活にはなるでしょうが、死んではいませんのでそこまで心配せずとも大丈夫です」
「あ、あのな、元に戻せるにしてもだな。はぁ、まあいい、今回は相当に危ない相手だったようだな、それは兎も角戦い通しだったんだろ、こっちに座って喉を潤せ」
お言葉に甘えてハーブティーぽいのを頂いた。
「それで結局その親玉は何だったんだ?」
「ウイングクイーンキャット、Lv七十四、敏捷がAで俺でも速度では完全に負けてました。反応速度から何もかも相手が上です」
「それで良く腕一本で済んだな」
「相手に付与魔法で電撃入れましたから、その際に腕を持って行かれましたけどね、後は逃げの一手、相手は不利になると逃げました」
「テリストが食い止めてなければ何人死んでいたか分からんほど被害が出ただろうな」
だろうね。それで無理にでも止めたのだし。
「陛下、ちょっと話を変えさせて頂いて宜しいでしょうか?」
王家の者以外にも文官ぽいのがいるんだよな、なるべく話したくは無いが、信用可能かは陛下に尋ねるか。
「なんだ? 言ってみろ」
「何分極秘事項なんですよ。知られればかなーり不味いんですけど、人払いした方が良い方ってこの場にいますかね?」
「ふむ。聞いたな、俺の家族とローズ以外は下がれ」
その言葉を聞いたもろもろ出て行ったのだが、アリサまで出ようとしてので残らせた。
「さて。クイン、喋っていいぞ」
『このような場で話して良いのかの? まぁ主殿の判断なら従うのじゃがな』
「な……その子猫は話せるのか」
クイン程度の格なら話せて当然と本人は言ってたが、これって嘘だったのかね。
どうも陛下すら知らなかった様だが……まずったか?
それを見越して最低限の人数には絞ったからまあ良いか、割り切るしか無いが。
「あまり大きな声で話さないでくださいね。ボスを追い返したと話しましたが、そのボスはこの子ですよ」
「…………」
ありゃ、全員黙っちゃったか。
「えとですね、完全に屈服させたので俺に懐いてます。殺してないのでドロップ品は当然ありません、ですから親が捨てたこの子を俺が拾って育てるってストーリーです」
「あ、あんた、何を考えてるのよ!」
マジ激怒してるな。だけどこっちも引き下がらないのだよ。絶対に殺させない!
「いや、だって俺に懐いてるのよ、そのままペットにするって当たり前でしょ、こんなに可愛いのに」
「腕一本持っていた相手に言う言葉か!」
まぁ、そう思うよな普通。だけど俺の立場だと命の恩人でもあるんだよな。
「いやいや、それを言うなら俺もクインを殺す寸前だったんだって、それも本当に一歩手前。
そもそも戦ってる最中に一度気絶したんだよね、覚醒するまでクインが守ってくれてたの、だから信用面では最高だよ。その気になってたら俺はとっくに死んでるんだからね」
「それ、本当なの? クイン」
『うむ、主は一度倒れられた。気が付かれるまでわらわがお守り申し上げたのじゃよ』
「はぁ、もう好きにして。それにしても、本当にしゃべってるのね。驚愕だわ」
「テリストと知り合ってからこっち、驚愕な事ばかり続くな。テリストの作り話に乗っておくか。脅威は微塵も感じず、その気ならとっくに俺たちは死んでるからな、そもそもテリストが真っ先に死んでるか」
「クインちゃんいらっしゃい」
王妃様が呼んじゃうし、それに合わせてクインは移動して抱かれてるし、驚異の欠片も感じないな。
「本当に良い子ね。テリストの目に狂いはないようね」
「何にせよ北門側の魔物の排除は完了致しました、私たちと分れた近衛騎士隊の半数は西門側に向かっていると思われる魔物を殲滅すべく後を追っております。
順調に終われば一時間も掛からずに報告が届きましょう」
「カーラも良くやった、後はギルバードが戻るのを待つのみか。
それにしてもテリスト、治療するまで不便だな、どうしたものか」
「それは良いですが、一つ売ってもらえませんか。鑑定阻害するアイテムを、クイン用に」
鑑定を受けたら飛びぬけて強い事が知れ渡るからな。それは阻止しないと不味い。この場で頼むのが最も確実な対処法なのだ。
「ふむ。空きスロット二つの品を作るのは至難の業だが一つならそれほど苦労はしないか、アラームは要らないだろうからな、準備させよう、料金は十万リル貰うぞ」
「それでは先払いします」
白金貨を一枚取り出して支払った。
後日、ある事が切っ掛けでクインの本来の大きさが公開された。
その事が切っ掛けでペンダントにはある仕掛けが施されたのだ。ペンダントトップにチェーンを自動巻き上げする機能が加えられ、体の大きさ変化への対処された品となり、別途お金を請求されたのは言うまでもない。
「確かに預かった、出来次第持たせる。
そして今回のスタンピート対応の功労者として表彰する。もれなく爵位を上げるからな、楽しみにしていろ」
「え……上がっちゃうんですか……」
やっぱりか、下地が出来たとか言ってたからそうかもなーとは思ってましたが当たりましたか。
「当たり前だろ。片腕無くしてまで追い返した功労者に何の褒美も無しなんてありえないだろ、そうだな、普通に一つ上の子爵だ。流石に伯爵までは上げれんからな。
それと同じく領地を任せる事になる。候補は例の潰した伯爵家が管理していた地だ。今は空白地帯となり王家が管理している。
成人までは王家から代官を派遣し管理に当たろう、その事もあって金銭部分はかなり削る事になる」
また厄介な事を……領地運営するスキルなんて持ち合わせてませんがな。
どんどん厄介な立場に、逃げたいな……。
「も、もれなく土地までついて来るんですか。……子爵で伯爵規模の土地は不味くないですか……」
「一つの大きな都市と周囲に複数の村落だからな、切り分けて与える事が出来んから諦めろ。
そして本来なら支度金を渡す処だが、爵位と規模が釣り合っておらんからその分は減額させてもらう」
「それは一向に構いませんが、はぁ、領地運営か、またまた厄介事を背負うんですねぇ」
「貴族の責務だ諦めろ」
「その派遣された代官、うちの養子に出来ませんよね……」
「あ、あのな。出来るけどしないでくれるか、俺の面目丸つぶれなんだよ」
「そうだと思いました、諦めます……」
「そんな訳でだ、領地運営もする必要がある事から王家が寄親になろう。テリストは王家の寄子になる訳だが、意味は分かるか?」
「ザックリとは分かります。一つの家族と見なして、親と子の関係、そして派閥としても同列に見られる訳ですよね」
カーラを娶るって段階で同じ事だと思うんだよね。確認すら必要無いと思うのは俺だけか?
正式に表明するか否かの違いだけで、結局何も変わらないと、そういう事ですな。
「それだけ分かっていれば十分か、本来ならテリストは未成年であるから今の時期でも婚約者を寄親が紹介する訳だが、既にカーラが嫁ぐ事になっている。手間が省けたな。
それとローズ。有能な執事を一名選定してテリストにつけてくれ」
「それならばとっておきの方がいらっしゃるではありませんか。お声を掛けておきます」
有能なのは良いね、是非紹介してほしい、大半を丸投げしよう!
「そうだったな。それなら見習いを二名付けておけ、将来的に必要になるからな。
そうなるとあの屋敷では狭すぎるな……だが恩賞として渡す訳にはいかんからな、あの伯爵家を買わないか? 元々押収品だ、安くしておくぞ」
もしかして風呂付物件? それならほしいな。
「売って頂く分には嬉しいのですが、相場なんて知りませんよ、元ギルマスの資産で買えたりしますか?」
「なら決定だな、二百万リルで売ろう。明日朝に来てくれ、公文書作成も進めておく、指輪印章もその頃なら出来てるだろうし丁度良いな。家具もそのまま手を付けておらん、そのまま住めるだろう」
しかし、相場は不明だけど、二百万リルだと二億円ほどか、あの豪邸に家具付きだと倍は軽くしそうだよねぇ。
「それって半額以下ではありませんか? 良く分かりませんが」
「そうだな、五百万リルを下回る事は無いだろう。だが、押収品だぞ、無料の屋敷をテリストに売るんだ、王家としては丸々儲けになる。これでは周囲の貴族が納得せんからな、その対策でもある。
前回恩賞に白金板五枚を加えたのもそこが基準だったのだからな」
なるほど、あの屋敷の値段をそのまま恩賞に加えていたのか、何故なの金額か分からなかったが、これですっきぎしたな。まぁ、受け取って無いが。
「はあ、それではお願いします」
「今日はこれまでにしておこう、此方も後処理が残っているからな。それとだ、謁見は三日後で調整する。詳しい事は明日に回そう、今日は本当に助かった」
「ご期待に添えたようでなり寄りです、それではお先に失礼させて頂きます」
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テリスト
レベル:55
年齢:9歳
種族:猫人族
状態:部分欠損
HP:975
MP:451
装備品:ダマスカス製ソードブレイカー×二本、サラマンダー製皮鎧・ズボン・小手・ブーツ
資金:1630000リル+金貨多数銀貨少数銅貨少数。元ギルマス資産。
予備武器:鉄製エストック(刃渡り40cm)、ラージシールド(小円形盾、直径30cm)、ダマスカス製フランベルジュ(120cm)、ショートボウ、木の矢(尖端鉄製)172本、爆裂の矢27本




