32:謝罪
翌朝、寝る前の宣言通りに行動した。そしてアリサは服屋で部屋を借りて着替えたのだ。
現在は王城前の衛兵さんと会話中だ。
カーラを確認した途端、そのまま通そうとしたので待ったをかけたのだった。
「えーとですね衛兵さん、それは避けて下さい、非常に不味いんです。B級魔物ハンターのテリストが、王妃様との会見を望み来ております。と、お伝え出来ないでしょうか」
カーラの身分で入ったらそれこそこっちの立場が悪くなるだろ、それだけは駄目だ。謝罪する為に来た者が、王女の身分を使って強引に会いに来た。これほど不快感を相手に与える所業は無い。絶対に阻止せねば。
「そなたが不味かろうと、お通しせねば此方がまずい。王女殿下を引き留めたとあれば我々が叱責を受ける」
なるほど。立場が立場ならカーラを王女として扱わなかったと叱責されるのか。なら、俺が被れば大丈夫かな?
「そこはほら、俺が全て悪いって被りますからお願いします。証人がこれだけいるのですし大丈夫でしょ?」
「本当に良いのだな? 下手をすれば数日間反省の為に牢屋行きだぞ」
それでも良いから、お願いするしかないんだよこっちは。
「それで良いです、そして伝言をお願いします。全面的に私が悪いので無理に会見の時間を開けなくても結構です。王妃様のご予定に無理のない範囲でお会いして頂けます事を望みます。とお伝えください」
「ほう……王女殿下が同伴されていらっしゃいますので確かに直ぐにお会いなさろうとするでしょう、その点の考慮ですな。お伝えいたしましょう。立ったままでは何です、部屋の準備程度はさせていただきます」
やっとわかってもらえたか。
衛兵さんたちの休憩所か何かだろう。一部屋開けて頂き、待つ事四十分程度で先ほどの衛兵が戻り直ぐにお会いすると、案内されて移動中だ。
「うーん、意外だったな」
「何がよ」
「俺だったらその真意を探る為にわざと時間を掛けて、半日程度は待たせるね」
「それはしないんじゃないの、王女殿下も一緒なんだし」
「王女殿下も伝え忘れてるから少々待たせておいても良いと考えるよ俺ならね、反省も込めて。
本当に反省してるなら長時間待たせても苛立ったりはしないだろうし、それで苛立つようなら反省がその程度って見て取れる。真意も測れるし、王女殿下に相応しい相手なのか探る事も出来て一石二鳥なんだよね。折角の機会なのになんでしないのかな」
「本当に普段は抜けてへまする事もあるのに、こういう事には頭が回るのよね。それで、王女殿下を前面に出さなかったのもそれが原因なんでしょ」
抜けてるのは確かですけどね。此方の常識を元々の常識に照らし合わせて考えてるのだし、そりゃヘマしますよ。
「正解だね。王女殿下の威光を使って無理やり会ったらそれこそ心象最悪だよ、即婚約解消するほどにね。
それだと陛下の立場も悪くなるわ、王女殿下の行動も見咎められるわで、俺だけじゃなくて他にも飛び火するよ」
「お母様はその様な行動はされません」
まぁ、最悪の想定だからな。だが、確実に印象が悪くなるのだけは確実なんだよな。現時点で避ける事が出来たので良しとしておこう。
「断言できるほどでもないか、お会いした事無いから俺が王妃様だったらって目線ね、その中でも最悪の想定。
昨日話したけど、相手の目線で考えられるようになる事、それが出来ないと特権階級に着くには無理があるよ。要精進だね」
相手の考えを読み取って対話する事も必要だが。批判された場合の対応と線引きも重要なんだよなぁ。
「それでしたら昨日のお父様との会話は……」
「あーあれね、あれが相手だと考慮する必要無し。自分の都合で相手に強要することしか考えてないの、ああ言うのが悪意のある相手って事ね。
相手がこちらに配慮して考えてくれるなら此方もそれ相応に相手をする、それをしない相手には配慮する必要は無し。
これは俺の考え方で正解では無いかもしれない。意味わかる?」
「前半は同意します、ですが後半は当たり前なのではないですか?」
「当たり前では無いんですよこれが。
前者も後者にも当てはまる事ですけど、自分の判断、もろもろの基準でどこまでの相手なら配慮出来るか、それとも突っぱねるべき相手なのか。
それを明確に分ける基準を自分で考えて持つ事が必須条件。
何故かって言うと、場面が違うからと基準がブレていては基準が定まっていない証拠、それでは意見を言う度に変わるんですよ、それでは信用されないので貴族になれない。
これも俺の考えで一人ひとり違って当たり前、王女殿下は王女殿下の基準を持つべきですね。
ま、それぞれの地位があり、最悪な奴にも配慮する必要がある場面も出て来るでしょうね。ですから各個人で基準を持つべきだと」
「それは……難しいですね、今のわたくしには」
「そこは経験の積み重ねだよ。その中でがっちり決めれば大丈夫、まだまだ若いんだからそこまでの境地に達するには早いと思うよ。俺もはっきり言ってブレてるし」
「もうすぐ到着となります、私語はその辺りで」
「はい、すみません」
衛兵さんから近衛騎士さんへ案内役が変わり、注意したのもこの近衛騎士さんだ。隊長ではない。
歩いている順番としてとは先頭は近衛騎士から始まりカーラ、俺、アリサ、近衛騎士とサンドイッチ状態だ。
そして前回は一階で待機、二階で謁見、二階で会食だった訳だが、今回は待機室にも寄らずに三階の一部屋へと案内された。
上の階層という事はそれだけ重要な場所って事で、俺たちの事を重要視されていると嫌でもわかる。
わかる分質が悪いとも言える。その様な場所に御呼ばれしたくはないものだな、余計に重要ポストにつかされかねないからだ……。
そしてとうとう観念する時が来たのだった。
「(コンコンコン)カリーニ様。カーラ様並びにテリスト殿、アレサリア殿をお連れしました」
(入室を許可します、お通しなさい)
そして扉が開かれ入室するようせかされ、は無いが躊躇するな。
部屋には三名の女性が待っていたのだ。内二名はメイド服を着こんでおり説明するまでも無くメイドさんだ。もう一人、アリサと同じ程度の背の高さか、派手でもなく落ち着きのあるドレスを優雅に身に纏っている。
カーラは可愛いと言うより奇麗系だが、王妃はどちらかと言えば可愛い方か、娘のカーラの胸が大きいのは遺伝だなと断言できる。
そして入室した俺だが会見時にとる最敬礼をしていた。そこへ話しかけられる。
「最敬礼を解き普通に立ちなさい」
「それは出来ません、その前に発言の御許可を頂きとうございます」
「良いから立ちなさい、それでは会話もままならぬでしょう」
「是非に御許可を、王妃様」
「強情ですね。良いでしょう、話しなさい、言いたい事があるのでしょう」
「ありがとうございます王妃様。
魔物ハンターBランク、テリストと申します。
この度は王妃様の御許可すら取らず、王女殿下を連れ去ったとも取れる行動をしてしまいました。
それ相応の罰が必要な事は明白です。謹んでお受けいたします」
「なるほどね、アーノルドやカーラがほれ込むはずですね。
良いでしょう、罰を与えます。カーラを幸せにしなさい、これは命令です」
「それは成りません。それでは褒美ととられます、なにとぞご再考を」
身請けする以上当たり前の事を命令されてもね、それは何の罰にもなって無いのよ、それでは周りに示しが付かない、もう一度考えてもらわないとな。
「……ではこうしましょう、そなたへの恩賞の一部を減らします。それでしたら納得しますか?」
ふむふむ、それなら妥協できるな。
「ご再考頂き有難く存じます、謹んでお受けいたします」
「では、この件はこれで終わりですよ、引きずるのは禁止です。さ、此方に来て座りなさい」
勧められたソファーに座る前に一礼して座ると、素早くメイドさんがお茶とお茶菓子が振舞われた。
「さて、其方らの方が、アレサリア・ファーラルさんね」
「はい、王妃様。元魔物ハンターギルド職員のアレサリア・ファーラルと申します」
「貴方にも迷惑かけた様ね」
「とんでもございません、テリストが言うように、配慮が至りませんでした私の責任です」
「いいえ、もっとも叱責されるべきはその子の父親でしょう。そしてカーラも、わりますね?」
「はい、お母様の御許可も頂かず、勝手な行動で心労をお掛けしました。すみませんでした」
「まあいいでしょう、テリストより謝罪も受けました、これ以上は止めましょう。それでカーラ、どの様な判断でついて行ったのですか?」
「それは……この身を捧げても良いと判断致しました」
「なら、その決断を大切になさい」
「ありがとうございますお母様」
「それで、生活の方は大丈夫そうなの?」
「はい。必要な品を含め、全てテリスト様より買い与えて頂いています」
「具体的には何をですか?」
「テリスト様と共にハンターになる事を伝え、エルダートレント製の弓矢一式と、サラマンダー製革鎧一式を頂きました」
「……総額十万リルほどですね、確かに盗賊討伐の恩賞を受け取っているはずですが、それでも初心者に与える品としては高額過ぎるほどです。
それだけカーラの身を案じての事、期待に応えるのですよ」
へぇ、相場をも知るか。凄いな。
「無論ですお母様」
「そういう訳ですので、娘を頼みましたよ。テリスト殿、アレサリア殿」
「はい、元よりその覚悟が無ければ身請けいたしません、謹んでお受けいたします」
「正式な場と言う側面はこれまでとしましょう、テリスト、いらっしゃい」
「あ、あの、それはどういう意味でしょうか?」




