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29:一家離散

 翌朝、アリサを魔物ハンターギルドへ送り届ける。そう思っていたのだが、またも隊長のおっちゃんに待ち伏せされていた。

 昨日の今日だし速すぎると思うが、もう決まったのかね。


「これは姫様、朝から申し訳ありません。テリストに一つ話を聞きに来たのですが、お時間を頂けますかな」

「わたくしの事はお気になさらずに、どうぞお聞きになって下さい」

「では、少しお時間を頂きます。

 テリスト、ジャイアントフロッグ討伐に居合わせたハンターを紹介してもらいたい。確認の為にな」


 あー そっちか、確かに必要な確認だな。


「それ、正確には居合わせたじゃなく、その魔物を見た。だね、距離は離れてたよ。二人いて共に元兄ね、名前はリンズハルト、もう一人はヴァロッサだよ」

「元兄? まあいい、大きさだけの証言で問題無いな。それで、今の時間ならいる場所分かるか?」

「実家の雑貨店だろうね、朝が一番混雑するから今の時間は手伝ってたよ」

「案内してくれ、安全にかかわる事だから頼みたい」

 頼むなよ! 場所のみ口頭説明で良いだろ!

「ゲッ、それ、本気なの? 行きたくないんだけど」


 確実に揉める。それも罵声の言い合いになるのは確実だよな、あれがいた場合、それに客が大勢いる時間帯だよな。

 そんな事して良いのかね、ある意味止めになりそうな気もするから他の家族に迷惑が掛かりそうなんだよね……仕方ないか、アリサが行くより俺が行く方が建設的? と思うしかないか……はぁ。


「まぁ、大体の察しはつくが、元兄という当たり、何かやらかして家を出たな」

 やらかしてねえよ! やったのは馬鹿野郎だ!

「移動しながら説明するよ、アリサを引き留めてたら遅刻しちゃうから」

「それもそうだな、ついでに送り届けよう。ギルドに立ち寄る可能性があるから騎士を待機させる」


 昨日はお仕事モードが崩れたけど今日は貫き通せたようだね、まぁ、あれだけのイベントは早々起きはしないだろうし、当然でもあるか。

 そして今回の接触で恩賞の件を何一つ話さないのには理由がある。職務上知りえた重要な情報の漏洩禁止、当然の事ながら重要な地位にいる為、より強い拘束が成されている。

 今回の場合、恩賞の内容を知り、テリストによる介入を防ぐ目的もある、既に決定事項なのだから。

 そして暗殺者騒動の際に知りえた情報をテリストに話した経緯があるが、あれはすでにテリストが全て解決したような案件だった為だ、当然テリストの口よりアリサが知り、安心させる目的があった事も前提条件としてあった。


 馬車に乗り込むと、とりあえず場所の説明、そして家を捨てた説明をする。

 そしてアリサをギルド前で降ろして向かう訳だが、嫌だねぇ。必要だとは思うんだけど、おっちゃん連れて行ったら何を言い出すかわかったもんじゃない。

 馬車を店の正面で、尚且つ反対の壁際に寄せて三人で店の入り口を潜る。


「早朝からすみませんな。此方にリンズハルト殿とヴァロッサ殿がいらっしゃるとお聞きして来ましたが、ご在宅ですかな?」

 気安く話しかけるがお客さんが一杯である、忙しい時間なので当然なのだが。

 おや? あのクソ親父しかいないな。家の中には誰もいないし、どうしたんだ? この忙しい時間帯で店を手伝わないって事は無いだろうし、俺と同じく逃げ出したか?


「騎士殿? テリスト? 何故貴様が騎士同伴でこの家に来た! 貴様のせいでな! 皆出て行ったんだぞ!」

 おや、合ってたか。それは良かったかもな、こんな自己中の独裁者は一人でいる方が被害が無いってもんだ。

 そして案の定、客がいてもお構いなしに怒鳴り散らす。こいつ、自分で首を絞めたな、自業自得だが。


「聞こえておりませんでしたかな? リンズハルト殿とヴァロッサ殿に用事があるのです、どちらにいらっしゃるか心当たりは?」

「知るか! 出て行っていないと言っている!

 テリスト、貴様が家を出たせいで一家離散だ。この責任、どうやって取るつもりだ!」

 もうね、お客さんドン引きである、我関せずを貫き、両者の間に入らない様、脇に移動したのだった。

 会話に、いや、罵声の言い合いの真っただ中に居合わせるとか、とんだはた迷惑だよね、予想が完全に当たっちゃったよ。

 止めさ刺してくれと御所望の様だし、相手にするか、これで潰れるだろ。


「責任を取れだと? 取る訳無いだろ、お前がやらかした事が駄目だったって証拠だろ、その程度すら理解してないのか? これだけの時間があったのに」

「どう取り繕った所でお前が出たせいだとはっきりしてるだろ!」

「家を捨てる以外の選択肢しかないだろ。

 マジックバッグの値段に目が眩み、それを量産させて大儲け、その為に俺を監禁すると宣言、常識はいらん学校へも行くな、親以前に人として失格だろ、何か反論有るか? 人でなし!」

「それが育ててくれた親に言うセリフか! 恥を知れ!」


「言うべきセリフだから言ってるに決まってるだろ! 金の亡者、自己中、反省は無し、何をやらかしたのかすら理解できん頭の悪さ、つでに監禁宣言した犯罪者予備軍、恥を晒してるのはお前だろボケ!

 一家離散して当たり前だろ、断言してやる、お前に親になる資格はない!」


 おし、これで止めになっただろ。後はお客さんが口を開くたびに悪評が流れる。

 金の亡者なら質を落として安く仕入れてる可能性があるかも知れないと疑心暗鬼になるだろう。

 そうすれば、ハンターは誰も買わなくなる。そうすれば金が回らなくなり在庫が溜まるだけではけない。最終的に潰れて廃業ってなもんだ。


「ああ言えばこう言う、貴様は喧嘩を売りに戻って来たのか!」

「そんな訳無いだろ、面見るのもストレス溜まるって言うのに好き好んで来るかよボケ! おっちゃんの用事で元兄を探してただけだ!

 さて、馬鹿の面見てても仕方がないな、ろろそろ出るか。

 不愉快になるだけだしさっさと退散しようよ、ついでにレンタル屋にも行ってみるか。ギルドに顔を出してるなら彼方は彼方で聞いてるでしょ」


 後ろで喚き散らしているが当然無視だ、おっちゃんからはあれは強烈だなと言われ謝罪された。連れて行くべきでは無かったと。

 そして姫さんの方は無言だ、あれは最悪だからな。

 そして馬車レンタル屋ではきちんと証言が取れた。その御者の人だが、今後、スレイト湿原には行かないかもな、結構なトラウマになってそうだ。

 そして、肝心な買い物へとしゃれこむのだが、ついでに王城前まで送ってもらった、帰るそうなので。

 城について早々、カーラの格好が不味いと外装を手配され着こむ事になった。俺は必要無いが。


 貴族の大半が利用するお店だが、中央大通りの北側と東側に集中している。その中でもハンターが利用する様な店舗は北の大通りに集中して店を構えているらしい、あちこちに出向かねば揃えられないという不便さを解消させる為に少し手を回したのだと思う。

 この配置には理由がある。

 貴族家はこの北東地区にあるからだ。王城との距離、そして大通りへの距離、買い物などの利便性なども加味して、王城へ近く、大通りへも近いという一等地ほど爵位の高い貴族の屋敷である。そして利便性の高い北側中央大通り沿いが最も人気のある土地である。

 そして一番人気のない土地、北東地区でも最奥ほど爵位が低い者たちが住む場所だ。そう、先日潰した貴族家だがかなりの高位貴族でありその地位は伯爵であった。


 その北側大通りに面した一角にある武器屋へと来ていた。


 余談であるが、元実家は揉めた件が方々に広がり客足がガタ落ち、在庫を同業者にたたき売り廃業した事は言うまでもない。

 ハンター家業は命のやり取りである。その為武器防具、普段から使うその他アイテム類の事も含めてあらゆる情報を集める、そうでなければ死にやすくなるからだ。

 その一環で情報が拡散したのだった。


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