26:婚約
退室した俺たちは騎士に先導され、先ほどの部屋に案内されて戻って来ていた。
そして隊長とローズさんが来てくれたのだ。
「お前も勇気あるな。あの場で発言するとは思わなかったぞ、冷や汗かいちまった」
「そうね、テリったら、躊躇なく話すからびっくり。寿命が短くなったわよ」
それは御免よ、あの場でごり押しさせない為には必要だったからね。
「必要だったから仕方なかったんだよ。だけど陛下に変な気苦労を押し付けちゃったかな、とは思うけど」
「陛下がご自身で再考すると言われたの、変に考えなくて良いのよ」
「そんなものですかねぇ」
「それは良いの、陛下がお呼びよ」
おいおい、あんな所で発言した挙句、陛下の決定を覆させたのに会うって、度量が広いと言うかなんというか。どんな人なんだろうな。
「え、あんな事言ったのに会うんですか……」
「かなりびっくりはされていたわね、終った後、本当に九歳かって首を傾げられていたわ」
ごめんよ、中身は十七なんだよね。
「そんな事は後だ。陛下を待たせている事を忘れるな」
そして案内された場所は食堂だ。そしてきちんと料理も準備されている。後は席について食べるばかりという状態で。
海の幸、山の幸を問わずにといった種類が多数並んでいる。うちら庶民の食卓とは大違いだな。
基本はパン、スープかシチュー、そして燻煙した肉を一切れか二切れ、そんなもんだ。
「よく来てくれたな、この場では気安く話してくれて構わん、あの場は威厳ある立場を前面に出す必要があるだけで他意はない」
そんな事言われてもね。ため口で話して無礼だとか言われて殺されそうな気もする。
「先ほどは生意気な事を言い申し訳ありませんでした」
「間違った事は何一つ言っておらん、気にしなくて良い、先ずは冷える前に食事をしようじゃないか。皆、席についてくれ」
陛下側のメンバーはと言う前に陛下はてっきりライオンかと思っていたものだが狐人族だった。耳は三角でピンと立ち、尻尾フッサフッサである。
陛下、王女一人、王妃はどこ? と言う感じにこの場にはいない。そしてギルバードとローズさん。そして俺とアリサ含めた人の同数のメイドさんで全員だ。
人数が少ないのは大歓迎だ、ゾロゾロ高位の貴族様方の中で食べろと言われても味が分からないからな。
一人一人にメイドさんが付き、何かと手伝ってくれる。慣れないねこういうの、飲んだら足される。ポロッと落としたら処理してくれるんだろうなぁ。
そして遅い昼食がおわり雑談も含めた会話になる。そして、断りを入れて少し言葉を崩させてもらう。
「ギルバードから面白い事を聞いたぞ、あまり貴族になりたいとは思っていないようだが、それであのような提案をしたのか?」
あれを聞いたのなら当然緒疑問だろうなぁ。
「あれを聞いたのですか……そうですね、先ず前者を話します。貴族になれば権利も与えられますが義務も責任も当然ついて回ります、それを考えると躊躇します。
基本的に身近な人を背負うだけで精いっぱいだと考えてます」
「言い変えれば、貴族としての責任を理解してるから背負いたくないと取れるな。
大抵の者は利点ばかりに目が行き、この点を全く考えないものが多い、その様な者には貴族の地位は相応しくないと考える。言ってる事は分かるな?」
そう来たか。これ、どんどん深みに填まって無いか?
「うっ、それは、俺の様な考えを持つ者が相応しいと聞こえるのですけど」
「正解だ、本当に九歳か? まあいい、それで後者は?」
「半分正解で半分は間違いです」
「正解の方は今の話に準ずるな、それで残りは何だ?」
「陛下のお立場ゆえです。陛下は国王です、皇帝ではありません、皇帝でしたら先ほど反対されても問題無く陛下のお考えで進めて良い案件でしょう」
「それで?」
ありゃ、けっこうなヒントを渡したつもりなんだけど……気が付いてくれないのか……。
「これは政治形態の違いです。皇帝は全ての権利を有してます、そして臣下に権利を貸し与える事で国を統治しています。
では王国ではどうでしょう、確かに陛下は国王であらせられトップの権力をお持ちです。ですが、貴族は権利を貸し与えられた者では無く、権利を有する者です。そこの違いです」
「砕いて言ってくれ」
あかん、これを更に砕くのか……説明が面倒なんだよな。
仕方ないか、中途半端で伝えても此方の印象が悪くなるだけだし。
悪くなるだけなら良いけど、今後の生活に影響が出るか思うと避けれないんだよなぁ。
どうにかならんのかね、ローズさん辺りが気が付いて説明してくれても良さそうなんだがなぁ。
「貸し与えたのなら、皇帝の意思で剥奪も出来ます。ですが、王国の貴族は権利を有してるのですから剥奪は基本出来ません。
もっと砕けば皇帝は独裁が可能です、ですが国王は独裁は出来ません、反対されようと蔑ろには出来ないのです。
可能かと言われればごり押しは可能でしょうが、人心掌握の面から考えると多用すべきではありません」
ここまで事細かに言えばわかるっしょ? これで分からないようなら、俺、この国から逃げようかな……。
トップが馬鹿すぎると下が苦労するからなぁ、下手するとこれ、何度もごり押しした日にゃ国が割れるんじゃねぇの?
「色々と言っていたがそこに行きつく訳だな。ふむ、独裁的に事を進めれば貴族が反発しかねない。最悪、国が割れ内紛と化す恐れもある、その注意をしていたのだな。
確かにあの場で再考をもぎ取る為とは言え、そこまで噛み砕いて説明すれば、あの場にいた者たちから反発は必至、そうならない為に、あえてそこに行きつく為の布石を忍ばせての提案、それに気が付かぬとは俺もまだまだ勤勉が足りなと言う事か」
一応気が付いたか、それなら何とか逃げずに済むかな。
今後注意して進めれば割れる事は無いでしょ。
それなら一応忠告はしておくか。
「注意が必要なのは悪意を持つ存在です。その様な者がいるのでしたら、早めに排除すべきでしょう」
「そこまで言うからには対処策はあるか? そうだな、罪は何も犯していないが、決定にばかり反対して足を引き、俺の悩みの種、これならどうだ?」
「うーん短時間ですので思いつくのは二つです。
一つはその方を毎回その会議に呼び出して参加させます。当然の事ながら、決定が遅れ執行が遅くなる事でしょう。
それを積み重ね、国益を損ねたと糾弾して排除します。ただ、どの程度積み重ねさせれば良いのか、そこの判断は無理です。
もう一つは、簡単に言えば栄転させます。貴方でなければ解決は不可能とでも持ち上げ、実際には辺境にでも送り込みます。
徐々に送る資金が捻出できないなどの理由で少しずつ資金を絞ります。そうすれば裏で暗躍してくれるでしょう、後は証拠をつかみ捕まえて処断するだけです。
ただし、その事が公になれば立場が悪くなるのは此方ですのでそこは注意が必要です」
「それはまた、えげつない作戦だが効果は期待できそうだな。
後者で必要な人員を選定し、送り込む場合はどんな者を用意する?」
「そうですね。
商人に仕立て上げ補給物資と共に送り込み、信用を得ます。そのまま探らせます。
最も有効な手は対象の側近を引き込み二重スパイに仕立て上げます。金銭で釣るか地位で釣るかですね。
兵士として送り込むならば一番下っ端が良いでしょう。露骨に上位に付ける地位の者を送り込めば警戒されるでしょう。
スキルに関してですが気配遮断に長ける者、そして魔力操作で体外へ漏らさない者が一番適任でしょうか。
注意が必要なのは苦楽を共にしますので、寝返る恐れがあります。そこの手綱をしっかり取る事ですね、別に物資を与えて特別なんだよと分らせ、特別給を与えれば大丈夫かとは思いますが」
「まいったな。下手な文官より頭は切れるわ度胸はあるわ、先ほどの決闘で分かったが戦力はあるわ、二人が手元に置くようにとの進言をしていたと思ったらこれか。
俺の参謀にならないか、俺の娘を嫁がせよう」
ええええええええええ! ちょ、ちょっとまて、俺は貴族になるのをなるべく穏便に破断になる様に再考まで持って行ったよな。
それで今こうしてその理由も話したよな、これ、自分で首を締めちゃった感がバリバリするんですけど。
ラノベ見てればこの程度の知識は誰でも理解できてるような内容だと高をくくってざっくばらんに説明したけど。これ、俺の完全な失敗だわ。ちょっと、調子に乗って言い過ぎたかも……。
「あ、あのですね、それはなんと言いましょうか……」
いかん、言葉が見つからん、正面切って嫌ですって言えるかよ!
「なんだ、俺の娘では不服か?」
「えーと、そのー、此方のお姉さんとけ、結婚予定でして、その、何と言いますか」
「問題無い、一夫多妻制だ。平民でも問題無く複数の女性を娶れるぞ。
しかし、先ほどとは打って変わってぎこちないな。カーラ、此方の御仁との結婚だが、どう思う?」
なるほど、王女様はカーラという名前なのか。いや、そこじゃない、複数娶れるから大丈夫とかそんな次元じゃないでしょ。
そもそも初対面だよ、それでどうやって結婚先にと選べるのかさっぱりだよ。
「素晴らしい殿方だと思っております、私では先ほどの答弁は決してできないでしょう。
そして、最後までお話を拝聴させて頂きましたが、なぜそこに辿り着くのか、少し不明な点があり完全に理解できておりません。
そういう意味では、不釣り合いでは無いでしょうか。
その点を考えず返答するのでしら、わたくしの方からお父様に御許可を頂きたいと思っておりました」
この王女様、俺より背が高くセリサより背が低い。たぶん年齢で十二歳前後だろうか、俺がもし百二十cm程度なら百四十五cm程度。
物凄い美人だ。あの尻尾は魅力的だし、それより、年齢にそぐわない胸の大きさだし。
アリサと同じような、それよりも豪華だが同じく胸元バックリのドレス姿なのである。
「それなら胸を張って嫁がせる事が出来るが。うーむ、最後まで聞いてやっと俺も理解できたからな、それを言うならローズだと釣り合うか?」
「あの、本気で仰られていますか? 謁見の際に気が付いておれば反対の者からも意見を聞き、どの点を再考すべきか提案した事でしょう。
そういう意味では釣り合っておりません」
「だよな、俺もそう思った。なら、一生釣り合う女性が現れず独身か?」
そりゃないよ、お姉さんと結婚すると考えてるんだから、変な基準を押し付けないでください。
「陛下も極端だな、こうしてほとんど嫁とも言える女性を連れていている次点でそこは無い」
「失礼だが、貴女は謁見の場で理解できましたかな?」
「名乗りが遅れ申し訳ありません陛下。魔物ハンターギルド職員でアリサと名乗っております。
本名はアレサリア・ファーラルと申します。
先ほどの御質問ですが、謁見の場では理解できておりません」
「そうであったか、被害の事は聞いている、そなたには不憫な思いをさせたな、対応が出来ずこの場にて謝罪を。
話を変えるが、それならば釣り合うなど考えずとも良いな、カーラの結婚を許す。頼んだぞテリスト殿」
もう、逃げれないな……諦めよう……。
「謹んでお受けいたします陛下。
非才の身ではありますが、王女殿下に相応しい存在になれるよう努力する所存です。
カーラ王女、何分常識はずれな事を申す事もあるかと思いますが、今後ともよろしくお願い申し上げます」
「非才などとんでもありません。わたくしこそ、テリスト様に相応しい女性となれるよう努力する所存です」
婚約決定か……どうなるんだろう、今後の俺の生活は……。
「これで俺の肩の荷が下りたな。テリストが血縁になる事は決定したので今後は敬称を外すように、これは決定事項だ。
そして十五歳、いや十二歳でいいか、結婚までは婚約者で通す。
一部の貴族には話すが箝口令をしく、それで屋敷が決まり次第同棲して構わん。
本来ならあの屋敷を与える所だが、再考すると決定し、この場にいない俺の妻がその説明と共に問題点を探る為、例の貴族の元に出向いている。その為今は白紙だ、決定し次第招くので心に止めておくように。カーラ、行って良いぞ」
何に対して行って良いと言ったのか分からなかったが、カーラ本人が行動をもってそれを証明した。
俺を膝の上に座らせ後ろから抱きしめたのだ。アリサよりは若干小さいがその弾力は圧巻、すごい存在感である。良いのかこんな面子の前でこの格好、あそこが立ちそうなんですけども……。




