21:弱点と相性
翌日早朝、身支度を済ませて食事を済ませ、早めに宿を後にする。以前の宿より距離が遠い為に若干早く行く必要があるからだ。
アリサを送り届けて一人西門へ、それだけで宿を出てから一時間ほど経過していた。
馬車をチャーターすれば良いとは言われていても、何処で都合を付ければ良いのかさっぱりである。
周囲を見渡すも馬処か馬車をチャーター可能な施設は見当たらない。仕方がないので門の出入りを監督する衛兵さんに訪ねてみた所、少し戻って一つ目の十字路を右に行った所だと教えてもらい無事に到着した。のだが、なんと元兄二人がいたのだった。
「あれ、リンズハルト殿とヴァロッサ殿も馬車を借りて何処か行くの?」
「ん? 久しぶりだねテリスト。それにしても殿か、やっぱり徹底してるんだね」
そりゃ、血縁関係ではあるが、既に家族とは縁を切った身である為、兄扱いすべきではないしする気も無い。
そもそも兄扱いしたら俺が出て行ったことがあやふやになるし、心構えの問題だと俺自身が納得しない。徹底する、それ以外の選択肢はない。
「それはそうだよ、あれだけ大見え張って出て行った挙句に血縁者面する訳ないでしょ」
「それもそうか。でも、寂しくはあるね、それでここへは何をしに?」
「俺もハンター登録したから別の狩場を教わってね、今から馬車をチャーターして狩りに行くんだよ」
「それは奇遇だね。僕たち二人もそうさ、所で何処に行くんだい? 同じ行先だったら良いね」
一緒に行こうと話していたが俺は狩場を変えるつもりは無い。その為に情報収集をしたのだし、武器もフロッグ用にと考えて用意した。別の場所に行くと選択するのなら魔物ハンターギルドまで情報収集に行く事になる。
情報なしに行くのは命とりだからな、誘われたとしても断るつもりだ。
「スレイト湿原って場所だよ、フロッグって言ってたから蛙だね」
「その場所だと僕たちは少しきついね、どうしようか兄さん」
ふむ、少しは情報を持ち合わせていると。
「武器の相性としては問題無い場所だな、いずれ通る道だ、早いか遅いかの違いでしかない、テリストには負けられんから行ってみるか」
兄は命が惜しくないタイプか。
相性以前に敵にするには早いと思っていながら行くとか命知らずだな、それも単に張り合うだけのつまらんプライドの為にだ。
予習を少しはしてる様だけど、相手の特性を知ってるのかね。
そこが適当だと下手すりゃ死ぬのにな、俺だったら行かない。
「なら借りて来るよ。初めてだから借りるのに慣れないとね」
そう言って勝手に手続きを済ませて料金の銀貨五枚を支払った。
意外に安いのか? 武器の値段を基準に考えたら約五万円、それで一日のお付き合いと危険に遭遇する危険手当込みだと安い気がするのは俺だけか?
そして三人で乗り込み荷馬車の上にて。
「本当に良いのかい。料金を支払わなくて」
「良いの良いの、二人が行かなくても出費する前提だったんだから何も変わらないから。
それでお願いがあるんだけど、夕方二時間前には向こうを出たいんだけど、了承してくれる?」
これを蹴られても強行しますけどもなにか? 遅くなるとアリサを長時間待たせちゃうからね、そんな愚行はしないのだよ。
「それで良いよ。初めての狩り場だからね、あまり長時間は僕たちも無理だと思うし。それより、身長ほどの武器を使うのかい?」
そりゃ使うよ、この為にわざわざ買って来た武器だし、これを使わないってなると、突き専用武器しか残らないからね。
「突き専用の武器しか持ってなかったから相性が悪くて。刀を買おうと思ってたんだけどね、反りがあり過ぎて突きがし難そうだったんだよ、それでフランベルジュを買ったの。
それで一番短いのがこれしかなかったって訳」
「少し加工してもらって短くすれば良かったのに、頼まなかったんだね」
「初めて行くお店だったからね、頼み難かったんだよ、それに時間も無かったし」
「ライアちゃん家には行かなかったのかい?」
それを聞いちゃうのか……。
「行ったよ。行ったら二人が俺の事を話してるって言って説教されちゃった、妥協点を探せってね。
あれの何処で妥協できるのかさっぱり分からないよ、その点を追及したらだんまりを決め込んで話さなくなっちゃった。だからもう行かない事にしたよ」
「あれはねぇ、お父さんが一方的に悪いからフォローのしようがないよ」
「なぁテリスト、その武器、一度使わせてくれないか。今後の参考の為に」
お、実地で試そうと考えるのは良い事だな、その程度なら貸しを作っても良いな。
「良いよ。その代り、一匹目の蛙、もらって良い?」
「取引成立だな」
「それなら僕にも使わせてよ、片手剣以外は使った事が無いんだよね」
「良いよ、ヴァロッサ殿は三匹目だね」
今乗っている馬車だが、荷馬車なので外の景色が良く見える。はっきり言ってド田舎、いや、田舎は良くないか、建物すら無く見渡せば平原ばかり、そしてもれなくウルフに追跡されている最中だ。
本当にこの世界の犬は足が遅いな。荷馬車引いてる馬にすら追いつけない体たらくだよ。
行きがけの駄賃に【ライトニングアロー】で経験値をゲットしておいた。
到着するとボロイ小屋が一棟ぽつんと建ってるだけ。御者さんに予定の時間三十分前になったら呼んでと頼んで別れた。
湿地なだけあり木は生えていない、声は通り安いので直ぐにわかるだろうとの魂胆だ。
周囲はまばらに生える雑草と、足はめり込まないが踏ん張る事には向いて無さそうなじめじめとした地面であった。
それにでっかいんだよ蛙が。大人しいのか近寄っては来ず、たまーに舌を伸ばして何かを食べてるらしい。
俺は武器を上空に引き抜き空中でキャッチ、背の高さほどあるので仕方ないのだよ。とりあえず鑑定。
フロッグ
Lv:24
種族:両生類
状態:健康
HP:299
MP:138
舌が厄介なだけで後は特徴の無いステータスだな。
一番近い蛙に向かって近づくと、一定距離に侵入すれば敵と見なすのか跳躍しながら距離をつめて来た。
その全高は二,五mほど、最初は正面から相手にする事に。
足を肩幅に開き右上上段に構え、蛙の舌を伸ばして来たのに合わせて袈裟斬りを慣行。
当然体格には合っていないので剣側とは逆方向に重心がブレる、それを利用して左足を右後ろに引き伸び切った舌を切り払い、勢いを殺しながら一回転して接近する、再度短くなった舌を伸ばして来るのに合わせて刃を下に向けた剣でガードするのだが、当然刃を向けると舌が二つに分かれ、強引に体をねじ込み下から上へ更に斬り込む、その空いた空間へ一歩踏みだし、大上段からの真っ二つ斬りを慣行、頭を左右に切り裂き、フロッグはアイテムと化した。
それは地面へと落ちる訳で、空中でキャッチしたのだが、それは肉の塊だ、重さにして約二十kgほど、食材をゲットしたのだった。
「随分と強引に倒したんだね、もう少し何とかならなかったのかい」
「まず正面から倒したかったの、この後はちゃんと倒すよ。それより汚いね、唾液でドロドロだよ【クリーン】これでよしと。
それじゃリンズハルト殿の番だね、使ってみてよ」
強引に舌の間に割って入ったので唾液でドロドロになったのだった。
「使わせてもらう。それにしても良い剣だ、ダマスカス製、値が張っただろ」
「ちょっとおまけしてもらって六千二百リルだったよ」
「高いね。僕たちのは鋼鉄製だから千リルほどだよ」
「蛙は一匹当たりの単価が高いって聞いてるし、二十匹も倒せば買えるんじゃない?」
片手剣なら金属量が少ないからね、フランベルジュほどの値段はしないだろうし、二匹で馬車のチャーター代金にはなるとか言ってたし、五千リルもあれば買えるでしょ。
「無茶な事言うね、その一匹でも大変なんだよ。おしゃべりはこれくらいで、早速倒そうよ」
二人で戦うそうだが、やっぱりぎこちない。盾持ち片手剣持ちの方が正面に引き付け、フランベルジュを持つ人が攻撃役なんだけど、横から切りつけるも傷が浅くて威力が低そうだ。
そんな時は高めの突きを食らわせて、手元を下に下げながら引き抜けば大ダメージになるのに考えが足りてない気がする。
本来はヘイトの高い方、言い変えれば脅威度の高い方を攻撃する習性があるらしい。
それは正面で受け持つ、舌を切り飛ばす方がダメージ的には高い事を意味している。肝心のフランベルジュを使いこなせていない証拠でもあった。
四匹目は三人共同で俺が槍を持って攻撃役に回る。
リンズハルトが引き付けている隙に喉元の下から頭目掛けて貫く。蛙の皮は上部が厚くて下部が薄いが、体面がぬめっているので滑りやすい。そこで刃先を引きながら上目掛けて突き刺すと脳まで余裕で届く、そこまで突き入れれば即死コースだ。
それか切る武器を持っているのなら、根元から舌を切り飛ばして、後は一方的に切りまくるかだ、目は高い位置なので狙いにくいからな。
「テリストの攻撃力はすごいね。その槍は鉄でしょ、どうしてそんなに突き刺さるの?」
蛙の特性をそこまで把握してないのか、ゲコゲコ鳴く蛙は喉元の皮を膨らませるから弾力はあれど皮が薄い。一度突き破れば後は簡単に突き入れられる。
相手の特性を知る事は、相手の攻撃方法と弱点を看破する為だ。これを知らずして相手どるのははっきり言って避けたい。
そう思っているのだが、この元兄二人は危機意識が低そうだな。
「蛙の固い部分と柔らかい部分、それと抵抗なく攻撃の通る弱点部分と分れるんだよ。それを知ってるのと知らないので効果が全然違うんだ」
「具体的には?」
やっぱり調べてないか、狩場に来る時点で知って無きゃダメな情報なのだがなぁ。
「まず一番固い場所、体表面の上部分、もっとも皮が厚いんだよ。そして柔らかい部分、それは下側、顎からお腹側、そして弱点、口の中と目玉。
今回は口の中を狙うと舌が邪魔なの、そして目を狙うにも高すぎるの、だから喉元から突き刺して脳の位置を狙う。一度刃先が入れば後は肉の固さだけだから簡単に入るの。
二人は闇雲に一番固い部分に攻撃してた。そして同じ傷跡の肉が見える部分を攻撃すれば攻撃が通りやすいのに傷のヵ所を増やすだけで浅い傷が増えただけ、それだけ攻撃が通らない。
それならいっそ、横合いから伸び切った舌を切り飛ばして、後は二人でボコる方が安全度が増すからこの手法もお勧めだよ。
俺は一人で狩るからこの手は使い難いけど二人ならできるでしょ。
もう一つ言うと、剣と槍の違いの差、剣は当てた部分で力が分散するけど、槍は一点突破、力は分散されずに集中される。
武器の利点と欠点を理解して使用しないとこれから先、きついよ」
ここまで事細かに説明すれば分かるでしょ、これで理解できないのなら、もうこの狩場に来ない方が良い、もっと戦いやすいのをお勧めする。
「これは耳の痛い指摘だけど、これは為になる事が聞けたね。
材質は鉄で安い武器でも利用法次第でレベルの高い魔物も仕留める事が出来るんだね。
それに、何故刀を買わなかった理由で突きがし難いって言ってたね。戦闘中に武器の交換なんて命とりだし、その克服の為のフランベルジュか。
それと最初の正面から倒した事、あれも今後の為の布石で、絶対にしとかないといけない行為だったんだね」
そこまで理解できたのなら合格かな、少しばかり今後活動するうえで必須な情報を与えるか、無理して死にましたと聞いたら流石に寝覚めが悪いからな。
「そうだよ、先ずは武器の切れ味の確認だね。フロッグの主な武器の潰し方の模索、一番固い部分に正面から切りつけてのダメージの通りやすさの確認、これが目的だったよ。
これから先、二人がハンター家業を続けるうえで必要なのは、魔物の攻撃方法を理解する事、そしてその攻撃方法をどうやって無力化するのか検討する事、そして弱点の見極め、そして武器と魔物の相性を考える事、無理だと判断したら相手にしない、もしくは有効な武器を使いこなせるか、無理なら買わない、使えるなら購入だね。
これを絶対に怠らない事、下手すると、死ぬよ」
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資金:3280リル(金貨2枚、銀貨6枚、銅貨3枚)中身不明の巾着




