2:プロローグ2
これより以降の私語を制限され、話すことが可能な時間は訓練時のみになった。
更に俺だけレベル1より成長することを禁止すると、他の三人に聞こえないように耳打ちされた。
部屋も四人別々だ。筆談すれば指の動きで不便ではあるが意思疎通が可能だと思われたのだろう。
召喚初日は休息と食事、後はトイレと体を拭くことだけで後は寝るだけだった。
翌日からは地獄の猛特訓といった具合だ。場所は騎士たちが訓練するそのまんまの訓練場の外周部。先ずは長距離走、へばったらいくばくかの休憩、そしてまた走らされる。
そしてなにやら水晶球を使い、俺たちを鑑定しているようだ。
詳しい話は聞かされないが、まだないなと言われ、また走り込みをさせられる。それが終れば次は短距離走、体力配分を考える事無く全力で走れと命令され、次は筋トレ、それが終れば武器を使った訓練に切り替わった。
武器の訓練といえども剣なら上段から正中線を切るように振るだけ、槍なら突くだけ、短剣なら首筋を狙うように振るい、それが終れば的を目掛けてナイフを投げる。弓なら放つだけと単純作業ともとれる日々が続くが、いずれ終わり次の工程へと移る。
なぜか訓練ではなく遊びだった。それもかくれんぼだ。部屋の使用は禁止で通路のみ。鬼は気配を感知、逃げる側は気配遮断の訓練だと思われる。
次は頭の方を使うらしい、延々魔導書を読まされた。
というのも文字は明らかに違うものの、なぜか読めるし意味も理解は出来る。そして相当頭が良くなったようだ。一度読めばばそらんじることができる。簡単に言えば丸暗記だな。
そして終わった者から魔術の特訓へと変わる。その属性は火、風、土、水、氷、雷、光、闇の八つあるそうだが闇の魔導書はなかった。
うち、水と光に回復魔術が含まれているが少し違う面がある。
水には造血剤の役割のある魔術が存在するが呪いの解呪は不可能、そして光はその正反対だ。
詠唱による発動の繰り返し、MP消費による枯渇で意識を手放し倒れるを繰り返す。
これが終れば詠唱短縮を経て無詠唱の特訓、更に同じ魔術の同時発動の訓練だ。
魔術の特訓が終ると特訓内容が一変した。雑貨店から始まり魔術道具店、武器屋、防具屋、食料品店、はたまた寝具から家具屋と連れまわされ商品一つ一つの名称と素材に値段と、必要ならば性能や使用法に至るまで説明を受けた。
ちょくちょく俺たち自身が鑑定されていたのだが、覚えが悪いな次に行こうと言ってた手前、俺たちの誰かが覚えていないのだろう。
次に貴族と思しき屋敷につかわされ、買い物のお手伝いだ。有体に言えば荷物持ち、バッグを持ち品を買い込みバッグに詰める。まんぱんになったら空のバッグと交換してまた詰める。これを繰り返した。
そこから三人と分れ俺だけ別行動だ。
魔道具製作にこき使われ、これは回復剤だから清潔になれと【クリーン】魔法を使われてポーション作成にこき使われ、鍛冶屋に行きハンマーを振るい炉の側で熱い目にあったりと散々だ。
そして次の段階へと進む。
一本の片手剣を渡され【エンチャント/ファイアブレードLv1】と唱えろと命令され実行すると片手剣から火が噴出し剣にまとわりつく。当然ながら俺も熱いが捨てることは許されない。それは強制されているからだ。
【ヒール】で治療することは許されたのだが捨てることは許されないので延々火傷を負うことになる。ある意味拷問だ。強要されなければ絶対にしない行為だ。
これを皮切りに闇以外の属性を強要された。切り傷、凍傷、感電、刺し傷など属性に寄りけりだ。そもそも闇属性の魔術は教材として魔導書を渡されておらず魔術も使っていない。
これらが終れば三人と合流した。俺と分れている間、初心者ハンター用のダンジョンに実地訓練に行っていたそうだ。
そこへと合流したわけだが、今回はダンジョンへは行かずに町の外の魔物討伐としゃれこむらしい。
この時点でやっと俺に説明された。ダンジョンが複数とはいわず多数あり、定期的にそこに住む魔物と呼ばれる生き物の駆除が必要なこと。同じく外に蔓延る魔物の駆除が必要なことをだ。
当然騎士だけでは手が足りるはずもなく、魔物を討伐する者たち、魔物ハンターがおり、それを統括する魔物ハンターギルドが主要都市には必ずあることを説明された。
行先はザガル山脈、帝都のお隣ですぐ南に隣接している裾野の更に浅い部分だ。
流石に皇宮からでは歩きでも二時間程度かかってしまう。そこで一台の馬車が用意され、乗り込む前にロングソードとバックラーの盾、そして予備武器のダガーを剣帯も装着して乗り込む。
俺たちと、皇帝よりザックと呼ばれていたおっさんとその手下三名、御者一名、総勢九名だ。
常時騎士たち専用に使っている箱馬車だったのだろう。
市民は気が付くと直ぐに道を開ける。当然街中を走る速度ではない、全力ではなさそうだが運悪く逃げ遅れた者がいようとも速度は緩めずすのまま引き殺し突き進んで行った。
俺たち四名とも気配探知の修業をすでに終えている為、なにが起こったのか、周りの悲鳴を聞かずとも直ぐに理解できた。
「本当、帝国の連中って屑揃いだな。守るべき市民を引き殺してノンストップかよ」
「言えてるわね、魔族の侵攻とか言ってたけど、自分たちからちょっかい掛けて逆に返り討ちにでもあったんでしょうね」
体の制限を掛けられ助けに行く事すら許されない。辛うじて口を開けるだけだ。
「貴様らは勇者としての立場から一応生かしてやってるんだ。あまり挑発すれば例えお前たちでも首が物理的に飛ぶぞ、時間は掛かるが勇者召喚を行えば良いのだからな」
ほう。犠牲者がまた増える可能性があるのか。
「へぇ、具体的にどの程度の準備期間が必要なんだ? どうせ俺たちは逆らえないんだ。教えようと情報は洩れないんだし話してくれよ」
「ま、いいだろう。準備する者たちの実力にもよるが今回は五年ほど経過してる」
今回はときたか。何度も行っているのだな、何人犠牲者がいることやら。
「と言われてもな。俺たちの国では一年間は十二ヵ月で合計三百六十五日だったがこちらではどんな暦なんだ?」
「チィ、魔術を教える連中はその程度の知識すら与えなかったのか。
十日で一週間、三週間で一か月、十二か月で一年、合計三百六十日だ。
ちなみに今は、女神歴千三百六十五年十月三週の二日目だ」
奇数偶数の月で日数が違ったり、うるう年で二月が二十八日間にならず分かりやすいな。
「なるほど覚えやすいな。女神様を信仰してそれにあやかり歴としてるわけか」
「ふん、正確には違う。女神様が地上に降臨なされたと言われている日より数えられているのだ。
おしゃべりはこれ位でいいだろう、乗り慣れていない馬車で話していては舌を噛むぞ」
それからは一切話をせず現地へ向かうのだった。それよりも岳はこちらに召喚されて以降、なにも話さなくなったな。一言すら聞いてない気がする。
俺みたいに完全敵対してますよと言うよ、りよほど立場的にはいいのかもしれないが。
なにを考えているのやら、少しは意思表示しないと孤立するぞ。下手すると俺よりな。