18:いかにして貴族位を捨てるか
魔物ハンターギルド内で寝ていた俺だったが、起きたら既にお昼時、アリサに起こされたのだった。
そしてアリサたち受付嬢も食事交代のお時間という事でこうして食事を一緒に取る事が出来た。
「ごめん、お姉さんも半端にしか寝てないのに俺だけ爆睡しちゃったよ」
「良いのよ、それであちらはどうだったの?」
細かに伝えた。名前は鑑定してないのでわからないが、証拠品が揃っており、後は上の判断で刑の執行だけと、そしてこれから調書の為に出かける事も。
「そういう訳でそろそろ時間かな、約束してるから行かないと。そうだ、国王陛下と謁見が確実にあるって言ってたよ。それで宿はどうしようか、扉は壊されて、俺が壁に穴を開けちゃったからね」
原因を作ったのは俺たちじゃないけど顔を出しずらいよね、そもそもあの惨状だと当分は営業停止する可能性がありそうだし。やっぱり宿を引っ越しかなぁ。
「陛下との謁見ね、大丈夫なの? 常識が抜けてるから心配ね。
私たちが悪い訳じゃないけどちょっとあの宿には居ずらいわね。あーあ、あそこ気に入ってたんだけどな。
近場に知ってる宿があるから其方に移りましょうか、少し料金が張るけど大丈夫よね」
少し増えた所でもらえるお金が確定してるから大丈夫だろ、学費に比べたら微々たるものだしね。
「なんでも討伐した所の資金とか貰えるらしいよ、所詮あぶく銭だから生活資金に使おうか」
「何にしても行ってらっしゃい、また面倒を押し付けるわね」
「完全に潰せたからそこは言いっこなしだよ、障害物がなくなって幸いだな、位で良いんだよ。それじゃ行って来るね」
「ちょっと待って……行ってらっしゃい」
この間はだね、初キスされたのだよ、他にも人がいるってのに大胆な事だね。
この女は俺の彼女だぞってか、それもいいな!
そして二十分ほどかけ王城の入り口に到着した。衛兵さんに名前を告げて隊長さんの元へ案内してもらった。
「(コンコンコン)近衛騎士隊長様、お客様をお連れしました」
(来てくれたか、通してくれ)
「では、こちらへどうぞ」
「お邪魔します」
と部屋へ入った。
「まぁなんだ、ローズを連れて来るから座っててくれ」
それからハーブティーぽいのとお茶菓子が振舞われ少し待つと二人で入室して来た。
挨拶もそこそこに調書をしっかりと作り、それから雑談となった。
「テリスト君も大変だったね、九歳と思えない活躍」
「それより大丈夫か、初だったんだろ」
殺しの事だよね……あの場は仕方なかったんだよ。手加減=死に直結かも知れない状況だからその選択肢は初めから無かった。
割り切らなきゃあの場で死んでたのは俺たちかもしれない、そう考えるとね……。
「まぁ、宿で行為をした直後は気が張っていて何ともなかったんですけどね、着替えようとして改めて周りを見て思わず吐いちゃいましたよ。
流石に命を狙われたので躊躇はしてられられませんし、仕方のない事だったとは思ってるのですけどね。
やっぱり何処か引っかかってますね、考えるとグルグルグルその事ばかり頭から離れなくなっちゃって……うぅぅ」
「そうか……ほら、ローズ、出番だぞ」
ローズさんにあやされて抱き着いて泣いたのだった、十七歳で情けないのかな? ……いや、あ、考えない事にしよう。
「ごめんなさい、ローズ姉さん」
「ぐはははっ! ローズおばちゃんが丁度良い表現の齢だぞ」
「それをあなたが言いますか、ギルバードお爺さん」
「不毛な言い合いだな、止めよう、ローズ、例のを渡せ」
「此方が暗殺者集団から押収した金品と売却代金ね。今日はバッグを持って来てないのね、どうしましょうか」
「安いもんだろ、その位融通しろ。
話は変わるが一つの貴族家が順当にいけばお取り潰しになる。今回は多大な貢献をした訳だが謁見の際に褒美を賜られるだろう、きちんと受け取れよ。なんだかお前だと平気で断りそうなんだよな」
いやいや、盗賊じゃなくて貴族ですよ、貰うにしても対象が違いますって、盗賊と一緒くたに考えるのは無理でしょうよ。
「隊長さん。流石に盗賊と貴族は違うでしょう、拒否するのは当然じゃないですか」
「あのな、ほんと頭痛いな、しっかり説明するから聞け。
陛下のお立場は部下が貢献したらきちんと評価しますよとアピールしなきゃならんのよ。その為には今回の件も正当に評価して褒美を出さないと不味い訳ね。
これを怠って蔑ろにしたら、あ、陛下は配下の活躍を見知っても放置するのね、それなら怠けてて良いや、適当に仕事しとこ、こう考えられたら非常に不味い訳よ。引き締め処か緩んで統治が危うくなるからな。分かったか?」
すごく分かりやすいな。九歳でも分る様にと砕いて説明してくれたのか。
「一応理解はしましたが、金銭のみで済みますか?」
「ほら、隊長が言うから警戒されちゃってるじゃないの、きっと爵位の件よね」
「いやいや、俺の責任じゃないから。そもそも陛下の御判断だからね、俺にそんなのを回すな」
それはそうだ。近衛騎士が爵位を与えられる訳ないよな。
「可能性の問題ならあり得ますよ。そうですね、騎士爵か準男爵か男爵辺りでしょうか、男爵以外は領地運営には関わらずに済みますから名誉職に近いでしょうか。
騎士爵は騎士と同等と思って下さい。
準男爵は騎士と男爵の間、騎士の上位職と思って頂ければいいですね。当然毎年年金が支給されます。これは給料に当たります。この先も話すべきでしょうか」
「九歳だからと言って話さん訳にいかんだろ、話せ。許す」
なんだ? 子供相手だと躊躇しなきゃならん事でも含まれてるのかね?
「では続きを。
騎士爵はご本人のみで、お子様への継承はなされません。
準男爵、並びに男爵となりますと、お子様への継承が必要となります。御長男が基本的に継ぎますが、次男以下に継承させる事も可能ですが一般的ではありません。
例外としては相当な問題児であった場合などはこの慣例を曲げる必要があるでしょう。
そして騎士爵並びに準男爵は領地運営は行いません。男爵のみ数百人規模の領地を任される場合もあります。その場合には、より上位の貴族の寄子となるでしょう。
ですが、年齢を考えてみますと領地を附与される事は無ないでしょう」
なるほど。九歳相手に子供の事を話す必要性から躊躇してたのか、子供に貴方の子供に爵位電々言いずらいわなぁ。
「あの、やっぱり爵位も断る事は……」
無理そうだよねぇ。
「断言する、無理だ。素直に受け取れ、そうしなきゃ、陛下の顔に泥を塗る事になりかねん」
拒否不可能! 嫌だ……。
「ああああ、どうするよこれ。お姉さんになんて説明すれば良いのよ!」
「本当に変わってるな、普通の奴なら飛びついて俺にくれとか言いそうな案件なんだがな」
「爵位持ちになると他の国へ気軽に行けませんよね? 観光とか」
「男爵以上になれば気軽には無理だな。それでも行きたければお忍びとか?」
「馬鹿な事を教えないでください! 準男爵までなら同盟国や友好国ならば気軽に行けます。ですが、それを越えますと正式に訪問先の許可を取る必要があるでしょう」
やっぱり足枷がもれなくついて来るじゃないか。異世界観光の夢が潰えてしまう!
無理ならばここは探りを入れるしかないな、合法的に爵位を捨てる方法を考えなければ!
「うーん、俺が生きてても爵位の継承は可能なのですよね?」
「可能だが一般的では無いな。継がせる者を指名しおき、葬儀の喪主となる事で内外へのアピールをする事が通常だ」
ま、当たり前の対応だな。確か、男性社会で女性は貴族になれなかったはずだよな。
「貴族の方々で男の子が生まれない時はどうしてるの?」
「対処は二つある。女の子がいる場合は婿をとって継がせる。子供がいない場合は近しい血筋から養子をとり、継がせる」
なら、対処方法はあるな。養子をとってさっさと丸投げ、後は知らぬ存ぜぬを貫き通せば問題無い。
「ふむ。なら俺はお姉さんとさっさと結婚して、養子をとって丸投げすれば自由になれるのか」
「あ、あのな。確かに可能か不可能かと言われたら可能だと答えるが、体も衰えてない元気盛りの子供がそんな事してみろ、モロに逃げましたアピールする事になるぞ」
うーん、悪く無い手だと思ったんだけどなぁ、やっぱりさっさと爵位放棄するのは陛下の顔に泥を塗るのかな。
この分だと神聖帝国アルテトラスに行く事が不可能かもしれないな、国の位置とか分からないけど聞いてみようかな。
「はぁ、打てる手は無いのか、お手上げだねぇ」
「何でそこまでこだわるんだ、何処か行きたい国でもあるのか?」
「噂で聞いたんだよ、ある国が勇者様を召喚してるって。一目で良いから会ってみたいんだよね」
「……やめて置け、確実にトラブルに巻き込まれる。国の名は神聖帝国アルテトラス。
確かに何度も勇者召喚を行っているし、今もいるはずだ。
奴らは国の南方にある土地を奪う為に、その国に住まう魔人族を魔族と呼び、その王を魔王と呼び、あたかも悪の親玉の様に呼称してるがあれは嘘だ。
魔術に長けた人類なのでその特徴から魔の人族と言う認識で統一されている。
召喚された。いや、拉致された人は嘘の情報を随時刷り込まれ、利用されてる被害者に過ぎない」
やっぱりあの子が言ってた事、完全に的を射てたんだな、内情最悪、嘘ばかりで洗脳、利用するだけ利用して使い潰す極悪帝国なのがはっきりしたな。
「そう、だったんですね。勇者様が被害者、か……」
「そういう事だ。止めて置け」
「……」
「はぁ、聞きそうにないな。何か因縁でも、ある訳無いか」
この話題はだめだな、挿げ替えよう。
「あのー、あの宿屋には住めそうにないので別の宿屋に行きますが、俺は場所を知りませんので教える事が出来ません。
毎日お姉さんを送迎しますから御用の際にはギルドでって事になりますか?」
「そうだな、今日の帰りに合わせて騎士を派遣する、その者と宿へ向かってくれればいい。
そうだな、あの子と結婚するつもりなんだよな?」
「結婚してほしいとは伝えてませんけど、お姉さんが受けてくれるなら何時でもバッチコイ! です」
「それなら謁見の際に呼ぶとしよう。謁見には出られないが応接室で相対できるだろ」
は? 嘘だろ。謁見から一段ハードルが上がってるぞ……。
「え、直接お会いするのですか……」
「あのな、自分がどれだけ強いのか理解しろ。囲い込みたくなるのは当然だろ、奥さん候補がいるのならお会いした方が良い」
「そんなに強いですかね? やっと蛙を倒しに行くんですけど」
「そこはランクと同じくBで釣り合ってはいる。
ただな、寝ている時に突然十人の刺客が来て、それを返り討ちにして、逆に主犯の屋敷に乗り込んで全員を無力化するのは俺でも不可能だぞ」
「うーん、十人と言っても弱かったですよ。ギルドの試験官さんの方が段違いで強かったですから。
倒す順番も含めて話しましたけど、最初の五人は五秒もかかりませんでしたし」
「はぁ、もういい、理解させるのは不可能だと俺の頭が言ってる」
投げやりだねぇ。
「うーん、やっぱり俺ってバカなんでしょうね、それは良いですが、そろそろお暇させてもらいます」
「そうだな、俺の方も片づけなきゃならん事があるからな。ローズ、送ってやれ」




