14:調書は方便
魔物ハンターギルドを離れて行きついた先なのだがめっちゃ最悪ともいえる環境だ。はっきり言って場違い感バリバリ、である。
その場所とは王城の囲いの中にある一つの建物だ。お城の一階にある応接室らしき部屋へと案内されたのである。
そして、俺と同行してしていた騎士さんだが、ただの騎士では無く近衛騎士。それも隊長さんらしい。
人を呼んで来ると隊長は別所に向かい、別の騎士に案内されたのだった。
通された部屋のソファーを進められたので座って待ち、その隊長さんは分かるのだがもう一人の付き添い、ローブ姿で羊皮紙の束を持った女性と共に入って来た。
これ、ガチの調書作成ポイ、ううう、緊張するな。
「待たせたな、こっちは書記みたいなもんだ気にするな」
「しかし隊長自ら調書作成ですか、下の者を使わないと成長しないと何度言えばわかるのです」
「俺は現場主義なんだよ。 ああ、すまないな、気にするな。所で出身は何処だ?」
可能な範囲は自ら率先して仕事をこなしちゃうタイプの人か。部下に経験させた方が良いのは確かだけど、今回は粗方隊長さんに話してるから俺としては楽なんだよね。
組織人としてはどうかと思うけど。
「ここ、首都ですよ」
「家は? いや、先ほどの女性と住んでるのか」
「ええ、昨日からですが」
「昨日から? それ以前は何処だ?」
怪訝そうに聞いて来るがそれもそうだろうなと納得する。自分でもわかるほど変な事態だし。
「ヴァレンが経営してる雑貨店です、そこで息子してました。今はただの個人です」
「ヴァレンか、覚えが無いな、後で調べておこう。それで、何故個人なんだ?」
「父ともめたので家を捨てました。それで昨日魔物ハンターギルドに登録したんです。その時相談にのって頂いたのが先ほどのお姉さんで同居してます」
「彼女にしてみれば命の恩人が飛び込んで来たのか、ある意味幸いだな、ご家族が心配だが。
という事は、彼女の帰宅に同行した際に尾行に気が付き、逆に追跡、アジトの割り出しか、優秀だな。本気でほしい」
「脱線してますよ隊長。鑑定する訳にいかないんですからきちんと聞いて下さい」
ふむ、勝手に鑑定はご法度なのか、不用意に鑑定するのは避けよう。
だけどこのままダンマリだと話が進まないから伝えるか、魔物ハンターギルドへ登録した際に書いた内容程度なら直ぐに調べがつくし、前後するより今話した方が信用されるだろう。
そういう訳なので話す事にした。
「そうですね。俺個人の事でしたら、9歳、男で猫人族、戦闘は近接戦闘する際は盾にエストック、もしくは短槍、魔術は風ですね。探知は気配探知持ってます、気が付けたのはそのおかげですね。このくらいですかね?」
「そうだな、後は細切れに聞いた事をつなぎ合わせれば全て調書は揃うが、例の武器とやらを見せてくれるか」
えーとどれかなと言いながらバッグに手を突っ込み、先にお金と武器、そしてドロップ品をマジックバッグに移して例の毒矢を取り出して見せ、渡す前に注意する。
不注意に触って死にました、じゃ洒落にならないからね。
「渡す前に注意しますが、ヒュドラの毒を塗ってあります。絶対に刃先に触れないでください、死にますから」
ゆっくり手渡す。
「だそうだ、鑑定しろ」
「……これは、本当に最悪な品ですね、間違いありません。一掠りしただけでも死にますね、猶予は僅か三十分しかありません」
「はぁ、本当に優秀だな、矢を射かけられたのを素手で掴んだのか、そんな事出来る奴はこの国に何人いるだろうな。
それも前準備無しの突発で、しかも屋根上からだぞ。もう年齢関係ないだろ、うちに来い」
いやいや、そんな物騒な品を掴んで止めたりしてませんから、飛んできたままをマジックバッグに入れただけですから。
ま、言わないけどね。勘違いさせたままで良いだろ、マジックバッグの出所とか聞かれたらそれこそ面倒だし。
「隊長。それを隊長が破りますか……この子が入隊したら隊長は犯罪者ですよ」
騎士入隊は年齢制限があり、強制的に入れると入れた本人が犯罪者らしい。ま、当然だな。九歳の子供が騎士団員とかありえなさすぎる。
それを堂々と人前で言うんだから、俺、厄介な人に目を付けられたかも……。
「……ローズ。お前がこの子の恋人になって繋ぎ止めろ、そして落とせ」
いやいや、必要無いですから、俺にはお姉さんがいれば良いですから。
「その。すみませんが、俺は先ほどのお姉さんが好きなのでお断りします」
「……ませガキだな」
「隊長が言いますか、先ほどの言葉を思い出してから言って下さい」
「まあいい。それで、今持ってるんだろ、そのマジックバッグに、今使ってる武器を見せてくれないか」
「良いですよ」
マジックバッグ丸ごと預ける。
特段聞かれなかったか、良かったね。下手に言いつくろっても嘘だとばれたら後が面倒だからね。
聞かれたら言い淀んで答えない気でいたが。
「いや、バッグは必要無いのだが」
「この子の考えを読みなさいよ。やましい品は無いから全部見ても構いませんと言ってるの」
「それもそうか、全部拝見するか」
火魔術を付与した錆びたナイフを一本と薬草類を抜かして全部を入れておいたのだ。
「ん? これはゴブリンのドロップ品だな、ただ数が多い。お金はまあまあか、実力者とは思えんほど少ないな、家計に協力していたと考えたら好ましくはあるが。
武器は……短槍の総金属製品では一番安い品、盾も安いのだな、こっちはエストックにしてもスティラットにしても長さが違うな、特注品か、それにしても使い込んだ感じがしない。
何をどうやって狩ってたんだ?」
「戦ってたのは西に出て北西の森で、弱点ばかりを狙って一撃で倒してたよ」
「正確に目を狙えば一撃か、それなら傷まないな。ますますこの子が欲しい! ちょっと模擬戦しないか?」
「また病気が発症したわね、いい加減にしないと上に上げますよ」
「具体的にどこに?」
「言わせますか?」
「……まぁなんだ、今のは忘れてくれ。それより来年は十歳だな、何処か学校に入ったりしないのか?」
上は上でも相当な上らしい、撤回するほどには。
「五年間の学校を受験予定です。お金は二ヵ月もあるので準備できます。蛙を倒す予定ですから」
「あんなのを倒すのか、だとするとレベルは最低でも二十は欲しい所だが、あれを素手で……」
あら、情報を与えすぎたかな? Bランクからその程度は大丈夫だと思ったんだがなぁ。
「試験内容に模擬戦があるのか知りませんが、もしあったと仮定して、隊長さんがその試験官さんだったら、堂々と模擬戦出来ますね」
「それだ! 試験内容を変更して俺が買って出れば解決じゃないか」
「そんな事できるはずないでしょう。そもそも半日近くも拘束される事に出れる訳無いですよ。特に警備が必要な時に、そのトップが職務放棄ですか。
もちろん可能な手はありますが、隊長止めますか? ああ、これは騎士を辞めるのかって意味です」
「すみません、忘れて下さい」
「隊長さんて、自由が無いのですね」
「その通り! ちょっと変わってくれよローズ様」
今度は睨まれて自ら言葉を撤回した。
この隊長さん、弄りがいがありそうだな。とことんローズさんの手のひらの上で踊ってるし。
俺より抜けてるって言うか、天然なのかもなぁ。
「それで調書ですが終わりですか?」
「調書そのものは終わってるが、壊滅させたあの末端の事だ。
奴らの資産は没収されテリストに全て渡される。そこでなのだが、奴らの装備要るか? 体格的に合わないだろうから売り払って現金で渡すつもりだが」
「ん? 要りませんよ、そもそもお姉さんの命を狙った事に対する対処をしただけですし」
「なぁ、身近な人から常識が抜けてるとか言われないか?」
あちゃぁ、失敗したか、これは受け取らなきゃ不味かったのね。隠すほどドツボにハマりそうだし、素直に認め解くのが良さそうだね。
これで常識がありますなんて言った所で、現地人に適うはずもないからなぁ。
「奇遇ですね、昨日お姉さんから散々言われましたよ」
「まあいい。そこの説明をするなら、盗賊などを討伐すれば、討伐者にその資産を受け取る権利が与えられる。それが盗品だとしてもだ。
理由は簡単だ。盗まれた奴に返す、買い取る権利を与えると決めていた場合だが。その所有者だと言う輩が複数人現れる事態になる可能性がある。簡単に言えば便乗して奪おうとする奴がいるって事だ。
それを避ける為に、討伐者が不利益を被らない為に一切合切権利が与えられる」
交渉に強い奴を選抜して、討伐した者と交渉させる。もし、討伐者がハンターであった場合には交渉などした事が無く不利となり買い叩かれるれる恐れがある。その保護の為に全ての権利を渡すと決まっているのだ。
「なるほど。それなら受け取らないと空白が生まれるんですね、装備は現金でお願いします。
それとお聞きしたいのですが、あの建物も含まれるって事ですよね。全額じゃなく、全てと言ってた辺りから」
「やっぱり気が付いた? 引っ掛けるつもりだったんだけどな」
何と言うか、やっぱり天然だな。いや、天邪鬼もふくまれてそうだね。
「すみませんが、手間でしょうけど売り払ってもらえませんかね」
「あーそれがな、何とも言いようが無いのだが、調査するにあたってかなりボロボロになるだろう。
ありゃ、解体して土地を売るしかない。解体費用を考えるとあまり利益にはならんな」
あー、言ってたな壁床天井、ボロボロになっても構わんから徹底的に調査しろとか。
「まぁ元々あぶく銭ですからね、それじゃこうしましょう。あの土地寄付しますから、騎士さんの宿泊施設でも作って下さいよ」
「ふむ、あの地域の治安維持に大きく貢献できる案件だな、検討しよう。
それで今後なのだがな、もし、上の連中までの情報なり証拠なりが見つかって踏み込む場合だが、その際に戦力が足りなか場合は指名して良いか?」
「俺はBランクなので強制依頼は無理ですよ」
強制でなくとも、俺が拒否しなければ協力は可能だけどね。ただ、受けた場合には前例を作る事になる。それが良い事なのか悪い事なのか常識がわからない俺では判断が出来ない。ここは一先ず棚上げが一番賢い選択だろう。
「そうだったな」
「それでお姉さんとも相談したのですが、上げるかどうかはまだ考え中です」
「あの制度を無くせれば良いのだが……一つ足枷になるから外すように陛下に上げておこう。それは良いが上まで捕らえられなかった場合だ」
それは特段忠告してくれなくても分かってますって、実行部隊は末端と相場が決まってますからね。
上が釣れなきゃ本当に狙っている奴が丸々残る。
そうなれば別の刺客が来る事程度は直ぐにわかる。それでも宿屋を変えて宿泊先を変えても意味が無いんだよな。
職業が完全に相手、それも狙った張本人にもバレバレだ。結局一日程度の猶予にしかならん。
宿を襲撃された際に対処する方法としては、魔物ハンターギルドに逃げ込むか、騎士の駐留してる場所に逃げ込むのが一番手っ取り早い。
そういう意味では魔物ハンターギルドにほど近いあの宿屋にいる方がマシってもんだ。
そんな訳で引っ越しはしない方が良い。
「お姉さんを恨んでる奴が残るから注意しとけ、ですよね」
「はやりそこに行きつくよな。今回の事で騎士が派手に動くから少しは大人しくなるはずだが、時間が経てば活性化するだろう。
可能ならギルドにいる時以外の時間は常に行動を共にしろ。
それと学校だが、貴族はメイドを一人連れて行けるし連れて行く者が大半だ。一般も禁止はされていないが連れて行く者はいない。
前例が無いだけで連れてはいける、彼女が飲むなら連れて行け。その方が安全だ」
退職してもらう必要はあるが、職業と命を天秤に掛ければ命を取るだろう事から問題ない。そして金銭的な事も俺が稼げばいいだけで問題無いが、そんな生活でお姉さんが納得するかだな。話して見なければならないな。
「その案を飲みます、説得してみます」
「それが良い。近いなら家から通えるが寮でも生活ができる。貴族は一人部屋だが一般は相部屋だ。ここまでは学費に含まれる。
それでメイドを連れて行けば別料金が必要になる。学費の二割だ、特待生でも払う必要がある。内訳は部屋が貴族基準で必要な事から追加料金が発生する。
それとメイドの食事代金までも含まれる。
勿論部屋は主と同部屋だがメイドはメイドらしい服装を整える事が必要となる。合格発表の日に学校に相談して発注しろ、それで間に合う」
アドバイスを受けた俺は、その足で魔物ハンターギルドへと向かうのだった。




