103:別れ
そして翌日、皇都の外へと赴き魔術の講義をしたのだ。
もちろん例のミスリルの箱から土と水属性の魔導書を一揃え探し出して渡してある。そして夕食後の食卓にて。
「一通り教わったから明日には此処を出て国元に帰るよ。国の現状が心配なのもだけど、母さんと妹に会いたいからさ」
「確かに戻る必要はあるけど、早く無いか? もっとゆっくりしてても良いと思うぞ、服を買わないと一着で後は防具しか持って無いだろ」
「それはそうなんだけど、ズルズル居続けると帰るタイミングが無さそうだと思ったんだよね」
「はぁ。仕方ないか、引き留めてもいずれでなきゃならんし。決意してるのならそのまま出た方が揺らがないだろ。サルーンとサーシャにも話さなきゃならないからついでに言うぞ」
タイミング的にもここで話すべきだろう。オウカにも注意しとかなければ取り返しがつかないからな。
「テリストは何か隠してるの?」
「姉さん、話の腰を折らないでです」
「まあまあ。
オウカ、お前の体は無理に召喚された勇者の体だって事を忘れるな。
確実に容姿で判断できるのが帝国、魔人族の国、獣王国にいる事を常に意識に止めておくんだぞ。
特に前者二つの国には絶対に行くな。勇者だと看破されたら利用しようと近付いて来る。
特に男が引っ掛かりやすいのがハニートラップだ。下手に煽ててきたら警戒しろ、例え好みのタイプでもな。何かに巻き込まれて手に負えないと判断したら即刻俺の所に来い。匿う事は当たり前だが、状況次第では踏み潰してやる。そして可能ならだが、嫁さん見つけたら戻って来てこの国で暮らせ。いいか、絶対だぞ」
「心配性だね。これだけの力があるんだよ、その程度なんてこと無く撥ね退けるよ」
罠に填まるのと罠を噛み破るのは別だろ、波長が似てるならお前もトラブルメーカーの素質があるって事を理解しろ。
「あのな。細心の注意をしてても獣王国で罠にはまったんだぞ、数で来られたら今のお前では耐えられん。だから無理をせず、下手に噛み破ろうとせずに逃げ出せ。命は一つだって事を胆に命じろ。これは命令だ、良いな?」
「わかったよ。注意を怠りなく、だよね」
「それでいい。後で資金を渡す、その前に俺の事の説明だな」
事細かに話すには時間が掛かる、なので、ざっくりと説明したのだった。
「やはり、野放しにしておくと被害者が増えますね。まさかテリストが勇者だったとは露にも思いませんでした」
「ざっくり説明したけど、今分離してる様に帝国で俺が死にかけた事から今こうして生活できてる訳だ。
そんな訳で帝国を野放しにしてると被害者は増えるな。
それも異世界の者が拉致の状態でな。正確か分からないが、準備期間で五年はかかると言っていたから、それが本当だとしたら猶予は四年無いかもな。俺が拉致されてからの強制強化期間がどれほどだったのか、無理やりだったからあまり覚えてない、大体で考えてくれたらいい」
「各国へ呼びかけて何らかの形で放棄させるなり皇帝を引きずり下ろすなりしたいですね」
各国を巻き込むなら手が無いでもないな。非常に残酷な手になるかもだけど。
「ふむ。帝国って全周囲陸地なの?」
「そうです。海には面していません」
「岩塩は取れてる?」
「確か、採掘出来なかったとは思いますが。それがどうかしましたか?」
「民が不幸になる手だが、交易制限で死滅するな。持って数年か」
「えらく物騒ね、塩の制限でそんなに酷くなるの?」
「確かに食べ物からも取れるよ、野菜類とかには少ないから肉から取るんだけどね。だけどそれだけじゃ足りないんだよ。体調不良と言っても色々あるけど真っ先に貧血あたりの症状がでるかな、ふらつきとか眩暈とか。そこから体力低下に成ったような症状が出る。脱力感とか食欲が無くなるとかね。
最終的に全然足りないと死ぬわけだけど、そこまで行かずとも働けなくなって生産量が激減する。食料不足で死滅、そこまで確実になるな」
絶対打てない手だろうけどね。
「一応あれでも周囲は中立国ですから交易封鎖は無理でしょう。それより少数で乗り込み皇帝と周りを排除するか、魔人族国へ協力して逆に押し返すかですね」
「後者は無理ですね。前者一本でしょう」
「どう言う意味ですか?」
「今魔人族の国は敵対勢力を増やしてる最中ですから。ヤヨイ説明を」
「テリスト様の言われる通りに、各国へ諜報員をさし向けています。これが露見すれば敵に回る算段が高いでしょう」
「そういう訳ですね、その一人を俺が捕らえて訪問団の派遣に繋がった訳ですし」
「あらまししか聞いていませんでしたが、その様な経緯があったのですね」
「直接乗り込むなら俺が行くかな。あの皇帝と第一王女だっけ、ぜひお礼を返さないとな」
散々な事をしてくれたからな。簡単には殺さずにじわじわ殺してやらんと俺の心が整理出来ない。
「また、お礼の意味が違ってそうですわね」
「復讐って意味もあるけどさ、あれは民が不幸だわ、なんせ馬車で市民を引き殺してもノンストップだからな」
「あー言ってたわねそれ。本当に屑だわ」
「だろ、俺が直接屑屑言ってやったからな、本当の事を言われると逆切れするぞあいつら」
「テリストの性格が分かりました。正義感とは少し違いますが、曲がった事が嫌い。それらに対しては全力で体当たり。普段とかけ離れた二面性ですね」
「あながち間違ってませんわね、ここ一番には非情になり切りますもの」
「前話したな、線引きこの事。常にそれを念頭に入れて行動してるつもりだからね。ある意味トラブルメーカー?」
やっぱりオウカにも素質有りだな。俺と同化したのが一番良い例だろう。
「テリはテリって事よ、姿がどうあろうとね」
「テリクンですもの、そのままですね」
「と言う事は、オウカもトラブルメーカーの素質有りって事か」
「あり得ますわね」
「いやいや、僕に振らないでよ」
翌日。伯爵家から出土(発見)して売却した内の三袋を持たせられたオウカは港へのゲートを潜るのだった。




