10:テリスト家から逃げ出す
「それは当然だね。それで明日だけど、朝の混雑がひと段落したら別の狩場に行かないかい? ダンジョンでも良いけど罠感知を出来る人がいないと命に関わるからね、やっぱりフィールドかな」
ふむふむ、提案するって事は日帰り可能な距離にある訳か。そっちは学校で罠感知を覚えて行けばいいな、慌てる必要は無いからな。教えていればだけどね。
「ダンジョンがあるんだね、それは兎も角三人で行こうよ。お互い教え合う事も出来そうだし」
「テリストの腕前を拝見しようじゃないか。それで活動したのってたったの二日だろ、技術を教える必要もありそうだからな」
それも良いな。本業の方のお手並み拝見といこうか。
「これでひと段落かな? 母さん、そろそろ先生の所に行こうよ」
「そうね。貴方、テリスト君が薬草類を採取してるから売って来るわね」
「待て、テリスト。学校に行くと言ったな」
「ええ、父さん、言いましたよ。一般常識すら抜け落ちてそうなので、補完する為にも行ってきます。
もちろん家計に負担はかけません、最悪でも自力で資金調達します」
「行くな、お前には不要だ」
は? なんだそれ。
「どう言う事ですか父さん」
「それだけのスキルが揃っていれば何不自由なく暮らせる程度なら余裕で稼げるだろ、この家に住んでいれば学校の教育は不要だ」
ちょっとカチンと来てるんですけども、俺の能力を利用して死ぬまで囲い込むで良いんだよね、この返答だと。
ついでに言うと、お前に常識は不要だ。勉学も不要だと言っているんですけど。最悪だな、お金に目が眩むとこうも変質するのか、お金怖い!
「父さんそれ本気ですか? 今なら撤回すれば穏便に済みますがどうですか?」
「何度も言わせるつもりか?」
本気だそうです、救いようがありません。きっと俺の事を、振るとお金が出て来る打出の小槌とでも見えてるんでしょうねぇ。
こうなったら最後の手段ですな。
親友の事も考えたいと思ってる中で拘束されるのは最悪の環境だと言えますし、そもそもこの国に永住するつもりもありませんし。
折角異世界に来たんです。世界を見て回り、観光しないと損でしょう!
そんな訳で、さっさと突き付けましょうかね。
「ヴァロッサ兄さん、そのバッグこっちに下さい」
「良いよ、ほら」
と渡してくれた。
「父さん、母さん、リンズハルト兄さん、ヴァロッサ兄さん、リーズ、今日までお世話になりました。俺は家を捨てます、これは選別です。さようなら」
父の前にバッグをポイっと投げ渡して家を出るのだ。
「馬鹿な事を言うな! お前の家はここだ、家を出る事は許さん!」
顔を赤くして怒鳴っているが。それはこっちが取るべき態度だろうに、逆切れ最悪……。
「待ちなさいテリスト君。貴方も貴方よ、子供を何だと思ってるの、お金を生む道具じゃないのよ!」
「父さんがそんな事言い出すから……テリストにはずっとここで暮らしていた記憶がないから何の執着も無い、捨てるのに躊躇しないのを理解してない。
そもそも魔物ハンターとしての技量もあるから生活力も問題無くあるから躊躇なく家を出るんですよ。理解してるのですか父さん、今撤回しないと永遠にお別れですよ!」
「お兄ちゃん、行っちゃいやだあああああ!」
「俺は如何すればいいんだよ、父さんの考えは分かるけど完全に間違ってる。俺もテリストの立場なら逃げ出すかも、な」
これ、一応聞いていたけど、皆の感想だ。
俺に懐いてるリーズには悪いが俺の将来が掛かっている。ここで生活すれば附与する事を強要される。それは散々腐ってると言い放った帝国とまるっきり同じだ。
俺は奴隷ではないと意思表示も込めて出る以外の選択肢はないのだ。
「まぁ、学校卒業まではこの国にいますけどね。周囲は見知らぬ土地だらけ、方々に出向いて観光三昧も良さそうです。
決断するきっかけを与えてくれた事に感謝しますよ、ヴァレン殿」
さてと、一方的ではあるがお別れの挨拶は済んだ事だし出て行くとしますかね。
気配遮断と魔力操作を全開にする。例え目線の中に入っていても人と認識しない限りオブジェと一緒、俺が動けば効果は下がるが、気配探知と魔力探知が高く無ければそもそも気が付かないので問題無い。
その状態で俺は家を後にした。
さてとどうするかな。先ずは宿の確保だけど、今後の狩場の事もあるし。魔物ハンターギルドで狩場の確認を優先して、狩場に向かう為、門に近い場所に宿を確保。この流れが最良だろう。それと国の歴史を勉強しておかないと筆記試験で落ちるからな、その辺りも聞くか、って事で早速向かう事にした。
そして魔物ハンターギルドの入口を潜り、前回お会いした兎人族のお姉さんがいたので当然の様に話しかけた。
「こんにちはお姉さん。今良いかな」
「うわ! びっくりした、突然話しかけないで、それよりも存在が希薄ね、スキルを止めて頂戴」
腰が引けたのか、若干椅子ごと後ろにズズっと移動したのだ。
あ、やべぇ、止めるの忘れてたわ。それにスキルに気が付くって中々の知識だね。
「ごめんなさいお姉さん、スキルを切るの忘れてたの」
「良いわよ、素の状態に戻った様ね。それで何の御用かしら」
「いくつもあるから時間が掛かりそうだけど良いかな?」
「この時間帯はね、基本暇だから話し相手に丁度良いわ。何なりと言ってごらんなさい」
それはラッキーですな、早速相談してみるか。
「魔物の位置を教えてもらいたいのです、レベル二十程度の方々はどちらで狩ってるのですか?」
「あなたまさか、無茶な狩をする気じゃないでしょうね」
つい先日素人用の狩場を教えて、数日後に二十台の狩場教えてだもんな、そりゃ警戒するわ。
周囲を見てみるもこちらを伺う者は0人、なのでちょっと打ち明けてみる。
「そんなんじゃありませんよ、単に適正レベルを外れたので狩場を選定し直したいだけです。嘘だとお思いなら鑑定してください。その代りに内密にですよ」
「本当に良いの? 基本、PTを組む場合も口頭で伝えるだけよ、そうしないと弱点を教えるようなものだから」
なるほど、一理はあるな。だけど職業柄、他人の情報を垂れ流しにすれば信用を失い失業するだろう。その点では魔物ハンターギルドの職員と言うだけで信用に足り得る存在と断言できる。
それに打算もある、このお姉さんと親しくなりたいなーと。
今の俺は九歳だけど中身は十七歳、年の差なんて何のその、バッチコイ! なのである。
「お姉さんなら良いよ、職業からして口が堅くないと直ぐに首でしょ、信用が無ければ個人の行き先すら知る事の出来る窓口担当なら尚更のはずだよね」
「坊やも言うわね、それなら遠慮無く鑑定するわよ」
水晶球を使って鑑定作業してるみたいだが話しかける。
「坊やねぇ、確かにお姉さんの半分程度かもね、九歳だし」
「そんな年食ってないわよ……それより本当の様ね。良いわ、狩場を選定してあげる」
おー優秀だな。言い淀みはしたが慌てもせず流したか、この人良いな、俺が元の年齢なら恋人にしたい。
「あの森の猫程度の速度でしたら倒せますから、極端に硬くない魔物が良いですね。なるべく近場でお願いします」
「猫ってウイングキャットよね、誰も倒したがらない避けて通る魔物を相手にしたのね、驚愕だわ。
うーん。ソロで活動、スキル構成からダンジョンは不向き、少し遠くなるけどお勧めは一ヶ所かな。スレイト湿原、西門側で馬車をチャーターすれば良いわ。乗って一時間って所かしらね、歩きだと三時間は必要かな。
二匹も倒せば馬車代金にはなるから赤字にはならないわ、敵はフロッグね、蛙よカ・エ・ル」
そんなに協調しなくても良いのに。だけど苦手な人もいる事は事実か。
「ふむふむ、その馬車って行った先で待っててくれるの?」
「そうよ、監視小屋があるからそこで待っててくれるの。この件は終わりかな? 次は何?」
「来年だけど学校に行く予定なんだ。それで国の歴史を知りたくて、お姉さん教えてくれない?」
ちと、厚かましいが頼んでみたのだ。
「そんな時間は無いわよ。そうね、この建物に併設されている資料館にその手の本があるはずよ。
場所は一番左奥の階段を上がった二階。受付があるから相談して頂戴」
なら好都合か、丸暗記で済むから時間は一日もあれば大丈夫かな? 厚さ次第だけども。
次が最も重要かもしれない、駄目だろうとは思うがダメ元で聞いてみる。
「それじゃ次だね、名前変える方法って無いかな? 俺、家を捨てて来たんだよね」
「は? 何言ってるの? 九歳で家出? 本当なの?」
呆れた顔で訪ねて来るが本当なんだよな。ただ、正確では無いので訂正してあげる。
「違う違う。家出じゃなくて家を捨てたの、永久に戻るつもりは無し」
「何があったの……」
「高熱の後遺症で記憶喪失になってね、丁度その時父親は交易で…………」
と詳しく説明した。
「親も親だけど、坊やもたいがい見切りが早いね。話し合う余地は無かったの?」
「家族みんな父親に反発して止めてたよ、それでも頑なに撤回しないから捨てて来た。幸い、家族の事も数日間の記憶だけで何も躊躇する理由が無いからね」
「はぁ、父親は自業自得だけど、他の家族はたまったものじゃないわね、きっと心配して探してるわよ、せめて宿泊先ぐらいは教えておきなさい。
名前を変える手段なんて知らないわよ、それを知ってるなら私だって……」
後半、声は小さかったが聞こえてしまった。ここは紳士らしく聞かなかった事にして華麗にスルーがモテルコツだな。これでいこう。
「うーん、今から宿探しだから教えようとしても教えられないんだけどね」
「あの猫を倒せるぐらいなら稼げてるのよね。
鍵付き個室、朝夕の食事付き、お昼の弁当も準備可能で西門方面となると……」
ここはやぱり爆弾投下でしょ。図らずも同情的な部分ばかり、と言うかそのままを話しただけなんだけど。
悪いけども利用したいと思います。紳士さん引っ込んでてください、ここは出番では無いのですよ。
「そりゃお姉さんと同室でしょ」
「……高いわよ」
通っちゃたよ!
「え、良いの?」
「はぁ、記憶喪失なら全くこの辺りの地理すら覚えてないんでしょ。その状態で、しかも九歳のおちびちゃんがあっちこっちうろついてみなさいよ、きっと目を付けられて攫われるわよ。
一泊二食付き、風呂無しソファーで良ければ銀貨一枚。だいたいこの辺の倍額ね。
もしくはベッドで寝たいなら追加で銅貨を二枚ね」
ふむふむ、俺の事も考えて許可してくれたのか、本当に良いなこのお姉さん。この恩はきっと返すよ。
「ソファーで良いよ、まだ背は小さいし、すっぽり収まるよね?」
「若干はみ出るかな。
そんな事より独り立ちした、と考えて良いのよね。それなら身分証を作っておいた方が良いわ、ついでだから魔物ハンターギルドに登録しなさい。それで大丈夫よ」
「九歳で入れるの? って、聞くだけ野暮だったね。入れないのにお姉さんが提案する訳が無いし」
「あまり低年齢だと活動に支障が無いか模擬戦を行って審査されるけどね、本来なら貴方も対象よ。
だけどあの猫を倒してる位だから問題無いわね」
「いやいやお姉さん、それぜひしようよ模擬戦。俺、何だかんだ言ってるけど、他の人が戦ってる所って見た事が無いんだ、ぜひ対戦してみたい」
見るのと実戦で戦うのは別だと気が付いてないのだった。
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そしてテリストが家を出た後、そのショックから抜け出した頃の元我が家での一幕。
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが出て行っちゃった! お父さんの馬鹿ーーーー!」
「親に向かって馬鹿とは何だ。リーズ、そんな言葉は使うんじゃない」
「父さん、それは流石にないよ。言われて当然の事をした自覚は無いのですか」
「俺は家の事を思って提案しただけだ、それの何処が間違っている」
「全部間違ってるよ、弟をお金を生み出す道具扱い、常識を学ぶ行為を止める、勉強するた為の行動を禁止する。
これの何処が間違ってないのさ、親以前に人として間違ってるよ!」
「いうに事欠いて親に向かって言うセリフか! これまで育ててもらった恩も忘れ、それをお前が言うな!」
「取り繕ってもお兄ちゃんは帰らないよ。お父さんなんか大嫌い、お父さんなんかしんじゃえーー!」
「何だと! それは言い過ぎだ、取り消せ!」
「黙りなさい貴方、テリスト君が家を出た事が全てよ。その結果を受け止め反省すべきなのを逆切れしてどうするの。
こんな事が世間様に知れ渡ったら我が家の恥よ、その位の事も考えつかないの?」
「誰もこれも反対意見ばかり言いおって、誰のおかげで生活できていると思っている。俺が稼いでるから生活できているんだぞ」
「そう言う事なら結構です、貴方一人で働いて生活しなさい。
リンズハルト、ヴァロッサ、リーズ、身支度を済ませなさい。実家に帰ります」
一家離散した瞬間だった。
そしてテリストの置き土産だが置いて行くという選択肢は無い。テリストを追い込んだ奴に渡す選択肢などあり得ないからだ。
現金を五分割して四人分を確保、必要な家財道具もろもろ含めてマジックバッグに詰め込み、その日は王都で一泊した。
母親のリーンと娘のリーズは翌早朝に定期便の馬車で親元の商会へ、兄二人は王都に残り年末に向かうと約束をして残ったのだった。




