第八話
急な展開に、困惑が広がっていた――――。
アルタナディアを襲った兵士について、そしてバレーナを女王にという要望に対しての返答期限。グロニア城の会議室はエレステルの重臣が集結していたが、肝心のアルタナディアがそこに現れない。
「ふぅむ……シロモリの、どうなっている?」
腕組みをしながらどっしり座るバラリウスがアケミに問う。
「お加減が優れんのだと」
「具合が悪いのか? 病気か?」
「だからあたしはアイツの部下じゃないって言っただろ、知らんし教えてくれん。大体貸してるのはあたしの部屋なのに治外法権なんだぞ!? こんなことなら金取っときゃよかった」
「そうだったのか? だがよいではないか、それなら堂々と外泊できるであろう」
バラリウスを始め、場の男どもの何人かがニヤニヤするのを見て、アケミは舌打ちした。
「しかしどうしたものですかな……今回はベルマン殿にもご参加いただいたのですが」
オーギン議長に釣られて一同の視線が一人の老人に集まる。
白髪・白髭のこの老人はベルマン=ゴルドロン。エレステル軍将第一位にして第二大隊大隊長―――エレステル軍のトップである。齢六十を過ぎ、最近は少々体調を崩していた…と言い訳して孫たちと遊んでいた。しかし本当は王の世代交代を軍の刷新の機と見て、一線から引いている状態だ。軍の旗頭である第一大隊をバラリウスに譲ったのはそのためである。これは本人が明言したわけではないが、わかる人間は察している。
戦士としてのベルマンはバラリウスに負けず劣らずの巨漢で、かつては「白き大熊」の異名を持つ怪力無双であった。さすがに現在は若かりし頃ほど筋骨隆々とはいかないが、今でもその鉄拳を受けた生物はもれなく気絶する。全盛期を過ぎたベルマンを「しろくま」などと呼んでいいのは、可愛い孫たちだけである。
そんなベルマンとバラリウスが並んで座ると、場の空気が引き締まる。共にエレステルが誇る武力の中核であるからだ。
しかしこの二人、一緒になると別の意味で手がつけられなくなる―――
「御大、お身体の具合はいかがですかな?」
「うむ…どうも腰痛が治らん。孫たちも走り回るようになってのう、遊んでやるにもなかなか体力がいるわい」
「子供の相手くらいで参るほど衰えてはおられますまい。さてはいい女を鳴かせましたな?」
「若いエキスを吸うたら治っておるわ」
「ワハハハ!!!」
こんな具合に、二十以上歳の差があるのに兄弟のように仲が良い。ただしネタは下品である。
「……なにはともあれ、これで最高評議院十三席が出揃いましたな。今回は重要な案件でしたので全員での取り決めができて何よりです」
オーギンがこう述べるのは、最高評議院による多数決での採決ができるからだ。議席が奇数の理由がここにある。
ちなみに今回集まった十八名の中で票を持たないのはオーギンが務める議長、内務大臣、財務大臣、外務大臣、法務大臣、そしてアケミである。通常はそれぞれの大臣が現状報告と提案を行い、議員を交えて会議。意見が分かれれば最終的に多数決という方式である。なお、アケミはシロモリの当主ではあるが、基本的にこのような場に参加することはない。シロモリ家は軍事アドバイザーを任としており、それに関わる限りはあらゆる場面で融通が効くが、政治に参加できず、軍属になることもない。シロモリはひたすら武を磨くのみであるのだが、今回に限ってはアルタナディアのパイプ役としての参加だ。
そして、本来ならば必要な人間がもう一人―――王がいない。
「…王がおられぬが止むをえまい。本来ならばバレーナ様がいて然るべきであるが、バレーナ様を女王とするかが今回の重要議題の一つであろう? 我々が王と認めるかどうか、というところであるから我々が主体となって決めることであるし、ご本人がおられぬ方が忌憚なき意見も交わせよう。各々方、いかがかな?」
バラリウスの提案に反対する意見はない。同意を確認して、バラリウスの目はアケミに向く。
「貴公はどうだ?」
「筋は通ってる。やり方に反対する理由はない」
「王女殿下に告げ口するなよ?」
「場合によるな。下品な言い回しで我らが王女を辱めないことを願う」
「むう、意外とチクチク刺してきおる。案外お主も女よな…」
バラリウスが軽口を叩くのを止めないが、アケミは気を緩めない。意見する権利のない自分になぜ確認したのか? その意図が掴めない。
「ではこれより臨時評議会を始めます。まず第一議案、我が国の兵がアルタナディア女王を襲撃したとされる事件とアルタナディア女王の要請に対する回答について。まずはシロモリ殿に改めて経緯の説明と現状報告を……」
「襲撃したとされる兵は我が国の貴族・ミカエル卿の私兵であると今朝方判明いたしました」
何を言うか――末席近くに座るサジアートは胸の内で吐き捨てた。すでに調べはついていたに決まっている。それを今日まで秘匿としていたのはミカエルが慌てて動くのを待っていたからだ。何か行動を起こせばそれが証拠という腹積もりだったのだろう。しかし、それはアルタナディアを襲撃したという決定的な証拠がないことの裏返しでもある。なぜならアルタナディアは「深夜」に「変装した」上で襲われたという。意図的に「女王」を狙ったのであれば変装しているという情報を事前に得てなければならないが、当然そんな事実はない。ミカエルの部下はただ自分たちが見つかったと思って追い回しただけ、ただの間抜けである。とすると、殺意の有無すら怪しくなり、「不幸な事故」という事になる。もちろん無断で兵力を侵入させた理由を問われるが、バレーナ王女の支援に向かったと言えばどうだ? ミカエルはバレーナ王女のイオンハブス襲撃を知る立場にはなかったが、親友であるこのサジアートから相談を受け、バレーナを守るために差し向けたと言えば……バレーナに忠誠を誓う愛国の徒であると言えば、どうだ? いくらかのペナルティこそあれ、つけ入る隙はあるまい―――。
「――まあこれに関しては偶然とはいえ実被害が出なかったことですし、その他何か特別犯罪行為があったわけでもないので、両国の間での軍事面での関係強化を密に執り行う……と、その辺が落とし所じゃないかとアルタナディア様は仰ってましたがね」
(…何?)
アケミがさらりと代弁したアルタナディアの見解はサジアートの予想とは違った。もっと徹底的に突いてくるものかと……。
ベルマンは「ほぅ」と顎を撫でる。
「それが本当なら破格の条件じゃな……。今回、アルタナディア女王は兵を率いて来訪したが、威圧ではなく最初から訓練が目的だったとすれば……軍事的に協調を図る意志がある、ということかの」
「左様」とバラリウスが続く。
「我も御大の見解に同意致しますな。イオンハブス軍の荷物は武器などの装備品よりも食糧が主であった。始めから居座るつもりであったと考えられる。シロモリの、アルタナディア様は我が国をどのくらい理解しておられると見る?」
「………西方からの外敵を一手に防ぐエレステルの不満、その防衛行動を当然のことと受け止めるイオンハブスの上位思想―――一部とはいえ、古くから感覚的なズレがあるということは認識されているようだ」
「では、今回のアルタナディア女王の行動は、将来的にそのズレを修正する切っ掛けなのか?」
議員の一人の声にアケミは「おそらく」と頷く。
「従軍はあくまでデモンストレーション……いざとなれば共に戦える姿勢を示したというわけじゃな…。バラリウスよ、ワシは幼い頃のお姿しか知らんが、アルタナディア様は確か一輪の花のようなたおやかな方だったと記憶しておるが」
「それで間違いありませんぞ」
「そうか? あまりにも闘争心剥き出しに思えてのう。脳まで筋肉なマッチョになったのかと想像してしまったわい」
「……ベルマン殿、今のはアルタナディア女王に告げ口しておく」
アケミが横槍を入れるとベルマンがわざとらしく「ひょっ!?」と唸って見せた。
「何じゃと!? 今日の会議はやりにくいのう」
ワハハと笑い、どこまで本気かわからないベルマン大将軍。このままでは終わらないと、オーギン議長が咳払いをする。
「では、今回の件に関しましてはミカエル卿の責任を追及すると同時に、軍事を前面に押し出して融和的解決を図るということでよろしいでしょうか」
「異議なし」
「しかし現時点ではあくまで予測でしょう。女王から直接お話しを窺わなければ判断できますまい。それによりますな」
「そうですね」
それで総意となった。一人を除いて―――。
(なっ…なんだと…!?)
サジアートにしてみれば肩すかしを食らった形である。いや、ミカエルのヘマの影響が自分にまで及ばないらしいのはいいことなのだが……しかしこれはシロモリの思惑通りなのか!?
「では第二の議案、バレーナ様の女王即位に関してですが――」
「いや、その前に緊急の事案がありますぞ。北のラドガドーンズの軍が集結しているという情報が……」
「それについてはアルタナディア女王より提案を預かっています」
被せて発言したアケミがジャケットの内ポケットから封筒を取り出す。
「代読させていただく……過去の歴史においてエレステルおよびイオンハブスはラドガドーンズと戦闘を行った公的記録はなく、ラドガドーンズの目的が侵略であると断定するのは早計である。よって第一に正式に国交を結ぶことを優先とし、我が国と貴国の連―――」
―――コンコン―――。
唐突に会議室のドアがノックされ、返事も待たずにドアが開く。何事かとアケミも読むのを止めてしまった。
ドアを自ら開けて入ってきたのは漆黒の外套で身を包んだ老人。ほとんどの評議員と同様、アケミには見覚えがない……反応が違ったのはベルマン、バラリウス、オーギンなど数名のみだった。
「これは……ジレン殿、突然いかがした?」
「ジレン…!!?」
会議室に動揺が奔る。ジレン一族の顔は知られていない。一族を代表する当主のみが顔を曝すが、それも希だ。なぜなら公の場に現れるのは王の任命式の時のみ。王の代替えを期にジレンも当主の代替えを行うため、当代の当主を知る者は基本的にいないのである。ベルマンなどがなぜ知っていたのかは不明だが、それよりも今は「ジレン」がこの場に現れた意味の方が重要である。それはつまり………。老ジレンの発言に全員が注目する。
ジレンの当主は、厳格な表情でゆっくりと言葉を紡ぎ始める――――
「最高評議院の皆々様方にお伝え申し上げる。ジレンは隣国イオンハブスの王女・アルタナディア=イオンハブスを正式に女王として認める」
「……は??」
誰もが聞き間違いだと思った。
「待て…待て、貴様! どういう意味だ!? イオンハブスの王位など我々には関係ないというか、認めると言ったところでそれは貴様の個人的見解にしかなるまい! 一体どういうつもりだ!? ふざけるな!!」
サジアートがテーブルを叩いて苛立ちを顕わにするが、老ジレンは彫像のごとく眉一つ動かさない。
「ふざけてなどおりませぬ。ジレンはアルタナディア様を女王と認めた上で、その進言を受け、この度バレーナ王女を王たるにふさわしき人物と認定いたします」
「な、なにいぃ!!?? きさっ…な、ぁあっ…!?」
あまりの衝撃にサジアートは言葉が続かず、金魚のように口をパクパクさせるだけだ。
「…理由をお聞かせ願えますかな、ジレン殿。我々はその生涯を一つの使命に捧げるジレン一族を尊敬しておりまする。されど今回のその発言。女王とはいえ、他国の推薦があったからバレーナ様が王を頂くというのは、いささか納得いたしかねますな」
バラリウスの意見は皆の疑問と一致する。しかし強い視線を浴びせられてなお、老ジレンは不動である。
「これまでバレーナ様のご即位がならなかったのは、バレーナ様の提唱されるイオンハブスとの協調路線に賛同する声が半分にも満たなかったからです。もちろん両国の前王は非常に友好的でありましたし、民間レベルでの産業交流は今なお盛んですが、国家レベルでは乗り気ではない。しかしこの度、イオンハブス女王であるアルタナディア様からバレーナ様のご提案に全面的に賛同されるとの御考えを頂きました。ジレンはこれをバレーナ様の成果と捉え、女王に即位するに足ると判断した次第でございます」
理屈としてはややこじつけ感があるが間違ってはいない。しかし……
「ジレン殿。お話はわかりましたが、いつアルタナディア様と接触されたのですか? ジレンはあらゆる思想・勢力から独立するからこそ、その判断に信頼があるはず。公平性に欠けるのでは?」
オーギン議長の意見はもっともだ。ここにきて、老ジレンは初めて目線を落とした。
「アルタナディア様が我が屋敷を訪れられたとき、私は自らを当主とは名乗らず、変装しておりました。しかし過去にこの城中で数回私を見た記憶から、私が当主であると推測されたのです。この城中でアルタナディア様以上に私とすれ違った方は多い……しかし私の正体を見破れた方がこの中にどれほどおられるでしょうか? これは私が後世に残す最大の汚点でありますが、同時にアルタナディア様の能力の高さを証明しております。故に、異例ではありますが直接対話することに臨んだのです。そして今あるバレーナ様の課題はアルタナディア様と共に解決できるであろうという結論に至りました。であれば、ご即位されるのに何の問題もございません。そもそもバレーナ様は才気に溢れたお方。それはこの場の皆様がよくご存じのはず…。これ以上、私の方から申し上げるべきことはございません」
老ジレンが語り終え、会議室は困惑に支配される……。
…ややあって、口を開いたのはバラリウスだった。
「…よいのではないかな? バレーナ様ご即位の最大の障害はジレンの認定の有無であった。然るに、認定を受けた今、我に反対する理由はござらん」
「バ、バラリウスどのっ…!?」
「我が言い出したことゆえ、忌憚なき、正直な胸の内を曝け出すが―――バレーナ様がイオンハブスとこれまで以上の協調関係を築くその具体案を言い出されたとき、アルタナディア様を『妹』と譬えられた。古来より兄弟国とも言われてきた両国、その二人の姫君が仲睦まじいことは喜ばしいことである。一方で、休戦中とはいえ現在も続く西方との緊張状態、その最前線である国境警備で毎年何名かは必ず人死にが出る。イオンハブスに目をかけるあまり、自国の家族が疎かになっているのではないか……そういう懸念があったのだ」
「………」
それはおそらく本心だろうとアケミは思う。事実、アルタナディアに対するバレーナの想いは一線を超え、それこそ国家を揺るがす暴走とも言える行為―――イオンハブス襲撃をやらかしたのだ。本当の意味でバレーナの心情を知っている者はおそらくこの中にはいないだろうが、それでも常軌を逸しているのは間違いなく、バラリウスが不審に思うのも当然である。
「…しかしここに至って、そう単純な話ではなくなった。アルタナディア女王だ。わが主君も女だてらに稀にみる王の資質をもつお方であるが、あのアルタナディアは……得体が知れぬ。王になったのではなく、初めから王であったようにすら感じるのだ。華奢な身でありながらあの威容……あれほどの才を持ちながらこれまで一つも名が挙がらなかったことがまず第一の脅威と言えよう。まだ少女の身空で、全てが本人の意思によるものとも思えぬが……少なくとも、あの御仁を疎ましく思う理由はない。むしろ味方であれば心強くもある。バレーナ様の協調強化の案も間違いではなかったと認めざるをえまい」
「……ふむ…ワシはまだ『アルタナディア女王』にはお会いしておらぬが、バラリウスがここまで語る人物であるのなら、イオンハブスも変革の時を……いや、前王たちの交流によって撒かれた種がいよいよ芽吹こうとしている時期なのやもしれぬ。少なくともイオンハブスが我が国の足を引っ張る心配は無さそうなのじゃから、もうバレーナ様に王座に就いて頂いてかまわんじゃろう。何より、これ以上長引かせて姉であるバレーナ様だけがいつまでも王女のままでは格好もつかん」
ベルマン将軍も賛成に回る。このままならばバレーナが女王になるのは決まりだろう。
が―――
「しかしそうなりますと……『王』はどうしたものでしょうか」
オーギン議長のこの発言により、会議室の温度は静かに上昇する。そう、「女王」に対する「王」―――バレーナの伴侶は誰になるのか。ここが最大の懸念事項なのだ。言うまでもなく、王になった男の縁者や勢力は間違いなく権威を高める。だれもがその動向を一番気にかけているのだ。
バレリウスが挙手する――。
「ジレン殿。バレーナ様の伴侶となる王も選定の対象になるものか?」
「このような場合、女王陛下の伴侶となる者に評価をつけても我々に決定権はないものと考えます」
「とすれば、ジレンの評価に関わらず誰でも王になれる可能性はある……‥立候補でもとりあえずよいわけか」
そのわざとらしいバラリウスの呟きにアケミは呆気にとられた。
「ではまず年功序列からして……御大、いかがかな?」
「ワシか。うむ…」
「マジか…」
ポロリと本音を漏らしたのはサジアートだ。
「どうかのう……孫もおるのに後妻を迎えては娘がのう……家族会議じゃのう…」
「ワハハ、後添えが女王では問題ありとは!」
「そういうお主はどうじゃバラリウス。四十でまだ一人身じゃろう。そろそろ嫁がいるじゃろて」
「そうですなぁ。しかし個人的な好みとしてはもう少し大人しい感じの方がよいですな。我らが主君は見目麗しくもその気性はいささか苛烈。夜が激しいのはいいですがな!」
「ウワハハハ―――」
会議室が下劣な笑いで満ち満ちたとき―――厚みのある樫の木の卓を破壊せんばかりの轟音が全員を閉口させた。拳を振り下ろしたのは、剣があれば今にも抜かんとしていたであろうアケミである。
「好き放題仰いますがね……結婚する相手くらい本人に選ばせてやりゃいいんじゃないですか」
その場の半数は蛇に睨まれた蛙のように全く動けなくなった。長刀斬鬼……その異名が伊達ではないことは伝え聞いていても、目の当たりにするのは初めての者がほとんどなのだ。
だがバラリウスは肩を竦めただけだ。
「そう怒るな、冗談ではないか。立候補などで王が決まるわけがなかろう。現実的には推薦で候補を出していくに決まっておる」
そこで「しかし」とベルマンが続ける。
「なるほど、アケミの言う事も一理あるのう。王家の血統を継ぐのはもはやバレーナ様ただ一人。まずはお家の安泰と繁栄が急務じゃ。嫌いな相手と一緒にさせられて拗れるよりは、天涯孤独のバレーナ様に温かい家庭を持っていただくのが良いのではないかのう……」
感情に訴えるベルマンの発言に反対する者は、いない。
「……ジレン殿、バレーナ様がご即位される時には王が必要でしょうか」
オーギンの問いに老ジレンはしばし熟考し、答えた。
「いらっしゃるに越したことはございませぬ。されどバレーナ様は御歳十九。まだお急ぎになられずともよろしいかと存じます。ただし、ジレンによる評定はある程度の時を要しますことをお忘れなきよう」
「ならばこの話は保留といたそう。ひとまずバレーナ様がお戻りになり、イオンハブスの件も解決しなければ王どころでは………そういえばシロモリよ、アルタナディア様のご提案とはなんだったのだ?」
バラリウスから急にふられて、アケミは慌てて置いたままの手紙を拾い上げた。
「ああ、要するに……アルタナディア女王はラドガドーンズが領土ではなく資源を欲しているのではないかとみていて、まずはイオンハブスとエレステルの連盟で使者を出したらどうかということなんだが…」
「ふむ、やはり水源が狙いではないかということか」
「悪くないのではないでしょうか。ラドガドーンズとはまだ敵対していない。味方につければ我が国を狙うジャファルスを挟みこむことができます」
「土地の問題もある。水源のあるキノソス山はエレステルにもイオンハブスにも属さぬ聖地。一方の判断のみで交渉を行えば両国に亀裂をもたらす国際問題になる。連盟は必須だ」
ある程度意見が出揃ったところでベルマンがポツリとつぶやく。
「――とすると、やはり『バレーナ女王』のお名前が必要じゃのう…」
「…………」
異議なし。
「…では本日の議題はまとまりましたので、配役について決を採りたいと思います。ラドガドーンズへの交渉は外務大臣ガルサ殿にお任せいたします。バレーナ様ご即位に関しては内務大臣ビクロマ殿と財務大臣サニージャ殿に式典等の計画を進めていただき、ベルマン殿とバラリウス殿は駐留しているイオンハブス軍の今後の処置をご検討願います。シロモリ殿はアルタナディア様とのパイプ役として引き続きご協力ください。御一同、異論はございませんでしょうか」
全員が沈黙とともに右手を挙げる。同意のサインだ。
「それではこれをもちまして終了といたします。皆様、お疲れさまでした」
ガタガタと席を立ち、評議員は会議室を後にする………右手を挙げたままのサジアートを残して。
「え……俺は? 俺が王になるという話は……?」
誰も聞いていない……。
廊下を並び歩く二人の巨漢は追ってきたアケミに気付く。
「ん? どうしたシロモリの」
「いや……その、なんというか……申し訳ない、つい感情的になってしまった。ゴルドロン殿、私の失言に乗っかっていただき、感謝する」
「ワハハ、何もお主のためというわけではない、気にせんでよい。あの場で王を即決しようとすれば揉めるでな、一度仕切り直しにしたかったのよ。それにワシも同じ意見じゃった。やはり好きおうとる者同士がくっつくのが一番よ」
「御大が仰ると重みが違いますな」
「よせよせ、照れるわい」
二人は歩き出し、アケミもその後を続く。
「しかしそうは言ってもやはり王……単に好みじゃからという理由だけでは認められんのう」
ベルマンがぼやく。
「左様。バレーナ様に釣り合わなければなりませぬ」
バラリウスが続く。
「まず美形がいいのう」
「加えて若ければ言う事無し。バレーナ様は絶世の美女。美形が並び立てば王室の求心力も高まりましょうな」
「聡明であることも必要じゃが、何より剣の腕が立つ者がいいのう」
「確かに。バレーナ様は自ら戦場を駆ける勇猛果敢なお方。武力で妻に劣れば王としての威厳を保てますまい」
「さらに言えば、精力が逞しければよいのう」
「性欲旺盛であればなお良し。たくさんお子が生まれればエレステルの未来は明るいというもの」
「うむ…」
と、二人が歩みを止め、アケミを振り返る。凝視されて訝しげな表情をするアケミに、二人は大げさに溜め息を吐く。
「惜しい……実に惜しいのう…」
「全く。シロモリよ、お主どうにかバレーナ様を孕ませられぬか? シロモリの秘術でなんとかなろう」
「――!!! ぶっ殺すぞジジイども!!」
しかしジジイどもはケタケタ笑うだけだった。
会議を終えて帰宅したアケミは、もう何日も使っていない自室のドアを開けた。看護師の女が部屋の隅に一人、カリアがベッドの脇に座り、アルタナディアはベッドに伏せている。
「…ざまぁないな、新米女王。無茶するからこうなるんだ」
アケミの暴言にカリアがむすっと顔を歪めるが、特に言い返さない。それよりも弱りきったアルタナディアのほうが心配だからだ。アルタナディアは高熱で顔を赤くしながらも、目線だけアケミに向けた。
「会議は……どうなりましたか…」
「概ねお前の要望通りだ。バレーナが女王になるのは確定といっていいだろう。よくジレンを説得できたな。絶対無理だと思ってたが」
「……説得はしていません…」
「はぁ?」
「………説明するのは…難しいです…」
「ハ、買収でもしたか? まあいいけどな…。とりあえず当初のお前の要求……つまりミカエル卿の私兵の件は、今は深く追求せず、首根っこを掴むに留めておく。サジアートが絡んでいることはほぼ間違いないが、あまり追い込むとそれはそれで面倒だし、バレーナの件についてもう今さらどうのこうのと割り込める段階でもないしな。はっきり言ってアイツ嫌いなんだよ、子供のころからバレーナにちょっかい出してきてキモい。アイツなら殺していいぞ」
「それは、私がやることじゃない……」
アルタナディアの声は尻すぼみに小さくなって消える。
「…口を動かすのが辛いか?」
「……………」
返事を声に出せず、落ち着かない呼吸を繰り返すアルタナディア。さすがに我慢できなくなってカリアが口を出す。
「おい、いい加減にしろ。アルタナディア様のご容体は見てわかるだろう! お話される気力だってもう…!」
「そういうことじゃない」
「? じゃあなんだって――」
「……破傷風ですね…」
「そうだ」
破傷風……。
「破傷風ってなんだって顔してるな……まさか知らないわけじゃないよな」
「あ、当たり前だろ!? 傷口からバイ菌が入って、こう……」
「こう…」で固まってしまったカリアにアルタナディアの視線が刺さる…。
「……まあ、概ね合っている。イオンハブスじゃそうお目にかからないかもしれないが、前線で傷を負う可能性のあるあたしらにとっちゃ最も怖れる病気の一つだ。菌の毒素によって筋肉が痙攣し、最後は弓のように反りかえって死ぬ。意識はそのままだから、まさに死ぬほどの激痛だそうだ」
アケミは軽々しく口にするが、弓のように反りかえるなんてどんな異常事態だ!? 想像するだけでカリアは気持ち悪くなる。
「潜伏期間はおよそ三日から三週間と言われている。最初に影響が出てくるのは主に口から喉だ」
「あ…! じゃあ最近アルタナディア様の口数が特に少ないのは……」
「カリア……あなたはいつも余計なひと言が多いですね…」
高熱で伏せっている女王陛下にツッこまれてカリアは閉口し、アケミは失笑した。
「食事はしているから問題ないと思うが……本当に大丈夫なんだな?」
「心配には…及びません…」
「そう言って無理して今に至ってるわけだろ。傷が塞がらないまま包帯を厚く巻いてごまかしながら動き回るから、汗だくになって膿んで……戦場では力技でケガを治すと豪語するバカから死ぬ。お前、本当にわかってんのか? 自分の状態が」
「……迷惑をかけていることは、理解しています……」
「……ホントにタチが悪いな、お前は。バレーナの方がもっと素直だぞ。ともかく今後のことだが、バレーナが女王になるにしろ、まだ詰めなきゃならないことは山ほどあるだろう。イオンハブス襲撃をどう収拾つけるかもあるしな。そのためにはお前とバレーナが揃う必要があるが、全てが正常化するまでは時間が掛かる。差し当たっての問題はお前の連れてきた兵隊だ。悪いが返答期限を過ぎた後は面倒を見切れん。金のこともあるし、これ以上合同訓練の名目で大隊の兵士を引っ張り回せば不満があふれる。かといって、何の目的もない他国の軍隊を無期限で駐留させるのは国の面子に関わる。現状、動けないお前の警護として残せるのは総勢二百名までが限度だそうだ……これはあたし個人の意見じゃなく、軍部の意向だ。わかるな?」
「わがままは言いません……あなたには、お世話になりっぱなしですから……」
「気にするな、こっちはこっちの都合で動いてる。そんな調子だとすぐにあたしに頭が上がらなくなるぞ。念のため、数日以内に破傷風のワクチンを接種しろ」
「それは大丈夫です……すでに、やってもらってますから…」
「そうか。ならすぐに体調を戻せ……」
――と、アケミは急に背筋を伸ばし、頭を下げた。
「アルタナディア、お前は私の友人を助けてくれた。バレーナが女王になれるのはお前のおかげだ。感謝する。だから当面のことは気にせず休んでくれ」
突然の事にカリアは呆気にとられてしまったのだが、
「そういうわけにはいきません……帰す者と残す者の割り振りをしなければ……」
アルタナディアは何事もなかったように振る舞う。これにはアケミも不機嫌を顕わにした。
「お前なぁ……真面目に、割と本気で謝意を述べたのに台無しだろ! もういいから病人は寝ろよ! カリア、もうコイツがバカみたいに動き回らないように見張っとけ……そうだ、もういっそ添い寝でもしてやれ」
「はぁ!? お前、何言って―――」
「……いえ…それはいい案かも」
「「え!?」」
「カリア、命じます。今夜は私と一緒に寝なさい…」
「「えぇっ!?」」
女王陛下よりまさかのGOサインが出たことに二人は目を点にする。
アケミは渋い顔をして頭を掻いた。
「…一応、それあたしのベッドだからな。ヘンなシミ作んなよ」
「どういう意味だよ! …いや、言うなよ!? つーかそんなの、ご冗談に決まって―――……」
しかしアルタナディアはニコリともしない。ただ顔を火照らせ、潤んだ瞳でカリアを見つめ続ける……。
「……わかってると思うが、女王陛下は弱っているからな? 妙な気は起こすなよ?」
「……へ、変な言いがかりは、やめろよな…」
大丈夫、問題ない―――カリアは胸の内で何度も自分に言い聞かせる。もう何度も全裸のアルタナディアを見ているのだ。それに比べたら別に、平気だ―――……。
……前言を撤回したい。
カリアは是が非でも辞退するべきだったと後悔していた。
アケミのベッドは長身のアケミに合わせて男性用のサイズで少し大きい。しかし一人用であることは変わらないわけで、女二人でも同衾すると……かなり手狭というか、近い。
もう夜も更けた。灯りを消し、天窓から差し込む青白い月明かりが照らす静寂の中、誘われるがままにベッドに入っていく自分……一体何をやっているのだろうか。
「……そんなに端で縮こまられては、私が悪いことをしているみたいじゃないですか……それとも、私が嫌いですか…?」
なんという言い様か…! そう仰られては逆らうことなどできはしない。
頭から足の先まで一本の棒のようにまっすぐ固まったまま、ちょっとだけ左へ…アルタナディア様に寄る。呼吸する音が物凄く近くに感じる……。
身体は天を向いたまま不動。寝返りを打ってアルタナディア様に向けばとてもじゃないが眠れないし、かといって背中を向けては失礼というもの。鉄の意思で、今夜は微動だにしないことを誓う…。
「もっと楽にしなさい……私から持ちかけたのですから、寝ぼけて抱きついてきても文句は言いません…」
「だ、抱きつくなど……そもそもこれではゆっくりお休みになれないのでは――…」
五秒前の誓いもどこへやら、反射的に振り向くと、アルタナディア様の額に細い髪が張り付いている……。
「………」
ダッシュボードに手を伸ばし、タオルで額を拭うが、顔だけでなく全身に汗を掻いているご様子だ。
「あの…お召し変えいたしませんか。身体も拭いた方がよろしいでしょうし…」
「……そうですね…」
ベッドの上で服を脱がせると、汗で濡れた包帯が顕わになる。決闘直後に比べたら撒く分量はずっと減ったが、完治には遠い。ずっと熱が出たままで、ついに先日お出かけの際に倒れてしまわれた。だが、もしその場に自分がいたとしても、今回はアルタナディア様を止めることができたかどうか自分でも怪しかったと思う。一カ月半前の逃避行の時はただエレステルを目指すだけだったが、今回は明確な目的がアルタナディア様の中にある。だから最悪の体調を抑え込む気力に溢れていたし、周りに有無を言わせない威圧感もあった。これが「姫様」から「女王陛下」になったということなのだろうか…?
包帯を解くと白い背中が現れる。背中側に傷はなく、雪原のような肌は相変わらず……むしろ……発熱でほんのり赤く染まり、月光が反射する濡れたうなじが生々しく、息を呑んで見入ってしまった。
(いやいや、今さらこの程度で……お風呂で背中流したこともあるし!)
水に浸していたタオルを絞り、目の前の背中に当てると、「あっ…」と鼻から抜けるような声を漏らして女王様が震えた。
「え、あっ…冷たかったですか…?」
「ん……気持ちいい……」
……なんだろう、妙に艶めかしい気が。熱を出しているせいか? 今は特に色っぽい。撫でる度にきゅっと背筋が収縮するのがわかる。
気恥ずかしいのを堪えながら腕、脇を拭うと、細い身体がカクンと折れて慌てて支える。
「大丈夫ですか…!」
「少し、水を…」
テーブルの上に置いていたデキャンタの水をグラスに注ぎ、差し出すと、アルタナディア様はぐっと飲み干し、おかわりを要求。またグラスを渡すと勢いよく傾ける。三杯目を半分ほど飲んだところでようやく一息つき、グラスを私に押し付けた。
「…あなたも」
「え?」
飲め、ということか? だがグラスは一つ、まだ飲みかけで……これを飲めと!?
アルタナディア様は戸惑う私をじっと見つめる。その表情は硬い……いつも通りにも見えるが、どこか逆らえないプレッシャーを感じる。手の中にはアルタナディア様が口をつけたグラス……
(ええい、乙女か! いや乙女だけど!)
一気に飲み込む! 緊張で熱くなっていた身体に水が沁み渡っていく。最後の一滴まで喉を通し、深く息を吐きだしたとき―――
「カリア……前もお願いできますか」
グラスを落としてしまった。ベッドの上で割れずに済んだが、私の胸の中はあまりの衝撃に掻き回され、て―――……
「………ひょっとして、からかっていらっしゃいます?」
根拠はない。ただ、いつもより声に、言葉に重みが足りない。そう感じたのだ。
果たしてアルタナディア様は………静かに、わずかに表情を崩された。
「フ……ごめんなさい。こんな時間は久しぶりだから、いじわるしたくなりました…」
「いじわるって…」
そもそも私と女王様の間でこんなとりとめのない時間を過ごした時があっただろうか?
とりあえず身体を拭くのを再開する。妙な気分さえ消えてしまえば、多少の抵抗はあっても問題なかった。首から下…肩から下の無残な傷痕を目の当たりにすれば、余計な邪念はすぐに消し飛んでしまう。
「カリア…」
「はい」
「私……きれいですか…」
「…………」
返答に迷う。剣の傷は治りかけてきているが、おそらくいくつも痕が残るだろう。残ったところでアルタナディア様の本質が変わるわけではない。だが女としての美しさの価値を下げてしまったのも事実……。
「少しでも後悔されているのであれば……痛みをずっと抱えてしまうのかもしれません。ですが、私もいますし、その……」
だめだ、上手く言葉にできない。正解があるわけではない……今欲しい言葉があるはずなのだ。でも、それがわからない。
「……すみません、またいじわるを言ってしまいましたね。少し熱が下がってきたせいか……はしゃいでしまって…」
「はしゃいで…いらっしゃるんですか? 姫様が? あっ――失礼しました…」
思わず「姫様」と呼んでしまった。いつもなら叱咤が飛んでくるところだが、今夜はそれがなく、代わりに柔らかい表情で苦笑していた。
「カリアは、いつまでたってもカリアですね」
「は、はぁ…」
つま先まで拭き終わり、新しい寝巻に着替え、ベッドに入っていくアルタナディア様……そしてやはり私も引き込まれた。もうやることをやったし、やってしまったしで、睡魔に負けかけていた私はすぐにウトウトとし始めたのだが―――一気に神経が張りつめる事態が起こった。
アルタナディア様が、その身を擦り寄せるように抱きついてきたのだ!!
「あ――ちょっ…!」
口を手先でそっと塞がれる。その間に脚が絡まり、肩を引かれる。アルタナディア様の身体半分が私に覆いかぶさっていて、頬と頬がぴたりとくっつく位置にアルタナディア様の頭がある…!
「…大事な話があります…」
耳元でヒソヒソ囁かれるのがくすぐったい……じゃなくて! そうか、初めからこうするために……密談するために添い寝をしろと仰ったのか!
「……いいですか」
「あ、はい……どうぞ…」
囁き声で返すと、唇を押さえていた左手が離れ、鎖骨から胸元を滑るように流れて私の右わき腹を掴み、ぐっと腰を抱き寄せる。胸と胸が押し合い、心臓の鼓動が木霊するように重なっているのがわかる。
(え…と?)
意図がわかったのに身体を押し付けてくる…?
そこで思い違いをしていたのではないかと気付く。添い寝は手段だったのではなく――いや、手段ではあるが、同時に目的だったのかもしれないと。先程からの「いじわる」も、ひょっとして「そういう気分」の表れだったのではないか―――。
途端に脈拍が上昇したのを自覚した。跳ね上がった胸の高鳴りはアルタナディア様の心臓に直に感じ取られているだろう。呼吸の乱れは私の唇から数センチと隙間のないアルタナディア様の耳に伝わるだろうし、肌がじんわりと汗ばんできたことなど言わずもがな―――。
声を出すのも、苦しい……。
「あなたももうわかっているとは思いますが……私は、バレーナに特別な感情を持っています……」
「へ!? あ…」
ば、ばれーな!? そういう話!? 全くの勘違い……すぅっと気持ちが冷めていく。
しかしアルタナディア様はなお強く私を抱きしめ、意を決したように言葉を紡ぐ。
「…愛して、いるのです……」
もぞりと、私の胸元に頭を埋め、身体を縮こまらせるアルタナディア様。その表情は……女王でも姫でもない。一人の少女の告白だ。
「……………」
一体何なのだ……。
からかったり。誘ったり。はしゃいだと言えば弱みを見せ、縋るように抱きつきながら秘密を告白する……。一体これは……いや? ああ……ああ―――そうか。そういうことか。
アルタナディア様をゆっくり押しのけると、ごろりと横向き、その小さな頭を包むように抱きしめた。
「カリア…?」
「失礼ながら、甘えたいのかなと…」
それを聞いたアルタナディア様はしばし視線を彷徨わせた後、「ああ…」と小さく驚いて納得した。
「あなたは本当に……ヘンな時だけ姉になりますね」
「そうでしょうか」
「そうです…」
先程とは違う強さで抱きつくアルタナディア様……なんだか本当に妹のように思えてきた。
「応援します……ナディア」
「! 調子のいい姉ですね…」
照れたように額を押し付けてくる……。
そうして寄り添ったまま、眠りについた。決闘から続く緊張が安らぐ、穏やかな夜になった……。