第一話:神様との契約
よろしくお願いします
カチリ、どこかで歯車が動いた。
◇ ◇ ◇
「こい、こい、こい……うああああああああちくしょおおおおおおお!!」
昼間から自室のベッドの上で絶叫しながら暴れる少年――工藤春彦。
その手にはスマートフォン。画面にはゲームが表示されている。
春彦がプレイしているゲームは、アイドルを育成し、育てたアイドルがなぜか異生命体と戦うというカオス極まりないものだ。
春彦はそのゲームの中でも毎イベントベスト10には入るほどのトップランカーだった。
一言でいえばソーシャルゲーム廃人である。
「ふざけんなよちくしょう!! 確率絞ってんじゃねえのかこれ、ここまで課金して引けないとかおかしいだろ。今までどんだけ金払ってきたと思ってんだ……。欲しいキャラの時くらい引かせてくれよ……」
絶望で顔を手で覆う春彦。
ソーシャルゲーム特有の、いわゆるガチャと呼ばれるキャラやアイテム入手システム。
プレイヤーはリアルマネーを払うことによりこのガチャを回すことが可能になるわけだが、春彦の今回の課金額は過去最高のものになっていた。
おまけに次の入金で総額ジャスト百万円。
マイナーなこのゲームにここまで課金をしている人間はそうはいないだろう。
春彦はバイト等で得た資金をほとんどこのゲームにつぎ込んできた。もはや撤退という言葉は存在しない。欲しいモノがある時は引くまで続ける。その覚悟で臨んでいる。
そしてそれは今回も例外ではない。
「ったく、この出ない感覚はいつになっても慣れないな……。まあいいや、金入れるか。記念すべき百万を――――」
ゲームに入金するために、画面をタップした、その時――――。
視界が眩んだ。
「あ……ッ、があっ――――!!」
呼吸が止まる。
貧血か何かかと思ったが、違う。なぜなら痛みが同時に降りかかったからだ。
筋肉が軋み、頭はグワングワンと揺れる。
今まで経験した事のないナニカが春彦を襲っていた。
「なん、だよ……これっ……!!」
見える景色が歪み、全身を寒気が支配する。心臓の鼓動が早くなり、意識が遠のいていく。
身体の自由は次第に失われていき、指先一つ動かせなくなる。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――ッ!!
今まで感じたことのないような絶望。
理屈ではなく、本能で理解した。自分は――――死ぬのだと。
(ああ……。あのキャラ、欲しかったなあ……)
今際の際に思ったのはそんな事だった。
□ □ □
「――――――――ハッ!?」
目が覚めると、春彦は真っ白の空間にいた。
そこには何もなく、ただ無限に白の世界が広がっている。
一秒程思考が止まるが、すぐに我に返る。
思わず、全身の様子を確認してしまう。しかし、別段おかしい所はない。蝕んでいた苦しみも、綺麗さっぱり消えてしまっていた。
ほっと一息、安堵のため息。
いや、状況を考えればため息などついている場合ではないのだが。
ともかく様々な疑問は置いておくとして、次なる問題を解決しなければならないだろう。
すなわち――――目の前にいる女性について。
「はい、というわけで貴方は死にました。お分かり?」
「唐突だな……。って、やっぱり俺死んだのか。はああ、あのキャラ引きたかった……」
「あんだけ辛い思いしといて出てくる後悔がそれって、貴方なかなかの大物ね」
この女性の言葉を信じるのであれば、あの苦しい記憶は気のせいではなかったというわけだ。
「いやー、それほどでも……あるな。んで、死んだ俺はどうして意識があるんだ? てかここはどこ貴方は誰?」
「私は神よ。女神デウス。そしてここは現実とあの世の狭間。どう、驚いた? 驚いたでしょう」
「いや、そんないきなり神とか言われても……。まあ、それを信じるとして神様が俺に何の用だ? 天国にでも連れていってくれんの?」
「はっ、天国行こうなんざ百年早いわ小僧。いい、貴方は異世界に転生する権利を得たの。そのために死んでもらったのよ」
異世界転生。その心踊る単語に、春彦も興味を示さずにはいられない。
「異世界……転生!? マジかよ、さんざん妄想したイベントがとうとう来たのか!! え、普通に嬉しいんですけど」
「あら、喜んでもらえたようで何よりだわ。じゃあ、詳しい話に進んでもいいかしら?」
「おう。あ、いや待て。死んだはいいが、現実の俺って今どうなってんだ? 心残りとかはないけど、一応状況だけは知りたい」
そんな春彦の言葉を受け、神様は手元に水晶のような物を出現させた。
神様が水晶の奥を覗き込むと、どこかの風景が映し出された。
「そうね。死因は心臓麻痺。夕飯の時間になっても降りてこない貴方を心配した妹さんが第一発見者よ。今は病院に遺体が寝かされてる。悲しんでくれてるなんて、いい家族ねー。本人はこんなにダメ人間なのに」
「誰がダメ人間だ誰が。ちょっと不登校なだけで人間性は普通だ」
そう、春彦は不登校だった。
だが、学校に行かなくなった事に深い理由はない。
気の合うクラスメイトは何人かいたし、成績だって悪くはなかった。特にいじめを受けていたわけでもない。
ゲームに課金するために、何回か学校を休んでバイトに行ったのが始まりだった。
それが癖になり度々休むようになり、気づいた時にはクラスメイト達に会うのが気まずくなっていた。
部屋の扉はどんどん重くなり、最終的に行こうと思う気持ちさえなくなった。
ただそれだけの話だった。
「でもそうか……ちょっと申し訳ないな」
「まだ聞く?」
「いや大丈夫だ、ありがとう。もう十分だ、本題に入ってくれ」
「あら、案外あっさりしてるのね。死んだショックとか、家族に会えない悲しみとかないの? 友達や恋人――いないか」
「し、しし失礼だなお前!? ……まあ事実だが。ほとんど学校行ってないし。……悲しいは悲しいけどな、俺は切り替えが早いタイプなんだ」
というより、実感が湧かないというのが事実だった。きっとその思いとはいずれ向き合う時が来るのだろうが、それは今じゃない。
今はただ、異世界という夢の世界へ想いを馳せるのみだ。
「それはよかった、手間が省けるわ。んじゃ、説明に入るわね」
「いや、ちょっと待て」
「な、何かしら?」
「さっきはテンション上がって聞き流しちゃったけど。お前、死んでもらたって言ったか? ひょっとして、そっちの都合で俺って殺されたんじゃ……」
ジト目で睨みつける春彦。
そんな視線から目を逸らし、神様はかすれた音の口笛を吹いている。図星、という言葉が顔に出ていた。
「……まあ、あえて文句は言うまい。だが、その理由は聞かせてもらうぞこの野郎」
「ちょ、ちょっと春彦君。言葉遣いが汚くってよ?」
「人を殺しといて何言ってんだこら!!」
「う……それを言われると返す言葉もないわ。……まあ、どのみち話すつもりだったしいいんだけどね。それに貴方はこの話に乗るしかないんだし」
「…………?」
コホン、と咳をし切り替えにかかる神様。
その眼に、真剣な光が灯る。
「貴方には、私の姉妹を助けてほしいのよ」
「…………はあ、つまりどういう?」
「三位一体って言葉があるでしょう? その通りでね、神様も三人一組でようやく万能の存在なのよ。私たちの例で言えば過去、現在、未来を司るといった具合にね」
「なるほど、あんたら姉妹は時を統べる神ってわけだ。ちなみに、デウス様はどこを司ってんの?」
「私は未来を支配する神よ。――――って、それは今はどうでもいいのよ。そう、ここは世界の狭間。本来誰であっても干渉は出来ないはずなのよ。けれど、奴らはどんな手品を使ったか、この領域に侵入してきた。そして私の姉妹を鹵獲して、元の世界に逃げ帰ってしまったの」
神様のくせに迂闊過ぎるとツッコみたい気持ちに駆られた春彦だったが、茶化せる場面ではなさそうだ。
「それで、その捕らわれた姉妹を助けてほしいと。でも、それなら自分で行けばいいじゃん。神様なんだし強いんだろ?」
「それが出来ればとっくにそうしてるわ……。私達神はね、現実にはほとんど干渉出来ないのよ。現界なんて、もってのほかよ」
「い、意外と不便なんだな。そのわりに俺を殺したりは出来るあたり基準が謎だけど。ともかく、それで俺みたいなのに白羽の矢が立ったと。でも何で俺なんだよ。もっと他に頼りになりそうな奴なんているだろ?」
「そりゃそうなんだけどね。そういう人間は、その世界でやるべき事、成すべき事があるのよ。でもそれに比べて貴方なら……いいかなって」
舌を出し、てへっとおどけて見せる神様。
つまりこの神様が何を言いたいのかと言えば、春彦は死んでもなんら問題のない人間だという事だ。
本気で殴ってやろうかという気持ちを、春彦はすんでのところで抑える。
「お、落ち着きなさい。本題――というか取引はここからよ」
「…………取引?」
「ええ、私からの依頼は姉妹を助けてもらう事。そしてその報酬として、まあありきたりではあるけど願いを一つ叶えてあげる。もちろんどんな事でも構わない。もしくは元の世界に戻してあげる」
「予想通りの取引だな。それで、俺が断ったらどうするんだ?」
「その時は――――死ぬだけなんじゃない?」
「――――は、それも予想通りだな。神とは名ばかりの悪魔じゃねえか」
勝手な願いのために一度殺されて、要望を聞き入れなければそのまま死ぬ。そんな理不尽をまき散らす存在が悪魔でなくて何だというのか。
少なくとも、春彦の思っていた神様はそんな存在ではなかった。
だが。
そもそも。
春彦はその提案を断るつもりなどさらさら無かった。
「上等だぜ、この邪神。その提案に乗ってやる。こんなところで死ぬつもりなんてないし、何より異世界転生は魅力的だ。詳しい話をしようぜ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せる春彦。
その反応に、神様もまた笑みを浮かべる。
「へえ、不登校児のくせしていい覚悟じゃない。それじゃ、詳しい話に入りましょうか」
神様の手のひらに、指示棒のような物が現れる。それをクルッと一回しすると、度はホワイトボードが出現した。
同時に椅子も湧き出てきて、視線で座るように訴えられる。
さっきの水晶といいどうやら形から入るタイプらしい。
「貴方がこれから行く世界は――いえ、行ってから情報収集してちょうだい。そのほうが楽しいでしょ。べつに説明が面倒だからとかじゃないわよ?」
「面倒なだけかよ」
職務放棄もいいところだった。
「んで!! 大事なのはここから。異世界に行くにあたって今の貴方のステータスじゃ心もとないわ。すぐにくたばられても困るしね。そこで、ステータスを設定し直す機会、そしてスキルを授けようと思います」
それは春彦が待っていた台詞だった。
ここでチート能力を手に入れて異世界で無双する。それこそが春彦の理想だった。どうせ異世界転生するなら、それくらい豪快なほうがいい。
「そのスキルってのは好きなのを選んでよかったりは――――」
「しないわよ。残念ながら完全ランダムとなっております。よく考えてみなさい、チート能力持ちばかり転生していったらどの世界もカオスじゃない? というか、まあ神様規定で決まってるんだけどね」
「神様の世界にも規定とかあんのな……。てことはステータスも?」
「ええ、ランダムよ。でも貴方は現状がほぼ最低値だから、下がることはないわよ。よかったわね」
「良かったは良かったが素直に喜べねえなあ」
そんな事をぼやいていると、神様が一枚の紙をホワイトボードに張り付けた。
「それは?」
「ステータスが表示される紙よ。んじゃ、パパッと引いてもらおうかしら」
神様がもう一度指示棒を振る。
すると目の前に、春彦にも馴染み深いいわゆるガチャガチャ――カプセルトイの筐体が現れた。
中には当然、ボール状カプセル型の商品が入っている。
神様が春彦に合わせて、分かりやすい形に整えたのだった。
「やり方は分かるわよね。どう、リアルラックには自信ある?」
「まさか。俺は運のなさを課金でカバーしてきた男だぜ? しかしまあ、死んだ後もガチャ引く事になるとはなあ」
春彦の手がガチャガチャのレバーにかけられ――そこで動きが止まった。
「どうしたの? ビビったってことはないわよね」
「違う。お前……このガチャ、レアスキルの排出率なんパーだ!? ピックアップだとか期間限定だとかないだろうなあ!?」
「うおう、これは予想以上のゲーム脳だ。でもそうね、レアスキルが出る確率は三パーセントってとこかしら。普通に使えるスキルは七十パーセントくらい? あとはおもしろスキルね」
「マジでソシャゲ並みの確率じゃねーか。しかも一発勝負だろ。とんだクソゲーだぜ」
「文句言ってると生身で放り出すわよ」
「ごめんなさいすいませんでしたすぐに引きます」
速攻でガチャガチャに向き直り、再びレバーに手をかける。
ゴクリ。
思わず生唾を飲み込む。
レアスキルが出るかどうか。この緊張感こそが春彦の思うガチャの魅力だ。
「よっし、こいこいこいこいこいこぉぉぉぉぉい!!」
気合い一発。
手首をひねりレバーを回す。
ガコン、という鈍い音と共にカプセルが落ちてくる。
「さて、中身はどうかなっと。確定演出なしなんて久々だから楽しいな」
カプセルを手に取り、開ける。
その瞬間、カプセルの中から眩い光が溢れだした。
光はシャワーのように春彦に降り注ぐ。
「うわっ、なんだこれ!? ……力が溢れてくる気がする。もしかしてスーパー地球人に覚醒しちゃった?」
「んなわけあるか。今、貴方の存在を創り直してるのよ。力が溢れてくるのはステータスが変化してるからでしょうね」
「なるほど。んで、肝心のスキルはどうだった?」
「ちょっと待ってねー。お、出てきた。どれどれ?」
見れば、先程までは白紙だった紙に、文字と数字が表記されている。
「ステータスは平均てとこね。俊敏性が少し高いくらいね。スキルは……うわあ、これはまた凄いの引いたわね。貴方らしいけどさ」
「なんだよ、勿体ぶらないで教えてくれよ」
神様は意地の悪そうな笑みを浮かべると、口を開く。
「貴方の得たスキルは『彼岸の福音』。死んだ時に初めて効果を発揮するスキルよ。死後、ステータスとスキルをリセットして新しく上書きする、そして蘇生するというものね」
「……………………」
唖然とする春彦。
空いた口が塞がらないとはこの事だ。
ハズレという他ない、使いにく過ぎるスキルだった。
「命を懸けたリセットマラソンてとこね。くくく、ゲーム廃人の貴方に相応しい能力じゃない。ちなみに初期スキルは常時発動の『跳躍力アップ』、もう一つはライター程度の火を発する魔法『フレア』ね」
「あんた面白がってんだろ!? なんだよ死んだら発動するスキルって!! 産廃ってレベルじゃねーぞ」
「まあまあ。でもこれ、貴方の望んでた三パーセントしかないレアスキルの一つなのよ? というかちょうどいいじゃない、痛みを伴うとはいえ実質不死みたいなもんだし」
ククク、と笑う神様。
結局のところ、このスキル獲得までの流れは出来レースだった。絶対に自分の姉妹を救い出す、そのために春彦に死んでもらっては困るのだ。
全ては自身の計画のため。
そしてその事は、春彦もまた理解していた。
しかし、抗議するつもりなどない。いろいろと理由はあるが、何よりも課金者としてのプライドがそれを許さなかった。
一度引いたガチャの結果は受け入れる、それが春彦にとっての正義だった。
「それはそうかもしれんが……。そもそも死にたくないんだよ!! とんだもん寄こしやがったな、やっぱりお前は悪魔だ」
文句はないが、頭を抱える春彦。
楽しみだった異世界生活が、一転不安だらけになった瞬間だった。
神様の願いを叶えるためには、戦う力が必要になるだろう。だが、現状のスキルはとてもじゃないが実践では使えない。
「まあでも、悪いことばっかじゃないわよ? このスキルで得られるスキルは、存在するであろう全てのスキルから選択されるから、私達が使うような神の力さえ扱える可能性もあるのよ?」
「……どうせそれも超低確率なんだろ? それを引き当てるまで自分の命アンインストールし続けるとか俺やだよ?」
確かに神の力を入手できれば、理想通り異世界でも無双できるかもしれない。しかし、それは引き当てるまで死に続けるという事でもある。
そんな事、常人には耐えられないだろう。
「でもねー。スキルはもう確定だから変更は不可だよ? 頑張って付き合っていくことだね」
「……ああ、そうさせてもらうよ。忍耐力とポジティブシンキングだけが俺の取り柄だからな。どうにかして安らかに死ぬ方法を考えるさ」
「そうそうそれでいいのよ。素直な子は好きよ」
「おお、ありがとよ。俺もお前みたいに邪悪な神様、嫌いじゃないぜ」
「ふん、ガキのくせに生意気な。ふ、ふはは――――」
「怒るなよ神様、ジョークじゃねえか。く、くくく――――」
「ア―――ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「クク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
互いを見据え、笑いあう。
利用する者とされる者。互いはそれぞれ、硬い覚悟を決めていた。
「ま、納得してもらえたようで何よりよ。じゃあ、早速異世界へ転生させるけど、準備いいかい?」
「出来る準備なんて心の準備くらいだろ。そしてそれはもう出来てる。いつでもこい」
「そうかい。では――――」
神様が指をパチンと鳴らす。
すると、春彦の足元に魔法陣のような紋様が浮かび上がった。
緑色の光が六芒星を描き、その面積を拡大させていく。ピキ、ピキ、と空間が軋み、時折スパークが発生する。
光はどんどん強くなり、白の空間との繋がりを断絶していく。
心なしか、浮遊感さえ覚えた。
「新天地での生活、存分に楽しんでくれたまえ。今後の活躍をお祈りします」
「お祈りやめろ」
「はっはっはっ。君は私のために働く。だけど、それは確かに君の人生の延長戦だ。今度こそ後悔のないように生きることだ」
「後悔のない、か。ま、せいぜい頑張るさ。……ちなみに、だけど。俺が使命から逃げ出そうとした場合はどうするんだ?」
この悪魔のような神様は、春彦が逃げ出せないような仕組みをすでに作り上げている、そう思っていた。
けれど、その問いに対する答えは春彦の予想を裏切るものだった。
「べつに、どうもしないわよ。そのまま好きに生きればいいんじゃない? その時は仕方ないから新しい勇者を選ぶしかないわねえ。ま、あんたみたいなクズなんてこの世界にはいくらでもいるから苦労はしなさそうだしぃ」
「…………そうかよ」
それは、そんな苦しい仕組みよりも春彦を縛った。
リスクのない信頼というのは、時に罰を超えた強制力を発揮する。
事実、春彦は何も言えなくなった。
「あ、そうそう。これはサービスなんだけど、私の力で転生する君は、私の祝福を受けた扱いになるのね。だから未来を司る私の力の一部もまた、使えるようになるはずよ。隠しスキル扱いになると思うけど、上手く使う事ね」
サービスと言いつつも、それもまた予定調和だった。
先程のガチャを使ったスキル授与で攻撃系スキルを渡さなかった理由がこれである。
(そもそも、攻撃系スキルなんて後からいくらでも覚えられるし。そもそも――――)
流石にそこまでは予想出来ない春彦は、神様の事をほんの少し見直していた。
「…………なんだよ神様、なんだかんだ色々くれるのな」
「私の目的のためよ。直接チートを渡せないのが悔やまれるわあ」
「ま、そういうの俺にあってないしいいよ。あるもので何とかするさ」
「いい心がけね。それじゃあ、行ってらっしゃい。ともかく貴方は私の姉妹を見つけてさえくれればいいわ。よろしくね」
「へいへい了解ですよ。んじゃ、行ってくらあ」
それが最後の会話となった。
緑の光は春彦の視界を埋めつくし、とうとう何も見えなくなった。
そして――――。