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都市童話

海底都市メーア

作者: 滅天使

 あるところに、メーアという街がありました。


 メーアは海の底にある街です。


 地上の戦争や自然災害から身を守るため、人々は海の底で暮らそうと、魔法で空気の壁を作り、地上と同じように生活していました。


 太陽の代わりにデンキウナギの電気で、月の代わりにホタルイカで明かりを灯し、花の代わりに珊瑚を育て、海底での生活を発展させていきました。




 そんなある日のこと。


 街を作る手伝いをしてくれた魔法使いが、突然予言をしました。


「人々はみな散り散りになり、ついにはひとりになるでしょう」

「ひとりでは生きられない我々は、ひとりになって死ぬのです」

「そうやっていつか滅ぶのです」


 魔法使いは、空気の壁を作ってくれたり、電気で明かりを明るくする魔法を使ったことはありましたが、予言は今まで一度もしたことがありません。


 そんな魔法使いが、急にそんなことを言い出すので、メーアの人々は戸惑いました。


「海底にある限り、戦車も銃もここには来ない」

「メーアの外に出る必要はないのだから、みんなここにいるに決まっている」

「一人になるはずがない」

「なのに一人になって死ぬとはどういうことか」


 魔法使いの予言を疑いましたが、しかし本当だとしたら大変です。


 いついかなる時も一人にならないためにはどうすればいいか考えました。


 そんなとき、ある老人が言いました。


「むかし地上にいた時、妙な病気の話を聞いた。それは、もう一人の自分が心の中にいて、まるで別人のように入れ替わるという病気だ。ある者は十人以上の別人がいるらしい」


 それを聞いたメーアの人々はひらめきました。


 自分の中に別人がいれば、常に一人でいることはない。


 メーアの人々は研究に研究を重ね、自分の意志で新しい人格を発明することに成功しました。


 最初はたったもう一人の自分を生み出すのに精一杯でしたが、徐々に二人目、三人目と、別人の心を内に生み出しました。


 海底都市でそんなことが起こっているという話が、いつの頃からか、地上にも伝わっていきました。


 仕事で海底と地上を行き来する運び屋か、はたまた手紙をやり取りしている誰かの知り合いか、それとも海の生き物と言葉を交わせる無関係の誰かかは分かりません。


 地上の人々は、メーアの人々を恐れました。


 地上では病気として恐れられていることを、メーアの人々はまるで武器でも作るかのように率先してやっていたからです。


 恐ろしいことを平気でやってのけるメーアの人々を、地上の人々は恐れ、海に向かって爆弾を落としました。


 しかし、メーアがあまりにも深い場所にあったため、爆弾が爆発してもメーアには届きませんでした。


 そして、爆弾の残骸はゆっくり海底に沈み、そのうちメーアを囲み、閉じ込めてしまいました。


 爆弾の残骸は多く、そして重く、ちからや海流などでは動く様子もなく、危険物なのでむやみに魔法を使って壊したりすることもできませんでした。


 物資も手紙も海の生き物も、もう誰もメーアを訪れることはなく、またメーアの人々も、決して街の外を見ることはかなわなくなりました。


 最後の一人になっても独りにならぬよう、滅びの予言を免れたつもりでいたメーアの人々は、世界から孤立してしまったのです。




 しかし誰かが言いました。

「我々は独りではない」と。

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