第85話「温泉と配達人」
「わ、わたしだってスクミズなんですよ」
「スクミズってスクール水着じゃん、それがどうしたんだよ」
「スクミズ、萌えじゃないですか」
「中身が……」
わたし、デッキブラシで配達人の手桶をコツコツ。
「サインお願いします」
「はい、サラサラっと」
今日は配達の日です。
わたし、伝票にサインして目の細い配達人に返します。
「お茶していきます?」
「ゴチになりま~す」
「ねぇ、配達人さん」
「なに? ポンちゃん?」
「ここでお茶して、サボっていいんですか?」
「サボりって……俺、今日はここで終わりなの」
「そうなんだ」
「最後の仕事って、ここの残りのパンをもらって行く事なんだけど」
「そうなんだ……じゃ、ゆっくりしていってください」
「コンちゃんのところで一緒にテレビでも見てるよ」
「そーしてください」
カウベルが鳴ってお客さん……
じゃなくて、シロちゃんのお帰りです。
「ただいまであります」
「おかえり~ もうすぐおやつだよ」
「楽しみであります……その前に……」
「?」
「ポンちゃん、温泉掃除に行くであります」
って、シロちゃん、ポケットから温泉の鍵を出します。
「まだ当番じゃ……」
「わかっているであります」
「じゃあ……なんで?」
あそこには温泉の神さまがいるんですよ。
面倒くさい神さまじゃないならいいけど……
正直面倒くさい神さまですよね。
「湯加減が熱いそうであります」
「?」
「神さまの機嫌、悪いであります」
「そ、それとわたしが掃除するのが、どう関係あるんですか?」
「別にポンちゃん一人に行かせるわけではないであります」
「?」
「本官も同行するでありますよ」
「シロちゃん一人じゃだめなの?」
「本官、よく神さまの事を知らないでありますが、子煩悩でありますよね」
「あー、そっちですか」
「わかったようでありますね」
「わたしだけじゃなくて、レッドですね」
「であります」
シロちゃん愛想笑いを浮かべて、
「一度はポンちゃんに同行して、神さまの事を知りたいであります」
「それなら、一緒に行ってもいいかな」
わたし、鍵を手に、
「レッドがいたら、神さま機嫌がいいから、掃除は楽だよ」
でも、マナーにうるさい神さまだから、一度は一緒、した方がいいでしょ。
「ともかくレッドが帰ってからですね」
久しぶりの温泉掃除。
大きなお風呂でのびのびするのは楽しみです。
わたし、シロちゃん、レッドで温泉掃除です。
あれれ、温泉小屋の前には車がとまってますよ。
これは目の細い配達人の車です。
「綱取興業」って書いてある車。
まだ営業時間ではあるけど……
お掃除の邪魔ですね~
まぁ、あの配達人なら、言えばすぐ出てくれるでしょ。
「ポンちゃん」
「なになに? シロちゃん」
「大丈夫でありますか?」
「なにが?」
「神さま……こわくないでありますか?」
「まぁ、レッドがいれば神さまのご機嫌はばっちり」
「そうでありますか」
「じゃ、お掃除に突入!」
「おー!」
わたしに合せてシロちゃんとレッドもこぶしを上げます。
二人は脱いで、わたしはスクミズに着替えです。
「ポンちゃんポンちゃん、本官水着ないであります」
「ああ、これ、わたしだけでいいの」
「?」
「シロちゃんは神さまとよく話すといいよ……掃除はわたしがやるから」
「そうでありますか? 悪いでありますね」
ふふ、あんな神さまの相手をする方が大変ですよ。
「ともかく、シロちゃんは神さまに慣れて……」
って、浴室の引き戸を開けた途端、
「レッド、待っておったぞ!」
龍の形になったお湯が待っています。
「かみさま、おひさしぶり」
「レッド、なぜ来んのじゃ」
「おふろ、おうちにありますゆえ」
「こっちの方が広いであろうが」
「ですね~」
「さては……」
神さま、わたしの方に向き直ります。
「これ、タヌキ娘、おぬしレッドを引きとめておらんか?」
「連れて来たのにその言いようですか」
「むう」
「今日はもう一人いるんですよ」
「うむ、わかっておる、そっちの……犬ではないか?」
「そう、こっちはシロちゃん、警察の犬なの」
わたしが紹介すると、シロちゃんぺこりとお辞儀します。
うーん、シロちゃん平気な顔してますね、テレパシーで、
『ねぇねぇ、シロちゃん、びっくりしないの?』
『神さまの事は以前から知ってるでありますから』
『ちょっとはびっくりしてほしかったかなぁ』
『ちょっとはびっくりしてるでありますよ』
『そうなんだ』
『ポンちゃん……』
『?』
『コンちゃんやミコちゃんも神さまであります』
『そだね』
『神さま……普段から見慣れているであります』
『でも、温泉の神さまは龍の姿で、ちょっと神さまっぽくない?』
わたしとシロちゃん、温泉の神さまを見ます。
「レッドよ、もっと温泉に来るのじゃ」
「まえむきにぜんしょします」
「政治家みたいな口ぶりじゃの」
「きめるのはミコ姉ゆえ~」
「儂はさみしいのじゃ」
「そうですか~」
もう、神さま、レッドを前に眼尻下がりっぱなし。
『ポンちゃん』
『なになに?』
『なんだか温泉の神さま、ミコちゃんに似てるであります』
『子供好きなところはね~』
わたし、神さまの体を叩いて、
「ちょっと神さまっ!」
「むう、なんじゃ、タヌキ娘」
「シロちゃんがお話、あるんだって」
神さま、シロちゃんの方に向き直って、
「なんじゃ?」
「えーっと……そうでありました」
「?」
「温泉、熱すぎるそうであります」
「そんな事、あるかの?」
「村長さんから連絡を受けているであります」
「そんなつもりは……」
シロちゃん、レッドの背中を叩きます。
レッド、頷くと温泉につま先を入れて、びっくりした顔。
「かみさまー!」
「レッド、どうしたのじゃ?」
「あつい~」
「ふむ……それではヌルくしてやるかの」
シロちゃんやりますね、レッドを使って温度調節成功です。
『シロちゃん、神さまとうまくやれそうですか?』
『なんとなく、うまくやれそうな気がします』
『じゃ、わたし、男湯の掃除してくるから、神さまとお話してていいよ』
『そうするであります』
シロちゃん、レッドと神さま見守りながら湯船に浸かっています。
ほっといても大丈夫そうですね。
わたし、さっさと男湯掃除に行きましょう。
男湯……湯気で真っ白です。
あふれるお湯で床を磨いていると……
「邪魔?」
「!」
「邪魔?」
「うわ、配達人っ!」
そうでした、表に車、止まっていました。
目の細い配達人、湯船に浸かってこっちを見てます。
「邪魔なら上がるけど……」
「えーっと……」
最初は追い出すつもりだったけど、先に邪魔かって聞かれると調子狂っちゃいました。
「しかし残念」
「?」
「シロちゃんが掃除に来ると思っていたのに」
「なに言ってるんですか」
「さっき、お店で話してるの聞いたんだ」
「いましたもんね」
「ポンちゃんが掃除と……ハズレ」
「ちょっ!」
わたし、デッキブラシを構えます。
配達人、手桶をヘルメット代わりにして防御。
「ハズレってなんですか!」
「シロちゃんが掃除だったら大当たりだったのに~」
くっ!
言いたい放題です。
目が細いくせにっ!
「わ、わたしだってスクミズなんですよ」
「スクミズってスクール水着じゃん、それがどうしたんだよ」
「スクミズ、萌えじゃないですか」
「中身が……」
わたし、デッキブラシで配達人の手桶をコツコツ。
「本気で叩きますよ?」
「こわーい」
「配達人、おかしくないですか、ピチピチなわたしのスクミズ、萌えでしょ!」
「どら焼き級だし」
「中学生設定なんですよ、そんなもんです」
「そうかなぁ~」
「ほら、萌てください、かわいいって言うんですよ!」
「タヌキだしなぁ~」
もう、コツコツしちゃうんだから。
あ、でも、いい事思いついちゃいました。
えへへ、この目の細い男をびっくりさせるんです。
「モウ……そんなにシロちゃんの裸が見たかったんですか?」
「ポンちゃんよりは」
えいっ! コツコツ!
配達人、笑ってます。
「じゃあ、配達人に命令です」
「?」
「女湯に移動してください」
「え……」
「なにが『え』ですか?」
「だって女湯、行っていいの?」
「男湯は掃除するから、邪魔なんです」
「でも、女湯にはシロちゃんがいるんだよね」
「嬉しいですか?」
「女湯に入ってチカンとか犯罪者とか言われないかな?」
「わたしがOKしてるんですよ」
「でも、シロちゃんがいるんだよね」
「うふふ、シロちゃん、裸ですよ」
「そ、それは……」
あ、配達人、赤くなってます。
「余計犯罪者にされない? シロちゃんミニスカポリスだし」
わたし、しゃがんで配達人に顔を寄せます。
耳元でささやくの。
『シロちゃんは犬なんですよ、人間じゃないんです』
「!!」
『したい放題です』
この男は……耳まで真っ赤になってます。
わたしには無反応のくせに。
でも、女湯に行ったらすぐに青くなるんだから。
あっちには龍の姿をした神さまがいるんです。
わたし、配達人の腕を引っ張り上げます。
大事なところを手桶で隠しながら、
「ちょ、ちょっと! ちょっと!」
「漢ならガーンと行っちゃってください」
ふふ、「逝っちゃう」が正解かな?
配達人を女湯に押し込んで、戸を閉めちゃいます。
かんぬきもしちゃうんだから。
戸に耳を押しあてて、女湯の様子を……
って、レッドと神さまの声はするけど、変化なしですね。
どうしてかな?
あ、戸をノックしてます。
『ポンちゃんポンちゃん、ちょっといい?』
向こうから声です。
だましているのかもしれません。
ここは開けずに話しをしましょう。
「なんですか?」
『すごい事になってるんだけど』
「シロちゃんの裸に萌えましたか?」
『シロちゃんは湯船に浸かっているよ、普通かな』
「なにがすごいんですか?」
『龍がいるよ、レッドが乗って日本昔話状態』
そんなの知ってますよ。
でもでも、配達人、全然びっくりした感じじゃないですね。
「すごい」って言ってるけど、普通な感じなの。
わたし、戸を細めに開けて女湯をのぞきます。
配達人もこっちをのぞきながら、
「ほら、龍がいる」
わたし、戸を開けて、
「あれは温泉の神さまなんですよ」
「温泉の神さま~」
配達人、神さまに近づいて、体を触ってます。
神さまも顔を寄せますよ、
「これ、おぬし、何をする」
「おお、しゃべるのか~」
「無粋なマネをすれば、許さんのじゃ」
「それはそれは、どうも」
配達人、ぺこりとお辞儀。
神さまも満足みたい。
「ねぇねぇ、配達人さん」
「なに? ポンちゃん?」
「びっくりしないんですか? 神さまですよ? 龍の姿ですよ?」
「ははは、俺だって知ってるんだよ」
「?」
「こーゆーの、CGって言うんだよ、CG」
神さま、怒ってお湯を吹きます。
配達人、直撃です。
でも、配達人はノーダメージみたい。
ヘラヘラ笑って、
「すごいCGだ、びっくり」
「儂は『しーじー』ではない、神じゃ」
「はいはい」
神さま、どんどん攻撃するけど、配達人、へっちゃらみたい。
一応止めた方がいいのかな?
ってか、配達人、熱湯によく平気です。
「神さま、やめるであります」
「おお、警察の犬よ、止めるでない」
「ここが殺人現場になってはこまるであります」
「うむ……ここは憩いの場ゆえ、しかたあるめい」
シロちゃんの言葉で神さまの攻撃終了。
わたし、配達人に、
「大丈夫ですか?」
「あはは、CGじゃ死なないよ」
「あれはCGじゃなくて神さまですよ」
「まさか~」
この男「スルー」を発動してたみたいです。
思い込みもここまで来ると無敵かも。
目の細い配達人、ニコニコしながら、
「今日はいいもの見せてもらったよ」
「神さまですか?」
「CGね、うん、よかったかな」
「?」
「シロちゃんの裸も巻きタオル越しに見れたし」
「エッチ」
って、配達人、マジマジとわたしを見ています。
「ちょっ……なんですか!」
「……」
「ま、まさかエッチな目でわたしを……」
「残念なのはポンちゃんくらい」
わたしの中でなにかが弾けた。
目の細い男の暴言。
わたし、体が勝手に動きます。
配達人をフルボッコなの。
「残念ってなんですか! なんですか! ええっ!」
配達人撃沈しました。
ふん、「残念」なんて言うからです。
まったくモウっ!
わたたたたたーっ!
ひこうをついた!
きさまのいのちはあと3びょうっ!
ひでぷ!
「スーパーにお買い物」だから、こんな回じゃないですよん!