第83話「長老とHitマン」
「なかなか仕事熱心ですので……」
「?」
「正直、ここに雇いたいと思っています」
おお、長老、帽子男さんを雇う気です!
でもでも……絶対さぼりたいだけですよね~
老人ホームにおやつの配達です。
学校の近くを通るんですが……つかまらないかな?
子供たちにつかまってドッチをやらされる事、しょっちゅうなの。
「?」
でもでも、今日は大丈夫みたい。
子供たちの中に、一際大きな影。
今日は誰が相手をしてるんでしょう?
工事現場の人たちかな?
よーく見ると……帽子男です。ヒットマン。
子供たちと仲良くボールを追っかけてます。
さて、帰り道、子供たちにつかまらないようにチャイム待ちなの。
授業のチャイムが鳴るのを聞いて、運動場から人影がなくなって老人ホーム出発です。
「おお、タヌキ娘っ!」
誰にも会わないつもりが、帽子男にはちあわせ。
「ドッチ、おつかれさまです」
「みんなポンちゃんポンちゃんって待ってたぞ」
「遊んでる暇はないんです」
「本当かよ~」
わたし、帽子男と一緒に歩きながら、
「用務員さんは大変ですか?」
「子供相手がなぁ~」
「あはは」
って、おそば屋さんの前。
帽子男、のれんを手でくぐりながら、
「俺は今から昼を食べてく」
「……」
「じゃぁ、な」
「……」
帽子男、お店に入っちゃいました。
えーっと……なんだか嫌な予感です。
お店は営業中なんですが……
帽子男は長老やポン太・ポン吉の命を狙っていたんです。
今は休戦状態なのかな?
ちょっと中をのぞいちゃいましょう。
「ポンちゃん」
「!!」
「どうしました?」
背後から声、長老です。
「ちょちょちょちょーろー!」
「どうしました?」
「お店にいたのでは?」
「村長さんの所に出前の帰りです」
「お店開けっ放し?」
「泥棒は入らないでしょう」
ヒットマンは入ってますけどね。
長老、さっさとお店に入っちゃいます。
「ポンちゃん、おそばごちそうしますよ」
「え、えっと……」
「いつもポン太とポン吉がお世話になっているので」
「それはうれしいけど……」
お店に入った長老、カウンターの帽子男と目が合います。
こ、これは、もしかしたら「決闘」?
「タヌキ爺、店、開けっ放しだったぜ」
「これはいらっしゃい」
「天ザルひとつ、かしわにぎり付き」
「はいはい、しばらくお待ちを」
長老、中に入ってさっそくおそばを茹で始めます。
わたし、帽子男の隣に座って二人を見るけど……
「殺気」とか感じられません。
「長老、あの~」
「なんですか、ポンちゃん」
「長老……帽子男さんは敵じゃなかったんですか?」
長老、わたしにざるそばを出しながら、
「前は、そうでしたね」
帽子男は天ザルを前に、
「もう、契約は終わってるからな」
「契約?」
「俺は『ぽんた王国』をつぶすのが目的だったからな」
「……」
「関係者の抹殺……それが仕事だ」
帽子男、言いますが、殺気は感じられません。
わたし、長老を指差します。
帽子男、笑いながら、
「タヌキ娘、言ったろう」
「?」
「ぽんた王国を潰すのが目的なんだ」
「だから?」
「ぽんた王国は潰れてなくなったろう」
「だから?」
「もう、目的は達成されたわけ」
「でも、この間、駐在さんを……」
「あれは、ぽんた王国とは別枠なわけさ」
「じゃあ、長老やポン太・ポン吉はもういいんですか?」
「ぽんた王国はもう、ないからな」
ちょっと安心しました。
「決闘」にはならないみたいです。
「じゃあ、今は仲良しなんですか?」
って、二人とも笑ってます。
長老、肩をゆらしながら、
「ポンちゃんが言うのを聞いてたら……」
「なに、長老っ!」
「仲直り簡単ですね」
「わるい?」
帽子男、笑いを堪えながら、
「本当、おめでたいヤツだ」
「わるい?」
もう、二人とも、わたしを馬鹿にしてますねっ!
「じゃあな、仕事あるんで」
帽子男、食べるだけ食べたら行っちゃいました。
長老、「ツケ・ノート」に書きこみながら、
「ポンちゃんが言うのは極端ですが、まぁ、仲直りしてますかね」
「ほら、わたしの言う通り」
「今はこの村で平和に暮らしています」
「ですね……あの帽子男、元ヒットマンですよ」
「ふふ……」
長老、微笑みながら、
「あの男、用務員頑張っているようです」
「ですね~」
「なかなか仕事熱心ですので……」
「?」
「正直、ここに雇いたいと思っています」
「ちょ、長老……長老は村長さんに雇われてるんですよね?」
「老体にそば屋は大変なんです」
「絶対さぼりたいだけですよね?」
「ふふ……ポンちゃん、何かいい案はないですか?」
長老は本気で雇いたいみたいですね。
ふむ……帽子男のおそば屋さん、おもしろそう。
「どうですか、ポンちゃん?」
「そう……ですね」
「妙案が?」
「決闘したらどうです?」
「え?」
「長老、強いんですよね」
「……」
「勝負して勝ったらここで働く……みたいな」
「わかりやすいですね……でも、はたして勝負してくれますかな?」
「ああ……そうだ、勝負に乗ってこないかもしれませんね」
「ですよね」
決闘したら即解決って思ったけど、そう簡単にいかないみたい。
って、長老、カッって目を見開いてます。
頭上に裸電球も光ってるの。
なにか妙案、浮かんだみたいです。
「パトロールに寄ったでありますよ」
あ、シロちゃん入ってきました。
「ポンちゃん……さぼりでありますか?」
「シロちゃんこそ~」
「本官はパトロールであります」
わたし、「ツケ・ノート」を開きます。
「これでも?」
「うう……」
シロちゃんもしれっと食べてるみたい。
あんまりツケをためると、ミコちゃんに怒られるよ。
って、長老、わたしの手から「ツケ・ノート」取り上げながら、
「シロちゃん、そろそろツケを払ってもらいたいですね」
「ちょ、長老、ツケは月末払いのはずっ!」
「卑弥呼さまに言いますよ」
シロちゃん、真っ青です。
しっぽもすっかりトーンダウン。
「シロちゃん……私の為に決闘してもらえませんか?」
「え!」
わたしとシロちゃん、はもっちゃいます。
でもでも、読めました。
長老、シロちゃんに決闘させるんです。
ここはパン屋さんの駐車場。
今、まさに、西部劇決闘モードです。
「こんなに早く決闘できるとはな……」
「本官、正直決闘したくないであります」
「何故?」
「同じ道を歩む者同士、仲好くしたいでありますね」
「俺はヒットマンでね」
「……」
「仕事がら、本来はここでグダグダするタチでもないんだ」
帽子男、銃に弾を込めています。
「子供たちと仲良くしてるであります」
「お前と勝負するためさ」
帽子男、銃を確かめながら、
「本来なら、本物でお前の命をもらう」
「……」
「しかし、お前を殺して子供たちが悲しむのを見たくないから……今日はエアガンだ」
帽子男、シロちゃんに向けて発砲。
シロちゃんのスカートの裾に穴が開きました!
エアガンって事ですけど、すごい強力そう、当たると痛そうです。
帽子男、エアガンを確かめながら、
「俺も甘くなったかな」
「本官が勝ったら、そば屋でパートでありますよ」
「ああ、いいだろう、村長にも言ってある、用務員暇な時はOKだ」
「では、いくでありますっ!」
シロちゃんも構えました。
横にダッシュです。
帽子男も追いますよ。
「もらった!」
帽子男のエアガン、発砲!
シロちゃん、転びました。
拍子に何発が撃っちゃったみたいですよ。
でもでもシロちゃん、転がりながら体勢とります。
しゃがんで帽子男を軸線にとらえました。
「いただきであります」
「こっちが早いっ!」
帽子男も引き金を引きます……あれれ、不発?
「なっ!」
「使い慣れない得物を使うからであります」
シロちゃん、銃を構えたまま語ります。
でも、帽子男も黙ってません。
「お前も……弾切れだろ?」
「試してみるでありますか?」
シロちゃん、ニヤリとします。
引き金を引くシロちゃん。
あれれ、音がしませんよ。
シロちゃんもやっぱり弾切れかな?
「ふふ、お互いさまだな」
「それはどうでありますか」
「!!」
シロちゃんが言った途端、帽子男の胸元がペイント弾で赤く染まります。
「本官の勝ちであります」
「な、何故だっ!」
シロちゃん、にこにこしながら銃に弾を詰めます。
「帽子男は普段は本物拳銃で仕事をしているであります」
わたしと帽子男、うなずくばかり。
「本物の拳銃は『まっすぐ狙う』でありますよね」
「普通……そうだろう」
「本官の銃はコンちゃんから貰った銀玉鉄砲であります」
「?」
シロちゃん、何気なく空に向って発砲。
わたしと帽子男がキョトンとしていたら……
うわ、また帽子男の胸で弾けます。
「山なりの弾道で当てたであります」
「本物の銃じゃあ、考えつかない作戦だな」
「本官、いつもこの銃であります……本物に勝つには何でもするであります」
「俺……油断したのかなぁ」
帽子男、やられたけど嬉しそう。
へんなの。
「また、しばらく村から離れられなくなったな」
「用務員と店員をするでありますよ」
「ふふ……また決闘してくれるか?」
「もう、やめるでありますよ」
シロちゃんはもう、うんざりみたい。
「本官、もう手をつくしたであります、今度決闘したら負けて死ぬでありますよ」
だ、そうです。
「シロちゃん、そんな事言わないで、決闘してあげたら?」
「ポンちゃん……」
「シロちゃんやられたら、骨くらいひろってあげるよ」
シロちゃん、ムッとした顔をして銃をわたしに向けて発砲!
「痛い痛いっ!」
「ポンちゃんなんか死ぬであります」
「ちょっと言っただけなのに~」
「先輩は応援するものであります」
「ちょっ……撃つのやめてください、人に向けて撃ったらダメですよ」
「タヌキであります」
「今は人なんですっ!」
余計な事、言わなきゃよかったかな。
シロちゃん撃ちまくりで痛いイタイ!
「配達帰りでありますか?」
「あ、シロちゃん……撃つのなしだよ」
配達帰りにばったり遭遇です。
「シロちゃんはパトロールの帰り?」
「であります、老人ホームに寄ったであります」
「パトロールってさ、お散歩だよね」
って、シロちゃんなんですぐに銃を抜くかなぁ。
銀玉鉄砲って当たると「気持ち痛い」から嫌なんだよね。
「パトロールで……そば屋に寄るであります」
シロちゃんが言います。
おそば屋さんですよ。
のれんも出てるから営業中。
「お茶くらいならいいかも」
「では、さっそく入るであります」
のれんをくぐると……帽子男が働いています。
帽子はあいからわずですが……なかなかどーして、似合ってますよ。
長老がにこにこしながら出てきました。
「ポンちゃん、シロちゃん、いらっしゃい」
「ちょっと寄ってみたよ……もう働いているんだ」
「なかなかスジがいいです、もう店を継いでもらってもいいです」
「じじい、いいかげんな事言うな」
帽子男怒った感じで言うけど、口元はちょっとにやけてます。
うれしいのかな?
そんな帽子男が、
「俺のそば、食っていかないか?」
って、返事もしていないのに、ざるそばがわたし達の前に置かれます。
「サービスだ、やってくれ」
わたしとシロちゃん、見つめあいますよ。
クンクン、普通にざるそばですね。
「教えた通りに作ってますよ」
長老の言葉です。
「じゃ、いただきます」
「いただくであります」
つるつるでおいしいざるそばです。
長老のおそばもおいしいけど、これもおいしいですよ。
お試しなのか、量は少なめ?
あっと言う間に完食なの。
「帽子男さん、おいしいですよ」
「本官もそう思うであります」
「そうか……」
って、帽子男、銃を手にして、
「食ったからには、決闘してもらおうか」
「えーっ! サービスって言ったーっ!」
これってずっと前にやられた気がします。
ミコちゃんの社でやられましたね。
「サービスって言いました!」
「つゆがサービス」
「せこーい!」
「タヌキ娘はどうでもいいんだ」
「あ、そうなんだ、わたしはタダでいいんだよね」
「ツケ……」
「なんですってーっ!」
もう、即チョップです。
ああ、帽子男、笑ってます。
「用があるのは……わかってるだろ」
帽子男、シロちゃんを見ます。
シロちゃん、澄まし顔、ハンカチで口元を押さえながら、
「ポンちゃんと決闘して勝ったら本官も決闘するであります」
「ええっ! わたしに振るの~!」
「ポンちゃん、先輩でありますよね」
もう、いつも都合のいい時ばっかり「先輩」出すんだからモウっ!
店長さんによると……
「盗まれるようなものはないんだけど」
その後ですぐ、
「誰かポンちゃん、もらってってくれないかなぁ~」
そんな事言う人にはチョップですチョップ!