第82話「こそこそ店長さん」
「わーい、あなあき、あなあき」
レッド、ちくわにはしゃいでます。
ドーナツとかも好きですもんね。
穴のあいた食べ物って、どこか楽しい気がします。
でもでも、店長さんはなんだか嫌そうな……
「おやつおやつ~」
レッド、テーブルでにこにこしてます。
わたし、お茶を並べながら、
『ねぇねぇ、コンちゃん』
『どうしたのじゃ、テレパシーで』
『わたし、不安』
『何が不安なのじゃ』
『その……おやつなんですけど……』
『おやつがどうしたのじゃ』
『今日、お茶は準備してあったんですよ』
『食べるものはなかった……言うのじゃな』
『うん……』
コンちゃん、お店のカレンダーを見ます。
『駄菓子屋の日でもないしのう』
『残りのパンも……なかったような』
「はーい、ちゃんと手、洗いましたか~」
ミコちゃん登場です。
トレイにはお皿と……
「はい、今日のおやつは『ちくわ』ですよ」
「ち、ちくわっ!」
お皿にはちくわ……そのまんまのちくわです。
「わーい、あなあき、あなあき」
レッドうれしそうに食べてます。
みどりも黙って食べてますね。
わたしとコンちゃん、じっとちくわを見ます。
レッドやみどりみたいに、つまんで口に運びます。
ミコちゃんも食べてるし、店長さんも食べてます。
「ちくわ」……そりゃ、おいしいですよ。
別に不満はないんです。
でも、言わずにおれません。
『ミコちゃん……今日のおやつは正直……』
『何、ポンちゃん、何が言いたいの?』
『手抜き……』
『おやつのレパートリー考えるの、大変なのよっ!』
ミコちゃん、愛想笑いしてます。
でも、どことなくひきつってるかな。
『ポンちゃん、これ、俺のアイデアなの』
店長さんも力無く笑いながら、
『俺が子供の頃はこんなのばっかりだったよ』
『店長さんのアイデアだったんですか』
『まぁ……』
店長さんがレッドを見てます。
わたし・コンちゃん・ミコちゃんも倣います。
レッド、ちくわの穴を覗いたりしながら、
「まんなか、あなあき」
ご満悦です。
『魚肉ソーセージでもいいけど、ちくわの方が嬉しかったかな』
『穴があいているのがいいみたいですね』
『俺も子供の頃は……なんでだろうなぁ』
今回は店長さんのアイデアだったんです。
レッド喜んでいるから、いいのかな。
あ!
コンちゃん、次から次にパクパク食べてます。
一番子供かもしれません。
「うーん、今日はちくわでなんとかしたけど……」
ミコちゃん、困った表情です。
コンちゃん、手を止めて、
「これ、ミコ、おぬしは気付かぬか」
「?」
「ちくわは穴あきなのじゃ」
「穴があいているのがいいの?」
「そうなのじゃ」
「じゃあ、ドーナツとか?」
「ドーナツはお店の残りでたまにあるのじゃ」
「どうしろと?」
「穴の中にクリームを入れたりするのじゃ」
「ドーナツの真ん中に?」
「いや……巻き巻きしていて、その中央にクリームじゃ」
って、コンちゃん、新聞のチラシを見せます。
「わらわ、これが食べたいのじゃ」
ああ、ロールケーキです。
でもでも、最近のロールケーキです。
真ん中はクリームたっぷりなの。
ミコちゃん、ちらしを手にしてうなずいてます。
「わかった、今度はこれ、作ってみる」
わたしもテレビで見た事あるから、ちょっと食べてみたかったかも。
ミコちゃんのおやつ、これから楽しみです。
「コンビニ」でもすごい売れ行きだそーです。
お客さんもまばらな午前中。
観光バスが午後から来る予定だったり、学校や老人ホームの配達もあります。
今から忙しくなりますよ~
って、バスケットに配達するパンを準備していると気が付いちゃったんです。
駐車場には店長さんと目の細い配達人。
二人は配達人の車の横でなにかお話しているみたい。
「コンちゃん、二人はなにを話してるんでしょうね?」
「おお、ポン、おぬしも気付いたかの」
「コンちゃんはずっと前から?」
「うむ……様子が変じゃったのじゃ」
「え?」
「店長がさっさと出て行ったのじゃ……車が来る前に」
「そうだったんだ」
「二人の顔をよく見るのじゃ」
二人の顔をよく……ですか。
目の細い配達人は目が細くて「目」から気持ちが読めません。
でも、店長さん、すごいシリアスです。
腕を組んで考える顔。
それから思い出したようになにか言ってます。
「コンちゃん、話が聞き出せませんか?」
「うむ、やってみたのじゃが、ダメなのじゃ」
「むう……コンちゃんでもダメなんですか」
「店長も付き合いが長いでの、わらわに対してステルスが備わったのであろう」
「隠し事……ですよね?」
「うむ……そう言われるとそうよのう」
「コンちゃん、許せますか?」
「ポン、おぬし、わらわを焚きつけておるであろう」
「あはは、わかった?」
「むう」
「でも、秘密は知りたいですよね」
「確かに……いつもと空気が違う故、気になるのじゃ」
「コンちゃん、唇読んでっ!」
って、言った途端にお話、終わっちゃったみたい。
店長さん、帰ってきました。
「コンちゃん、術をっ!」
「おうっ!」
コンちゃん、今日はわたしと気が合うみたい。
店長さんがお店に入った途端に結界発動。
窓の外は虹色になって……
お店のお客さんは石象みたいになって……
わたしとコンちゃん、女王さまルック!
鞭も装備してるんですよ。
「店長さんっ!」
「な、何っ! ポンちゃんなんて格好してるんだっ!」
「配達人となにを話してたんですかっ!」
「そうじゃそうじゃ、わらわの術も効かぬのじゃ!」
「な、何話してたっていいだろ!」
「わたしに隠し事ですか!」
「わらわに秘密かの!」
「面倒くさいなぁ~」
「吐けっ!」
「しゃべるのじゃ!」
わたしとコンちゃん、一緒になって鞭を振ります。
店長さん冷や汗ダクダクだけど……キョロキョロしてますね。
「わたしの目を見てっ!」
「はいはい、ポンちゃん、怒らないで」
「一緒に暮らしているのに隠し事なんかするからです」
「いろいろあるんだよ……うーん、二人ならしゃべってもいいかな」
「え?」
「とりあえず、これ、結界だよね、話聞こえるの、二人だけ?」
わたしがコンちゃん見たら、うなずいてます。
「じゃ、話すから、他の人には内緒だよ、いい」
「す、すごい話ですか?」
わたし、秘密を黙っていられるか、ちょっと自信ないかも。
「秘密」って、ちょっとしゃべりたくなりませんか?
「今、お菓子の注文を受けたんだよ」
「え? お菓子? 店長さんが?」
「うん、そうだけど」
「お菓子はミコちゃんの担当では?」
「うん、そうだね、和菓子はミコちゃんにお願いしてるし、上手だし」
「では、何故目の細い配達人は店長にお菓子を注文するのじゃ」
「それは洋菓子だから」
「なるほど……ミコの担当は和菓子じゃからのう」
「うん、洋菓子は俺の担当……パン作りの流れもあるしね」
「じゃ、なんでヒソヒソ話になっちゃうんです?」
わたし、鞭をパンパン鳴らしちゃいます。
店長さん苦笑いしながら、
「洋菓子ってどんなのかわかる?」
わたしとコンちゃん、はもって、
「ケーキ」
「うん、そんなんでいいんだけど……ケーキってどんなの?」
またまたはもって、
「イチゴショート」
「いい返事だ……生クリームとイチゴのデコレーションね」
わたしとコンちゃん、うなずきます。
「ミコちゃんの和菓子も凝ってて作るの大変そうなんだけどさ」
「?」
「ケーキも作るの大変なの、わかるよね」
「そうですね……生クリーム盛ったり、フルーツ乗せたり重ねたり」
「たしかにのう、手間かのう」
「洋菓子も結構作るの、大変なんだよ」
「でもでも、お仕事ですよね?」
「うん……そうなんだけど……でも……」
店長さん、改めてキョロキョロ。
そして小声で、
『この結界、本当に二人しか聞こえないんだよね?』
コンちゃんうなずきます。
店長さん、さらに一度キョロキョロ。
それからため息をついて、
「レッドに見つかったら……面倒くさいし」
「あー!」
わたし、すぐに、
「でも、ケーキならミコちゃんにも作れませんか?」
「あ……ケーキじゃないんだ……バームクーヘン」
「バームクーヘン?」
わたしとコンちゃん、キョトンです。
店長さん、包みに入ったお菓子を出しながら、
「これ、市販品なんだけどね」
シマシマのお菓子。
ドーナツみたいに輪っかっか。
二人で半分こにしていただきます。
味は……甘くておいしいですよ。
うーん、カステラに似た味かな?
「おいしいお菓子ですね」
「うむ、らわわ、好きなのじゃ」
「でもでも、店長さん、そんなに……大変なお菓子には見えません」
店長さん、ひきつってます。
「バームクーヘン、シマシマな分だけ焼くのが大変なんだよ」
だ、そうです。
店長さん、肩を落として行っちゃいました。
コンちゃんも結界解除して、
「この切り株みたいなお菓子が大変なのかのう」
「ケーキの方が大変そうに思うんだけど」
「まぁ、なんにせよ、我々は黙っておったほうがよかろう」
「でも……」
「でも……なんなのじゃ?」
「わたしたちがしゃべらなくても…」
コンちゃんも表情をこわばらせます。
「レッドがかぎつけるというのじゃな?」
わたし、うなずくばかりです。
レッドが学校に行って、店長さん、裏の薪オーブンにかじりついています。
わたし、コンちゃんと一緒に見学中なの。
お店にお客さんいないからなんだけど……バームクーヘン作りは地獄絵図。
店長さん、オーブンを前にさっきから生地を掛けては焼き掛けては焼きです。
「ねぇねぇ、コンちゃん、店長さん大変そう」
「うむ……面倒そうじゃの……」
「ですね」
「わらわ、型に流し込むとばかり思っておった」
「わたしもですよ、ケーキのスポンジみたいに」
「うむ……ああやって掛けて焼くを繰り返すと切り株みたいにシマシマになるのじゃな」
「だから店長さん、嫌がっていたんですね」
「これは……正直……面倒な作業じゃ」
見てるこっちも熱くなっちゃいますよ。
店長さん、開け放たれたオーブンを前に汗だく。
でもでも、そんなわたしたちのところに、おいしそうな香り。
バームクーヘンもどんどん太くなっていきます。
あ、店長さん、焼くのをやめましたよ。
目が合っちゃいました。
「ポンちゃん、コンちゃん、見てたんだ」
「大変そうですね」
「だから嫌だったんだけど……」
「どうして引き受けちゃったんです?」
「すごい高値で買ってくれるって話だからね」
「お金ですか~」
「ポンちゃんのせいで食費が……」
「わたし、そんなに食べてなーいっ!」
「ふふ、冗談じょうだん、お願いあるけどいい?」
「?」
「水、もらってきてくれない?」
店長さん、汗だくですもんね。
わたし、ミコちゃんのところに水を貰いに……
「ポン姉~!」
「!!」
「いいにおい~!」
「!!」
ど、どうしてレッドが?
わたし・コンちゃん・店長さん、ひきつりまくりです。
って、レッドの後には保健の先生が立ってるの。
「ほほほ保健の先生っ!」
「今日は村長の代わりに私が面倒見てるのよ」
「ががが学校はどーしたんですかっ!」
「いつも勉強ばっかじゃ、つまんないでしょ」
「って、保健の先生がつまらないのでは?」
「何だっていいでしょ」
レッド、バームクーヘンをさっそく嗅ぎ付けました。
まだ、焼きたてのバームクーヘン。
切ってなくて、本当に今は「太い枝」状態。
軸を抜いちゃったから穴あきなの。
レッド、そんな穴を覗き込みながら、
「この『き』みたいなのからにおいしますね」
レッド、顔を寄せてクンクンしてます。
もう、バームクーヘン、バレバレなの。
店長さん、愛想笑い浮かべながら、
「これは注文だから……別の……」
って、保健の先生しげしげとバームクーヘン見ながら、
「あんた、手造りしたの? バームクーヘンすごく大変なのよ」
「せ、先生、よくご存じで……」
「味見してあげるわ、ほら、切ってあげるから」
保健の先生、どこからともなく包丁出して、サクッと切っちゃいました。
「おー!」
わたしもコンちゃんも、保健の先生もついつい声が出ちゃいます。
店長さんは真っ青です……なんででしょう?
レッドは一瞬固まってましたが、目を輝かせてピョンピョン跳ねてます。
「シマシマ~」
超うれしそう。
「あなあき~」
小踊りしてますよ。
あ、レッド、店長さんをつかまえてゆすりまくり。
「たべたい、タベタイ、たべた~いっ!」
「私も食べたいわね、こりゃすごい見事なバームクーヘンよ」
「あ、あはは~」
店長さん、さっきからひきつりが止まりません。
笑っているのに、眼尻に涙浮かんでます。
結局バームクーヘン、みんなで食べちゃいました。
店長さん、泣きながらもう一つ作ってたけど……
涙でしょっぱくならなかったかな?
もうすぐ閉店です。
店長さんボロボロ。
「大丈夫ですか?」
「ポンちゃん、見てたろう」
「大変そうではあったけど」
「バームクーヘンはかなりきついんだよ」
「でも、レッド、よろこんでましたよ」
「そりゃ、穴はあいてるわ、シマシマだわで喜ぶよ」
「よかったじゃ……」
「また作れって言われるだろ~」
「ああ、ですね、ねだるでしょうね」
「だから泣けるんだよ」
一緒にいたコンちゃんが、
「店長、作ってやればよいのじゃ」
「だからきついんだってば」
「何もバームクーヘンでなくてもよいのじゃ」
「?」
コンちゃん、雑誌を開いてロールケーキを見せます。
「巻き巻きだから、レッドも喜ぶであろう」
「おお!」
店長さん、うなずいて、
「ロールケーキならずっと楽」
店長さん、復活です。
「明日のロールケーキ、もう作っておくよ、雑誌、借りるね」
行っちゃいました。
スキップな勢い。
あ、コンちゃん、にやりとしてます。
「どうしたんですか?」
「わらわ、ロールケーキ食べたかったのじゃ」
店長さん、踊らされています。
でもでも、わたしもロールケーキ食べたいですね。
「ちょちょちょちょーろー!」
「どうしました?」
「お店開けっ放し?」
「泥棒は入らないでしょう」
でもでも、殺し屋は入っちゃうんですよええ!