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第81話「めんどうくさい客」

「わらわ、もう学校に配達は嫌なのじゃっ!」

「あの保健の先生はけしからんのじゃっ!」

「あの女は、あの女は……わらわのしっぽを触りまくりなのじゃ」

 新しくやってきた保健の先生、コンちゃんも苦手みたい。

 って、保健の先生やってきました……またしても西部劇モードとか?


「配達は面倒じゃのう」

「コンちゃん、お店にいてもぼんやりしてるだけだよね」

「わらわは神ゆえ、それでよいのじゃ」

「働かざる者って言葉がありますよ」

「だからわらわは神なのじゃ」

 わたしとコンちゃんで学校と老人ホームに配達の帰りです。

「ポン、ポン」

「なんですか?」

「ちょっと寄って行くのじゃ」

「……」

 コンちゃんが視線を送るのは長老のおそば屋さん。

 信楽焼の狸が店先で首をかしげていますよ。

 のれんも出ていて、営業中みたい。

「ちょっと寄って行くのじゃ」

「コンちゃん、またツケを作ったらミコちゃんに怒られるよ」

「今日はちゃんと配達もあるのじゃ」

「え? おそば屋さんに配達なの?」

 コンちゃん、バスケットの中からメロンパンを出します。

 袋につめてある……昨日の残りのメロンパン。

 たいていはおやつで食べちゃうやつなんだけど……

「このパンでおそばを食べていくのじゃ」

「メロンパンは100円ですよ」

「だから何なのじゃ」

「おそば、500円くらいするよ」

 コンちゃん、5個出します。

「これでいいのじゃ」

「最初っから食べる気でしたね」

「いいから行くのじゃっ!」

 コンちゃん一人でおそば屋さんに残して行くのもなんです。

 それに、観光バスが来るって話もなかったです。

「ちょっとくらいなら……いいかも」

「そうじゃろう、ポンにも一口くらい分けてやるのじゃ」

 コンちゃん、わたしの手を引いておそば屋さんののれんをくぐります。

 たまには寄り道もいいかもしれませんね。

「長老よ、天ザルなのじゃ、天ザル!」

 天ザルは高いような気がします。

 最初からツケのつもりじゃないのかな。

「長老よ……」

 って、コンちゃん、口ごもっちゃいました。

 それにいきなり立ち止まっちゃうんです。

 わたし、コンちゃんの背中にぶつかっちゃいました。

「コンちゃん、なに止まって……」

 って、すごい表情でコンちゃん振り向きます。

「逃げるのじゃ!」

「は?」

「逃げるのじゃ!」

「え?」

 って、振り向いたコンちゃん、表情がこわばりますよ。

「何よ、天ザル食べるんでしょ」

 声のヌシは保健の先生。

「私の顔見て何で逃げるかな」

 コンちゃん、店の中に引っ張り込まれます。

 保健の先生、コンちゃんのしっぽを引っ張って、

「ほら、注文したんだから食べて行きなさいよ」

「し、しっぽを引っ張るでない」

「コンちゃんのしっぽ、フサフサで触りたくなるのよ」

「神のしっぽに触れるとは、祟りがあるぞ!」

 ってか……この間、みどりが触った時はコンちゃんゲンコを投下してました。

 保健の先生にゲンコしないのはなんでかな?

 あ、コンちゃん怒った。

 握ったこぶしを振りおろし……って、保健の先生あっさりキャッチ。

「もう、触ったって減るもんじゃないでしょ」

「ダメなものはダメなのじゃ」

「いいじゃない、フサフサ~」

「祟るぞっ!」

 保健の先生、動きが止まっちゃいます。

 でも、すぐにっこり微笑んで、

「さんざん触ったから、もう祟り決定よね」

「そうなのじゃ、おぬしのような神を畏れぬ輩は死ぬのじゃ」

「じゃ、死ぬ前に触りたおしちゃう、えいっ!」

 あー、もう、保健の先生コンちゃんのしっぽをさわりまくり。

「ややややめるのじゃっ!」

「ふふふ、コンちゃん、かわいい~」

 保健の先生、容赦なしです。

 しっぽ、触られるの、本当に嫌なんですよ。

「あら、ポンちゃんもいるじゃない」

「え!」

「ほーら、あんたのしっぽも触るわよ」

「ちょっ! なに勝手にっ!」

「ふふ、レッドから聞いてるわ、モフモフせずにはおれないそうね」

 って、保健の先生、わたしのしっぽをつかんでモフモフ。

「ややややめてーっ!」

「ふふふ、ここか、ここがええのんか?」

 保健の先生、危険です。

 わたしとコンちゃん、もてあそばれちゃいました。


「わらわ、もう学校に配達は嫌なのじゃっ!」

 おやつ、テーブルを囲んでコンちゃん力説してます。

「あの保健の先生はけしからんのじゃっ!」

 コンちゃん、力説してるだけじゃなくて、半ベソだったりするの。

「あの女は、あの女は……わらわのしっぽを触りまくりなのじゃ」

 店長さんは愛想笑いしながら聞いていて、ミコちゃんは澄ました顔で、

「おそば屋さんに寄ったりするからでしょ?」

「あ……ミコちゃん」

「何? ポンちゃん?」

「今日はおそば屋さんに寄って、保健の先生に会っちゃったけど……」

「?」

「学校にも老人ホームにもいるんだよ……お仕事でいるみたいだし」

「そう言えば……そうねぇ」

 ミコちゃんも納得してくれたみたい。

 コンちゃん、鼻をすすりながら、

「わらわ、あんな女のおる所には行きたくないのじゃ、こわいのじゃ」

 ミコちゃん、そんな言葉にツンとして、

「配達に行きたくないだけでしょ」

 バッサリですよ。

 でも、コンちゃんの事だから、それも半分以上ありそうな気がしますね。

「しかし……本官も正直なところ……あの先生は苦手であります」

 黙々とお茶をしていたシロちゃんも入ってきました。

「本官がパトロールで学校に寄ると、あの先生は必ずしっぽを触るであります」

「シロちゃんもやられてたんだ」

「本官のしっぽに触れても面白いかと思いますが……あの先生は触るであります」

「ふうん」

 ミコちゃんがみんなの湯呑みにお茶のおかわりを注ぎながら、

「みんなはしっぽを触られるの、嫌なのね」

「ミコちゃん、当たり前じゃないですか」

「ポンちゃんはいつも嫌がってるからわかるけど……でも、そうだ」

「どうしたの、ミコちゃん」

「ポンちゃん達は配達の時にやられるわけだけど……」

「?」

「レッドちゃんやみどりちゃんはどうなのかしら? いつも学校だし?」

「そう言われると……」

 わたし、思い出してみます。

「レッドは……しっぽを触れるの嫌がってないし、みどりもそんなに嫌じゃなさそう」

「そうなの?」

「うん……レッドはみんなに触られてもくすぐったいだけみたい」

「みどりちゃんは?」

「レッドがさわっても、なんともないみたい」

「なら、ポンちゃんも我慢したら?」

 わたし……だけじゃなくてコンちゃんやシロちゃんもミコちゃんをにらみます。

 三人はしっぽ触られるの、嫌派ですよ。

 普通、獣はきっとそうな筈!

「そんなにコワイ顔しないでも……」

「ミコちゃんはしっぽがないから、そんな事が言えるんですっ!」

「悪かったわ……でも……」

「でも?」

 ミコちゃんがお店の外に目をやってます。

 わたし達もその視線をたどって……なんと保健の先生接近中!

 レッドを抱っこしてやって来ます。

 むー!

 きっとレッドが連れて来てるんです、まったくモウ!

 ミコちゃん、席を立ちながら、

「お茶の準備をしないとね」

「これ、ミコ、おぬしはあの女の味方かの!」

「しっぽの事はちゃんとお話したらいいんじゃないのかしら?」

 ミコちゃん、そう言って引っ込んじゃいました。

「ねぇねぇ、真剣にしっぽにさわって欲しくない……って言ったらどうかな?」

「ダメじゃ」

「コンちゃん即答~」

「わらわには分かるのじゃ、言ってわかる女ではないのじゃ!」

「た、たしかに……」

 シロちゃん、銃を確かめながら、

「満員電車で女性の……我々は雌でありますが……臀部(でん部)を触ると痴漢行為とみなされるであります」

「しっぽはお尻かな?」

「この際、細かい事はいいであります」

 シロちゃん、銃を構えます。

「迷惑防止条例に従ってタイホであります」

 銀玉鉄砲を人に向けてぶっ放つのも迷惑そう。

 それにシロちゃん、「タイホ」じゃなくて即発砲だよね。

「うむ、わらわもやるのじゃ」

 コンちゃんも手に光る弓矢・ゴットアローが出現しました。

 二人はやる気満々です。

 お店のドアが開きます。

「こんにちは~、レッドが懐いちゃって……」

 保健の先生、わたし達を見てにっこり。

「なんだかお茶が出てくる空気でもなさそうね」

 保健の先生、レッドを下すと、

「ほら、レッド、ミコちゃんのところに行って手を洗うのよ」

「は~い、おやつのじかんゆえ」

「わかってるわね、ほら、早く行く」

「らじゃ~」

 レッド、奥に行っちゃいました。

 台所からレッドとミコちゃんの会話がちょっとだけ聞こえてきます。

 コンちゃん、ゴットアローを構えますよ。

「これ、保健医、よい心がけじゃ」

 シロちゃんも銀玉鉄砲構えます。

「レッドを人質にとるかと思ったでありますよ」

 ああ、その作戦、いいですよね。

 なんでレッドを逃がしちゃったんでしょ?

 保健の先生、白衣の前を開きます。

 あれれ、今日は「ポワワ銃」ないですね。

 代わりに……扇子を手にしました。

「はっきりしておきたいんだけど……」

「なんじゃ、保健医!」

「なんでありますか?」

「コンちゃんとシロちゃんは刃向うのね、ポンちゃんは?」

「わたしは遠慮します」

 保健の先生、扇子を開いたり閉じたりしながら、

「三人相手だったら危なかったわ」

「なにっ!」

「本官とコンちゃんでは役不足とでもいうでありますかっ!」

「その通りよ」

 うわ、火に油発言、コンちゃんシロちゃん怒りのオーラ背負ってます。

「死ねっ!」

「タイホっ!」

 コンちゃんシロちゃん発射です。

 保健の先生はダッシュなの。

「うっ!」

 うめいたの、コンちゃんとシロちゃん。

 崩れ落ちちゃいました。

 保健の先生、スゴ強です。

「口ほどにもないわね」

 保健の先生、扇子をパチパチいわせながら、

「ポンちゃんも逆らう?」

「わたし、配達があるから行きます」

 って、そんなのないです。

 早くここから逃げ出したいだけですよ。

 近くにある空のバスケットを持ってお店を出るの。

 しばらく老人ホーム辺りで時間をつぶしましょう。


 さて、夕方です。

 カラスも鳴くから帰るんです。

 でも、ちょっとした不安が……

 今日は観光バスとか来なかったから、お店を空けててもきっと大丈夫です。

 わたしがいなくてもミコちゃんやシロちゃん、コンちゃんがいるんです。

 不安……老人ホームでお手伝いして時間をつぶしたんですが、保健の先生帰ってきませんでした。

 まだ……お店にいるかもしれません。

「いた……」

 遠目にもわかります。

 お店のテーブルでお茶をしているのが見えるんです。

 さっきから二時間くらい経ってると思うんだけど……

 テーブルにはコンちゃんシロちゃんもいますね……

 二人はお説教受けてるのかな?

「ただいま~」

 って、お店のドアを開けたら楽しそうにお話している最中です。

 仲直りしたのかな?

「あ、ポン、逃げおったな!」

 コンちゃん、怒ってます。

「先輩なのに逃げるなんてひどいであります!」

 シロちゃんも言ってます。

「配達なんてないって話じゃない!」

 保健の先生も言います。

「まったく、先輩風を吹かせるだけなのじゃ」

「肝心なところで逃げるであります」

「それじゃあ、先輩失格よねぇ」

 なんですか、三人してわたしを非難してますよ。

 逃げたのは失敗だったかもしれません。

 これはしばらく言われそうです。


「コンちゃん、二人はなにを話してるんでしょうね?」

「おお、ポン、おぬしも気付いたかの」

「コンちゃんはずっと前から?」

「うむ……様子が変じゃったのじゃ」

 店長さん、なにこそこそしてるんでしょ?


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