第80話「みどりの作戦」
「どうやったら店長と仲良くできると思う?」
みどり言います。
むむむ……みどり、店長さんが好きなんですね。
わたしだって好きなんだけど……ここは敵に塩を送りますか~
店長さんと仲良くするには、どーしたらいいでしょうね。
「ちょっとアンター!」
みどりがやってきました。
なんてかいうか……いつも不機嫌な感じがするのは気のせいでしょうか?
「ちょっとー!」
「はいはい、なんですか?」
「アンタ、いつもお店を手伝ってるのよね」
「そうですよ」
「ててて店長と一緒なの?」
「……」
なんで店長さんが出てくるのかな?
みどりも店長さんスキーですか?
まぁ、みどりは子供ですから、コンちゃんやミコちゃんのように脅威じゃないからいいか。
「ねぇ、店長と一緒なんでしょ!」
「はい、そーですよ」
「どうやったら店長と仲良くできると思う?」
「店長さんと仲良く……ですか」
「アンタ、どうなのよ」
「うーん、わたし……仲良くやってるかなぁ」
みどりに言われると考えちゃいます。
店長さんとはケンカしているわけじゃないから、仲が悪いわけじゃないでしょう。
でも、仲好くやってるのか……言われると悩んじゃいます。
わたし、店長さんと世間話をしたりしても……
こう「好きだ」とか「愛してる」なんてささやかれてないもん。
「アンタ、どうなのよっ! ねえっ!」
「はいはい、仲好くやってますよ」
「だから~!」
「なんですか?」
「だから、店長とどうやったら仲良くできるのよっ!」
「みどり……店長さんが好きなんですね」
って、一瞬で顔が真っ赤です。
「そ、そんな事、ないんだからっ!」
「顔、真っ赤ですよ」
「モウッ!」
「はいはい、怒らない怒らない」
「ワ、ワタシはお手伝いしたいだけなのっ!」
「別に子供なんだからそんな事しないでも……」
「いいじゃない、教えなさいよ」
「店長さんと仲良くしたくて、お手伝いしたいって……ですよね」
「そうよ、なにかないのっ!」
「お手伝いお手伝い……」
わたしがやってるお手伝いは……お店のお仕事は「お仕事」です。
そうですね、ごはんの後にお皿を洗ったり……
洗濯物を取り込んだり、たたんだり……
お風呂掃除もしたりします……
でもでも、それって店長さんと一緒って事、ほとんどないですね。
「パンを作るのを手伝うってのはどうでしょ?」
わたし、ナイスアイデアだけど、みどりに言っちゃっていいのかな。
黙ってて、わたしがお手伝いしてポイント稼ぐのがよかったような。
でもでも、言っちゃいました。
「パン作りを手伝う!」
みどり、表情が明るくなりました。
この表情はすごいかわいいって思えるんだけど……
わたしが見てると視線に気付いて、
「ふん、ワタシはお世話になってるお返しでやってあげるんだから」
強がるところがかわいくないんですよね~
『ポンちゃんの入れ知恵だね』
『ダメでしたか?』
パン工房の前で店長さん腕組みして考える顔です。
みどりはさっきからわくわく顔で店長さんの返事待ち。
「パン作り手伝う」って言った時のみどりは真剣な顔でしたよ。
『ねぇ、店長さん、なんでダメなんですか?』
『ポンちゃんもコンちゃんも、あんまりパン工房に入っちゃだめって言ってるよね』
『まぁ、あんまり入りませんね、パンを運ぶ時くらい』
『しっぽがね』
『?』
『しっぽの毛がパンに入らないようになんだよ』
『へぇ、そうだったんだ』
『だから本当はこの家自体動物禁止なの』
『そんな事言ってわたしを追い出す気ですかっ!』
店長さんをにらんじゃいます。
『しっぽある以外は人間だからいいけど、さすがにパンを作るのを手伝うのはね』
『でも、みどり、真剣ですよ』
『それだけじゃないんだよ』
店長さんの視線の先には……柱からちょっと顔を出して見てるのはミコちゃんです。
『ダメって言ったらミコちゃんへそ曲げそう』
『店長さん、ミコちゃんに弱いですね』
『ごはん作ってるの、ミコちゃんだしね』
『そ、それはたしかに』
って、柱の陰からレッドが出てきました。
「てんちょー、ぼくもやるー!」
ああ、やっかいなのが増えました。
レッドがやるっての、拒否なんてしたらミコちゃん荒れます。
店長さんが困っていると、ミコちゃんもようやく出てきました。
「あの……店長さん」
「ミコちゃん、どうかしたの?」
「二人を手伝わせてあげて」
「っても……うちは食べ物を扱ってる仕事だし、しっぽの毛が」
ミコちゃん、ニコリとして、なにか出しましたよ。
細長い……袋みたいですね……なにかな?
一つは赤くて、一つは緑色、もう一つは真っ白。
ミコちゃん、赤いのはレッド、緑色はみどり、白いのはわたしのしっぽに付けます。
しっぽ袋?
レッドとみどりは背中を見るようにして、袋を見てます。
ミコちゃん微笑みながら、
「これで毛が入る事もないわね」
みどりのお手伝い作戦、できるようになりましたよ。
でもでも、みどりの作戦、失敗かな。
みどりと店長さんだけだったら「成功」だったんだろうけど、レッドも一緒なの。
二人はまだ子供でパンをうまく形にできないから……
さっきからみどりが生地をのばして……
レッドが型を使って切り抜く……
クッキーを作ってるんです。
みどりは店長さんと仲良くなりたかったはずですが、店長さんはちょっと離れたところにいます。
わたしはミコちゃんの和菓子作りを手伝いながら、
『ねぇねぇ、ミコちゃん』
『何? ポンちゃん?』
『わたし、みどりに相談されて手伝いの事を……』
『うん、知ってるわよ、話を聞いてたから』
『これは、店長さんと仲良くはなってないと思います』
わたしのテレパシーにミコちゃん微笑みます。
『ポンちゃんはわからないかしら』
『?』
『みどりちゃんは……不安なんじゃないかしら』
『なにがですか?』
『ほら、ぽんた王国の件でいろいろあったし、ここに来たばっかりだし』
『うーん……居場所がないとか?』
『もう、充分家族なんだけどね……みどりちゃん本人はそう思ってないのかも』
『それで……お手伝いとかしてアピールしてるとか?』
『そんな感じかしらね』
『でも、店長さんと一緒じゃないですよ』
『店長さんとかだけじゃないのよ、レッドだったり私だったり、ポンちゃんだったり』
『だれかの役に立つとか……そんな感じ?』
『そう、そんな感じ』
みどり、レッドと一緒にクッキー作ってます。
確かに活きいきした顔してますね。
店長さんにアピールできなかったかもしれないけど、これはこれでよかったのかも。
「ちょっとアンタ!」
またみどりです。
ごはんの後のお皿洗いの最中なのに、
「なんですか?」
「そこはワタシの場所なんだからっ!」
「?」
みどり、怒った顔でわたしを見てます。
えーっと、足元には箱がありますね。
みどり、わたしを押しのけて、箱に立ちました。
『ポンちゃんポンちゃん』
ミコちゃんのテレパシーです。
『どうしたの、ミコちゃん?』
『それ、みどりちゃんの踏み台だから』
『うん……そうだったんだ……なんでこんなのって思ってた』
『店長さんのお手伝いと一緒よ』
『そうなんですか……』
踏み台に立ったみどり、お皿洗い頑張ってます。
そんなみどりの頭をミコちゃんなでて、
「ありがとう、助かるわ」
途端にみどり、うれしそうな顔になります。
あれれ……どうした事でしょ。
いつもなら「手伝ってあげてるんだから」とか強がるところですよ。
忘れちゃったのかな?
強がるの。
今日もお客さん、さっぱりです。
観光バスも来る予定がないから、のんびりした時間なの。
って、レジに立ってるわたしの横にみどりがいるんですが……
さっきからコンちゃんをじっと見つめています。
コンちゃんはいつもの席でぼんやりとテレビを見てる最中。
みどり、ゆっくりとコンちゃんの方に向って歩き出します。
なんだか嫌な予感……コンちゃんのところに行ってなにするつもりでしょ?
みどり、コンちゃんのしっぽをつかんじゃいました。
「アレ」は店長さん以外触ったらダメって設定です。
でも、きっと、誰でも(店長さんでも)触ったら怒ると思う。
みどり、コンちゃんのしっぽを触ってポーっとしてます。
「きれい……」
あ、ほめたら大丈夫かな?
いやいや、コンちゃんのゲンコがみどりの頭に投下されました。
★一つ弾ける音です。
「うえっ!」
「何を勝手に人のしっぽに触れておるのじゃ」
「うう……」
「何を勝手にしっぽに触れておるのかと聞いておるのじゃ」
コンちゃん、ポンポンみどりの頭を叩いてます。
その都度★が飛び出します。
「これ、何か言わぬか、のう」
コンちゃんムッとした顔で言います。
本当に怒ってるみたい。
しっぽくらい触らせてあげたらいいのに。
わたしなんてしょっちゅう「モフモフ」されてますよ。
「何か言わぬか」
「うう……うわーん」
ああ、泣きだしちゃいました。
「コンちゃん、なに叩いているんですか」
「ポンも見ておったならわかるであろう」
「しっぽをさわっただけですよね?」
「わらわは神ぞ、そのしっぽに触れてよいのは店長だけじゃ」
「はいはい……だからって子供を叩くかなぁ」
「躾じゃ、しつけ」
「はいはい……ミコちゃんが見てても叩ける?」
「むう……」
さて、みどりはまだ泣いてます。
★いっぱい出ましたからね。
コンちゃん、みどりを抱きあげて、
「これ、みどり、わらわのしっぽに触れてはならぬ」
「うう……」
「どうしてしっぽに触れたのじゃ」
「きれいだったし……」
「ふむ……」
「お話したかったから……」
「ならば、普通に話しかければよいであろうが」
「うん……ごめんなさい……でも、でも」
「何じゃ?」
「なにを話しかけていいかわからなかったから……」
みどり、コンちゃんとお話したかったけど、きっかけがなかっただけみたい。
わたしとコンちゃん、視線が合っちゃいます。
『これ、ポン、お茶の準備はできておるかの』
ああ、なんとなくわかっちゃいました。
わたし、ウィンクでこたえます。
すぐに奥に戻ってお茶とティーカップを準備します。
「みどり~、コンちゃんにお茶、持って行って~」
すぐにみどりがやってきて、お茶を持って行っちゃいます。
わたし、柱の陰から見守り。
「みどり、お茶を注ぐのじゃ」
「はい」
「うむ、なかなか上手ではないかの」
コンちゃん、みどりの差し出したティーカップを口に運んで、
「みどり、おぬしにわらわのしっぽに触れるのを許す」
「!」
コンちゃんが指を鳴らすと、みどりの眼の前にブラシが出現。
「そのブラシで、丁寧にすくのじゃ」
「はいっ!」
みどり、コンちゃんのしっぽにブラシをいれます。
仲直り、できたみたいです。
よかったですね。
「ちょっとアンター!」
みどりがやってきました。
なんてかいうか……わたしの時は不機嫌な感じがするのは気のせいでしょうか?
「ちょっとー!」
「はいはい、みどり……ちょっと質問」
「なによ?」
「わたしの時だけ不機嫌なのはなぜ?」
「は?」
「いつも不機嫌な感じですよ」
「……そう?」
「ミコちゃんやコンちゃんの時は強がったりしませんよね」
みどり、固まっちゃいました。
でも、すぐにわたしに視線をくれると、
「だってアンタ、きれいじゃないもん」
「!」
「話しかけてあげてるんだから、感謝しなさいよねっ!」
「わわわわたしがきれいではないと!」
もう怒った。
前からお見舞いしたかった「デコピン」です、えいっ!
「ううう……うわーん!」
ベソかいて行っちゃいました。
ふん、「きれいじゃない」とか言うからです。
って……みどり、ミコちゃんと一緒に戻ってきました。
ミコちゃん、ムッとした顔で段ボールを組み立てながら、
「ポンちゃん、何妹を泣かせてるの」
むー!
今夜はお外でお休みです……とほほ。
って、今、みどり、ちらっとわたしを見ましたよ。
笑ってなかったですか?
も、もしかしたら、作戦だったとか!
「このパンでおそばを食べていくのじゃ」
「メロンパンは100円ですよ」
「だから何なのじゃ」
「おそば、500円くらいするよ」
コンちゃん、ツケをためるとまた怒られるよ~