第79話「子供かぐら」
「そう、今回の神楽は子供神楽だから」
「そうなんだ、だからわたしは仕事ナシか~」
「出たかったの?」
「うーん、どうせ楽器当番で目立てないしね」
わーん、子供ターンなんだ、わたしの出番はないのっ!
今日は神楽の練習なんです。
ほら、この間やったアレですよ、ミコちゃんとコンちゃんの踊ったの。
今、神社の舞台で踊っているのはレッドとみどり。
笛はポン太で、太鼓はポン吉。
わたしはというと、そんな舞台をビデオカメラで撮影してるんです。
そんなわたしの隣でコンちゃん目を細めて……厳しい目で見守ってるの。
あ、笛と太鼓、終わりましたよ。
レッドとみどりも決めポーズ(?)で止まりました。
「うむ、なかなかよかったのう」
コンちゃんの一言でレッドとみどりのポーズ解除。
ポン太とポン吉も楽器を置きます。
「おつかれさまであります」
シロちゃんがスイカを切ったのを持ってきました。
「今日の練習は終わりなのじゃ、スイカを食べてよし」
「わーい!」
レッド、ダッシュです。
ポン吉もシロちゃんスキーなので素早いの。
みどりはコンちゃんのところにやって来て、
「あのあの……ワタシの舞いはどーだったのよっ!」
「うむ、みどりの舞い、なかなかじゃったぞ」
「そ、そう!」
「うむ、最初は子供ゆえ、期待しておらなんだが……」
コンちゃんがみどりの頭をなでてます。
みどり、最初はすごい嬉しそうな顔をしていましたが、急に表情こわらばせると、
「ふん、ワタシにかかったら、こんなのお茶の子なんだからっ!」
あ、いつものみどりにもどっちゃいました。
素直な方がかわいいのに。
今度はポン太が、
「ボクはどうでしたか?」
「ふむ、ポン太かの、なかなかじゃったのじゃ」
ふふ、ポン太はコンちゃんスキーだから、真赤になってますよ。
「笛を持つのじゃ、ちょっと最初から吹いてみるのじゃ」
「はい……」
コンちゃんに言われてポン太が笛をかまえます。
しばらく演奏していて、コンちゃんの手が伸びてきました。
「たまに音が割れるのは笛が悪いのかのう」
一瞬、ポン太の指にコンちゃんの指が触れました。
ああ、もう、ポン太は頭から湯気たててます。
みんな楽しそうですね。
「きゃーん、レッドちゃん、みどりちゃん、かわいい~!」
パン屋さんに帰ったら、ミコちゃんビデオを見て大喜びなの。
レッドとみどりを抱きしめて、
「ごはんの前に、ちょっとだけおやつにしましょう!」
なんて言ってプリン出してきました。
二人ともプリンに喜々としてますよ。
さっきもスイカを食べてたんだけどなぁ~
わたし、食べてる二人を見てため息。
今回は主役として、なにも活躍できなさそう。
隣にいい感じで巫女・たまおちゃんが座ります。
「ねぇねぇ、たまおちゃん」
「?」
「この前の神楽で、わたしは仕事があったんだけど……」
「ああ、その事……」
「わたしになにかないんでしょうか?」
「今回の神楽なんだけど……」
「?」
たまおちゃん、一枚の紙を見せてくれます。
神社の写真と、この間の神楽の写真が写っていますね。
「えっと……『子供神楽』?」
「そう、今回の神楽は子供神楽だから」
「そうなんだ、だからわたしは仕事ナシか~」
「出たかったの?」
「うーん、どうせ楽器当番で目立てないしね」
たまおちゃん、力無く笑いながら、
「神楽を舞うの……コンお姉さまやミコお姉さまにかなう人はいません」
「え、そうかなぁ」
「だって……きれいですよね?」
「そ、そう言われるとそうなんだけど……」
「それに二人は神さま」
「?」
「だから神楽も完璧だし」
「まぁ、そう言われるとね」
コンちゃん・ミコちゃんに神楽でかなう人はいないとして……
「でも、なんでまた子供神楽?」
「……」
たまおちゃん、黙り込んじゃいました。
『ポンちゃん、聞こえますか?』
『おお! テレパシー!』
『聞こえてるみたいですね』
『なんですか、テレパシーなんかで』
『子供神楽なんですが……』
たまおちゃん、わたしに携帯電話を見せてくれます。
メール……たまおちゃんのお父さんから……なになに?
神社の売上アップのために……
イベントを開催……
子供神楽で……
お客をたくさん……
『ねぇねぇ、たまおちゃん、イベントなんて言っていいの?』
『まぁ、イベントですし……』
たまおちゃんも苦笑いしてるの。
『お客さん……って、いいのかな?』
『参拝者……がいいんですけど』
たまおちゃん、「とほほ顔」です。
『本当はイベントなんて面倒だからやりたくなかったんです』
『イベント……ってたまおちゃんも言っちゃってるよ』
『だって売上アップですよ』
『?』
『この村の神社は売上、すごくいいんです』
『売上って言っちゃうんだ……そうなの?』
『ヌシがいるから、女性客がたくさん来るんです』
『たまおちゃん、また客って言ったよ』
『だから……本音で言うと子供神楽をやる必要はないんです』
『じゃあ……なんで?』
『お父さんに逆らえない……のもあるけど』
『お父さん、怒るとこわそうだもんね』
『わたしは子供神楽を口実にコンお姉さまやミコお姉さまを神社に連れ込めるって思ってたの』
連れ込める……言っちゃってます。
『残念ながら神社にはコンお姉さましか来ませんでした』
『成功では?』
『でも~』
たまおちゃん、ため息ひとつついてから、
『あんなにまじめに舞いを教えていると、なんだか淫らな事できないし、子供はいるし』
淫らとか……言っちゃってます。
『ポンちゃんにビデオ、撮ってもらったの』
『あ、はい、練習をあとでチェックするためですよね』
『それはそうなんだけど……あれをダシにミコお姉さまを誘い込もうと思ってたんです』
『……』
『そしたら……モウ』
たまおちゃんの視線の先には、ビデオを見ているミコちゃんがいます。
レッドとみどりを抱きしめて、
「きゃー、かわいいーっ! @#○★~!」
舞い上がって最後の方は言葉になってませんね。
でもでも、レッドもみどりも抱きしめられてニコニコ顔。
『……って、たまおちゃん、どうかしたの?』
『ミコお姉さまが喜んでくれるのはよかったけど、あそこまで喜ばれるとちょっと……』
『また「淫らな事できそうな空気じゃない」とかなんとかですか?』
『うん』
たまおちゃん、巫女って自覚あるんでしょうか?
わたしも子供神楽のお手伝いする事になりました。
って言っても、わたしが舞いを教えたりするなんてできません。
練習の付添……は、シロちゃんがいいでしょ、ほら、ポン吉はシロちゃんスキーだから。
そんなわたしのお仕事は「宣伝」です「広報係」?
チラシを持って役場や学校、老人ホームに行くんです。
まずは学校の掲示板に貼っちゃうの。
「あら、最近レッドちゃんやみどりちゃんが静かなのはコレ?」
「あ、村長さん、静かってなんですか?」
「うん、レッドちゃんはすぐウトウトしちゃうし、みどりちゃんもおとなしいかな」
「そうなんですか……練習は夕方から1時間くらいなんですけどね」
「ふうん、そうなんだ」
わたしが壁に貼ったチラシを村長さん、じっと見ています。
そんなに見ないでも一枚あげますよ。
村長さん、手にしたチラシを改めて見ながら、
「ポンちゃん……」
「はい、なんですか?」
「このチラシを作ったのは誰?」
「えっと……神社のたまおちゃんです」
「ああ、あの巫女さんね」
「そうです」
村長さんの表情、一瞬だけど険しくなりました。
わたしもチラシを見たけど……なんででしょ?
さて、今度は老人ホームです。
わたしがチラシを掲示板に貼っていると、おばあちゃんがやってきました。
「子供神楽、楽しみだねぇ」
「ふふ、レッドが舞うんです」
「そうかい、レッドちゃんがねぇ」
「はい、チラシ、あげます」
「ありがとうね」
おばあちゃん、チラシを見ていたけど……
「これは本当なのかい?」
「え? は?」
「このチラシは……間違いないのかい?」
「え、ええ……わたしが作った訳じゃないんですけど……間違いはないかと」
「そ、そうなのかい……」
さっきまでにこやかだったおばあちゃん、「信じられない」って顔。
こう、村長さんやおばあちゃんに同じような事言われると不安です。
チラシ……見るけど、別におかしい事ないんだけど……
この後、役場でも同じ反応で……
村の郵便局や駄菓子屋さんでもおんなじ反応されましたよ……
ダム工事の事務所に行っても「え、間違いじゃ?」って言われました……
「ねぇねぇ、たまおちゃん」
「なに、ポンちゃん」
わたし、気になったから一緒にお風呂しながら聞いちゃいます。
わたしはみどりと一緒に湯船で、たまおちゃんはレッドを洗ってます。
「今日、チラシを配って回ったんだけど……」
「?」
「どこに行っても『間違いじゃない?』って顔されるんだけど」
「……」
「む……たまおちゃん、今、変な顔しましたね」
「そう……さっき練習している時に、村長さんがやって来て……」
「そうなんだ」
「チラシ、作ったのはお父さんなの」
「へぇ、そうなんだ」
「この子供神楽はお父さんのアイデアだから……」
「わたしもチラシを見てみたけど……おかしいところはないと思う」
「……」
「たまおちゃんは、どう思っているの?」
たまおちゃん、レッドの体にお湯をかけながら、
「私もあのチラシでぜんぜん問題ないって思ってたんですが……」
たまおちゃん、わたしをじっと見てたけど……急にニコッて笑って、
「なんとかします、当日までに」
「そうなんだ……わたしに出来る事があったら言ってね」
「ポンちゃん……」
「わたし、一応この家じゃ先輩だし」
「でも、設定じゃ中学生ですよね?」
「わたしが先輩なんです!」
あ、わたしが強がったらたまおちゃん、クスクス笑ってます。
「チラシは作っちゃったから……ネットの告知は新しくします」
「へぇ、ネットでも宣伝してるんだ」
「一応ホームページがあるの」
「わ、わたし……クリックくらいしかできない」
「ふふ、ポンちゃん……ポン先輩には、ちゃんと活躍してもらいます」
「うん、わたしに出来る事をお願いします」
って、急に一緒に湯船に浸かっているみどりがわたしの肩をゆすります。
「ちょっとアンタ! なに二人で話してるのよっ!」
「み、みどり……なに怒ってるんですか?」
「さっきから聞いてたら……神楽の主役はワタシとレッドなんだからっ!」
「はいはい、みどり、がんばってください」
頭をなでてあげたら、顔を真赤にしてテレてます。
でも、急にすねた顔をして、
「子供扱いしないでよねっ! あんな神楽、お茶の子なんだからっ!」
テレるところで終わってればかわいいのに、どーして強がるんだか。
って、今度はレッドが、
「ぼくは? ぼくは?」
「はいはい、レッド、踊り、上手になりましたよ~」
「わーい、ほめられた~!」
そーです、レッドみたいに素直に喜んで終わればいいんです。
でも……
さっきたまおちゃんが、わたしをじっと見て「ニコッ」って……なんだったのかな?
子供神楽は盛況です。
お客さんたくさんで、村はすごいにぎわいでした。
でも……村の外から来た人も、村の人も、神楽終わったのに舞台のまわりを離れません。
なんでかな?
って、一瞬舞台が暗くなって、明るくなったらコンちゃんが立ってます。
そ、それもなんかレザーな艶っぽい……女王さまですよ。
て、店長さんもいます!
いすに縛られて、「むーむー」言ってます。
たまおちゃんも出てきました。
「それでは、締めのポンちゃん対コンちゃんで~す!」
「はぁ?」
わたし、舞台に駆け寄って、たまおちゃんを見上げます。
『どーして決闘になるんですかっ!』
『ポンちゃん……みんなが不満だったのは女子プロレスがなかったから』
『え……』
『この前の神楽の時にポンちゃんが闘ったのが評判よくて』
『評判って……』
ひそひそ話しをしていると、コンちゃんがマイクを手にわたしを指差します。
「これっ! ポンっ!」
「ななななんですかっ!」
「ふん、店長を賭けてわらわと勝負するのじゃっ!」
店長さんは景品で、いすに縛られてるわけですね。
「だいたいおぬしはわらわを神と知っておって、おそれを知らんのが気にくわん」
「だってわたしの方がお店じゃ先輩だもん」
「ふん、おぬしのような豆タヌキは先輩なぞなれん」
「わたしが先だもん」
「ふん、どら焼き級のくせに」
会場、大爆笑です。
わたし、肩の震えが止まりません。
隣でくすくす笑っているミコちゃんをつかまえます。
「ミコちゃ~ん……笑ってますね」
「だ、だって……ごめんなさい……くくく」
まだ笑ってます。
わたし、ミコちゃんの肩をギュッと握って、
「ミコちゃん、コスチュームチェンジおねがいっ!」
「はいはい」
ミコちゃんが指を鳴らすと、わたしはメイド服から体操服にチェンジ。
さっそうと舞台に……リングに上がります。
「コンちゃん、勝負っ!」
「ふん、術も何もないおぬしに負けるわけが……」
って、たまおちゃんがゴングを鳴らしました。
駆け出すコンちゃん。
わたしだってダッシュです。
勝負がどうなったか?
想像におまかせです。
「アンタ、いつもお店を手伝ってるのよね」
「そうですよ」
「ててて店長と一緒なの?」
むむ……みどりも店長さん好きとか!
でもでも、みどりは子供だから、わたしの敵じゃないんだから……だから……どうなんだろ?