~秘密の関係~
バイト先のいけす料理の店に、料理長とは別に、板前さんが何人かいた。その中に主任の城谷修さんという人がいた。色黒で、大きな目をした可愛らしい顔立ちだが、私よりも6歳年上だった。私は主任のことを気に入ったので、早速サミーというあだ名を付けたのだった。
「なんでサミーやねん」
と、主任は嫌がったが、
「オサムやから、サムー、サムーじゃ変だから、サミー。なんとなくいいでしょ!」
本当は、修という名前を聞いた瞬間に、私の頭の中に当時流行っていた、バービーボーイズの【勇み足サミー】という曲が流れてきたからなのだ。
その後、しつこく『サミー』と呼び続けていると彼もそれに慣れたらしく、文句も言わなくなった。
「なぁ、トモ」
バイトの終わり時間が近づいて、店を掃除してると、サミーが声をかけてきた。
「なに?」
「今日、一緒に帰らへんか?」
「なんで?」
私は、サミーも私のことを気に入ってくれているのをわかっているので、わざと聞いてみた。
「家、一緒の方向やんけ。おまえのチャリで2ケツしよ、な」
「え~、ん~、まぁサミーが漕いでくれるならいいけど」
私の家まで店からは自転車で15分、サミーはその先の隣町に住んでいた。一緒に帰るのも、途中までかと思っていたが、自転車の前にサミーが乗り、後ろに私が乗った状態のまま、私の住んでる町を通り越して、サミーのマンションに着いたのだった。
「え~なんで?帰るし」
「いいやん、ちょっと上がっていきや」
「いやいや、私彼氏いるし」
と、私が断ると、
「そんなん俺も彼女おるから一緒や」
と、ワケのわからないことを言われ、なぜか納得した私はサミーの部屋に入ったのだった。
「お腹空いてないか?」
サミーの部屋は狭いワンルームだった。お店で借りてもらっているらしく、贅沢は言えないのだそうだ。
「ちょっと空いてるけど・・・何かあるの?」
「卵しかないわ。卵焼き作ったる」
そう言って、サミーはだし巻き卵を作ってくれた。さすが、板前だけあって、料理は得意なようだ。
「はふっおいひっ」
アツアツの卵焼きを食べながら、私とサミーは、お互いの恋人の話をしていた。
「おまえの彼氏っていくつなん?」
「27歳だよ」
「えっ俺とそんなに変わらんやん。いい男か?」
「うん。すっごい男前だよ。ハーフみたいな顔立ちしてる」
「へえ。俺の彼女もいい女やで。年は俺の3つ上や」
「年上なの?納得~サミーって甘えん坊みたいやもんね」
「なんやとー、おまえに言われたくないわ」
そう言ったサミーが突然、私の唇をふさいだ。
「んっ・・・なんでよ」
「・・・わからん・・・けど、めっちゃチューしたくなった」
「やめてよね、彼氏いるって言ってるのに」
「俺だって彼女おるって言うてるやろ」
そう言ってまたキスをしてくるサミー。頭の中にマサちゃんがよぎったが、最近はまたデートをすっぽかすことが多いマサちゃんだったから、またすぐに私の頭の中から消えた。そして、そのままサミーと関係を持ってしまった。
「そうそう、俺の彼女な、ここの合鍵持ってるねん」
裸で寄り添いながら、サミーが言う。
「えっやめてよ!鉢合わせとか絶対嫌だからね!」
「大丈夫や。そんな急にこーへんから」
サミーはそう言うが、万が一のことがあっては私も困る。それからすぐに帰り支度をして、家に帰った。もう夜中の3時だった。サミーの家から私の家まで帰るには、墓地や学校の前を通らなければいけないのだ。こんな時間に自転車で静かな町を走るのは・・・なんとも言えず怖かった。
こうして、サミーと私は仕事が終わってから時々一緒に帰って牛丼を食べたり、彼の部屋に行ったり・・・お互いそれぞれ恋人がいて、恋人のことを大好きだけど、なぜか2人で一緒に過ごすことが多くなっていた。束縛もやきもちもない、2人の関係はそれなりに居心地が良かった。
仕事中は、まじめに仕事をしているが、時々、冷蔵室の中で出会うと、サミーが抱きついてきてキスをしたりしてきた。私とサミーのこんな仲を知る人は、この店に誰もいない。そういうのがまた楽しかったのかも知れない。
その頃、マサちゃんとは、1か月に1度ぐらいしかまともに会えなくなっていた。一応、毎週日曜日に会う約束をしているのだが、待ち合わせ場所にマサちゃんが来ないことの方が多いので、月1ぐらいでしか会えていないのだった。私ももう前みたいに何時間も待つこともなく、彼の行き先を必死に探したりすることも一切しなくなった。会いたくなったら会いにくるでしょ、というドライな感じになっていた。マサちゃんの方も、特に私を気にすることもないようで少し距離を置いているつもりなのか、好きにしている様子だった。私もそれをいいことに、自由に過ごしていたのだった。




