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忘れ物。  作者: 桃色 ぴんく。
5/15

~モカなんて大嫌い~

 元カノの一件以来、マサちゃんに変わった様子は見られず、私との付き合いも落ち着いてきていた。正月に行けなかった旅行はまた秋にでも行こう、ということになった。



 休みの日、美味しいパフェを食べに行こうということになって、私とマサちゃんは、パフェで有名な店に来ていた。

「でさ、モカちゃんが・・・」

 モカちゃんというのは、会社にいる女の人のことだ。25歳で、マサちゃんより一つ年下。同じ会社にモカちゃんの彼氏もいるのだが、なぜか妙にモカちゃんとマサちゃんが仲が良いのだ。モカちゃんの彼氏は松田まつださんと言うのだが、松田さんとマサちゃんは別に仲が良いわけではない。

「その時、モカちゃんがさ・・・」

 さっきから、何回『モカ、モカ』言ってるんだか。私は少し苛立ってきた。でも、楽しそうに話す彼に悪いと思って、何も言えずに聞いているしかなかった。

 黙って聞いていたら、マサちゃんが最後に痛恨の一言を放った。

「トモちゃんも、モカちゃんみたいに”気が利く女性”にならないとあかんな」

「・・・」



 確かに、私はまだ18歳で、マサちゃんにも周りの人にも甘えることの方が多いから、人にまで気を配ってなんていられない。でも、なんで比べるの。モカちゃんがそんなに素敵な女性なの?私は、マサちゃんがあまりにもモカちゃんのことを褒めるので、だんだんモカちゃんが嫌いになってしまったのだった。




 モカちゃんは、毎日、彼氏の松田さんにお弁当を作っているのだが、ちょっと度が過ぎているというか、大胆というか、なんか普通じゃないのだ。ある日のこと。昼休みになってすぐに、モカちゃんが鍋を持って現れたのだ。

「え?何あのお鍋」

と思ってしばらく見ていると、それを給湯室であっためて、鍋つかみを手にはめて、いそいそと松田さんのいる部署に持って行った。

「なにあれ」

 私の率直な意見だった。お弁当ならお弁当でいいじゃない。鍋って何?なんか、会社でここまで大っぴらにしてるところもなんか嫌だった。自分でもわかってるけど、きっと、マサちゃんがモカちゃんのことを気に入ってたり、褒めたりしなければ、モカちゃんが鍋を持ってても「すごいな~」ぐらいでしか思わなかったかも知れない。自分のしょうもないヤキモチが混ざってることも私はわかっていた。だけど、とにかく、そういうモカちゃんの存在がすごく邪魔だった。

 彼氏がいてラブラブなら、マサちゃんに近付かないでよ。松田さんもすごく男前で爽やかな人なのに、いい男2人を手玉に取ってるようなイメージに思えて、私はさらに苛立っていた。



 

 数日後。お昼休みに私とマサちゃんが2人でいるところに、モカちゃんがわざわざやってきた。

「山ちゃ~ん、ここだったの」

「おっモカちゃん、どうした?」

 モカちゃんが四角いラッピング袋をマサちゃんに渡し、

「これ、去年のやつ~」

と、手渡した。透明な袋で中身が透けて見える。どうやら中身は写真のようだ。

「ああ!海行った時の!・・・今頃(笑)」

「うふふ、そう、すっかり焼き回しするの忘れちゃってて、遅くなってごめんね~」

「いいよいいよ、ありがとう!」

マサちゃんに写真を渡すと、モカちゃんは手をヒラヒラと振りながら去って行った。




「去年の夏のだよ」

 どうやら、私と付き合う前の写真のようだが・・・私の目に飛び込んできたのは、頬をくっつけて、楽しそうに笑いながら、ピッタリと寄り添っている、マサちゃんとモカちゃんの2ショットだった。

「・・・」

「ああ、松田君も一緒だったよ」

 信じられない。彼氏が一緒に行ってる目の前で、他の男とこんな写真を撮れる女。しかも、なぜ、わざわざ今渡しに来たのか。どう考えても、私が一緒にいる時を見計らって来たようにしか思えない。気の利く女性というより、計算高い女にしか私には思えなかった。




そんなこんなで、私はもうすっかり「モカ嫌い」になってしまった。スーパーで買い物していても『モカブレンド』とかいう文字を見るだけで、すぐにモカちゃんを思い出してしまい、嫌な気分になった。

モカなんて大嫌い!




 その後、モカちゃんは、松田さんと無事ゴールインして会社を去って行った。私はお別れのメッセージとかも一応は書いたが、最後までモカちゃんのことは嫌いなままだった。花束を受け取って、ちょっと涙ぐんでいたモカちゃんのマスカラの色がブルーだったことが、なんか気に入らなかった。でも、これで、会社の中での嫌な女がいなくなった。私は正直、ホッとしていた。

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