~完璧な彼~
「あぁ・・・きちゃった」
今日は山本さんと海に行く日。なのに・・・月のモノがきちゃったのだ。なんてタイミングの悪い。でも、せっかく誘ってくれた海、せっかく買ってくれた水着を無駄にしたくなかった。
「そうだ」
私はクローゼットを開ける。水着はワンピース。ボトムだけジーンズ穿けばいいじゃないかな。ちょうど膝丈のがあるし、これがいいかも。海の中には入れないけど、元々泳げないし、砂浜で寝そべって喋ってるだけでも充分楽しいはず。
「おはよ」
「おはようございます」
今日は私の家の最寄り駅まで彼が来てくれていた。ここで合流して一番近くの海水浴場に行くのだ。お盆休みの最終日で電車の中も家族連れが多かった。そんな中、うまいぐあいに席が2人分空いたので彼と並んで席に座る。
「山本さん」
「ん?あ、それそれ」
「え?」
「その名字で呼ぶのやめようよ」
「え、じゃあなんて呼べば・・・」
「正和だから、マサとかマサくんとかマサちゃんとか・・・まんまだな」
「マサ・・・」
8歳も年上の彼を呼び捨てにもしにくい。
「マサちゃんって呼んでいいですか」
彼の甘い顔には「ちゃん付け」の方が似合ってる気がした。
「いいよ。それと、敬語もナシな」
「はい。あ・・・うん」
「俺はトモちゃんて呼ぶよ」
お互いの呼び名を決めながら、電車の中でも自然と手を繋いでいた。はっきりと告白したわけじゃないけど、これってもう付き合ってることになるのかな?よくわからない状態だったが、とにかくマサちゃんと一緒に居れて私は幸せだった。
海について、水着に着替えた私は、マサちゃんに小声で耳打ちした。
「実は、アレになっちゃって。海に入れないけど、いい?」
「そっか。じゃあ砂の上で横になっていようよ」
「うん。シート持ってきたから敷くね」
私は銀色のシートを広げた。マサちゃんが荷物を置いて早速横になる。私もその横に寝転んだ。
「おいで」
周りに結構人がいたが、2人の世界に入ってる私たちは恥ずかしいことなどなかった。マサちゃんに腕枕をしてもらい、彼に寄り添うように横たわる。
ふと、マサちゃんの胸元を見ると、胸毛が生えていることに気付いた。本来は、胸毛の生えてる人とかあんまり好きじゃなかったけど、マサちゃんにはとても似合っていてむしろ素敵・・・と思ってしまう私がいた。もう完全に彼にベタ惚れだった。
寄り添いながら寝そべっていると、太陽が容赦なく照り付けてくる。背中にジリジリと太陽光線を浴びて、『絶対これ、一気に焼きすぎて痛くなるレベルだよね』などと笑いながら、お互いの顔を見つめ合う。そこからは、ごく自然にキスの嵐が始まって、止まらなかった。
『おいおい~教育上に悪いの~』
通りすがりのチンピラまがいの男に、言われて、ハッと気付いた。あ、ここは海水浴場だった・・・周りの子供たちや家族連れが見ている。しまった・・・と、一瞬は思ったが、「ま、いいか」と思い直して再び私たちは2人の世界にどっぷりと浸かっていたのだった。
この日は、砂浜で数えきれないぐらいの濃厚なキスをした。マサちゃんの上に乗っかってずっとくっついていたので、私の背中はこんがりと焼けてしまった。
「うわっいった・・・」
夜、お風呂に入ろうと服を脱ごうとした時、日焼けの部分に服が擦れて強烈な痛みが襲ってきた。背中が一番ひどいが、肩や首の後ろ、意外と胸元まで焼けているようだった。
「いたたたた・・・」
赤くなって痛い部分に触れないように気をつけながら服を脱ぐ。マサちゃんも結構焼けてたけど、今夜は体が熱持って眠れないんじゃないかなぁ・・・
風呂場の中に入ると、鏡があるので裸の自分が映る。水着の部分は焼けてないので白く見える。まるで白い水着を着てるかのような、火傷に近い日焼けだった。
湯船にそっと浸かりながら、今日のデートを思い出していた。今日はいっぱいキスしちゃったなぁ。帰りに食べたフレンチのお店も美味しかったなぁ。
お盆休みも今日で終わりだった。また明日からは会社でマサちゃんに会える。
私はこの時18歳。マサちゃんは26歳だった。8つの年の差はそんなに気にならなかった。彼の笑顔はいつも優しく、私は自分を飾ることもなく素直に甘えられたのだった。
お盆休みが明け、また日曜日以外はまた仕事の日々が始まった。が、今までと違うのは、会社に『恋人』がいることだった。それも、目の前の席に!これ以上ない幸せな空間だった。だけど、どんなにくっつきたくても、仕事中は仕事してるんだから、私も我慢しないと。その反動で、お昼休みには2人で屋上で時間ギリギリまでいちゃつく毎日だった。
平日の夜でも、終電近くまでは毎日デートを重ねた。彼が連れて行ってくれるのはいつも高級な雰囲気やお洒落なお店だったし、ホテルのスイートルームにも泊まった。
彼はなんて素敵な人なんだろう。『顔もいいし、背も高いし、優しいし、それだけでも充分なのに、さらにお金持ちなんだ!?』と、私はビックリしながらも彼と付き合っていることに嬉しさを隠し切れなかった。そう、完璧な彼と私は付き合っている。




