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忘れ物。  作者: 桃色 ぴんく。
12/15

~遠距離恋愛~

 あの事件の後、定職につかなかったマサちゃんは、お兄さんの経営する焼き鳥屋で働くことが決まった。が、私はマサちゃんがそのことを決めてからの事後報告として聞いたのだった。

「トモちゃん、俺、今、金沢にいる」

 久しぶりの電話で、マサちゃんがそう言ったのだ。

「え?金沢?何してるの?」

「うん。兄貴の店で働こうと思って来た」

「え???」

 これから先、金沢で働こうと思うんだけど、どうだろう?っていうことではなく、もうすでに金沢に来て働き始めた、というマサちゃんの言葉に私は愕然とした。する気のない結婚かもしれないけど、一応婚約してる状態なのに、そんな大事なことを私に言ってくれなかったんだ・・・というのが私の正直な気持ちだった。でも、これでマサちゃんがちゃんと職につくなら、それでもいいのかな、という気持ちもあったので

「わかった。頑張ってね」

と、いうしかなかったのだった。





 その後、私の姉が結婚することになり、親戚がみんな集まる披露宴に、マサちゃんも呼ばれ、金沢から駆け付けてきてくれた。親戚のおばちゃんたちには

「あら、トモちゃんの婚約者なのね。男前で優しそうでいい人ね」

と、マサちゃんの評判も上々だった。

 マサちゃんは、金沢の仕事に慣れてきた頃だったらしく、まだしばらく仕事を続けるようだった。おそらくは、この先金沢に腰を落ち着ける気でいたのかもしれない。

「なぁ、トモちゃんも一緒に行かへんか」

と、私に金沢行きを提案してきたけど、私は

「いや、私は行かない」

と、断ったのだった。大阪ならまだ神戸から近いけど、もっと遠くに行くことなんて、私には考えられなかった。

「そっか。断られちゃったな」

と、マサちゃんが言ったので、もしかしてこれってプロポーズのようなものだったのかな・・・とも考えたが、やはり私は神戸を離れる気はなかった。

 そして、またマサちゃんは金沢に帰って行った。





 私は、マサちゃんが遠くに離れてしまったことで、少しずつ心が強くなってきたような感じがしていた。パニック障害が一番ひどい時期は、一人きりになるととても不安になっていたのだ。今、死んだらどうしよう、一人なのに。という気持ちがずっとあったのが、マサちゃんがいなくなったことで、開き直りというか、今死んでも別にそれはそれで仕方ない、と思えるようになってきたのだ。『ま、いっか』の精神だ。そのおかげで、少しずつ外にも出れるようになってきた。マサちゃんがいないのなら、別に死んでもいいや、ていう気になったのがきっかけだったと思う。

 そういう点では、マサちゃんに感謝しないといけないのかも知れない。けれど、遠距離になってしまって、寂しい思いがますます増えてしまったことに関しては、マサちゃんが相談もなく金沢に行ってしまったことをやっぱりどこか許せない私がいた。






 その頃、私の髪は腰の下まで届くほど、長く伸びていた。マサちゃんと付き合いだしてずっと伸ばしてきたのだが、マサちゃんが遠く離れたことで、私はもう切ってしまおうかと考えていた。どうせ、数か月に1回ぐらいしか会いに来ないんだし、マサちゃんマサちゃん、って甘えていた自分を変えたくて、私は髪を切ることにした。けれど、パニック障害のせいで、美容院にも行きにくい状態だった私は、風呂場で自分でジャキッと髪の毛を切ったのだった。

「トモくん」

と、父親に呼ばれるほどのショートに髪を切って、気持ちを入れ替えた私。そんな私を襲ったのが、あの出来事だった。





 その日は、夜中まで寝付けずに、3時ぐらいまでベッドの上で本を読んでいた。仕事もまだしてない状態だったので、特に寝る時間も気にせず、眠たくなったら寝ればいいや、と思っていたのだった。そして、あくびが出て「もう寝よ」と、部屋の電気を消し、眠りについた私。その後・・・



           

             グラグラグラッ・・・



「あ、地震」

 寝ている私でも起きるほどの揺れが来た。びっくりした・・・と思った次の瞬間、





         グラグラグラグラグラグラグラグラッ

          ガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ・・・




と、さっきよりも大きな揺れが発生した。

「きゃああああああ」

これは、かなり大きい。今までに感じたことのない揺れだった。隣の父親と母親の寝室から声がする。

「地震や!大きいぞ!」

 薄暗い部屋の中で、何が起きたか全くわからない状況だった。





 しばらくして、揺れがおさまり、私はそっとベッドから降りてみた。が、ぐらっと体が揺れる感覚がして、気が付いた。床が、斜めになっているのだ。これは・・・どういうこと・・・窓が開けれるかな・・・と窓を開けて外を見たら、景色が変わっていた。

「と、隣の家がない!?」

 窓のすぐ横に、ガレキの山が見えた。お、お隣さんの家が消えた・・・と、思って茫然としていると、1階から兄の声がしてきた。

「寒い・・・寒い・・・」

 私はすぐ状況がわかった。そうか、地震で電気が切れている状態なんだ。兄は、真冬でもTシャツ1枚で、コタツでゲームをしたりする人だから、多分今はTシャツ姿のままなんだろう。確か、兄の部屋にどてらがあったはず。私は隣の兄の部屋から、どてらを取り、階段を降りようとしたが・・・そこにはあるはずの階段がなかった。

「階段が・・・ない・・・」

 やっと、すべての状況がわかった。地震で壊れたのはうちの家の1階部分で、窓から見たガレキの山は、1階部分のものだったのだ。隣の家と逆方向に、うちの家がずれて壊れたため、一瞬、そのガレキが隣の家だと思い込んだのだが、もう一度見ると、ちゃんと隣の家は建っていた。私の家だけが崩れ落ちたようだ。





 地震発生は、1月17日の早朝5時46分。 後に阪神淡路大震災と呼ばれる大きな地震だった。

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