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忘れ物。  作者: 桃色 ぴんく。
10/15

~同棲~

 私の行動をわざわざ見るためにマサちゃんは神戸まで来ていたのだろうか。マサちゃんが会いに来るのを断って、ジョンと2人でデートしたこと、マサちゃんはどこまで知っているのだろうか。

「楽しそうだったね」

と、マサちゃんに言われたが私は「何が?」ととぼけたのだった。マサちゃんは、それ以上は何も言ってこなかった。




 その後、マサちゃんと久しぶりに会った時に言われた。

「もう一度、仕事しないか?」

 体調を崩す前にしていた職種にもう一度復帰しないか、という提案だった。

「俺が今いる会社に、トモちゃんもおいで」

「おいでって・・・大阪でしょ。通えない」

 私が電車の中で倒れて以来、電車に乗れなくなってしまったことも、マサちゃんは知ってるはずなのに。そう思っていたら、マサちゃんが続けた。

「会社の近くのマンションに住んだらいい。トモちゃんの親には俺から話すし、マンション探すのも契約も全部俺がするし、引っ越しも手伝うから」

「う~ん・・・」

と、悩む私にマサちゃんが畳み掛ける。

「トモちゃんの仕事の能力なら、19歳で基本給20万、ちょっと残業すれば30万近くもらえるで」

 なるほど。おいしい話かも。倒れる前の会社より数万給料が多くなるというわけか。実家を出るから、生活費はかかるけど、またマサちゃんと一緒に働けるなら・・・それもアリかな。




 いけす料理の店は、会社に通えなくなったから働いていただけで、接客の仕事はそれなりに楽しいけど、この先ずっと続けるつもりも元々なかったので、私は大阪に住む決心をした。

 サミーやジョンには別に会えなくなってもいい。まこちゃんとはこの先も友達には変わりないし、ただしも大阪にいるんだから4人でまた会えるし、何も寂しいことはなかった。





 そして、マサちゃんが私の両親を説得してくれて、大阪城公園の近くに住むことになった。マサちゃんが見つけて、契約してくれたのは、会社まで徒歩15分ぐらいのところに建っているワンルームマンションだった。

 引っ越し当日まで、私は自分がこれから住むマンションに行ったことがなかったので、外観を見てびっくりした。まるでラブホテル。なんとも言えない色の壁だったが、玄関はオートロック、部屋の鍵は7桁までの暗所番号方式だった。これなら一人暮らしでも安心・・・マサちゃんがちゃんと考えて選んでくれたんだなぁ、と私は本当に嬉しかった。

 でも、私が一人暮らしをしたのは、最初の1日だけだった。2日目からは、マサちゃんが一緒に住むようになったのだ。6畳のワンルームマンションに体の大きい男女が同棲。狭いけど、新婚さんになった気分でそれはそれで楽しかった。

 仕事でもマサちゃんと一緒、家に帰ってもずっと一緒。しばらくお互い好きに遊んできたから、こうしてまた2人でずっと一緒なのは、ある意味新鮮だった。

 小さいコンロしかない狭いキッチンだったが、私はマサちゃんのために、毎日料理を作った。毎日、一緒に仕事に出かけて、一緒に帰って来て、家ではずっとくっついて座ってテレビ見て、毎晩、ベッドで抱き合って。流産してからは、子供が出来ないように避妊をしていたので、同棲して毎日抱き合っていたが、妊娠をするようなことはなかった。だが、家事と仕事とマサちゃんの相手で私は疲れてきたのだろう。夜のラブラブ最中に、居眠りしてしまうことが多くなった。気持ちいいんだけれど、睡魔には勝てないというかなんというか。本当に疲れてたんだと思う。




 この頃から、マサちゃんの影響で、私はパチスロにハマりだした。今まで、マサちゃんが私とのデートをすっぽかしたのも、パチンコ屋に行きたかったからだったのだ。この頃にやっと気付いたのだが、マサちゃんは無類のギャンブル好きだったようだ。私は、マサちゃんがデートをすっぽかすぐらいなら、私もパチンコ屋に行けばいい、と思って彼について行くようになったのだった。そのうち、仕事帰りに閉店までパチスロを打ち、帰ってから晩御飯を食べ、日曜日には2人そろってモーニングからパチンコ屋にほぼ1日入り浸り・・・という生活になってきた。

 その上、私の姉とその彼氏が遊びに来たりすると、その日は夜通し遊んだりして、まともに寝ずに働く日々が増えた。それでも、楽しかった。





 そして、体が疲れてきたせいか、私はまた痩せ細ってきた。電車に乗らない生活をしていても、動悸が起こるようになった。日に日に耳鳴りも強くなっていった。

 キーーーーーーーーンという耳鳴りではなく、まるで工事現場にいるようなガシャンガシャンという、今までに経験したことのない耳鳴りだった。

 だんだん、夜に眠れず、昼と夜が逆転するようになり、仕事にも行けない状態になってきた。夜に眠れないので睡魔がやってくるのはマサちゃんが仕事に出てから、そのあとの10時や11時頃。そこで少しうたた寝しては、ゾンビに襲われるような怖い夢を見て目覚める、そんな生活だった。

 そして、動悸がするたびに不安になり、仕事中のマサちゃんに電話をかける。携帯電話はまだない時代なので、会社に電話をするのだ。マサちゃんに「大丈夫や」と言ってもらえると少し安心して、また少し眠る。そして、また怖い夢を見て目を覚ます。時々、4階の部屋から下を見ては『ここから飛び降りたらどうなるだろう』とか考える自分がいた。そして、同棲を初めて1年弱で、私はもう実家に帰ることにした。このままの状態で同棲を続けるのは困難だと判断したからだった。


 

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