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第一章 お殿さま、初登校 4

「なに!?」

 さっきと同じ驚愕の言葉を、さっき以上の驚愕をもって叫ぶ道明。

少女が道明に与えた答えは、彼の混乱を解消するどころか拍車をかける。

未来? 三百年後? しかし自分は死んだばかりではないか。

死んだ自分がなぜ未来へ? いや、そもそもこの少女が真実を語っているとは限らない……

 道明の表情の変化から、彼がなにを考えているか察した少女は嘲笑を深くする。

「あなたが私を信じるか信じないかは勝手にすればいいわ。それにどうせすぐに、あなたが行きたがってた場所に行かせてあげるしね!」

 そういうと少女はまたも右手を振るう。

そこには光竜があり、大きく顎を開き、道明に光の牙を立てようとする。

「くわ……っ!」

 うめきとも気合いともつかない声を漏らすと、道明は体を翻して扉を開き、部屋から脱出する。

混乱はまだ頭の中に残っているが、少女の攻撃がその混乱の拡大を抑えていた。

とにかくここを脱しなければ何も始まらない。そのことに集中するのだ。



 廊下を走る。階段を駆け降りる。

 時折後ろを振り向いてみるが鞘香は見えない。

いぶかしさを覚えるし、なにか狙いや罠があるのかとも考えるが、今の道明には逃げる以外の選択肢はなかった。

 一階まで駆け降りると玄関を抜け、広い庭へ走り出る。

午後も早いがすでに人影はない。全員帰ってしまったようだ。道明も門へ向かって全力で走る。

 が、その前に少女が舞い降りてきた。

スカートは翻るが中は見えず、鞘香が余裕を持って追いついてきたのは簡単に見て取れた。

追ってきたといっても走ってきたわけではない。

光竜を使って四階から飛んできたのだ。道明の逃走経路を完全に読んでいる証拠でもある。

「く……」

 道明は小さくうめき、自分が浮き足立ってることを悟る。

いくらなんでもこのような少女に言いようにあしらわれるとは、やはり死んだばかりという普通ではない状況に精神が乱されているのだ。

こんなことなら建物の中にいて、隠れながら逃げればよかったとも思うが、それも結局じり貧になる可能性が高い。

とにかく道明には地の利どころかこの世界の知識や経験そのものがないのだ。

あまりにも不利である。

 鞘香はそのことを知っていた。だからあわてないのだ。サディストの気もあるのかもしれない。

美少女と言っていい顔は陰の悦びに美しさの純度を増している。

毒を肥料に育った薔薇は、このように咲くのかもしれない。



「さて…それじゃどうしましょうか。このまま終わりにするか、それとも私と一緒に来てみる?」

「行く? どこへ?」

「本来私はあなたを殺すことだけを命じられてきたの。だけどこれだけ力の差があるのなら、捕らえて連れていくことだって簡単だわ。もしかしたらその方が喜ぶかもしれないし」

 喜ぶ? 誰が? そう感じた道明は尋ねる。

「おぬしは誰かの命令で動いているのか」

「それはそうでしょ。これでも私はまだ高校生だもの。経験も思慮も足りない思春期の女の子が、こんなことを考えられるわけがないじゃない」

 あでやかに、わざとらしく笑う鞘香に追従するように光竜もいななく。

「それは誰だ」

「言ったところであなたにはわからないんだから、聞くだけ無駄じゃない? さて、それでどうする? わたしと一緒に来る? それともやっぱりここで終わらせる?」

 道明の当然の問いを揶揄するように笑う鞘香が、再度尋ねてくる。

それに道明は答えることができない。

当然どちらも否なのであるが、立ち向かうことは無謀で、逃げることは不可能だった。

とすると仕方がない。

どうなるかわからないが、今は生き延びて時間を稼ぐ以外にないだろう。

それに不本意ながら、この世界--道明から見て三百年後の未来での知己はこの少女、ひいては遠森家の者しかいないのだ。

自ら虎口に入るようなものかもしれないが、そちらに入らねば今竜の牙にかみ砕かれるのみである。

糸のように細い綱でも渡る道はそこにしかなかった。

「……わかった、ついていこう」

「あら本気?」

「本気でなければ今おぬしに殺されるだけだろう。いかに不本意でも今の私には選択肢は一つしかない」

「なんだつまらない。でもいいわ、楽しみは後にとっておいて…」

 と、ここで意外なことが起こった。

道明にとってはこの世界で起こることのほとんどすべては意外なことだが、鞘香にとっても意外な事態が起こったのである。

 突然、彼女の体が見えない力に吹っ飛ばされたのだ。


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