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第一章 お殿さま、初登校 1

 そして次の瞬間、道明は立ち尽くした。

「ここは……どこだ?」

 まず体が熱い。正しくは体に当たる気温が暑い。

 夏だ。熱せられた空気と強烈な日差しが彼の肌を打つ。

自分は冬の最中にいたはずなのに。

 それ以外もすべてが違った。立っている。

室内で死の床についてたはずが、今は外でしっかりと立っていた。

しかも立っている場所はまったく記憶にない。平らな石。

それが石畳ではなく、どこまでもまっすぐ続くような一枚岩である。

横を向けば建物がある。だがこの家も見たこともない形をしていた。

と、ここでようやく気づく。

自分が立っている細めの道の横に、背の小さい柵(これも見たことのない金属でできている)を挟んで広い道があり、そこを大きな箱が馬よりも速く走っていることに。一つではない。

いくつもいくつも、奇妙な声を絶えずあげながら馬にも引かれず自分で走る。



「……ここが極楽か?」

 ここでようやく、彼は自分が死んだことを思い出した。

とすればここは極楽なのだろう。あるいは地獄か。

どちらにしても自分たちが一般的に想像していた極楽とも地獄ともあまりにも違い、そう思い至るのに時間がかかってしまったのだ。

「だがそれにしては感覚が生々しいが…」

 つぶやきながら道明は自分の手を見てみる。と、なにかを右手に持っていた。

荷物を入れる袋のようだが、袋にしては硬く、革製のように見える。

形は四角く、取っ手がついていて、自分はそこをつかんでいた。

その袋というか箱というかをいぶかしくは思ったが、自分の着ている服も、ずいぶんいぶかしい。

 まず白くて薄い、半袖の服を着ている。材質も絹や麻ではないようだ。

下に履いているものも袴にしては細く、脚にぴったりとしている。

色は黒で、これもまた触れたことのない布の感触だった。



「これが極楽での服装なのか…?」

 どうにもわからないことだらけだが、

近くには幾人も自分と同じ服を着て同じ袋を持って歩く者たちが見えた。

「……なるほど、亡者が行くのはあちらか」

 右も左もわからなかったが、

自分と同じ格好をした者が同じ方向に進んでいるのに安心すると、道明も彼らの後をついて歩き始めた。

 見ると自分と同じ服を着ている者だけでなく、

違う服を着ている者も同じ方向に向かって歩いている。

そしてさらによく見れば、同じ服を着ているのは男、違う服を着ているのは女に分かれていた。



「男女で服が違うのか。にしても極楽はあれほどに短いスカートでなくてはならんのか…」

 同じ方向に向かっているだけでなく、同じ袋を持っているのを見ても、

あの女たちも自分と同じ亡者であろうとわかる。

が、どうにも脚をあれだけむき出しにしているのが気になって仕方がない。

「わしもいいかげん年を取ったかの…」

 極楽での常識なのだろうと思っても、いささか風紀が気になってしまう自分に苦笑も漏れる。

以前であれば健康な男子のこと、もっと違う感情も持ったであろうに。

 と、ここでまたようやく気がついた。

自分と同じ服を着て、同じ方向に向かっている男は全員十代半ばくらいであることに。

女子も同じくらいである。

「とすると……」

 と、道明は近くの建物の窓に自分の姿を映してみる。

そこにはやはり十代半ばの少年が映っていた。

「なるほど、極楽での亡者はこのような年齢になるのか」

 どこか感心したようにつぶやくが、その顔は自分の十代の頃とは違うようにも思える。

だがそれも「極楽では容姿も変わるのであろう」で片付けてしまい、あまり気にすることもなく再度歩き始めた。

「ここは極楽である」と決めてしまった以上、道明はたいていのことに納得できる心情になってしまっていたのだ。


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